「ビートルズはやめられない」

 (サライ 6月号)

雑誌「サライ」に掲載された加山さんのインタビュー記事です。
”アニー”さんからご提供いただきました。ありがとうございました。

 ビートルズを初めて聴いたときに抱いた印象は、メロディが新鮮だなぁ、ということ。でも、クラシック(古典的)な部分も含んでいて普遍性もある。歌詞はわかりやすく、いつ聴いても、誰が歌っても、今の若い人がやっても、ちゃんと曲になる。それが、今でも彼が愛される大きな要因だと僕は思います。

 1965年の来日時、彼らのホテルの部屋を訪問したときのことをよく覚えています。
 レコード会社の方から声をかけられて、最初は気乗りしなかったけど、僕の祖母に話したら、「おかっぱ頭の4人組だろ。会っときな、将来役に立つよ」と。彼らのことは祖母の代でもよく知っていましたね。
 お昼過ぎくらいだったんですが、みんな、テンション(気分の盛り上がり)がもの凄く高かった。最初に「ウェルカム!」(ようこそ)と出てきたのがリンゴ・スター。顔が小さいけど背がでかいなぁと思ったら、高下駄を履いてた(笑)。リンゴと握手してたら、僕の脇の下からパッと手を回して「ウェルカム!」と言ったのがポール・マッカートニー。とにかく茶目っ気ある連中だった。

 食事がまだのようで、スキヤキをとろう、ということになったけど、そのとき部屋には彼らと僕だけ。だから、
「ハシで肉を
取って鍋に入れ、卵にディップして(つけて)食べるんだ」、なんて全部教えてあげましたね。彼ら、僕が箸を扱うのをじっと見てて、
「お前よくできるな」と言うから、
「できなければ1本持って肉を刺せばいいだろ」と教えたりして・・・。
楽しい
食事でしたね。
 しまいに、ジョン・レノンは椅子をどけて、床に正座してました。「それはマナーとしてよくないよ」と指摘したら。
「いいんだ。俺は日本人の心を味わっているんだから」なんて言ってましたね。
4人がその場で即興的に描いた水彩画。いきなり画用紙を広げ、中心にスタンドを置き、四方から一斉に描き始めた。終えるとスタンドを外し、その跡の円の部分にサインを入れた。「アブストラクト(抽象画)かと思いました」(加山さん)

 ジョージ・ハリソンがカメラに凝っていたのも覚えています。テーブルにいっぱい並べてね。で、窓辺に行って、下に集まっているファンたちをのぞきこんで、彼女たちが「キャーッ」と叫ぶのを見ながら、パチリ。僕も一緒になって「面白いな」なんて彼と笑い合ってました。

音楽は祈り、音楽は不滅

 その後、大きなステレオで彼らのレコードなどを聴きました。「どうだ、いいだろ」「いいなんてもんじゃない、凄いよ」などと言い合って・・・・思い返しても、とてもハッピーな経験でしたね。

 彼らに一番シンパシー(共感)を感じたのは、音楽に対する彼らの愛情です。それぞれの個性の強さゆえ長続きはしなかったかもしれないけど、それだけに、濃縮して凄い曲をたくさん残している。相当深い愛情なくして、あのような曲は出てこないでしょう。

 音楽というのは、祈りから始まった、と思うのです。だから、人間が根っこから持っている感情としっかり結びついている。楽しいとき、哀しいとき、勇気づけられるとき・・・・・いつもそこに音楽がある。

 心臓が鼓動するのと同じようにリズムがあるし、動物が抑揚ある吼え方をするようにトーンもある。心に残るメロディは、時代が変わろうが、必ずある。普遍性のあるビートルズの音楽が時代や世代を超えて愛されるのは、当然のことだと思うのです。

 もちろん、それはビートルズだけじゃない。例えば僕は、レディー・ガガも聴くけど、いい曲がいっぱいあると思う。若い人はいち早くそれをキャッチしている。結局のところ、いい音楽はいいのです。

 それにしても、ポールは凄いとつくづく思います。ニュー・ヨークでの最近のコンサートを見ると、本当に涙が出てくる。あぁ、ずっと努力を続けているんだなぁ、と。

 思えば、僕が音楽活動を始めたのはビートルズがデビューする1年前のこと。半世紀になります。僕は別の仕事が忙しくてギターに触れない時期もあったけど、ポールはずっと頑張っている。彼の姿を目にするたび、50年目の反省をしてます(笑)。

他のメンバーが内輪でジョークを言い合っているとき、親切だったのはポール。「”申し訳ない”って言いながら解説してくれたり、しきりに気を使ってくれましたね」(加山さん)

2012年06月07日新設