サマナ☆マナ!

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 ゾンビを倒した後もあたし達の洞窟探索は続いていた。
 もちろん、何度かモンスターとも遭遇したわ。
 でも・・・
「おかしいわね」
 パロさんが不思議そうに首を傾げている。
「どうかしたんですか?」
「今日遭遇したモンスターのほとんどが友好的なのよ。いくら訓練だからって不自然過ぎる。いえ、これじゃあ逆に訓練にならないじゃない」
 確かにパロさんの言う通り。
 最初のゾンビはともかく、その後に遭遇した巨大ネズミも吸血コウモリも、あたし達の姿を見ると襲い掛かってくるどころか尻尾を巻いて逃げ出したの。
 盗賊のシン君はともかく、あたしとパロさんは善の戒律に属しているから、戦う意思のない者はたとえモンスターでも手を出すことは固く禁じられている。
 だけど、あたしにはそのモンスター達が逃げる理由が分かっていた。
 だってあたしは・・・
「まあ良いじゃないですか。いくらモンスターでも無益な殺生は良くないです」
 でもその理由を口にするわけにはいかないから、こんなふうに無難な返事をしてみる。
「そりゃあね。マナはモンスターと心を通わす召喚師だから、そう思う気持ちが強いのも当然か」
「はい。それに、全部が全部友好的ってわけでもないですし」
「そうね」
 あたしとパロさんで顔を見合せてクスリと笑う。
 何故なら。
「お宝、お宝〜」
 さっき戦ったモンスターが宝箱を落としていったのを、シン君が嬉しそうに手を付け始めたからなの。
 その様子が、おもちゃを買ってもらったばかりの子供みたいで、なんだかおかしい。
「罠はナンダ・・・おっ、これは石つぶてだな。よしっ、これなら・・・」
「はっ・・・パロさん!」
「そうか、シン、ちょっと待ったー!」
 今にもシン君が宝箱の罠を外そうとしたところで、あたしとパロさんが慌ててストップを掛けた。
「シン、あんた間違いなく罠を外す自信はあるんだよね?」
「パロよ、いくらなんでも石つぶてぐらい・・・」
「信用できないのよね。ちょっと待って」
 パロさんは宝箱に近付くと、仕掛けられている罠を見抜く呪文を唱えた。
 これは僧侶呪文の2レベルに属する呪文だから、呪文の習得の遅いパロさんでも習得済み。
「んっと・・・毒針ね」
「そんなバカな! 間違いなくこれは石つぶてだって」
 二人の意見は真っ向から対立してしまった。
「それじゃあマナに決めてもらいましょう。マナは毒針か石つぶて、どちらだと思う?」
「えっ?」
 突然そんなことを言われても困るんだけど・・・
 でもどちらかと言えばやっぱり。
「パロさんの意見を採用したほうが良いんじゃないかなあ」
「マナ、お前までそんな・・・」
「はい決まり。二対一で毒針に決定よ。ホラ、サッサと罠を外す」
「へいへい。これで石つぶてだったら承知しないぜ」
 ブツブツ言いながら宝箱の罠を外すシン君、その結果は。
「ほら見なさい。やっぱり毒針だったじゃない」
「くっ・・・そんな」
 見事パロさんの言う通りだったの。
 ガックリと肩を落とすシン君。
「でもさ、シン君は罠の種類を調べるのが苦手なだけで、手先は器用なんじゃないかな」
「そうね。罠の種類さえ特定できればあとは任せても平気かも。私の呪文と合わせて罠を調べれば、罠を外せる確率はグッと上がるはずよ」
「そうか! よーし、やる気出てきた」
 少し励ましてあげたらとたんに元気になるんだもん、シン君てば本当に調子良いんだから。

