今ここで宣言します






 長い船旅が終わり港に到着したその日。
 ハーヴェイはルクスとキリルに言った。
 折角着いたんだから今日は降りて手合わせでもしないか、と。
 船旅が続くとどうしても体が鈍る。
 大きな船なので甲板で多少は訓練が出来るし、時折魔物からの襲撃もあるから戦う機会はあるが、でもどうしたって限られた空間。
 どうも、全力でやった、という感じが味わえない。
 だから鈍ったような気になるのだろう。
 背を伸ばしながら言ったハーヴェイに、ルクスはキリルを窺う。
 判断を任されたキリルは、少し慌てた後に、そうですね、と頷いた。
 キリルの武器は本当に船上では向かない。
 攻め入って壊しても構わないという船ならまだしも、自分が使っている船を壊すわけにもいかないので、いつも動きは遠慮がちだ。  キリルが頷けば、ルクスに異論はない。
 ここにシグルドはいないが、ハーヴェイが言い出した時点で勝手に強制参加だ。
 キリルがやる事を終わらせた後に、4人で町の外に向かった。
 やっぱりこういう広い場所の方がやりやすい。
 遠慮なく動けるし紋章も使える。
 それにシグルドだってやりやすいだろう。
 キリルの武器以上にシグルドの武器は船上では向かない。
 命中させていい敵がいるならまだしも、そうではないのにナイフを投げるなんて周りには迷惑で、ついでに船も傷つく。
「いつも殆どオレが2人の面倒見ているもんだからなー。あれ大変なんだぜ。」
「1対1だからいいじゃないか。」
「オレは2倍動かなきゃなんないんだぞ。」
「2人とも手加減の仕方は分かっている。」
「………、それなんだよなー…。」
「え?」
 手加減はお互いに知っている。
 手合わせと言っても自分の武器を使うくらいには本気だ。
 傍から見たら本気でやっているように見える、と言われる程に。
 でも、簡単に怪我はしないだろう、とは思っていても、やっぱりどこかで手加減は入る。
 それはお互い様だろう。
 流石に2人と殺し合うつもりはない。
 でも時折。
 もう少し、もう少しだけ、お互いに踏み込めないだろうかと思う。
「あいつら、強いじゃないか。」
「………、そうだな。」
「だからさ、時々思うんだよな。本気でやったらお互いに何処までやれるのかって。」
 呆れるだろうか、と思ってハーヴェイはシグルドを窺う。
 シグルドは小さくため息をついた。
 でもすぐに苦笑した。
「まぁ…、気持ちは分かるけどな。」
 零したため息は、そんな事を言い出したハーヴェイに向けたのか、それとも同意してしまった自分自身に向けたのか。
 どちらにしろ、同じ気持ちだった事が、とても嬉しかった。
「というわけでだ。」
 ハーヴェイがとても楽しそうな笑みを浮かべる。
 シグルドは息をついたが、それだけだった。
 先程のハーヴェイの意見に同意してしまった時点で、もう反論なんて出来ない。
「今日って、お互いに多少ボロボロになったって平気だよな?」
「多少、で済むのか?」
「済まないだろう。」
「………、キリル様の従者達、そしてキカ様と他の人達。相応に文句をいられる事は覚悟しろよ。」
「ああ。勿論お前もだからな。」
「同意した時点でオレも同罪だ。」
「分かってんじゃんか。」
 にやりと笑うハーヴェイに。
 仕方ないと言いたそうな笑みをシグルドは向ける。
「おーい、お前ら。」
「はい。」
「なに?」
 準備をしていた2人が顔を上げる。
 今の旅を率いているキリルと、以前軍を率いていたルクス。
 2人とも強いと素直に想える力量を持っている。
 従う事に不満はない。
 自分の主が同じ道を行く事を選んだからという部分もあるが、個人的にも彼らの事は好ましく思っている。
 でも、だからこそ、確かめてみたい。
 一体お互いどこまでやれるのか。
 きっと彼らだってこの無茶を認めてくれる筈だ。
 お互いにそれだけの信頼関係はあると疑いなく思える。
「今回、ちょっと本気だしてやらないか?」
「え…?そう言われても…、ボク達別に手なんて抜いてませんよ?」
「分かってるよ。でもそうじゃなくて、本当に本気で、だ。」
 2人は言葉を詰まらせた。
 意味は正しく通じたのだろう。
 キリルが少し困惑したようにハーヴェイとルクスを見る。
 ルクスはただじっとハーヴェイを見て、そうして小さく笑った。
 先程見たシグルドの笑みとよく似ていた。
「また何を言い出すかと思えば。」
「そんな顔で言っても説得力あるかよ。」
「ルクス…。」
「ボクはいいよ。キリル君は?」
 キリルはまだ迷っている様子だ。
 この4人の中でキリルが1番優しい性格をしているせいだろう。
 でもそんな彼も武器を持って戦っている。
 ならばこの気持は絶対に理解出来る筈だ。
 何も言わずに黙ってキリルの答えを待っていれば、悩んだ彼はやがて肩から力を抜いた。
「………、分かりました、やります。」
「よしきた!」
「言っておくけど、いくら本気でも罰の紋章は使わないよ。」
「いくら何でもそんな規格外なものまで望むほど無謀じゃねぇって。」
 ハーヴェイは剣を抜いて2人に向ける。
 シグルドもナイフを抜き、ルクスとキリルも武器を構えた。
 命のやり取りがある戦場のような緊張感はないが。
 でも確かにこの場の空気は変わった。
 痛いくらいの圧迫感は、いっそ心地いい程だ。
 思わず笑顔になるのは止められなかった。
「最近お前達にばっかり見せ場を譲ってるけど、忘れんなよ。オレ達が強いって事をな!」
「何を言うかと思えば。」
 強く響く声で言うハーヴェイにルクスは笑う。
「知っているよ、そんな事。」
 楽しそうなその声が、開始の合図だった。










END





 


2009.10.30

この後きっとずたぼろになるまでやります
キカ様とかフレアは呆れるだけでしょうが、きっとアンダルクは煩いと思います
でもこの4人はもうこのくらいやっても許される、そんな気がした





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