「これからの人生」

 (読売新聞 富山版 2011年10月31日)

ゲーマー若大将 「孫も戦友」

 大小様々なボタンが並ぶコントローラーを機敏に操作しながら、大型のモニター画面に現れる怪物を次々と倒していく。10代のゲームマニアを思わせる手つき。

「ギターを弾く時に大切なのは、何てったって指先をコントロールする反射神経。それをゲームで楽しみながら養ってるんです」

と、日焼けした笑顔で話す。

1960年代、スポーツ万能でハンサムな大学生が活躍する映画「若大将」シリーズに主演して人気者に。

「若大将になるために生まれてきたんじゃないか」

と話すように、活動的なヒーロー像を地でいく。
若い頃から夏はサーフィン、冬はスキーと、アウトドアスポーツに夢中になってきた。そして今も愛船「光進丸」で海に出てギターを爪弾く。

 そんな屋外中心のライフスタイルが、40歳を過ぎる頃から徐々に変わり始めた。70年代後半のこと。部屋に籠もって楽しむ「テレビゲーム」が新しい趣味に加わったのだ。

 当時、喫茶店などに置いてあった、テーブル型のゲーム機を何気なく試してみたら、これが面白い。敵を打ち落とす「シューティングゲーム」。

「自分が主人公になって冒険する臨場感、場面をクリアした時の達成感。あれがいいよね」。

以来、家庭用テレビゲーム機が発売される度に買い、様々なゲームを楽しんできた。

 「夜中に自宅で1人、ガッツポーズして喜んだり、コントローラーをたたきつけてふて寝したり。もう生活の一部」

 若大将の快活なイメージと、テレビゲームの画面に食い入る姿が、なかなか結び付かない。戸惑っていると、

「ゲームでは、自分が国籍も時代も関係なく、縦横無尽に飛び回れるでしょう。舞台が仮想世界に移っただけで、冒険心や好奇心を働かせることに変わりはないんです」

と、そのギャップを優しく埋めてくれた。

 テレビゲーム歴30年を超え、腕前は相当上達した。ゲームの製作者から

「こんなすご腕の人はいない」

と驚かれたことも。

「僕のことを『ゲーマー』って呼ぶヤツもいて」。

そう話す表情がうれしそうだ。

 同世代の友人にゲーム仲間はいない。

「酒もゴルフもやらないから、話が合わなくなってきちゃった」。

2人ひと組で敵を倒すゲームで、“戦友”を務めるのは、もっぱら、30代の息子や小学生の孫だ。

 ゲームの攻略本を貸し借りし、腕を競う。時間が合えば、それぞれの自宅からインターネットを通じ、ゲームの世界で落ち合って遊ぶ。

「3世代共通の趣味があるのはいい。『オヤジ、助けて』『お前、1人で先に行くな』なんて、別々に暮らすせがれとネット回線で話しながらやってます」

 昨年、芸能生活50周年を迎えた。記念に発売したシングルでは、さだまさしさんや森山良子さんらと、中高年への応援歌を歌った。ツアーでも、サザンオールスターズやチューブの曲を伸びやかな声で歌う。
 74歳の今も、「残りの人生」という発想はない。

「やりたいことがまだまだある。年がいなんて考えず、『自分が感じるままの年齢』で生きればいい。夢や希望こそが人を若くするんだから」。

それが「永遠の若大将」からのエールだ。

 ファンから贈られたゲーム機には「光進丸」のイラストがプリントされている。

「実際の光進丸にも同じゲーム機が置いてあります」

(千葉市で)。

11年11月10日新設