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 高谷清読書メモ44 (2014年4月)

(糸賀一雄記念事業関係)
糸賀一雄生誕100年記念論文集 「生きることが光になる」 研究事業部会編 2014
糸賀一雄生誕100年記念誌「生きることが光になる」
                糸賀一雄生誕100年記念事業実行委員会 2014

(放射能関係)
ベン・シャーン絵 、アーサー・ビナード構成・文 
  「ここが家だ・ベン・シャーンの第五福竜丸」集英社 2006
鎌田實著 唐仁原教画「雪とパイナップル」集英社 2004

(佐藤幹夫)
佐藤幹夫「十七歳の自閉症裁判」岩波現代文庫 2010
佐藤幹夫個人編集「KIGA ZINEI:飢餓陣営」2014年春号 2014年3月

(「黒沢明」監督映画 関係)
野上照代「もう一度天気待ち 監督・黒沢明とともに」草思社 2014
橋本 忍「複眼の映像」文春文庫 2010
黒沢 明「蝦蟇の油 自伝のようなもの」岩波現代文庫 2001

(「嘉田知事」著作)
嘉田由紀子「いのちにこだわる政治をしよう!」風媒社 2013


〔内容説明〕
糸賀一雄生誕100年記念論文集 「生きることが光になる」 研究事業部会編 2014
 昨年は、「この子らを世の光に」で有名である糸賀一雄の生誕100年を記念して、滋賀県でいろいろな行事がとりくまれた。その一つとしてこの論文集が刊行された。
 公募した論文の上位の4論文と、依頼した13論文、さらに実行委員7名の短文からなっている。いろいろな視点から糸賀やその業績や思想を執筆している。とくに今日の日本とかかわっての論文が多く、現代の日本の問題へのアプローチになっている。
[最優秀]山﨑将文「憲法学からみた糸賀一雄の現代的意義」
[佳作]垂髪(うない)あかり「横(横軸)の発達」に込められた願いを未来へ読み解く」
[佳作]黒川真友「糸賀一雄の福祉思想の形成と近江学園保母の生活と実践」
[審査委員会特別推薦]川本幸一「時代と施設に翻弄されたIさんの人生から見える
   糸賀一雄思想の先駆的実践と福祉のこころ」
[依頼論文]13論文
[研究事業部会員小論]7論文
 他に「はじめに」実行委員長 嘉田由紀子(滋賀県知事)
 冨永健太郎「糸賀一雄関連文献リスト」。
   これは、今日まで糸賀一雄に関して書かれた論文(単行本および雑誌掲載)のすべ
   てのリストで、糸賀研究者や糸賀に関心ある人には必須であろうと思います。
   350ページ、頒価:1500円
 (購入方法については「現代社会メーリング第13号」に書いています)

糸賀一雄生誕100年記念誌「生きることが光になる」
                糸賀一雄生誕100年記念事業実行委員会 2014
 前書と同じ題名になっているので、間違わないようにしてほしい。
 これは、「実行委員会」が編集をしたもので、内容は、この行事を担った人たちが書いている短文集である。一人が本文の1~2ページで書くようになっている。
嘉田由紀子知事、および辻哲夫特別顧問が「記念事業によせて」を書いている。冒頭インタビューでは、糸賀氏と長くいっしょに取り組んできた三浦了氏へのインタビュー。そのあと38名の短文。記念事業の紹介などもある。
152ページ。非売品(無料・ただし送料は必要)。
 入手希望の方は、
〒520-8577 大津市京町四丁目1-1 健康福祉部障害福祉課。に連絡をしてください。
 電話:077-528-3542。FAX:077-528-4853
 
ベン・シャーン絵 、アーサー・ビナード構成・文 
    「ここが家だ・ベン・ジャーンの第五福竜丸」集英社 2006
 アメリカを代表する画家ベン・ジャーンが、アメリカの水爆実験で被曝し、亡くなった久保山さんのことを描いた。アーサー・ビナードがその絵に文をつけて構成した絵本である。絵がユニークで、絵として鑑賞できる。ただ顔は日本人的でないが。
 次のような文もある。「10日目になると、髪の毛がぞろぞろとぬけだした」「いきもののからだを、しずかにこわしていく放射能がたっぷりとはいっていた」「それでも無線で『たすけてくれ』とたのむと、なにをされるかわからない。もっとひどめにあわされてしまうかもしれないのだ。水爆という見てはいけなかった秘密を見たのだから」。こうして久保山さんは、日本に帰ってから死亡する。56ページ、1600円+税

鎌田實著 唐仁原教画「雪とパイナップル」集英社 2004
 医師の鎌田氏がチェルノブイリで、子どもの白血病にとりくむなかで経験しただいじなことを物語にしている。文章はリズムのある快いひびきで、絵も美しい。白血病になった子エレーナが望んだパイナップルをさがしまわる看護師のヤヨイさんとまちの人たちの物語。そして亡くなったアンドレイの母は言う。「マイナス二十度の町をパイナップルを探し歩いてくれた日本の女性のことを、わたしたち家族は、一生忘れないでしょう」
103ページ、1500円+税

