はじめに 

 自叙伝とか半生記というものは、人生の大半を過ぎ、功成り、名を遂げた人が書く

ものです。それを、わずか三十年しか生きてこない、未熟なぼくが出版するなどと

は、まことに生意気なことだと思います。

 ぼくはこの三十年間、どんなことでも、精一ぱいやりました。ピアノを習い、ボー

トをつくり、泳ぎ、スキーに乗り、作曲をし、映画に出演し、歌う。力のかぎりをふ

りしぼってきました。何事にも一生懸命になれたことが、ぼくの唯一の取り柄だと思

っています。

 映画俳優などというものは、周囲の人たちの期待や憧れが大きすぎて、ともすると

自分自身にさえ、本当の自分の姿がわからなくなるものです。

 ぼくは、この本の中で、いままで行動してきたこと、考えたこと、感じたことを、

まったく率直に、ありのままの形で、書きつづってみました。それは、なによりもぼ

く自身のためになることだと思います。

 もし、この本を読んで

「加山雄三とはこんな人間か」

「そんな考えをもったヤツがいるのか}

 と思っていただければ、それだけで満足です。

 末尾ながら、仕事に追い回されるぼくを叱り、激励して、出版にこぎつけて下さっ

た報知新聞社馬立竜雄出版本部長、同文化部中原宏之記者に深く感謝します。

   

   昭和四十一年十一月       加山雄三

08年02月21日新設