「NHKウイークリーステラ」

 (8月19・26合併号)

シニア世代の多い「ラジオ深夜便」のリスナーへ向け、心に響く“大人の愛唱歌”を届けている「深夜便のうた」。7月から放送中の「深夜便のうた」では、ともに「ミッドナイトトーク」に出演中の加山雄三と秋元康が初めてタッグを組み、オリジナルに書き下ろした新曲を発表!
ここでは、作曲とボーカルを務めた加山雄三に「深夜便のうた」へ託した思いなどを聞く。

 これまでもリスナーの心を癒やす名曲の数々を発信してきた「深夜便のうた」。7月からは、加山雄三が作曲を手がけたメロディーに、秋元康が詞をのせた「君は今でも」を放送している。昔好きだった女性を思い、今でも輝いていてほしいというラブソングだ。
懐かしい日々を愛(いと)おしむかのように、加山の歌声がやさしく語りかける。

 「誰にでも思い出や忘れられない愛ってあるよね。秋元さんの詞は、素直にその情景が浮かんでくるのがいい。この歌を聴いてくださった方が、過ぎ去った大切な時間を振り返るきっかけになればうれしいですね」

 歌の最後の一節には、“虹”という言葉があり、加山が秋元に唯一取り入れてほしいと要望した。加山にとっては、家族との大切な思い出がよみがえるフレーズだという。

 「ダブルレインボーと呼ばれる二重の虹を家族とともに3回も見ているんです。ダブルレインボーは人に幸せをもたらすと聞いてね。最初に見たのは、女房と出会って新しい生活をスタートさせるときだった。これから歩む道が苦難であろうが、がんばればいい道になると暗示しているように思えた。不遇時代を乗り越えた後、子どもたちと目にしたときは、よくがんばったごほうびだと思ったよ」

 今回、加山の作り出した美しいメロディーはどこか懐かしく、温かくも切ない気持ちを喚起する。メロディーの良さは心地よさだと話す加山は、「深夜便のうた」を依頼され、7つの楽曲を用意した。

 「そのうちの一つは、新幹線に乗っているときに思いついたメロディーを五線譜に書き、“深夜便用?”とメモをしてファイルにとじておいたもの。忘れていたけれど、書類を出したときにふと思い出してね。ピアノで弾いてみたら結構いい曲なんだよね。今回は、その曲をみなさんが選んでくれた」

 無意識のうちに浮かんでくるメロディーこそが、名曲を生み出す秘けつだと加山は語る。

かやま・ゆうぞう

1937年、神奈川県生まれ。'60年に東宝と専属契約を結び、『男対男』で映画デビュー。「若大将シリーズ」がスタートし一躍人気を博す。黒澤明監督など名匠の作品にも数多く出演。また、歌手としては'65年に「君といつまでも」が大ヒット。以後も「お嫁においで」など数々のヒット曲を生み出している。弾厚作のペンネームで作曲も手がけ、多くのミュージシャンに楽曲も提供。近年は、絵画や陶芸など多方面で才能を発揮している。去年、デビュー50周年を迎えた。

なお、以下の日程でホールコンサートを行う予定だ。

加山雄三
ホールコンサートツアー
“若大将・湘南FOREVER”

10月11日(土)
 茅ヶ崎市民文化会館

10月10日(月・祝)
 
伊賀市文化会館

11月12日(土)
 
グリーンホール相模大野

11月27日(日)
 中野サンプラザ

 「音楽に関しては、アマチュアであるという気持ちをずっと維持しています。音楽をこよなく愛し、好きだからやっているんです。
 だから曲も作りたくないときは作らない。僕は一生懸命作ろうと思って構えると、絶対にダメなんだよね」静寂に包まれた深夜に、ラジオから流れる「深夜便のうた」。

“ラジオを通し、ささやきかけるように聞こえてくる歌には、絆を生む力がある”という加山はこう続けた。

 「握手会のときに、ある女性が涙を流しながら告白してくださったんですけどね。その方は、命を絶とうと考えていたそうなんです。車に乗って踏切で電車が来るのを待っていた。そのときに、ラジオから『母よ』という僕の曲が流れてね。その歌に聴き入っているうちに、電車が走り過ぎた。自分の愚かさに気がついて、自殺を思いとどまることができたと言うんです。僕の歌に命を助けられたって」

 またある男性は、加山の「海 その愛」という歌に生きる勇気をもらい、病に倒れるまでコンサートへ通い続けたそうだ。

 「音楽を絆のように思ってくれる人がいるかぎり、歌を続ける意味があります。音楽によって、少しでも幸せを感じてもらえたら、それが僕の幸せなんです」

 震災の後、加山はギターを持ち岩手県大槌町の避難所を慰問した。被災地で歌を披露することに葛藤はあったが、歌を聴いた被災者の方は、涙を流して喜んでくれたという。

 「常に新しい今を生きるという気持ちで、何事にも挑戦したいと思います。音楽活動に関しては、生涯現役を貫きたい。人間は命あるかぎり、いつまでも可能性を持っている。大切なのは“関心・感動・感謝”という気持ちを失わないことですね」

 今後もコンサートを続けたいと話す加山。音楽への愛情を語る瞳は少年のように輝いている。デビュー51年を迎えた永遠の若大将。彼から届いた珠玉のラブソングに、耳を傾けてほしい。

作詞家・秋元 康からメッセージ

今回の「深夜便のうた」では、みなさんがどこかで聞いたり感じたり、あるいは読んだりと、誰もが体験しているようなことを描きたいと思いました。加山さんにいちばん歌っていただきたかったのは、“君は今でも 覚えているか?”という歌の冒頭です。

ラジオから加山さんの声が流れてきて、「覚えているか」と言われたとき、リスナーのみなさんがいろいろなことを思い出してくださるはずだと思いました。長年のファンだった僕が、加山さんに歌と作曲を依頼したのも、加山さんの歌声は“思い出の目次”になると思ったからなんです。加山さんの歌声だからこそ、みなさんの思い出の琴線に触れるのではないでしょうか。

一日の最後にこの曲を聴いて、思い出の目次を開いていただき、さらに、きょうはこんなことがあったと、新しいページも作っていただけたら幸いです。。

11年08月30日新設