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在宅自立支援型介護のノウハウ集

1.日常生活上の生活行動は部分作業でよいからできるだけ一緒に行う。
炊事、洗濯、掃除などの日常生活上の生活行動は部分的には身体が覚えていますから、そばに付き添って一つ一つ指示してあげれば頭で余り考えなくても出来ます。 例えば、母の場合、魚を渡して「これハラワタ取って」と言うと、「出来ないよう」と言いながら、手はもう動いています。 このようにそばに付き添ってその人の痴呆の程度に従って一つ一つ指示をして上げれば、本人がびっくりするくらい結構いろいろなことが出来ます。 いろいろ出来たことは本人の頭の中に自信と満足感で満たされると思います。それは痴呆の進行を止める 働きがあるのではないかと思います。
 
2.部屋はできるだけ模様変えせず、同じ状態にしておく。
痴呆が進んでくると今居る場所がどこか分からなくなり、徘徊の一因にもなります。 その時に役に立つのはその場所の風景です。いつもの見慣れた風景ですと、「あー、私の家か」と落ち着きます。
母の場合、母が昔色紙に描いた絵を部屋に多数貼ってあるのが役に立っています。
 
3.本人が昔行っていた趣味などをいつでも行えるように身の回りに置いてあげる。
家にいる場合、空き時間にやるべきことを考えて上げる必要があります。痴呆になっていると 新しいことを覚えることは不可能ですので、過去に本人が行っていた絵、音楽、書道、編物、読書などの趣味などから選ぶ必要があります。
母の場合は、毛糸の手編みが好きですので、常に身の回りに手編みの準備をして上げています。そうすると 自然に手が伸びて編物を始めています。また、音楽も好きですので、母が好きな歌をCDに焼いてあり、 それを適宜かけて上げます。
 
4.本人の自叙伝や写真集を作ってあげ、いつでも読んだり、ながめたり出来るようにしてあげる。
本ホームページのコラム欄 「母の自叙伝ーアルツハイマー病の母に対する自叙伝の効用ー」 でも述べましたが、本人の自叙伝には下記効用があります。
  • 自叙伝を読むことにより、脳の中の過去の記憶を頻繁に刺激することになり、過去の記憶の減少を遅らせることができるように思う。
  • アルツハイマー病は否応なく進んでいくので、その場合のコミュニケーション促進の手段として予め自叙伝を作っておくことは非常に役に立つ。
  • 自叙伝は、家族やヘルパーさんとの会話のネタになる。ヘルパーさんはこの本を読むことにより母のいろいろな質問に答えられることになり、母の信頼を得ることができる。
  • 本人の暇つぶしになる。
  • 自分は物覚えが異常に悪くなったことを自覚して不安を訴えることが時々ある。そのようなときに自叙伝を示し、ここに書いてあるよ、と言ってあげれば本人は安心する。  
  • 二人で自叙伝を見ながら質問することにより、痴呆の進行度合いを測ることができる。
最近の母は痴呆が進んだせいか、以前にはよく理解できていたこの自叙伝も理解が難しくなりました。 それでも本人はしょっちゅう読んでいますし、調子が良い時には書いてあることを思い出します。 写真に関しては、説明なしの写真のみでは写っているのは誰かなどを殆ど理解できなくなりました。 母の場合、2作目の自叙伝に多数の写真を入れ、説明も豊富にしてあります。例えば、写真毎に 名前や年齢を入れてありますので、母の理解の助けになります。
その他、母が昔描いた絵を集めた「愛子画集」や「家計図」「愛子年表」も作って母のそばに置いてあります。
 
5.おかしなことを言っても、間違ったことをしても危険がない限り、決して言下に否定しない。 まず、よい聞き手になってあげる。
母の特性なのか、痴呆者共通の特性なのか分かりませんが、本人が言っていることや 行おうとしていることを否定すると猛烈な反発をして、決してこちらの言うことを聞かなくなります。 それを無理やり強制しようとすると顔つきも変わり、人格も変わるような気がします。これは本人にとって 物凄いストレスになっている筈ですから、本人に悪い影響を与えると思います。オーバに言えば、痴呆を進める 一因にもなるのではないかと思います。ですから、どんなにおかしなことを言っても、間違ったことをしても 危険がない限り、決して言下に否定せず、よい聞き手になってあげることが必要と思います。
 
