ひまわり
 それは、夏の暑い日。

その日は日差しがギンギンでうだるような暑さだった。

そんな日のラムネスの自宅。



 「ラムネス〜!一緒にプールへ行かない?お義母様から無料券をもらったの〜!」

と、ミルクが無料券を持った手をぶんぶんと振り回しながらラムネスの部屋へ声をかけた。

しかし、ラムネスの部屋からは返事がない。

 「・・・あれ? いないの〜?、ラムネス〜。入るよ〜。」

ミルクがノックをしても返事がないので、ドアを開けてみた。

が、部屋にラムネスの姿はなかった。

「なんだぁ〜、いないのかぁ〜。・・・ん?」

ふと、ミルクがラムネスの部屋の机を見ると、そこには一冊のノートがあった。

ノートの表紙には


『日記    6年2組  馬場ラムネ』


と書かれてあった。

そしてノートの真ん中にはラムネスが描いたと思われる、ひまわりの絵があった。

 「・・・日記? ラムネス、日記なんてつけてたんだ。

 6年生ってことは、去年の日記ね。・・・ちょっと見てもいいかなぁ?

 ・・・・いいよね。 うん、こんなところに無造作に置いてあるのが悪いんだしぃ〜。」

 やはりミルクも他人の日記の誘惑にも勝てなかったようで。

もっとも、それだけではなく、ミルクは自分と再会するまでのラムネスの事を知りたいという気持ちもあった。

とにかく、ミルクはノートを手にとり、表紙をめくって日記を読み始めた。





1ページ目。

○月×日

夏の始めに入りだした今日、オレのクラスに転校生がやって来た。

長い黒髪のかわいい女の子だ。 名前は実夕(みゆ)ちゃんといった。

これは早速、お近づきにならねば!と思った。

実夕ちゃんは「こちらこそ、よろしく!」とすぐに友達になってくれた。

うれしかった。





 「ふ〜ん、もうこの頃から少しナンパ好きの片鱗が出だしてきてたのかしら。」

ミルクは少しムッとした表情をしていたが、まだ落ち着いていた。

今ラムネスは自分のことが好きであるという自信がミルクにはあったし、

これまで浮気をラムネスに問い詰めて彼の口から女の子の名前が羅列される時、

『実夕』という名前は一度も出ていない。 

ということは、二人はすでに付き合ってない、という推測もできたからだ。

「ま、とりあえず次のページを見てみよっと。」

そう言ってミルクは2ページ目に目をやった。

前のページから日付が数日たっていた。





2ページ目。

○月×日

ひまわりの種を実夕ちゃんからもらった。

すごく嬉しかった。

オレは種を持ち帰ると、すぐに庭に種を植えた。





 続けて、ミルクは3ページ目に移った。 日付は2ページ目から3日後だった。





3ページ目。

○月×日

ひまわりの種がきっかけで、オレと実夕ちゃんは仲良くなっていった。

そして、何だか知らないけれど、オレはこのひまわりを絶対に大切に育てよう、

と思うようになっていた。





 「ふ、ふ〜ん・・・・。」

ミルクの表情はさっきよりもムッとした顔になっていた。

「ま、まぁ、ひまわりを育ててるってことだけだろうし・・・。」

そう言いながら、ミルクは自分を落ち着かせようとしていた。

ミルクは次のページをめくった。





4ページ目。

○月×日

ひまわりが少し芽を出し始めた。

オレと実夕ちゃんは一緒に学校から帰るようになっていた。





5ページ目。

○月×日

ひまわりの双葉が大きくなりだした。

オレは実夕ちゃんの家に電話をするようになった。





 ここまで読んで、ミルクはあることに気付いた。

日記は短い。しかし、ひまわりの生長とともに二人の仲がどんどん良くなってきているのだ。

「ふ、双葉が大きくなったところまでで、もう彼女の家に電話・・・?

