古書店の目録

　古書目録は探求書をさがして注文するためのものだが、過去にこういう本が市場に出たことがあると知るだけでも利用価
値は高い。文献リストとしての利用である。古書目録の中には古文書を写真版で掲載したものがある。これなどは写真の
示す情報だけでも価値があるというもの。

　「日本の古本屋」は定期的にチェックしているが、これはテーマや著者名・書名についてはっきりしたイメージを持っていて
こそものをいう。問題は必要な情報すら持っていないという場合だ。

　古書目録をめくっていると、見たことも聞いたこともないような文献に偶然に出会うことがある。「日本の古本屋」の検索で
はヒットできないものを知ることができ、その欠を補うことになる。書店で目的の本を探していて、その隣の本に手が伸びる
ようなものだろう。「日本の古本屋」にも、昔ながらの文献目録にも、それぞれに得意分野があるわけだ。

　古書目録、ことに展示即売会の目録などは用を終えると捨てられる運命なのだが、私にとっては文献リストとして新たな
用途が待ち受けていることになる。だから捨てられない。

　私は用済みになった目録によって、福岡藩海外留学生の一人で、東京大学法学部の日本人として最初の教授である井
上良一（いのうえ・よしかず）のハーバード大学卒業証書が、どこかに存在していることを知った。

　井上の卒業証書は戦前の「九州帝国大学新聞」に写真が掲載されたことがあるが、その後、行方はわかっていない。

　井上はハーバード大学を卒業した最初の日本人（ということは、最初のアジア人でもある……当時、キリスト教徒でなけれ
ば入学させないという条件をクリアするのが難しかった）二人の内の一人で、この卒業証書そのものにすでに価値がある
の
だ。

　その卒業証書を含む資料が古書目録に掲載されたことがある（『九州古書大市会出品目録』１９９１年４月）。残念ながら
私が目録を見た時点で市会はすでに会期を終えていて、それなりに追求は試みたのだが、いまだに購入者はわからない
ままだ。

　しかし、失われずにどこかで眠っていることがわかっただけでも収穫だ。いつか出会えるときがあるにちがいない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（２００４年５月１日）

＊「出版年」の〔　〕内の補記は入手年月日のメモによる。（　）は推測で補った。

【出版年月日が明示されないのは発行者が一時的な通用のみを意図しているからだろう。】

＊古書目録はおおむねＡ４・Ｂ５・Ａ５・Ａ４三折に大別できる。

　ただし、サイズの分類は便宜的で、近いサイズで代用するか、変形の意味で「変」を加えた場
合もある。

【Ａ４三折（＝横三つ折りサイズ）は定形長３封筒に入れるための工夫で発達したものだろう。】

＊「店名」は古書即売会は会場名、共同目録は事務局の店名で替えた場合がある。

＊一部、古書以外の目録を含む。

配列は出版年月日の逆順。同一年月日では順不同。

Ｂ５・１６４ｐ

Ｂ５・１２９ｐ