サマナ☆マナ!

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 パーティの先頭にシン君、その後ろにパロさんとあたしが並ぶ陣形で洞窟の通路を進む。
 シン君は革鎧に短剣といった、いかにも盗賊らしい装備。
 パロさんは白い法衣に、武器はモーニングスター。
 鎖の先端にトゲトゲの鉄球が付いたアレのことね。
 二人ともマントを身に纏っているのはあたしと同じ。
 マントは防寒の他にも呪文の直撃から身を守ったりもするから、たいていの冒険者が着用しているそうだわ。
 洞窟の入口から真っ直ぐ伸びる通路は道幅もせまくて、なるほどここに大勢の冒険者が一度に入ったら混乱するのは間違いないわね。
 その通路を抜けると、そこはホールのように開けたスペースになっていた。
「おいっ、あれを見ろ」
 早速、前を歩くシン君が何かに気づいたみたい。
「あれは・・・私達のすぐ前に入ったパーティじゃない。いったいどうして?」
 パロさんの言う通り、そこにはあたし達のすぐ前に洞窟に入ったパーティの皆さんが、顔をゆがめてうずくまっていた。
「あなた達、どうしたの?」
「うっ・・・突然地面が破裂したんだ」
 パロさんが話しかけると、メンバーの一人が苦しそうな表情ながらも状況を説明してくれた。
「地面が破裂? おかしいわ。いくら何でも訓練にそんな危険なトラップを仕掛けるなんて・・・」
「いや違うな。見てみな」
 シン君が地面から何かを拾い上げる。
 それは細かく砕かれたガラスの欠片だった。
 よく見るとガラスの欠片はかなりの広範囲に散乱していた。
「これはアレだな、ワインの瓶に火薬を詰めて導火線を繋いで作った簡単な爆弾だ。
 それをここらに埋めて導火線に火を点ける。そして導火線が燃え尽きたらドカーンだ」
「ひどい・・・誰がこんな物を」
「アイツらに決まってんだろ。ダニー達だよ」
「そうか。あの人達は一番初めに洞窟に入ったから」
「ああ、そこでこのワイン瓶爆弾を仕掛けてこの場を立ち去ったんだ」
「他にも仕掛けてあるんじゃない?」
「そうだな、気を付けないとだよな」
 あたしとシン君で付近を捜索してみる。
 今のところ怪しいものはないみたいだけど・・・でも気になるわ。
「あなた達大丈夫? ここから東へ行けば体力を回復できる泉があるけど。でも、もしもマズイようなら今回は棄権して洞窟から出たほうが良いわ」
「そうですね。今回は棄権します。さすがにレベル1じゃあ無理はできませんから」
 パロさんの勧告を聞き入れて撤退を決意するパーティの皆さん。
 お互いに肩を支え合い、辛そうな足取りで洞窟の出口へ歩き出す。
 そうか、あの人達も訓練場を出たばかりの、しかもレベル1だったんだ。
「先に進むだけが勇気じゃないわ。時にはああして撤退するのも勇気のある選択なのよ」
「はい」
 パロさんの言葉がじんわりと、あたしの胸に染み込んだんだ。

 ケガをしたパーティを見送ったら、今度こそあたし達が指輪を探して洞窟の探索に乗り出す時よね。
「でも指輪なんて小さなものだろ。どうやって見つけるんだよ?」
「シン、あなた説明を聞いてなかったの? コレを使うのよ」
 呆れながらもパロさんが見せてくれたのは、雪の結晶を模したような円盤状のものだった。
 パロさんの手に収まるほどの大きさのそれには、六つある頂点にそれぞれ宝石が埋め込まれている。
「コンパスよ。近くに指輪があればこのコンパスが反応して光を放つの。あとはその光を辿って行けば指輪を発見できるはずよ」
「へぇ、そうなんですか」
「もう、マナも聞いてなかったのね。係りの人からちゃんと説明があったでしょ」
「ごめんなさい。でもパロさんはずいぶん詳しいんですね。この洞窟も初めてじゃないみたいだし」
「まあねぇ。呪文は習得していないとは言え、私もレベル10だからね。それなりには事情通のつもりよ」
「頼りにしてます」
「この指輪探し大会も何回か参加してるけど、毎回隠し場所が違うのよ。でもまあ、だいたいの地形は頭に入ってるから、その点は大丈夫かな」
「この大会に何回も参加してるってことは、それだけ多くのパーティを渡り歩いたってことだよな」
 シン君がニヒヒと笑う。
「えっ、シン君何がおかしいの?」
「だって、それだけパーティをクビに・・・」
 がっこーん。
 すっごい音がして、シン君の後頭部にパロさんのゲンコツがめり込んだ。
 モーニングスターの鉄球じゃなかったのがせめてもの救いかしら。
「シン、ちょっとおしゃべりが過ぎるわよ。だいたいあなただって事情はそう変わらないでしょ」
「まあそうなんだけどさ」
 シン君はまだ痛そうに頭をさすっている。
 でもそうよね、二人ともそれなりに経験豊富なんだ。
 あたしも負けないように頑張らないと。

