これがオレの相方です






 確かに、こんな時期があった。



「チッ、シグルドか…、こんな時に、うるせえのが来やがった。」
「気乗りのする仕事ではなかったが…ハーヴェイ、貴様の船であれば話は別、いままでの借りを返してやろう!」



 これはキカと出会うより前の話だ。
 だから現在の仲間達は、今ではすっかり一緒にいるのが当たり前でいないほうが不思議なくらい、なハーヴェイとシグルドがこんな言い合いをしていたなんて知らない。
 本人達も、思い出してみればもう苦笑しか浮かべられないので、あえて話す事もない。
 キカに出会って同じ人の元で動くようになって。
 お互い睨み合っていても仕方がない、とそんなに時間もかけずに和解をした。
 周りの環境が変わって、毎日顔を合わせていて、やがて睨み合っているのもバカらしくなったからだ。
 和解をしてしまえば関係の改善は早かった。
 元々お互いの力量は認めていた、だから海上で出くわせば一目散にお互いを目指した、相手をするのなら自分しかいないと思ったからだ。
 睨み合うには厄介な相手は、それでも隣に立てば心強かった。
 和解をして関係は改善され何気なく一緒に行動する回数が多くなれば。
 実はオレ等物凄くいいコンビなんじゃないか、と言い出したのはハーヴェイだった。
 かもしれないな、とシグルドは返した。
 それからは意識して一緒に行動するようになった。
 おかげで気付けば2人で1組状態。
 片方がいないと、どうしたんだ、と声をかけられる始末。
 実際に2年前に起きた戦争の最中で出会った軍主である少年にも、今日は1人なんだ、と何度かポツリと声をかけられたことがある。
 始終一緒にいるわけではない。
 一緒にいることが多いのは認めるけれど、まさか言葉が少ない事で知れ渡っている軍主にまでそんな事を言われるとは思わなかった。
 あの時はもう反論する気もなく脱力したものだ。
 もう一緒にいるのが当たり前。
 昔の事など、時折ふと思い出しては苦笑を浮かべる程度の物。
 そんな頃に。

