LD「海の若大将」パンフレットから

シリーズの第5作
「海の若大将」は
昭和40年8月8日
に公開、併映作品は「フランケンシュタイン対地底怪獣」。
配給収入3億4,400万円、観客動員314万人を記録しました。

パンフレットの特集記事は
武田鉄矢さんのインタビュ−「我らが若大将」、「加山雄三 ロングインタビュ−D」、そして田波靖男さんの若大将・外伝D「若大将の恋人」。

それらの一部を、原文のまま掲載いたしました。
お楽しみください。

我らが若大将
武田鉄矢さん インタビュー

”若大将体験”

”若大将シリーズ”を観てたのは中学、高校の時代だったかな。地方の薄暗い映画館で”若大将シリーズ”を観ると東京の香りがしてくるんですよね。若大将のいる東京の大学。女の子もアカ抜けしてきれい。
あのキャンパス生活に、ものすごく恋焦がれました。

”スターの魅力”

加山さん演じる”若大将”は漂ってるだけなのに、何げない所作にたまらないぐらいの男の色気があるのね。
ランニングしてて、運動場の木の下で幹を軽くポンと蹴るところ、飯を食うときに茶碗の底を丸く握るところとか。そんな細かいしぐさにすごい色気を感じるね。
”若大将”の最大の魅力というのは、、恋人が登場するんだけど、それによって揺れることがないところ。勝手に恋人が誤解してすねたり怒ったりするだけで、若大将としてはただ真っすぐ、ただ普通に歩いてるだけという部分だね。
女の子の顔色が一番気になる年頃に、女の子の顔色を見ないっていうのがカッコよかったんだよね。しかも彼自身、自分のことをあんまりカッコイイと思ってないでしょう。
ヌーボーとしてて、「ええとこの坊ちゃんは違うなぁー」
ほんとにそう思ったもん。

”音楽の源泉・ギターの
バイエル”

俺のような地方の子にとって
”若大将”シリーズは、音楽をやるとカッコよく見えるってことを教えてくれて、ある意味では
音楽の源泉だったね。

中学生の頃に観たと思うんだけど「銀座の若大将」で加山さんが二階の汚い部屋の窓辺に腰掛けて、生ギターで唄う。
すると、反対側の窓から星由里子さんが登場するんだけど、すっごい好きなシーンですね。
俺は柔道ばっかりやってたから、ギターを始めたのは高三。フォークギターを握ったときは”旅人よ”が大ヒットしてたのね。
俺、ボーカルやってたんだけど。”旅人よ”はイントロが弾けて、文化祭で唄った時はまわりがハモってくれて、自分が加山さんになったみたいで気持ちよかったなあ。

”若大将に乾杯!”

加山さんとは、テレビの「加山雄三ショー」でご一緒させていただいて”オヤジとして君に”という曲を作ったんですよ。
加山さんのところに行って、曲をいただいてから作詞したんです。自分のイメージでやったんですけど、加山さんは喜んでくれました。
加山さんはスケールの大きい日本語のフレーズが似合うと思いましたね。”海よ”とか。他にそういうのが合う人はなかなかいないんじゃないかな。
シンガーとしてもカッコいいんですよ。「♪なんにも持たず〜」と唄うと、ほんとに持ってないって感じがして、
でも持ってなくて絵になる。
「兄貴に乾杯」というドラマで加山さんと共演したことがあるんですが”若大将”シリーズの画面の中に飛び込んだような不思議な気分になりましたね。加山さんがぜんぜん変わらないから。いまだにカッコイイもん。

加山雄三
ロングインタビューD
加山さんのアルバムの中に「蒼い星くず」は作詞家岩谷さんに「空を見上げたら星がみっつあった」と言っただけで、詩を書いてもらった」というコメントがありましたが。
岩谷さんに詩を書いていただく時は、作曲した時に曲に盛り込んだシチュエーションを説明するんだよ。そうするとその通りの詩を書いてくれたり、意表をつきながら、ちゃんとそれを表現した詩を書いてくれたりするんだ。
その曲の空気を掴んでるというのかな。あいまいな表現だけど、例えば、皆さんと俺が立場は違えどもこの空気を共に考え、この空気の中に共に共存している。そして同じことをディスカッションしている。それと同じように、空気とでもいうものを彼女は掴み取る天才的な人だと俺は思ってるよ。
メロディーにのせるべき詩を、そのメロディーに出てきている空気みたいなものを把握して書ける人だから。
俺が「この曲はこういう感じなんだけどな」というのをフッと頭の中で思ったら、言わなくても書くときもあるよ。それほどすごいだと思う。
岩谷さんのお書きになった詩で、加山さんご自身が気に入ってらっしゃるのは。
いっぱいある。ほとんどみんないいと思う。”旅人よ”なんかは、その中でも特にいいね。チベットのほうの郷愁を感じたりするんだよね。
旋律とうまくマッチしてるということもあると思うけど。
でも、みんなすごいと思うんだよなぁ。”海その愛”の詩もすごいなァ−と思うし。
編曲の森岡賢一郎さんはいかがですか。
俺がピアノコンチェルト書き上げられたのは森岡さんのおかげだね。浪漫派の作曲法なんて全然知らなかったんだから。
手取り足取りで教わったね。作曲法の先生だね。
作曲と編曲というのは違うんだ。作曲というのはアーアーと歌えばいいんだけど、
編曲というのはスコアリングといって、音のバランスをどうするかでオーケストレーションしなきゃいけない。でもそれが両方できるようにならなければクラシックは書けない。スコアリングには、法則もテクニックもあって、俺は法則とかテクニックみたいなものがあるとは知らなかったから、いろいろと教わって「ここはそんなことしちゃだめだよ」なんて言われて「ああそうなんだ」なんてやってね。
スコアリングするということを森岡さんが教えてくれたんだ。

