家族とゲーム
(雑誌「くらしと」2012年1月1日発行)       
雑誌「くらしと」に掲載された記事をレポートしました。
お楽しみください。
都内の閑静な住宅街に建つマンションの5階。加山さんのオフィスには、優しい冬の光がふんだんに差し込む。ちょっとした時間が空くと、加山さんは、黒のゆったりとしたソファに腰掛け、大画面のテレビでゲームを楽しむ。そして仕事のストレスを忘れ、童心に帰る。夢中になったら、とことんのめりこむ探求型の性格。「鬼武者2」というゲームを57分でクリアするという非公式の記録をもつ。「ゲームのプロディーサーに聞いたら、開発チームのなかで1時間をクリアした人はいないんだってよ」と、高らかに笑う。
ハンドキャノンの無限大?
「立て板に水」とは、まさにこのことだろう。冬の午後の日差しが心地良く差し込む応接室のソファに腰掛けるやいなや、加山さんは、最大のお気に入りのアクションゲーム「バイオハザード」について、縷々と語りはじめる。

96年に出た当時からやってるね。今、シリーズ5まで出てるけど、CGの映像の質も、ゲームとしての面白さもどんどん進化しているでしょ。それも楽しみのひとつだよね。バイオハザードの4ではボウガンだけで20面クリアしなきゃどうしても入手できない武器があってね。「ハンドキャノンの∞」ってやつなんだけど。それが入手できずに苦労してたら次男が誕生日にくれたんだよ。何が嬉しいかったって、この誕生日プレゼントが一番嬉しかったなあ(笑)。

 テレビゲームに馴染みのない人には、きっとチンプンカンプンなこんな話を、加山さんは実に楽しげに語る。

それもテレビ画面のなかで次々と襲いかかってくるゾンビの群れをなぎ倒しながらだ。目をキラキラと輝かせてゲームを語り、また遊ぶその表情を見ていると、興味のない人でも、なんだか面白そうに思えてきてしまうから不思議だ。

こんなにある、ゲームの効用
テレビゲームが出始めた頃からやっているから、キャリアは長いよ。新し物好きな性格だからハマっただけなんだけど、今でも飽きない。同世代の友だちは「そんなもの何が楽しいんだ。何の得があるんだ」って言うけど、「じゃあ、ゴルフやることになんの得があるんだ?」って言い返してやるんだ。ゴルフもゲームも変わらないよ。頭も使うし集中力も反射神経もなきゃいけない。ストレス解消にも老化防止にももってこい。夜更かしして仕事に差し障りることはあるけどね(笑)。

 加えて、家族とのコミュニケーションツールとしても加山家では大いに役立ってきた。子どもの頃から、お父さんとともに腕を磨いてきた二人の息子さんは、加山さんを凌ぐプロ級の腕前だという。

今でもゲームに関する情報交換は、よくやってるし、行き詰ったときの解決法なんかを聞いたりもしてる。昔はゲームのなかで子どもたちを助けてやってたのが、すっかり助けてもらう側だね。息子たちに負けて悔しくないかって?そんなことないですよ。こんなにゲームの巧い息子をもってむしろ誇りだね(笑)。尊敬しちゃう、ホントに。その英才教育のおかげで、長男はCG製作の仕事をしているしね。

 加山さんによれば、最近では小学生のお孫さんたちもメキメキ腕を上げており、将棋では、すでに肩を並べられているのだそうだ。

カミさんは「そんなムキになrたないで、負けてあげたらいいでしょ」って言うんだけど、もう最近は、ムキになっても勝てなかったりしてね。正直悔しいよね(笑)。

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写真上右:お気に入りのゲーム「バイオハザード」で遊びながら、ゲームを解説してくれる加山さん。「ほら、女性の主人公はなかなかの美人だろ(笑)。そういうところも楽しいんだよ。ストーリーもキャラクターもどんどん進化するから、飽きないんだ」

写真上左:「新しいものはなんでも興味あるんだ」といってiPadを取り出す。元々はエンジニア志望だった加山さんは、本質的には「理系」の頭の持ち主。現在も船の設計を自分自身で行うなど、最新テクノロジーに対する好奇心は止まるところを知らない

大事なのは、親が一緒に遊ぶこと
 ゲームのなかでもとりわけテレビゲームは教育的な観点から、さまざまな問題が指摘されることが多い。よく言われるのは、現実と非現実との境目がわからなくなるのでは、といったことだ。しかし、加山さんはいとも簡単に、そうした問題の解決策を提示する。

たしかにね、幼い頃から一人でこうしたゲームやっていればそういうこともあるかもしれない。だからこそ、親が一緒に遊べばいいんだよ。一緒に遊んでいくなかで、大事なことを教えてあげればいい。

 加山家では「ゲームで遊ぶな」といった言葉は一切出ることはなかった。むしろ子どもたちは、加山さんの遊ぶ姿を見ながら、ゲームとの付き合い方を上手に学んでいったのだろう。遊びのなかで、親が子に伝えられることは、きっと多い。そして、逆もまたしかりだ。

今でも、家族や孫たちが遊びにくるとみんなでカードゲームやモノポリーをやったり、WIIで遊んだりするね。ゲームをするなかで、子どもたちの好奇心やエネルギーに触れることで、こっちも元気になるし、幸せになれるというのはあるなあ。

好奇心旺盛でありつづける
”人生の3カン王”って言葉があってね。「関心」「感動」「感謝」で、3つの「カン」なんだけど、何にでも関心をもって、感動して、そして常に感謝の心を忘れないこと、これが幸せに生きる秘訣なんだよね。ぼくは子どもの頃から、いつも新しいことや、人がやらないことにチャレンジして生きてきたけれども、テレビゲームもそういう意味では同じこと。だって、この歳で、これだけ夢中になってゲームをやってるヤツなんていないでしょ。

 14歳で手製のカヌーを作って海に漕ぎ出した少年は、その後日本で初めてサーフィンで遊び、長じては、日本でいち早くデジタルツールによる音楽制作を行う音楽家となった。長年の船への愛情は高じて、今や自ら設計を行うまでに至っている。たゆまね好奇心と探究心に導かれるようにして人生を歩んできた加山さんは今、ゲーム好きの若者たちの間で「こんなふうに歳を取りたい」と尊敬される「先達」と目される。かつて同世代の若者を熱狂させた「若大将」は、21世紀になって、ゲーム世代の「若大将」となった。

 こんなお父さんと一緒に自分の大好きなテレビゲームを一緒に遊んでもらいたい、と思っている子どもたちはきっと少なくないにちがいない。

 コントローラーを巧みに操作しながら、ゲームを解説してくれる加山さんの隣で見ていたら、うっかり童心に帰って「ぼくにもやらせてよ」と言いそうになってしまった。

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写真上右:評判のカードゲーム「イチゴリラ」と「グースカパースカ」(共に販売/すごろくや)をプレゼントすると、これにも興味津々。「今度家族が集まったらやってみよう!」新しいものになんでもチャレンジするポジティブな心こそが驚くべき若さの秘訣、だろうか。

写真上左:生来の負けず嫌い、お孫さんにゲームで負けたら、天下の若大将は、きっとこんな表情をするにちがいない。

2012年01月20日新設