やっとこさ駅に着いたみたいだ。それにしてもやっぱりラッシュアワーを過ぎた田舎の駅は、人っ子一人もいなくて寂しいなー。

無人駅だから出るときは定期を見せなくてもいい。こんな寒い日は。そういう小さな動きも命取りだ。

ポケットに手を突っ込んだまま、高校へと足を進める。昔通いなれた道、目の前5分ほど先に見える校舎が懐かしい。

高校時代に所属していた剣道部の道場の横を通り過ぎ、校門をくぐった。

入学式と書かれた板は残っているが、体育館が静かそうなのでもう式は終わっているようだ。

下駄箱に行き自分の名前を見つけようと思ったがまだ決まっていないようだ。いや、番号だけはあるようだ自分の番号、えーと確か17番やったかな。

とりあえず、靴を入れ、持ってきた高校のスリッパを履いた。高校の用意は一式かばんの中に入っているようだ。

今は式が終わってみんなが教室に帰り、次の授業のホームルームが始まるまでの間のようである。3年は2階で学年が下がるごとに階は上がっていく。

だから、1年は4階だ。1階にある職員室の前を通るときにいきなりドアが開いた。

「あっ、上原先生。」

出てきたのは3年間担任だった上原先生だった。うちの学校ではコースがあって、理数と英語コースで、僕は、理数コースだった。英語コースはずっと1組で、理数コースはずっと8組だ。おまけに、英語コースはほとんど女で、逆に、理数コースはほとんど男だ。最悪だ。いや、まー楽しかった。おっと、話しを戻そう。そう、でてきたのは担任だった。しかし、向こうはこちらの顔を知っているはずも無く。少し、戸惑った顔をしている。

「あっ、志村くんですか。」

「えっ、はい。」

驚いた、いや、彼はなかなか鋭く道筋をたててくるな。多分、こう考えたんだろう。こんな時間に、それも、入学式という日に、遅れてくる1年生、そして、自分の顔を知っている、入学案内のカラー写真を見たか、先輩から情報を得て、前もって自分の顔の特徴を把握していたんだろうか。それら、すべて総称して導きだされる答え。今日入学式に送れてきた志村健君しかいない。そんな、金田一真っ青の推理を一瞬で解き明かしたのだろう。

そうそう、僕の名前は志村健。子供のころから、明るい性格だったため、普通いじめられ路線まっしぐらのところを、反対に人気者として天下を治めて来た俺は、志村の名前を逆に利用し、高校でも人気者の座を狙ったのであった。が、しかし、高校はやはり悪魔の住む場所だ。あの屈辱の自己紹介から、弱気になり、惨めな3年間を送った記憶しか残っていない。おっと、再び話し逸れてるー。時は、戻って、今あるこの瞬間。

「やっぱりそうか、今から家に連絡を取ろうと思っていたところですよ。何で遅れたんですか。」

少し戸惑った。なんて、言い訳したらいいんだろう。そういえば、今ある状況に面食らって、確実に聞かれるであるだろう遅刻の言い訳をまったく考えていなかった。

「寝坊しました。」

ありきたりだが、しょうがない。まさか、5年前に戻っているとはつい知らず、コスプレまがいのこんなカッコをわざわざして、興味本意に来てみましたとは口が裂けても言えない。先生も入学生ということでおおめに見てくれたのか。

「明日からは気をつけなさいよ。もうすぐ、ホームルーム始まるから4階の1−8上原辰巳と書かれた教室で待ってなさい。」

「はい。」戻る