当時は編曲に関して、加山さんから注文されたりしたんですか。
少しはあったけど、ほとんどなかったね。あの当時は役者の仕事が忙しくて時間が無かったせいもあって、ベルト・コンベアじゃないけど、俺がギター一丁でデモテープを吹き込んで渡すと、翌日にはオーケストレーションが出来てて、レコーディング・スタジオへ行くとメンバーが集まっててバーンと音になってる。それを聴きながら詩ができる、それをすぐに練習して、レコーディング。
そういう風にえらい短時間でやってたからね。まあ、忙しかったけどすべてが軌道に乗ってたというか、勢いのあった頃だったからね。

若大将・外伝
田波靖男

”若大将の恋人”

若大将こと、田沼雄一は1960年代が生んだ、ある種の理想的な青年像である。そこそこ豊かな家庭環境に育ち、そこそこである故に、さしたる重圧はなく、好きな音楽やスポーツに打ち込んでいられる。(中略)

良い環境に恵まれた若大将は、大らかで庶民性があり、正義感が強く思いやりのある暖かい性格の持ち主だ。
こんな若者が女の子に
もてないわけがない。女子学生、ブルジョワのお嬢さま、ファッションモデル、音楽仲間の歌手、年上の女性プロデューサー、更には放浪先で出会う、ローカル色ゆたかな娘たちと、実にさまざまな女性たちが若大将に好意を抱き、胸をときめかすことになっている。
だが学生時代の若大将自身が好きな女性は一貫して、澄ちゃんこと、澄子(星由里子)である。なぜそうなのか。若大将は健康な肉体と健全な精神を持ち、スポーツや音楽などの豊かな才能に恵まれ、周囲を明るくする太陽のような存在である。
だが太陽にも黒点があるように、若大将にもかげりがないわけではない。それは母親不在という家庭環境である。
おばあちゃんのりきや妹の照子と、負けず劣らずの孫思い、兄思いの、肉親女性が身近にいるものの、やはり家庭の中心的存在である母親を欠いた田沼家に、一抹の寂しさがあるのは否めない。若大将は他人には親切だが、自分にはきびしい、あくまでもじぶんの意思を貫こうとする自己実現型の性格は、自立性を重んじ、物ごとにこだらない放浪性も合わせ持つ。
そういう性格形成は早くから母親を失い、
甘えるべき膝を失ったことに由来しているのではないだろうか。(中略)

さて若大将が恋する澄子だが、彼女の家庭環境は、シリーズを通じてあまり明確になっていない。だが若くして自立せざるを得ない事情を背負っていることは確かなようだ。両親をすでに亡くし、自分一人の力で弟か妹を養育しているといったところか。堅実な生活派である反面、同世代の娘たちが享受している、自分には無縁の夢やロマンにあこがれている。(中略)
澄子に母性的なものを重ね合わせている雄一は、ついつい彼女のやさしさに甘えてしまう。何しろ母の愛は無限なのだから。
その結果、人に頼まれたら嫌と言えない若大将は、状況のおもむくままに他の女性にも親切にして、澄子の怒りを買ってしまうのだ。
だが、その澄ちゃんも「フレッシュマン若大将」で、若大将が社会人となってからは登場していない。若大将の恋の対象は節ちゃん(酒井和歌子)に移ってしまった。一体若大将と澄ちゃんの間に何があったんだろうか。
「ハワイの若大将」の完成後、加山雄三が「赤ひげ」に出演するので、「若大将シリーズ」はしばらくお休みということになった。会社ではそれまでのスタッフやキャストの慰労をかねて、赤坂プリンス・ホテルで豪華な完成パーティを開いてくれた。まだ若かった私は、思いきって星由里子をダンスに誘いフロアに出た。そのとき彼女が耳許でささやいた言葉が忘れられない。
「ねえ、わたし、青大将が可哀想で仕方がないの。たまには澄ちゃんが青大将のお嫁さんになる話があってもいいんじゃないかしら」これは、女優星由里子の感想であって、澄子本人の発言ではない。だが気になる言葉である。しかしその後澄ちゃんが青大将と結婚したという事実はない。澄子は一体どこへ行ってしまったのか。今どうしているのだろうか。もしも「若大将シリーズ」で「若大将グラフティ」というような、再編集作品をまとめる機会があったなら、作者としてはその辺の謎を解明しておきたいものである。
パンフのポスターと写真については
こちらからどうぞ

09年02月19日新規作成