ある日の夜。
眠っていたレスカは夢を見ていた。
夢の中に出てきている自分は今の姿ではなく、幼少の頃の姿。
まだドン・ハルマゲに連れ去られる前の頃だろうか。
傍には今よりも若い、父親のヨッコーラ三世の姿もある。
そして場所はアララ城の庭。
そこで二人は楽しく遊んでいる様子だった。
そんな中、ヨッコーラ三世はレスカにこんなことを教えてくれた。
「木の幹に耳を当てると、木の鼓動が聞こえるんじゃよ。」
「・・・こどう?」
「そうじゃ。木の幹に耳を当てると、『トクン、トクン』と音が聞こえるんじゃよ。
人間の心臓と同じようにな。」
「へ〜え。じゃあ、この木に耳を当てると聞こえるかなぁ?」
「やってみてごらん。」
「うん!」
幼いレスカのすぐ傍にあった大きな木に、彼女は耳を当ててみた。
しかし、
「・・・聞こえないよぉ。」
「う〜ん、幼いカフェオレにはまだ早かったかもしれんのぉ。」
「え〜〜! 今聞くことができないのぉ〜!?」
ふくれっ面をする幼いレスカ。
「まぁまぁ。おまえが大きくなったら、きっと聞くことができるじゃろう。
それまで少し待ちなさい。」
「ホントに? ・・・・わかった。
じゃあ、私が大きくなったら、もういちど『木のこどう』、聞いてみよう〜っと!」
ここでレスカは目を覚ました。
「・・・なんで今ごろ、こんな夢を見たんだろ、私・・・・。」
『木の幹に耳を当てると、木の鼓動が聞こえるんじゃよ。』
これはレスカの幼少の頃、父親であるヨッコーラ三世から実際に教えてもらったことで、
昨夜、夢で見たことは昔、実際にあったことだったのだ。
レスカは父親の言っていた『木の鼓動』というものを幼い頃、ずっと聞いてみたいと思っていた。
しかし、ずっと聞いたことが無かった。
そう、あれからすぐにドン・ハルマゲに連れ去られてしまい、
木の鼓動を聞くという余裕もなければ、そんなこと自体もいつのまにか忘れてしまっていたのだ。
「・・・木の・・・鼓動・・・か。」
レスカはベッドの上でひとり、つぶやいていた。
その日の昼、レスカは夢の中に出てきた、あの大きな木の前にいた。
その木も、周りの風景も十数年前のままで、レスカだけが少し大人になっていた。
ただそれだけだった。
そして、そっと右手で木の幹に触れてみる。
「そう、この木だったっけ。あの時、聞くことができなかったのは・・・。
ふふっ。なんだか、懐かしい感じ・・・。自分の城にある木なのにね。」
そして父親の言葉の通り、十数年ぶりにあの時と同じようにレスカは木の幹に耳を当ててみた。
すると、
トクン・・・・トクン・・・・
「聞こえる・・・・。」
木の幹に耳を当てると、レスカには確かに聞こえた。木の鼓動が。
そして、もうひとつ・・・、
木の幹に耳を当てると、木に鼓動が聞こえるんじゃよ
十数年前の父の声が・・・。
「聞こえる・・・、あの時の、ヨッコーラパパの・・・・声が・・・。」
父親と過ごした幼い頃の時間。
それはあまりにも短すぎる時間だったけれど、レスカにとっては大切な時間。
あの頃の思い出が、レスカの心の中にはっきりとよみがえった。
そして気が付くと、彼女の瞳からはひとしずくの涙がこぼれていた・・・・。
いかがでしたでしょうか、小説第5弾。
短くまとまりはしましたが、盛り上がるところも無ければ、オチも無し。
起承転結のカケラも無い小説になってしまいました。
ま、これは毎回か・・・。
今回の『鼓動』は木の鼓動のお話。
実際、木の幹に耳を当ててみると鼓動が聞こえなくはないそうですが、聞こえにくいらしいですね。
聴診器をあてて聞くと、よく聞こえるそうですがそう簡単に手に入るものでもありませんしねえ・・・。
ま、こういうお話もいいかな、と。
私自身は勝手に納得しておりますが、いかがでしたでしょうか?