 しばらく進んだところでシン君の足がピタリと止まった。
「前に何かいるぜ」
 三人に緊張が走る。
「ナニなにっ? モンスター!?」
「落ち着きなさいマナ。で、どうなのシン?」
 あたしをなだめてからシン君に確認するパロさん。
 今やパーティのリーダーとして的確にメンバーを捌いてるわ。
「ゾンビが一体、どうする?」
「ゾンビか・・・やってみますか。いいわねマナ」
「は、ハイっ!」
 ついに来た。
 あたしにとって初めてのモンスターとのバトルの時が。
 島にいた頃もある程度のモンスターは見知っている。
 その時はそばにママかパパがいてくれて、軽く追い払ってくれたっけ。
 でも今ここにはママもパパもいない。
 いのるはパロさんとシン君、それにあたしの三人。
 頑張らなきゃ。
 ズリ・・・ズザザ・・・
 重い足音を引きずりながら、それはあたし達のほうに近付いて来ている。
 人の姿をしているようでもすでに人でないモノ。
 皮膚は腐敗していて、ところどころ中の骨がむき出しになっているのがなんとも気持ち悪い。
 闇の力で動く死体、ゾンビだ。
「シン、接近戦いけるわね? アイツの爪にはマヒ性の毒があるから気をつけて」 
「オウ」
 パロさんの指示で素早く飛び出すシン君。
「マナ、ウサギ君達を呼び出して。大丈夫、落ち着いてやればできるわ」
「はい」
 パロさんはあたしを落ち着かせるように、優しく指示を出してくれた。
 あたしだっていつまでもすくんでなんかいられない。
 今は召喚師として自分にできることをやらなくちゃ。
 落ち着け落ち着け、大切なのは集中力ってパパが言ってたわ。
 目を閉じて一回深呼吸、よし落ち着いた。
「さあみんな、楽しいダンスの時間よ。あたしと一緒に遊びましょう。
 サモン、ボーパルバニー!」
 目の前に青い輝きを放つ召喚陣が浮かび上がる。
 そしてそこから三匹のボーパルバニー、ボビ太、ボビ助、ボビ美が一斉に飛び出してきた。
「みんな、遊び相手はあのゾンビよ。トライアングルフォーメーション!」
 ゾンビを取り囲むように、ボビ太、ボビ助、ボビ美が三角形の陣を形作るとそのまま一気に跳ね出した。
「うわっ、なんだこのウサギ達・・・」
「すごいわね、これは」
 ふふっ、シン君もパロさんも驚いてるわ。
 でもね、本番はこれからよ。
「ボビ太そこ! ボビ美はかわして。ボビ助良いわよ」
 三匹はあたしの指示に従って、敵を引き付けたり攻撃を仕掛けたりする。
 ゾンビが一匹に気を取られていると、その背後から残りの二匹が襲いかかる。
 腐った腕を振り回して追い払おうとする頃には、すでに三匹は戦線を離脱、次の攻撃の機会をうかがいまた跳ねる。
「ボビ助、行きなさい!」
 あたしが叫ぶとボビ助がゾンビ目掛けて跳ね上がった。
 その長く伸びた鋭い牙がゾンビの右腕に突き刺さり、ガブリと食い千切ってしまった。
 ボビ助に食い千切られたゾンビの腕はふわりと宙を舞い、何故かシン君の頭上へと落下していき・・・
「う・・・うわっ」
 それを避けそこなったシン君、その肩にゾンビの爪が食い込んでいた。
「あっ、あつぅ・・・」
 あらっ? シン君の様子が変だわ。
 ピクピクと痙攣したかと思うとそのまま動かなくなっちゃった。
「シン君!」
「マヒしただけだから平気よ。シンは私に任せて、マナはウサギ君達のコントロールに集中して」
「ハイ」
 戦いの巻き添えを食ってマヒするなんて、シン君たら本当に運が悪いのねえ。
 でも、マヒを治療する薬はパロさんが持っているから大丈夫。
 あたしはあたしがやるべきことをやらなくちゃ。
 再びボーパルバニー達の動きに意識を集中させる。
 三匹のボーパルバニーに囲まれ、次々と波状攻撃を受け続けたゾンビは、もうその身体を維持することすら難しくなっていたようだ。
 片腕を失い、足を折って膝立ちの姿勢になっている。
 ここまで来ればもう一息。
「みんな、最後の仕上げよ!」
 あたしの声に反応して、三匹が一斉にゾンビ目掛けて跳びかかる。
 ボビ太は首を、ボビ助は胴体を、そしてボビ美は両足を、それぞれ一気に食い千切った。
 ここまで身体をズタボロにされては、さすがのゾンビも動きようがない。
 すでに肉片や骨の欠片と化したモノがその場に崩れ落ちてしまった。
「みんな、ごくろうさま。ダンスは楽しかったかしら?」
 遊び終わった三匹のボーパルバニーを迎え入れ、それぞれ頭を撫でてやる。
 みんな嬉しそうにあたしに身体をスリスリとなすり付けてくるのがカワイイのよね。
「それじゃあ、しばらく休んでて。またお願いね」
 三匹は召喚陣へと飛び込み、その姿がスゥと吸い込まれて消えていった。
「たいしたものねえ」
「いや、驚いた。これなら何とかなりそうだな」
「はい。上手にできました、クスっ♪」
 パロさんもシン君もボーパルバニー達の働きに驚いたり感心したり。
 こうして、あたしの召喚師としてのデビュー戦は最高の形を飾れたのでした。

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