6.徘徊は危なくない限り、自由に任せ、そっと付いて歩く。
徘徊は止めても止まりませんので自由に歩かせておくしかありません。母の場合、信号 を見ずに渡りますから、必ず誰かがそっと付いて行く必要があります。せめて一緒に歩くことができれば楽なのですが、本人が拒絶 することが多いので少し間をおいて隠れるように付いて行きます。まるでストーカです。しかし、近所の人は 分かっていますから、「大変ですね」とか「頑張って」などと声をかけてくれます。
基本的には、本人の自由に任せ、そっと付いて上げるのが本人にとって一番良いようですが、本人が帰り道を迷っている場合や 余りにも時間が長くなってきた場合には家に帰るように仕向けます。仕向ける方法は、行かせたくない方向に先回りして待ち構えて いると母は嫌がってクルッと向きを変えて後ろに戻って行きます。これを利用して自宅へ誘導していきます。また、偶然にバッタリ会った 振りをして「あらっ、坂東さん! 偶然ですね。同じ方向に行くから一緒に行きましょう。」などと言うと付いてくる場合もあります。 本人も家に帰りたい気持ちになっている場合はこの方法がうまく行きます。
 
7.明るく、楽しい雰囲気を作り、できるだけ笑わす。
自分の家にいることが楽しくなるようにできるだけ明るい、楽しい雰囲気になるように 工夫します。母の場合、テレビ番組は余り深刻な顔をした番組ではなく、楽しい歌番組や穏やかなトークショー、 子供向け番組などがいいです。できるだけ本人を褒めてあげるのもいいです。私は子供時代に戻っておかしな 顔をしておどけたり、母が歌を歌っているときに大げさに指揮をとってあげたり、いろいろ工夫して 母を笑わせています。
 
8.常に相手の心の動きを読み、その動きに添った対応をする。
母の心の動きは、顔つき、独り言、動作などで分かります。これから良い精神状態になっていくのか、 悪い状態になっていくのか、外に行こうとしているか、歌を聞きたがっているのか、水を飲みたいのかなどです。これらの様子から先手を打って希望をかなえてあげます。 ただし、外に行きそうなときには話題を変えてできるだけ外に行く考えを切替えます。
 
9.相手がこちらを拒絶し、最悪の関係になった場合、30分位身を隠し(ただし、相手の安全だけは注意できる場所)、 その後話しかければうまく行くことが多い。
相手の心は突然変わりますので、最悪の関係になった場合でも30分もすれば殆どの場合、ケロッとして「あらっ、久しぶり」などと 受け入れてくれるます。ですから、決して短気を起こして相手を叱ったり、強制しないことです。相手は病気であることを認識してじっと 耐えて待つことです。
 
10.精神的に悪いストレスは与えない。良い緊張感を与える。
精神的に悪いストレスを与えると、他人の言うことを聞かない、心を閉ざした、落ち込んだ状態になります。例えば、 徘徊を無理やり止める、お風呂に無理やり入れる、本人が嫌がっているときに在宅ヘルパさんに預ける、などです。 これらのストレスが蓄積されると痴呆が進むことにつながるのではないかと思います。
逆に良い緊張感を適宜与えることは頭の働きを活発にして本人に良い影響を与えると思います。 例えば、生活行動を一緒に行う、デイサービスに行き、皆で歌を歌ったり、ゲームをしたり、お話をしたりする、自叙伝を読んで説明してあげる、簡単な計算をさせる(やる気があるときに)、などです。 これらは痴呆の進行を止める、または遅れさせることになると思います。
 
11.お金はある程度渡しておく。
痴呆が進んでお金の管理ができなくなっても、ある程度のお金を渡しておくことはいろいろメリットがあると思います。 例えば、身近にお金を置くことによりお金の意味を忘れない、お金をしょっちゅう数えることにより、 数を数える能力を失わない、自分もお金を持っているということで安心感を与えるなどです。 額はその人の痴呆の程度などを考慮して決めるべきと思いますが、基本的には万が一失くしたとしても大丈夫な額であるべきです。 私の母の場合、千円札100枚程度と100円、50円、10円などの小銭を渡してあります。 母はしょっちゅう数えては10枚つ束にしています。
 
