「SAISHIP」

 (日刊工業新聞 5月29日)

SAISHIP

チャレンジ25応援団キャプテン加山雄三が提案する
自然再生可能エネルギー「太陽光&風力」のみで航行する
究極のゼロエミッション・ウルトラエコシップ

地球と日本の環境を守り未来の子供たちのために

 21世紀に入り、世界中が地球温暖化という人類の生存に関わる脅威に対して立ち向かおうとしています。2005年には「京都議定書」が発効され、世界中でさまざまな対策が進められています。このような中、2009年9月、鳩山内閣総理大臣がニューヨークの国連気候変動サミットにおいて、我が国の目標として。温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比で25%削減することを表明されました。政府では、地球と日本の環境を守り未来の子供たちに引き継いでいくため、「チャレンジ25」と名付け、地球温暖化防止の対策を推進しており、そのための国民運動を「チャレンジ25キャンペーン」としてさまざまな展開がなされています。私は鳩山総理からチャレンジ25キャンペーンの応援団長にご指名をいただきました。そこで私にできることは何かと考えたとき、それは私の頭の中に長年温めてきたアイデアの実現にあると思ったのです。私は工学的なことがすごく好きで、40年も前から新しいエネルギーのことを考え続けてきましたし、これまで趣味で23隻の船を設計しています。こうした経験から、私の頭の中には、揺れない船、自然再生エネルギーだけで航行できる船、災害救助に威力を発揮する船、これらを一つにまとめたゼロエミッション・シップというアイデアがあります。これを実現し、日本から発信できたらすごいことだなと考えるようになりました。東北大震災、福島原子力発電所事故は本当にショックで、思い出すと涙があふれてきます。やはり自然エネルギーを活用し地球環境を守ることに尽きると思います。真剣に地球環境保護を考え、その夢を形にすれば、きっと日本を元気にする材料になるものと確信し、ここに私のアイデアをまとめさせていただきました。このアイデアをヒントに、皆さま方が集まり、安心で豊かな未来に向かう大きな目標の発信源となれば幸いです。ご支援の程よろしくお願い申し上げます。

平成24年5月吉日

                          加山雄三

ゼロエミッション船 研究スタート

 次世代スマートエネルギーの象徴となるゼロエミッション船「SAISHIP(サステナビリティー・アンド・イノベーション・シップ)」の研究が、官民一体でスタートした。
 アイデアの中心となり、研究のかじ取りを進めていこうとしている「キャプテン」は加山雄三氏。同氏を核に、企業、大学、中央省庁などからメンバーが加わり、プロジェクトの実現可能性などについて考える勉強会が始まっている。
 また5月30日に開幕する「スマートグリッド展2012」にも出展する。このゼロエミッション船の発想や、今後のエネルギーについて加山雄三キャプテンと、勉強会の旗振り役でもある石原信行知力経営研究所代表に聞いた。

 自然に学ぶ揺れない構造

司会)SAISHIP実現に向けた勉強会が始まってます。

地球温暖化防止キャンペーンに携わってきた。私は以前から新しいエネルギーのことを考え続けてきたし、船の設計を手掛けてきた。そうした中から、揺れない構造で、自然再生エネルギーだけで航行できる船、というアイデアが浮かんできた。このアイデアをヒントに様々な方々の英知が集まればよいと考えている。

石原)勉強会はまず加山さんがどんどんアイデアを出すところから始まっている。その実現に向けてどんな技術が必要か、ということを私たちが一つ一つ挙げているところ。加山さんが実際にコンセプトを図面化してくれており、それをコンピューターグラフィックで検討している。東京大学・生産技術研究所の木下健教授をはじめ、企業、中央省庁などからメンバーが集まってぅれている。

風力と太陽光
司会)わくわくするようなコンセプトですね。
 まず船全体の形状は自然に学ぶというか、バイオミメティクスというか、アメンボのような形を考えた。魚雷のような形状のフロートを前後に合わせて四つ配し、そこからアームが上に出て、上部構造物を乗せる。モノハル(単胴船)は復元力があればあるほどローリングがひどい。カタマラン(双胴船)は抵抗値が発電に対して高くなるので効率が悪くなる。そこで四つの足を待つ形にしている。バラストにスタビライザー的要素を持ったポッドスクリューをそれぞれつけ、アームを伸ばしてバラストをできるだけ水面下深くに沈めると波の影響を受けにくくなる。推進器は船の前後進だけでなく、上下運動を可能とするわけだ。また船体は完全に水上に持ち上がった格好であり、船全体が揺れない構造となる。7メートル程度の波を回避できる揺れない船となるはずだ。船体そのものはぺちゃんこでちょっとUFOみたいな格好。その下を風が通り抜けるので、風圧側面積が低くなる。

