それは、夏の暑い日。
その日は日差しがギンギンでうだるような暑さだった。
そんな日のハラハラワールドでのこと。
アララ城の深夜。
昼間がギンギンと日差しが強い暑さなら、夜は典型的な熱帯夜で、
アララ城の者は皆、寝苦しい毎日を送っていた。
それは、この人も例外ではなかった。ココアである。
「今夜はまた、特別に寝苦しいですわねぇ〜。」
暑さで寝付けないココアはベッドに腰かけ、うちわでパタパタあおいでいた。
「それにしても〜、なんで今日は眠れないのかしら〜。いつもなら〜簡単に眠れますのに〜。」
ココアはかれこれ30分以上もこうやってうちわでパタパタあおいでいるが、
今日に限っていっこうに眠くならなかった。
「少し城内を散歩しましょうか〜。歩けば、少しは眠くなるかもしれませんし〜。」
そういうと、ココアはうちわを片手に城内を散歩しに、部屋から出ていった。
ココアが城内をうろうろしていると、
「あら〜?」
と言って、ココアは足を止めた。
そこは書庫の前で、扉が半開きの状態のままになっていたのだ。
「おかしいですわねぇ〜。夜には鍵をかけてあるはずですのに〜。どなたかいらっしゃるのでしょうか〜?」
気になったココアは扉を開けて、書庫の中を覗いてみることにした。
しかし、書庫の中は真っ暗で、人のいる気配は無い様子。
明かりをつけてみても、人影らしきものはやはり無かった。
「あの〜、どなたか〜、いらっしゃいますか〜?」
シーン・・・・。
ココアが呼びかけてみてもやっぱり返事は無く、さらに書庫中を実際に見て回ったが、
結局誰もいなかった。
「きっと、どなたか鍵をかけ忘れたのですね〜。それじゃ、私が閉めておきましょ〜・・・・あら?」
部屋を出ようとしたとき、ココアは床に落ちている一冊の本を見つけた。
それは赤いハードカバーの本で、表紙には『poem』と書かれてあった。
「・・・・? 見た事のない本ですわね〜。こんな本、あったかしら〜?」
ココアは本を拾い上げて、その本をパラパラと数ページめくっていくと、
あるページでココアの手がピタリと止まった。
「?」
そこのページにはしおりが挟まれていた。
左ページには挿絵が描かれており、右ページには詩が横書きで書かれていた。
ココアはその詩を読んでみた。
こんなふうに 生きられますか?
自分を 美しく見せようとしていますか?
ずっと 追いかけられますか?
自分の顔を ちゃんと見せられますか?
夜が来て あんなに がっかりできますか?
朝が来て あんなに うれしくなりますか?
太陽にあこがれて・・・
誰が書いたかわからない、普通の詩。
そして何の詩かわからない、題名も無い詩。
ココアはこの詩を読んだ後、なにやら考え込み始めていた。
「何でしょうか〜。なぜかこの詩が気になるというか〜、心に引っ掛かると言うか〜・・・。
何か私に訴えかけているいるような気が〜・・・。」
そして、その詩の左ページに描かれている挿絵。
そこには麦わら帽子をかぶった少女の姿が描かれていた。
その少女は左向きに立っていて、なぜか悲しげな表情を浮かべていた。
「この挿絵から考えると〜、悲しい詩なのでしょうか〜? う〜ん・・・。」
とりあえず、ココアはこの本を部屋に持ち帰ることにした。
そして部屋に戻ると、その本のしおりがあったページを再び開き、何度もその詩を読み返しては、考え込んでいた。
それは一晩中続き、結局、ココアは一睡もせずに朝を迎えた。
朝。
朝食の時になっても、ココアの頭の中から詩のことが離れることはなく、
食事にも手をつけず、ため息ばかりついていた。
「ふぅ〜・・・・。」
「モグッ、ムグッ、ムガッ・・・・あれ? お姉様、食べないの?」
昨日からアララ城に帰ってきていたミルクが、食事をしないココアを気にかけて話しかけた。
「え? そ、そんなことはないんですけど〜。」
「そーお? なら、いいんだけど。なんかお姉様、元気がないようだったから。
ここのところ、中にこもってばっかりのようだったし。たまには外へ出てお日様の光でも浴びたら?