「今はこいつと一緒に行動をしている。お前達も来るか?」

 キカが振り返った少年に、その少年とハーヴェイとシグルドは暫くの間固まった。
「どうした?」
 キカに声をかけられるけれど、ハーヴェイは首を傾げシグルドは何か考え込むように視線を彷徨わせる。
 少年の方も口元に手を当てて何かを考え込んでいる様子だ。
「キカ様、この子供、どっかで見た気がすんですけど…。」
 船から海賊島に降りたのはキカと少年だけ。
 顔を上げて船の方を見てみれば、甲板に人の姿が見えた。
 遠目だったけれど、見えたその姿もどことなく見覚えがある。
 ハーヴェイがポツリと呟けば、キカが少し楽しげに笑った。
「覚えてないか?」
 そう言ってくしゃりと少年の頭を撫でた。
 キカさん、と困ったように言う少年は、2年前に一緒に戦った軍主と同じ年頃だろうか。
 綺麗な黒い髪に、珍しい金色の目。
 赤色が特徴になりそうな服に、その手には布に巻かれている随分と大きい、たぶん少年の武器で。
「………、あっ!!」
 突然ハーヴェイが叫んだ。
 少年が目を丸くしたが気にしない。
 ハーヴェイは少年の両肩を掴んで顔を近づける。
 お世辞にも記憶力のいい方ではない。
 けれど、うっすらと覚えている。
 まだ幼い子供だというのに、自分の背丈よりも大きな武器を振るって大人に混じって戦っていた、金色の瞳の子供。
 ほんの少ししか一緒にいなかったけれど、強く印象に残ったその子供の名を、確かに自分は何度か呼んだ。
「お前、えーっと、なんだっけ、き…、キ、リル、そう、キリルじゃないか!?」
「あ、は、はい。」
 少年が頷く。
 思い出せたことが嬉しいのはハーヴェイが満足そうに笑った。
「お前無事だったんだな。なんかあの後色々ごたごたしたから、なんかもう全然分からなかったし、ともかくよかった!」
 笑うハーヴェイに、キリルはそれでも考え込む。
 無事だったんだ、と笑うハーヴェイをキリルもぼんやりとだけ覚えている。
 喉元に突っかかるような感覚が気持ち悪くて、何とか記憶をひっくり返す。
「あ…!」
 そうして少ししてキリルが声を上げる。
「思い出しました、確か天下の二枚…っ!」
 言葉を遮るように、突然ハーヴェイがキリルの口を押さえた。
 3人が驚いたような顔をしたけれど、ハーヴェイが気にする様子もない。
 ただ何か居心地が悪そうな顔をしている。
「その部分はいい、その部位分は忘れて、とりあえず名前だけ思い出せ。」
 口を押さえられたままキリルが何度も頷く。
 よし、と言って口から手を放せば、口を押さえられて息まで止めていたのか、大きく口を開けて息を吸う。
 その後にハーヴェイを見てキリルは笑った。
 あどけない表情に、出会った頃の幼い面影が見えた気がした。
「ハーヴェイさん、ですよね。」
「ああ、よく覚えてたな。」
「はい。また会えるなんて、ハーヴェイさんも無事で何よりです。」
「オレがあれくらいでどうにかなるかよ。」
「そうですよね、何せ天下の。」
「もういいっての。」
 冗談交じりに言いかけたキリルの頭をぺしっとハーヴェイが軽く叩く。
 昔は何の躊躇いもなく言っていた台詞だけれど、今思い出してみれば恥ずかしいだけの記憶だ。
 叩かれたキリルは何処か楽しそうに笑った。
 そうして顔をあげてシグルドを見る。
 シグルドはまだ考え込んでいるようで、キリルも見覚えはあるのだけれどハーヴェイ以上にぼんやりとした記憶で上手く思い出せない。
「初対面…、ではないよな?」
「はい…たぶん、どこかで…。」
「ほら、シグルドあれだ、ちょうどオレ達がキカ様の所行く切欠になった時。」
 ハーヴェイの言葉に、先に声を上げたのはシグルドだった。
「ああ、確か紋章砲の事を聞いて回っていた中に子供がいた。もしかして、それがキミか?」
 シグルドの言葉にキリルも声を上げる。
「あ、そうだ、あの時セネカがケチだってずっと言っていたお兄さん!」
 小さく、ケチ、と思い出してみれば確かに言われた。
 キリルの言葉にシグルドはただ苦笑するしかない。
「でも、名前とかはちゃんと言ったりしていませんでしたよね。」
「情報を求めてきたキミ達を追い返したからね。シグルドだ。」
「キリルです。」
「それで結局、お前達は来るのか?」
「もちろん!」
「お供します。」
「てなわけで、これからよろしくな、キリル!」
「はい、こちらこそ。」
 後ろから飛びついてくるハーヴェイにキリルは嫌がる様子もなく笑みを浮かべる。
 ハーヴェイの行動に仕方がない奴だと思いながらもシグルドが握手の為に手を差し出せばニコニコとキリルはその手を握った。
「こんな奴らだが、それなりに頼りになる。好きに使ってやってくれ。」
「それなりだなんて…、少しだけ一緒に戦った事がありますし、ハーヴェイさん強かったですから、頼りにさせてもらいます。」
「ああ、任せておけ!」
「こんな感じで放っておくと暴走しがちなハーヴェイを抑えるのがシグルドの役目だ。2人一緒に置いておくと何かと便利だぞ。」
「キカ様…。」
 頼りにするという言葉が嬉しかった様子のハーヴェイを見てキカが冗談交じりの雰囲気で言えば、シグルドはただ苦笑した。
 確かに役回り的にはそんな感じだろうか。
 否定は出来ないなと思いながらキリルを見れば、彼はじっと不思議そうにシグルドを見ていた。
「なにか?」
「えっと、確かシグルドさん、ハーヴェイさんと仲悪くありませんでしたっけ…?」
 ハーヴェイよりもシグルドに関する記憶の方が、キリルにとっては薄い。
 紋章砲についての情報を求めたけれど何も教えてくれなかった人。
 そうしてその後ハーヴェイと共に船に乗っている時に襲ってきた人。
 接点はその程度だったろうか。
 その程度でよく覚えているなと思う。
 けれど突然喧嘩を始めた大人2人に酷く驚いていたのはよく覚えている。
「なんか、いきなり喧嘩を始めちゃって、ボクも巻き込まれた記憶が…。」
「あはは、まぁ…、そんな事もありましたね…。」
「あったなー…、懐かしい。」
 ハーヴェイもシグルドも微妙な表情を浮かべる。
 もう、本当に懐かしい記憶だ。
 お互い対立して睨み合って、会うたびにそんな事を繰り返していた頃。
 けれどもう、本当に今になってみれば笑い話だ。
 笑うどころか、もう苦笑しか浮かばない。
 この島に来た当初は睨み合いを繰り返していたけれど、海の上でお互いに武器を向けていた頃を知っている仲間はここにいない。
 その頃を知っている人に会うのは、もしかしたら初めてかもしれなくて。
「色々…、つまり仲良くなったんですね。」
「ええ、まぁ。」
「そんなとこだ。」
「そうですか。」
 笑みを浮かべるキリルの頭をくしゃりとハーヴェイが撫でる。
 色々あって、仲良くなって、当たり前に隣にいるようになった。
 本当にあれはもう、今となっては微かに笑うだけの、思い出話。
 久し振りにその頃を知っているキリルに出会って、浮かんでくるその頃の記憶をすくってみれば、本当にただ微かに笑いがこぼれるだけだ。
 もう今はそんな関係ではない。
 睨み合っていた頃なんて、もうずっと昔に終わった。
「ああ、今じゃシグルドはオレのだ。ちゃんと覚えとけ、これがオレの相方だ。」
 今ではなくてはならない片割れ。
 キッパリと宣言するハーヴェイに、キカはさすがに呆れたような表情を浮かべた。
 その隣でシグルドが少しだけ顔を赤くし俯いた。
 何を言い出すんだお前は、と言おうかと思ったけれど。
「はい、分かりました。」
 あんまりにもキリルが素直に頷くから。
 今のハーヴェイの言葉も、そうしてキリルと出会った頃の自分たちも、なんだか全てが些細な事に思えて。
「あ?なんだよ、キカ様もシグルドも笑って。」
 きょとんとするハーヴェイとキリルに、なんでもない、と返すのがシグルドは精一杯だった。










END





 


2006.10.01

寂しさで作ったようなサイトなので、4主とキリルは基本的にこちらでも出す予定です、ので時間軸はラプソディアばかりかと
でも確か4主の参加は2人より後だった気がするので、今回はキリルだけです
それでも根性で4主を少し出しました(そんなに寂しいか)
初めて書く2人組みなので、変だったりしても見逃してください、これから頑張っていきます





NOVEL