誄歌を歌った



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【誄歌】
(1)死者の生前の功徳をほめたたえ、その死を悼む歌。
(2)雅楽の国風歌舞(くにぶりのうたまい)の一。皇族の葬儀に用いられる。


戦争とは人を殺す。

肉体的にも精神的にも、たくさんの人が死者となる。
自分も少し前までは死者だったのだろう。
魔物にも、必要とあれば同じ人間相手にも無心に刃を向け続けた。
己を殺してしまえば全てが楽だったから。
きっと良くも悪くも独りきりだった。

でも、今はそんな自分にも少しだけ「生」を感じている。

ただ無心ではなく、少しでも周りに目を向けられるようになった。
楽ばかりに逃げる事はなくなった。
それはきっと、独りではなくなったから。

過去の自分を静かに悼み、そしてはっきりと別れを告げる。
自分と同じたくさんの人達にこの誄歌を送ろう。
ひとりでも多くの人が、自分と同じように独りではなくなるように。





苦し紛れの言い訳






食堂のテーブルには時々誰かの土産が並んでいる事がある。
出先に美味しい名物があったから。
珍味にめぐり合ったから。
留まる事を知らない仲間達なので、その理由も購入先も土産の内容もその量すらも本当に様々だ。

今日食堂を通りかかったルクスとキリルは、たまたま置かれたばかりでまだ誰の手もつけられていない土産を発見した。
ご丁寧にも食堂内全てのテーブルに置かれたお菓子の箱達は、まとめると結構な数になる。
丁度小腹がすいていたという事もあり、有難くそれを頂戴する事にした。
一口サイズのそれは、ふわふわとしていて程よい甘さのお菓子。
美味しかった。
ついつい2個目に手が出る。
これだけあれば少しくらい多く貰っても大丈夫だと思ったのだ。
一口サイズのお菓子というものはひとつ、またひとつというループにはまりやすい。
お茶でも飲んで、お喋りでもしながらだと尚更だ。

気付けば食堂にある全テーブルの上から半分ほど詰め合わせの箱がなくなっていた。

「…………」
「…………」

いくら数があるといっても半分もなくなってしまえば食べる事の出来ないクルーが多数現れるだろう。
顔を見合わせても箱が増えるはずもない。
どうしようか。
自分達の仕出かしてしまった事態に途方にくれる。

「……よし、テーブルをひっくり返して半分ダメにした事にしよう」
「美味し過ぎたお菓子が悪いとか……」

途方にくれすぎて訳の分からない逃げ道すら飛び出してくる始末。

普通に謝ればいいのでは。
そんな当たり前の結論にまで達するには、まだ少しだけ時間が必要だった





好きになる前の事






ルクスとキリルの背中を同時に視界に納める事はそんなに難しい事ではない。
どちらか片方を探せば、もう片方も自然と見つける事が出来る。
それよりもひとりひとり別々の背中を見つける方が困難という有様だ。
勿論ふたりも年がら年中一緒という訳ではない。
依頼の関係で別行動を取る事もあるし、常に互いだけを気にかけていればいいという立場でもない。
ひとりひとりの背中など、本当は珍しくも何ともないのだ。
それなのにそういうイメージが定着してしまったのは、一体いつからだろうか。
こうなる前のふたりがもう思い出せない、もしくは想像が出来ない。
ルクスはどうしていただろう。
キリルはどうしていたのだろう。
カウンター席で肩を並べアルコールの入ったジョッキを傾けていたハーヴェイとシグルドの間で何の気なしに持ち上がった話題。
しかしそれも早々に「ふたりが今楽しいのならばそれでいいじゃないか」という当たり前の答えでに落ち着いた。
バカップルもビックリの引っ付きようを無自覚でやってくれるのを傍から見るのは少々辛いものもあるが、今更何を言っても変わらないのならばいっそ温かく見守ってしまえと開き直るのが得策だ。
以前のふたりをいくら考えてみても本人ではないのだから出てくるものは全て客観的なものばかりで、あまり意味を成さない。
それにあえて今掘り起こさなければならない理由もない。
そんな不透明な過去の姿よりも今目に映る楽しそうで自然な姿でいいじゃないかと、そう思うのだ。





友達じゃないの?






気がつけば隣にいて。
傍に姿がない時には無意識のうちにそれを探していて。
ちょっとした事でも気にかけてもらえるのが嬉しい。
逆にこちらが相手を気にかけたりすると勿体無いくらいの「ありがとう」。
それがまた嬉しくて、無表情の奥でついガラにもなく浮かれてしまう。
よく「君がいてくれて良かった」と言われるが、これほどそのままそっくり相手に返したいと思う台詞もない。
自分の足りない部分を覆ってくれる存在。
持ちつ持たれつの関係なら本当に嬉しいと思う。
相手と出会う前の時間が嘘のように、気付けばふたり行動を共にしている。
勿論嫌々などではない。
あくまでも自然にだ。
ひとりの時間には慣れているし嫌いでもない、必要な時だってある。
しかしそれでも相手と過ごす時間が大切。
最近そんな事に気がついたのだ。
何をするにも相手の事を、その笑顔を最優先に考えて――――――――――。

「ねえ、これって友達じゃないの?」
「……いや、んな事真顔で聞かれても……」

相手への気持ちをそのまま言葉にしたら何故だか物凄く疲れた顔をされてしまった、そんな良く晴れた昼下がり。





 






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