佐藤幹夫「十七歳の自閉症裁判」岩波現代文庫 2010
 寝屋川市で起こった自閉症者青年の殺傷事件の裁判をとおして考え、明らかにしてきた内容。加害(そして被害者と家族)と「自閉症」という障害の問題を、整合性をもって解くのはとても困難である。その困難に挑んでいる。大事な内容であり、多くの問題が述べられているが、簡単には紹介できない。かなりの力量を備えた著者であると思う。自閉症にかかわる課題に関心のある方は読んでほしい。
 著者の佐藤幹夫氏とは、ひょんなことから知り合いになって、さらに東京での同じ講演会に講師・シンポジストとしても偶然同席した。佐藤氏は、「KIGA ZINEI:飢餓陣営」という雑誌を個人編集して出版している。最新号は2014年春号(40号)で、332ページもあり、多くの人が執筆している。このような雑誌を個人編集で出版し、しかも40号も続いているというのは驚異的である。

佐藤幹夫個人編集「KIGA ZINEI:飢餓陣営」40。2014年春号 2014年3月
  発行所 編集工房 飢餓陣営、発行人 佐藤幹夫
  (〒273-0105 鎌ヶ谷市鎌ヶ谷8-2-14-102)
 まだほとんど読めていないが、目次をたよりにして紹介したい。
 特集1「宮崎アニメという魔術」3人が執筆している。
 特集2「岡江晃『宅間守 精神鑑定書』を読む」
  岡江晃氏を囲んで「精神鑑定と臨床診断」9人が参加。
 特集3「臨床と哲学のあいだ」
  3人の執筆とシンポジウム4人。
 特集4「吉本隆明没後の時代に」執筆者4人
 他に、特別インタビュー「後藤弘子氏に聞く」社会的弱者と刑事司法。
 さらに「エッセイ」「連載」「本を読む」などがある。
  このような雑誌を個人で編集、出版しているというのは驚異的である。
  332ページ 1300円+税 

野上照代「もう一度天気待ち 監督・黒沢明とともに」草思社 2014
 著者は、1950年から「スクリプター」(映画制作の現場の記録係)として、黒沢明に付いてずっと仕事をしてきた(1927年生まれ)。「羅生門」からはじまって「まあだだよ」に至る撮影現場、黒沢、三船などの姿、撮影の困難さ、さまざまのエピソードが率直に語られ、実に興味深い読み物になっている。黒澤ファンには見逃せないだろう。私も黒沢の映画はほとんど観ているが、これほどに細部にわたって執着し、工夫し、困難を乗り越えて映画創りをおこなっているのに感動したというか、恐れ入った。自分もあだやおろそかに文章を流し書きしてはいけないと、肝に銘じたい。367ページ、1900円+税

橋本 忍「複眼の映像」文春文庫 2010
 黒沢映画のシナリオライター。「羅生門」で黒沢と脚本を共同執筆。以来「生きる」「七人の侍」など。「私は貝になりたい」「砂の器」などの監督をしている。どのようにシナリオを書いてきたか、黒沢明の映画に挑む姿など興味深い話がいっぱい載っている。シナリオライターだけに文章がうまいし、人の気持ちをよくつかんでいる。興味にかられて大部な本であるが、一挙に読んだ。それにしても黒沢の映画作りの真剣さというか深刻さというかは大変である。いろんな「事件」もあり、自殺未遂もあり。黒沢明という監督がいたということは、日本人にとっては大きな娯楽を得たことでもあるし、人生を考えさせられたこともでもあるし、こうした本で映画創りの真剣さを知ると、自分の人生に影響を受ける。405ページ。743円+税

黒沢 明「蝦蟇の油 自伝のようなもの」岩波現代文庫 2001
 自分が育ち、経験したことを自由に書いている。読みやすいし、黒沢の映画とつながって、いろんなことが書いてあり興味深い。この「自叙伝のようなもの」を読んで、黒沢の心底はウエットであり、そのうえに大胆さというか勇敢さというものがあるのだと感じた。自死した兄のことも書いている。黒沢の忸怩たる思いもわかる。また日常的に経験したことが映像の上で再現されていることもある。とにかく興味深かった。
369ページ、1100円+税

嘉田由紀子「いのちにこだわる政治をしよう!」風媒社 2013
 滋賀県知事である嘉田由紀子が自分の生い立ちから、女性としての不利な時代や自分の希望、大学時代のアフリカへの探検などが叙述されている。知事への立候補、そして2期目の現在を含めて、さまざまなことを語っている。嘉田氏がすすめてきた施策は、それまでのいろいろなことを変えることであり、抵抗が強かった。当初は「新幹線新駅問題」〈無駄な公共事業を凍結・反対〉、自然の災害を「ダム」(自然を破壊する大型公共事業)でおこなうのでなく、自然を活かしながら治水する方法を実現した。琵琶湖の水を調整する「洗堰(あらいぜき)問題」(複雑で簡単には書けないが、上流と下流の対立になりがちな問題を「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」と打ち出し解決した)など、その他にも多くの問題を書いている。政治の世界はたいへんだなぁと読み終えた。209ページ、1000円+税
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