 こんな感じで洞窟探索は続いたの。
 モンスターは相変わらず友好的なものが多かったから、それほどの危険もなかったかな。
 でも・・・
「うーん、指輪見つかりませんね」
「そうだな、もうあらかたマップを埋めたはずじゃないか」
 肝心の指輪は依然として見つからないまま。
 あたしもシン君も少し飽きてきて、集中が切れかけている。
「二人とも、もう少しだから頑張って」
「はーい」
「へいへい」
 何だか気の抜けた返事をしつつも更に一歩を踏み出した、その時だった。
「光ったわ! 指輪の反応よ」
「えっ?」
 パロさんが持つコンパスが突然エメラルドグリーンに輝き、そこから一条の光がまっすぐに伸び出ていったじゃないの!
 この光を辿れば指輪があるはずだわ。
「あっちよ。行ってみましょう」
「はいっ!」
「おっしゃ!」
 さっきの気の抜けた返事はどこへやら、はやる気持ちを抑えてコンパスの光を辿って歩き出す。
 程なくして、光は洞窟内の片隅のとある一点を指し示していることが分かった。
「調べてみよう」
 シン君が光の指す場所へと慎重に近づく。
「壁にスイッチがある。押すぞ」
 シン君が確認するのにあたしとパロさんは無言で頷いた。
 それを確認すると、シン君が壁にあるスイッチをポチっと押す。
 ずずずずず
 鈍い音を立てて、ゆっくりと地面がせり上がる。
 あたしは息を呑んでそれを見守ったわ。
 地面からせり上がって来たのは、あたしの腰くらいの高さの小さな台座のようなものだった。
 そしてその台座の上には
「あった、指輪だ!」
 そう、今回の訓練の目的の指輪が置かれてあった。
「シン、罠があるかもしれないわ。慎重にね」
「そうだな。ここで罠に引っ掛かったらシャレにならないぜ」
 シン君が丁寧に台座とその周囲を調べる。
「よし、罠は仕掛けてない。行くぞ」
 シン君がそっと指輪を摘み上げる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 しばし無言。
 大丈夫だよね、何も起こらないよね?
「やった」
「やったわ」
「やりましたね!」
 三人で一斉に喜び合う。
 でもすぐに気持ちを切り替えたのは、さすが経験豊富なパロさんだった。
「ちょっと待って二人とも。喜ぶのはまだ早いわ。私達はまだ洞窟内にいるんだから」
「そうですよね。無事に洞窟を脱出するまでは油断禁物です」
「よし。そうとなれば長居は無用だ」
「出口はあっちよ。行きましょう」
 パロさんが指し示す洞窟の出口のほうへと移動を開始する。
 もう出口を目指すだけだから、余計な枝道へ入ったりする必要もない。
 あたし達はわき目も振らず、それでも敵に襲われないか注意しながら帰りの道を急いだ。
 入口から繋がるホールのような広間へ出て、さあもう少しと思ったその時。
「ようやく帰ってきたか。待ちかねたぜ」
 あのダニーのパーティがあたし達の行く手に立ち塞がったんだ。

「あなた達、いったいどういうつもり?」
「決まってるだろう。指輪を渡してもらうぜ」
「なんですって」
「報奨金が貰えるのは指輪を探したパーティじゃねえ。指輪を持ち帰ったパーティだ。お前達が苦労して探してきた指輪をここで頂戴しようと、こうして待っていたわけさ」
「なんて卑劣な男なの・・・」
 ダニーの言葉に愕然とするパロさん。
 ううん、パロさんだけじゃないわ、あたしもシン君も同じ気持ちよ。
 だからあたしは言ってやったの。
「あなた達に指輪は渡しません。これはあたし達が持ち帰るんです!」
 あたしの声が洞窟内に響き渡った。
 自分でもよくあんな大きな声が出たと思う。
 それ程ダニー達の行為が許せなかったの。
「お前らの意思なんざ関係ねえ。俺達が貰うと言ったら貰うんだよ。お前ら、やるぞ」
「オウ」
 ダニーの合図で仲間達が一斉に動き出した。
 相手はダニーの他に戦士が一人、それに盗賊、僧侶、魔法使いの五人の男達。
 みんな身体も大きいし、それなりのレベルの冒険者のはずよね。
 それに対してあたし達は三人しかいない。
 人数的にもレベル的にも圧倒的に不利なのはこっちだわ。
「マナ、ウサギ君達を!」
「はい!」
 そうよ、あたしは召喚師じゃない。
 ボビ太達を召喚すれば頭数ではこっちが上。
「サモン、ボーパルバニー!」
 あたしの呼び掛けに応えて三匹のボーパルバニーが召喚陣から躍り出す。
「みんなお願い、奴らをやっつけて!」
 ボビ太、ボビ助、ボビ美の三匹がダニー達の周りを大きく取り囲み、隙を見つけては攻撃を仕掛ける。
「くっ、なんだこのウサギは」
 ボーパルバニーの素早い動きに翻弄されるダニーとその仲間達。
 いいわ、この調子なら勝てる。
「ボビ太、跳んで!」
 あたしの号令でボビ太がダニーに跳びかかる。
 このままダニーの肩を食い千切るかと思った、その時。
「舐めるな、ウサギが」
 ダニーの振るった剣がボビ太の小さな身体を弾き返したの。
「ボビ太!」
 ダニーに切り返されて地面に叩きつけられたボビ太は、傷を負いながらも懸命に立ち上がろうと四肢を踏ん張っている。
「ボビ太、無理しないで」
 あたしの注意がボビ太にばかり囚われていたのが、残りの二匹の動きを鈍らせてしまう。
「おりゃ」
 もう一人の戦士の剣が容赦なくボビ助とボビ美を襲う。
「危ない、かわして!」
 あたしが慌てて叫ぶも間に合わない。
 戦士の剣を受けたボビ助の身体が血で赤く染まってしまった。
 これ以上はもうダメだ。
「みんな、戻って・・・」
 あたしはやむなくボーパルバニー達を呼び戻した。
 傷を負ったボビ太とボビ助、それに寄り添うボビ美。
 悲しそうな三匹の姿が召喚陣に吸い込まれる。
 こうなったらしばらくは呼び出せない。
 他に召喚できるモンスターもいない。
 あたし、どうすれば良いの・・・?

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