ま、まさかこのままいくと・・・。」

ミルクの心の中で、やきもちとは別に何か嫌な予感がし始めていた。

さらに日記をめくって6ページ目へ。





6ページ目。

○月×日

ひまわりがオレの背と同じぐらいにまで育った。

今日、実夕ちゃんと初めてのデートをした。

デートといっても、近くの公園へ行っただけ。

けど、二人でいると、不思議と気持ちが安らぐ感じがした。





 電話からデートへ。ミルクの嫌な予感が当たり始めている。

おそるおそる7ページ目を見る。





7ページ目。

○月×日

ひまわりにつぼみができた。花が咲くまであと一息だ。

今日、オレの家族と実夕ちゃんの家族とで旅行に出かけた。

今までの旅行で一番楽しかった。





 「か、家族で・・・、りょ、りょ、旅行・・・。」

ミルクはめまいを起こしそうになっていた。

そして8ページ目には・・・。





8ページ目。

○月×日

ついに大きな花が咲いた。

デートの時、そのことを見夕ちゃんに話すと、満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。

そして、オレは今日、実夕ちゃんに大人になったら結婚してほしい、と言った。

彼女はビックリした顔をしたが、顔を真っ赤にしながらうなずいてくれた。

けれど、そのあと少し暗そうな顔をしていたのが気になった。急すぎたかな?





 「ぬわんですってぇ〜〜〜っ!!! け、け、結婚だぁ〜〜〜〜っっ!?」

嫉妬・不安・怒りなど色々な気持ちがピークに達し、ミルクはノートを両手で握りしめたまま、絶叫していた。

「聞いてないわよ、そんな話! ラムネス〜っ、帰ってきたら聞いてみないと!

場合によっちゃぁ・・・・ん?」

ここで日記が終わりかと思ったら、何ページも何も書かずに飛ばしてあって最後のページにまた日記が書かれていた。

しかもこれまでの日記とは違い、たくさんの文字がそこには記されていた。

「なんで、何ページも飛ばして最後に書いてあるんだろ。とりあえず、読んでみるか。」

そう言うと、ミルクは最後のページを読み始めた。





9ページ目。

○月×日

ひまわりが枯れた。

たった1本のひまわりだったけど、種は結構取れた。

取れた種を実夕ちゃんと分けようと思い、実夕ちゃんの家に行った。

けど、そこには家はなく、ひまわりのたくさん咲く空き地になっていた。

近所の人に、ここの家の人たちはどうしたのかと聞いた。

なんと、ここの土地は50年以上前から空き地だと言われた。

信じられなかった。

オレは学校の先生やクラスメートみんなに実夕ちゃんのことを聞いた。

けど、みんなはそんな女の子は知らないと言った。

信じられなかった。

この夏の出来事はみんな夢だったんだろうか?