12.寝具はベッドが良い。
寝具は毎回敷く布団より、ベッドの方がいろいろメリットがあるので良いと思います。ベッドのメリットは、 トイレなどに行くときに立ち易い、着替えがやり易い、いつでも寝ることができる(母は徘徊から戻ってしばらくの間ベッドに潜り込んで 寝ることがあります)、などです。
 
13.本人が「自分の頭はおかしい」と訴えたときは、 「痴呆」とか「ボケ」とは言わず、「老化現象だよ。年取ると誰でもなるよ。」と言ってあげる。
自分がアルツハイマー病とか痴呆症などと理解できている人は別ですが、理解できない人に対しては、痴呆症やボケと言う 言葉は非常に乱暴な、心を傷つける言葉です。私は「老化現象」という言葉を使うことにしています。母が「最近、私の頭はおかしいよ。」 と言ったときには「老化現象だよ。年取ると誰でもなるよ。」と言ってあげます。正直にアルツハイマー病なんて言っても何のメリットもないからです。 そうすると母は「そうだね。私も年取ったから仕方ないね。ワッハハー」と言って笑い飛ばします。
 
14.質問には、たとえ理解できないと思っても誠実に分かり易く答えてあげる。
質問に対して、誠意を持って説明してあげれば、たとえ説明した内容が理解できないとしても誠意は通じるし、 気持ちが癒されるようです。「分からない」と言っても決して声を荒げたり、馬鹿にしたりしないことが大事です。 説明を理解させると言うより、相手をちゃんと扱ってあげる方が大切と思っています。
 
15.心優しい、包容力のある介護をするには、 介護する人も心のゆとりのある生活をする必要がある。
介護する人は趣味、旅行など心にゆとりを持つことを時々行わなければ、心優しい、包容力のある介護ができないと思います。 介護100%になってしまうとギスギスした、イライラした介護になってしまうでしょう。
 
16.相手の気分を変える小道具をできるだけ多く見つけ出し、 日頃から準備をしておく。
食事をしなかったり、ある妄想から抜け出せないときに、気分を変えたり、関心を持つことを示せば、 良い状態になることがあります。そのための小道具を日頃から見つけ出し、準備をしておくことは有効です。母の場合、 赤ちゃん(ひ孫)の写真、りんご、好きなお菓子、好きな歌のCDなどをいつでも出せるように準備しておき、タイミングを見計らって使います。 例えば、食事が済んでいないのに「済んだ」と言って食卓に付かないときに、「りんご食べようよ。皮むいて来て」と言うと「うん」と言って 台所へ行って皮をむいてくれます。それがきっかけで食事も食べることが多いです。
 
17.介護はできれば一人で背負わずに、何人かで分担する。
介護を一人で背負うことは大変なストレスになるので、できることなら複数の人たち(できれば肉親)で分担すべき と思います。それが無理ならば、できるだけヘルパさんやデイサービスなどを使って介護から開放される時間を持つべきです。
 
18.頭の調子が良い時間帯は貴重であり、その間に良いコミュニケーションをできるだけたくさん行う。
頭の調子が悪いときには何を言っても無駄であり、コミュニケーションをとることは難しいです。このため、頭の調子が良いときが 良いコミュニケーションを行うチャンスです。その時間帯を利用して良いコミュニケーションを行います。 本人はその時のことを記憶していないとしても、潜在意識にはきっと蓄積されて良い影響を与えると思います。
 
19.うそも方便
相手と話しているときに相手の話の間違いを指摘するより、多少のうそをついてでも相手の話に合わせたほうが良いと思っています。
ヘルパさんに預けて出てくるときには、「会社に行ってくる」とか「子供の調子が悪いので様子を見てくる」などと言って出てきます。
 
20.理想の介護とは、富士山のような泰然自若とした心を持って、常に寄り添ってあげること
(2004.5.15)

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