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BOOKナビ(2)
 
「豚インフルエンザ」「フェイズ5」などという言葉が突然メディアに登場したと思ったら、一気に世界的緊張が高まった。連休明けには、国内でも感染者が確認された、と報じられた。

 小林照幸『パンデミック』(新潮新書・六八〇円)。歴史的経緯、対策、予防など、新型インフルエンザに関する情報がコンパクトにまとめられている。いま必要なのは専門性と強い問題意識をもった医師だという訴えが目を引く。まさにそうした医療者による提言が本書の最大の武器となっている。

 対策には限界がある。人から人への感染が始まればまず治療に当たる医師たちがピンチになり、さらにはライフラインが停止し、負の連鎖が始まる。――危機の警鐘と不安の煽りとはどうしても表裏となるが、著者の筆は主張と抑制がバランスよく効いている。

 一方専門医による警世の書も出た。岩田健太郎『麻疹(はしか―ルビ)が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか』(亜紀書房・一五〇〇円)。生活習慣病にこそじつは感染症が密接に関連している、日常に存在する感染症に対峙できず、なぜ新型インフルエンザのような緊急事態に対応できるのか、という医師らしい冷静な着眼から書き出される。

 薬の備蓄や医師の確保といった医療問題のみならず、交通の遮断、社会機能のマヒなど国家規模での対応が必須となる。患者の行き過ぎた管理や隔離を含め、人権や倫理問題など事前の議論がどこまでなされているのか、という問いは傾聴したい。国の対策の遅れも鋭く指摘されている。

 既刊新書だけ見ても、感染症関係のラインアップは充実している。岡田晴恵『感染症は世界史を動かす』(ちくま新書)、山本太郎『新型インフルエンザ』(岩波新書)、井上栄『感染症』(中公新書)はお薦め。新聞やテレビ、ウェブサイトによる新情報が次々と飛び込んでくるとき、書物がどのような力を持ちうるか。評者には再確認する絶好の機会となった。