信じたくなかった。

オレはものすごく落ち込んで家に帰った。

庭の枯れたひまわりを見ると、ひまわりのそばに一枚の手紙があった。

そこには、こう書かれてあった。



『ラムネくんへ

   勝手にいなくなってしまって、ごめんなさい。

   信じてもらえないだろうけれど、

   本当の私はひまわりの精霊で、

   夏の間しか、この世界で活動できなかったんです。


   ひまわりの種を誰かに託したくて、

   人間の姿になってひまわりを育ててくれる人を探していました。


   本当は種を渡してちゃんと育ててくれているかを

   見届けるのが目的だったんだけれど、

   目的を忘れるくらい、この夏の間

   ラムネくんと過ごした時間がとても楽しかった。


   ラムネくん、

   ひと夏の思い出を ありがとう。

   あなたに ひまわりを育ててもらえて 本当によかった・・・。

                                 実夕』



これまでの出来事は夢じゃなかったんだ。

その事は嬉しかった。

けれど、それ以上に悲しみのほうが大きかった。

君が、実夕ちゃんがどこか遠くへ行ってしまったことのほうが辛かった。

オレは涙が止まらなかった。

そして夏は終わった。

オレの手にはあのひまわりから取れた種が握られていた。

そして来年また植えよう、どこかにいる実夕ちゃんのために。

そう誓った。





 「これって・・・、どういうこと? 実夕さんが精霊・・・?」

ミルクが日記を読み終えると、

「・・・不思議だろ?」

声がした。ミルクが振り向くとそこにはラムネスが立っていた。

「あ・・・、ラムネス、ごめんなさい。勝手に日記を・・・。」

ミルクは持っていたノートをラムネスに返した。

「いや、いいんだ。出しっぱなしにしてたオレも悪いんだし。」

「ラムネス、この実夕さんって人は・・・。」

ミルクは気になっていた実夕のことをラムネスに聞いた。

ラムネスは真剣な表情でゆっくりと話し始めた。

「あれから、気になったんで調べたんだ、あの辺の土地のことを。

実夕ちゃんの家があったあの周辺は昔、広いひまわ畑だったんだって。

けど、それからあちこちにマンションとか家が建ち始めて、ひまわり畑は少しずつ無くなっていったんだ。

そして去年の夏、オレが6年生だった夏の時にはひまわり畑は実夕ちゃんの家があった土地だけになってしまっていたんだ。

しかも、その土地にももう家が建つことが既に決まっていたんだ。」

「・・・え、じゃあ、もうひまわり畑は全部無くなっちゃうってこと・・・?」

ミルクは悲しげな表情で言った。

ラムネスはそれにうなずいて、話を続けた。

「だから、あの土地にいたひまわりの精霊・・・実夕ちゃんはこの街のどこかに

少しでもひまわりを残したかったんじゃないかって、そう思ったんだ。

その実夕ちゃんの強い想いが精霊だった彼女を人間の姿に変えて、

オレにひまわりの種を託してくれたんだったと思う。

なぜ、オレに託してくれたのかはわかんないけど、

実夕ちゃんの気持ち、願いをしっかりと引き継いでいこうって、そう決めたんだ。

だから、今年の夏もひまわりの種を庭に植えようと・・・・」

ラムネスがそう話していた時、突然ミルクはラムネスの背中をギュッと抱きしめた。

「・・・ミルク?」

「・・・それはね、実夕さんはラムネスが優しい人だからってわかってたんだよ、きっと・・・。

だから実夕さん、ラムネスにひまわりの種を託したんだよ。」

そう言いながら、ミルクは涙を浮かべていた。


               ラムネスは優しいな・・・。

               私、この人を好きになって、本当によかった・・・。


ミルクはラムネスの背中で、そう思っていた。



 そしてラムネスとミルクの二人は庭に花壇を作り、そこに去年取れたひまわりの種を植えた。

「よぅし、こんなもんだろう!」

「そうね!」

すると突然、ビューッと強い風が二人を包んだ。

その時、二人の耳にはある女の子の声が聞こえた。

『・・・ラムネくん、ミルクさん、ありがとう・・・。』

それは幻聴なんかではなく、確かにその声は二人の耳に届いていた。

「ラムネス、今の声は・・・。」

「実夕ちゃん・・・?」

ラムネスが小声でつぶやいた。

「え、今の声が実夕さん・・・・なの?」

ミルクは驚きを隠せなかった。

しかし、ラムネスは懐かしげな顔をしてあの声は実夕のものだと確信していた。

「見ててくれ、実夕ちゃん。オレとミルクで、ひまわり、ちゃんと育てていくから!」


気付けば、時刻はもう夕方。

今年の夏、ラムネスとミルクの間に新たな思い出がまた一つ増えた。


そんな夏の日。







 いかがでしたでしょうか? このへっぽこ小説。
ムダに長々となったものになってしまいました。
最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。

正直、初めて書いた小説ですので、何を書いてるのか、何が書きたかったのか、
よくわからない内容になってしまったと思います。

しかし、書いてみて他のサイトの皆様の小説のすばらしさ、
そして書くことの大変さはとてもよくわかりました。
皆さん、すごいなぁ・・・。

一応、ちょっとこの小説に触れておきますと、
オリジナルキャラとして出した『実夕ちゃん』という女の子ですが、
この名前は私が幼稚園の時の同じ組にいた女の子の名前をお借りしました。
漢字は合っているかどうかは微妙です。なんせ、幼稚園の時の記憶ですので(笑)。

そして、次の小説は・・・どうなんでしょうなぁ。
書いてみて改めて自分の才能の無さを実感しましたし。
時がたてばまた・・・次、あるんでしょうか?








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