 揺れない船の上に、ソーラーパネルや風車を配置して発電する。どの方向からの風も受け止めて活用できる垂直型風力発電システムを搭載する。また、軽量・高効率のソーラーパネルを2000平方メートルほど配した太陽光発電も行う。風力の最大出力は200kwh、太陽光は300kwhを想定している。このようにアイデアが次々に浮かんでくる。

 日本のモノづくり力結集

石原)私がホンダの技術研究所にいる時代、20年も前から加山さんにはお付き合いいただいている。加山さんはすごいアイデアをどんどん出してくれる。ただそれを具現化するにはひとりではとてもできない。異質な人たちが集まって、議論を深め、お互いが触発される。技術革新のためにいろいろな人たちの知恵を集めて一つの目的に向かう。オープンイノベーションマネジメントだ。
 
本田宗一郎さんのワイガヤのように、みんなで議論しながらやっていこう、それをマネジメントしようということ。例えば自動車はエンジンやシャーシにはじまりいろいろな技術が結集してできているが、この船はその比ではない。船自体に多様な専門技術が必要となる。

司会)産業界の各方面の技術がつちかわれるのでしょうか。

 例えば自然再生可能エネルギー発電にとて、蓄電池は不可欠の要素となる。このプロジェクトではまずニケル水素電池とリチウムイオン電池を検討対象にしようと思う。それから船体と推進器の材質も重要だ。軽くて強いポリアクリロルトリル(PAN)系炭素繊維についても見当している。それからICT(情報通信技術)を活用して高度な運行制御システムも開発したい。自己学習するコンピューターを使って、自分で気象・海象を全部記憶しながらデータを取り、安全運行するようなシステムだ。

災害救助にも
司会)実験船が実現すればさまざまな局面で役立つかと。

SAISHIPは船の一つのエリアと見立てて、次世代スマートエネルギーシティーとして提案してみたい。この船自体発電ができるし、真水を生成する装置も搭載する。私の試算ではあるが、3500kwhの蓄電で28時間連続使用できるバッテリーを積んでいれば、平均12ノットのスピードで無停泊でずっと走れり続けることができる。

ちなみにバッテリーの重量は300トン前後になるだろう。そこに真水を1日60トンから多い時に最大100トンくらい作れる装置があれば、スマートエネルギーシティーとして洋上での生活が可能になるはずだ。そうすればこの船を災害救助船としても使うこともできる。昨年の東日本大震災の時に、1000人くらいの住人が住まわれている島が完全孤立したことがあった。この船がパっと緊急で行けばよい。アイデアの一つとしては、現地に近づいたら船の足を海底に固定して、安定した建造物になってしまう。そこが発電所にもなって、災害復旧の拠点となるのではないか。けがをした人もそこに100人、200人と収容できるので、医療関係の人たちが乗って、現場に駆けつければよい。こういう「船」はもちろん世界で初めてのもの。日本の企業や、生産力、頭脳を結集して世界に先駆けてやる。東日本大震災の被害を受けた日本から発信すれば世界中の人も何らかの意味を考えてくれるのではないか。

司会)やはり東日本大震災を機に我々の考え方というものも変わったでしょうか。

本当に日本人の個々の中で一人ひとりの方が、何か変わったと思っていらっしゃるのでは。僕自身も変わった。この実験船を実際に作り上げて、世界一周を無補給、無給水、無寄港で周る、という実績を日本から発信したい。本質的にもっと地球の将来のことを考え、クリーンな世の中にした方が良いということを一人ひとりが考える。それによって良い方向にいくのではないかと思う。

 研究開発の基盤力を強化

世界へ発信
司会)世の中が変わってきてますね。

世の中を変えたかったら、まず自分が変わるしかない。僕の体験上言えることはそれぐらい。逃げたり、離れたり、人のせいにした場合には、かならずそれなりのことしか返ってこない。私はモノづくり企業をはじめ多くの企業を拝見してきたが、社員として働いている人たちがどれほどの意欲や希望を持っているのかが大切だと感じた。優良企業のすごいところは、社員にそういう意欲を起こさせる体制を持っていること。また、新しいものに好奇心を持っている。参加したみなさんは最先端の技術を持ち寄ってくれている。スマートグリッド展でコンセプトをアピールすrので、もっといろいろな分野の方々に興味を持ってもらいたい。共同研究に加わっていただける企業は大歓迎だ」

司会)実験船が実現するのが楽しみですね。

名前は「4代目光進丸」になるだろうね。資金もいるが、やっぱり5年以内に何とかしたいと考えている。僕自身はこれでもうけようとかいう気持ちはない。本当に世界初のことをやったよな、と言ってもらえたらそれがご褒美だ。

2012年07月22日新設