元気が出るかもよ。今日も外はめちゃくちゃ暑いけど。」
「外・・・、そうですわね〜。外へ行くのはいいかもしれませんわね〜。」
そう言うと、ココアは食事もせずにさっさと外へ出てしまった。
「お、お姉様!? 食べないでいいのかな〜? じゃ、あたしが食べちゃおっと。
モグ、モグ、モグ・・・・。」
外は朝から暑く、今日も日差しがきつかった。
「あらら〜、今日も暑いですわねぇ〜。」
ココアは空を見上げていた。そして詩の最後の一文を思い返していた。
『太陽にあこがれて・・・』
「どのような人が、太陽に憧れるのでしょうか〜・・・。」
太陽に憧れて、自分を美しく見せ、自分の顔をちゃんとみせることの出来る人・・・。
太陽に憧れて、ずっと追いかけることのできる人・・・。
太陽に憧れているから、夜が来ることにがっかりできる人・・・。
太陽に憧れているから、朝が来るのをとても喜べる人・・・。
そして、悲しげな表情をした少女の挿絵との関連性・・・。
そのような人物がどんな人なのか、ココアはいくら考えてもわからなかった。
気がつくと、太陽はもうすでに真上まで登っていた。
そう、もう時刻はお昼になっていたのだ。
夢中で何時間も城の庭をうろうろしていたココアも、さすがに疲れたようで、近くの木陰に座り込んだ。
「ふぅ〜、こんなに何時間も外を歩いたのは、久しぶりですねぇ〜。」
木にもたれかかり汗をふきながら、ココアはぼーっと周りを見ていた。
「あらら〜、この暑さで花壇のお花もぐったりとしてますわねぇ〜。
誰もお水をあげていないのかしら〜。 ・・・・!」
ココアは花壇にある一つの花を見て、全ての謎が解けた、という表情を見せた。
その花とは、ひまわりの花。
「なるほど〜。これなら詩の内容にぴったりですわ〜。
この詩は誰かのことを例えた詩ではなく、ひまわりの花のことをうたった詩だったのですね〜。」
こんなふうに 生きられますか?
自分を 美しく見せようとしていますか?
ずっと 追いかけられますか?
自分の顔を ちゃんと見せられますか?
夜が来て あんなに がっかりできますか?
朝が来て あんなに うれしくなりますか?
太陽にあこがれて・・・
ココアが気になっていた詩、それは、ひまわりのことをうたった詩だったのだ。
太陽に憧れて、自分を美しく見せ、自分の顔をちゃんとみせることの出来る花。
太陽に憧れて、ずっと(太陽を)追いかけることのできる花。
太陽に憧れているから、夜が来ることにがっかりできる花。
太陽に憧れているから、朝が来るのをとても喜べる花。
それが、ひまわり。
「詩の意味がわかったのは嬉しいんですけど〜、
目の前にあるひまわりやその他の花たちがぐったりしたままじゃあ、いけませんわね〜。」
そう言うと、ココアはすぐに工房へと駆け込み、ものの数分でとある機械を作成した。
それは、手のひらサイズのUFO型のメカ。
「これは、花壇に水をまく機械、『スプリンクラーくん』です〜。」
名前のことはともかく、これはこの機械の中で水を作り出して、一定時間ごとに花壇へその水を自動的にまくという、
ご都合メカなのだ。
「それでは〜、ポチッとな〜。」
ココアが『スプリンクラーくん』の電源を入れると、ふわふわと浮かび上がり、
シャーッと花壇一面に水をまき始めた。
「これで、ひまわりも他のお花たちも元気が出るでしょう〜。」
そして、その日の夜。ココアの部屋。
ココアは、もう一つの謎が気になっていた。
そう、ひまわりの詩の隣のページに描かれている、挿絵の少女のことだ。
「なぜ、あの女の子は悲しげな表情をしていたのでしょうか〜?」
もう一度、詩の内容を見て考えようと、ひまわりの詩が書いてあるページを開いた。
「あらら〜?」
そのページを開いてココアは驚いた。
なんと、そのページの挿絵と文章が、今日の昼まで見ていたものとは違ったものに変わっていたからだ。
あの悲しげな表情をしていた麦わら帽子の少女は、正面を向いて笑顔で立っている姿に変わっていた。
そして、詩が書かれていたページは文が一行だけ書かれていた。
それは、
『お水、ありがとう。』
ココアはその絵と文を見て、笑顔で、
「どういたしまして〜。」
と答え、本をパタリと閉じた。
「水が無くてぐったりと枯れそうになっている花たちが、この本で誰かに訴えかけていたのかも知れませんね〜。
不思議な出来事ですけど〜、なんだか、とてもいい気分です〜。」
そして、それからこの詩集は書庫に戻ることはなく、ココアの部屋にずっと置かれることになった。
夏の思い出の一冊として。
いかがでしたでしょうか? へっぽこ小説第3弾。
何度書いても、さっぱりな内容ですねぇ。
今回もまた最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。
感謝感激でございます。
今回のお話は前回以上に訳のわからない内容になってしまったかも知れません。
ココアを出したのも、ムリヤリっぽい感じがしないでもないですしね。
今回もまた、話の中にひまわりが出てきましたが、
もともとこの小説のタイトルは「ひまわり 第3章」としていたのですが、
詩の内容があっさりとわかってしまうので、「題名の無い詩」に変えました。
(タイトルを変えなくても、ひまわりの詩だとわかったでしょうけど)
そして、次の小説は、いつになるかはわかりませんが、
次の小説も、よろしければ、お付き合いくださいませ。