サマナ☆マナ!

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「女の子に手を上げるなんて、アナタそんなことをして恥ずかしくないの?」
 それは白い法衣を着た女の人だった。
 綺麗な緑色のロングヘアに大きめのメガネ。
 耳が尖っているからエルフかしら。
 まさかパパと同じ魔族じゃないわよね。
 あたしよりもずいぶん大人な感じのするその女性は、凄む大男に怯むことなく言い募った。
「私も見ていました。確かにアナタ達はイカサマをしていたわ。恥を知りなさい、恥を!」
 すると法衣の女性の声に合わせるように、酒場のあちこちから声が上がった。
「俺も奴らにやられたよ」
「お前もか。実は俺もなんだ」
「イカサマ野郎は出て行け!」
 さっきまで静観を決め込んでいた人達も態度が一転、今や酒場全体が大男に対して叱責の声を突き付けていた。
「クソっ、覚えてろよ」
 さすがに旗色が悪いと踏んだのか、大男は仲間を連れて逃げるように酒場を飛び出して行った。
「ヤッター」
「ザマアミロ」
 酒場中から歓声が上がる。
「あなた、大丈夫かしら?」
「ハイ。ありがとうございました」
「そこのキミも」
「ああ、これくらい何でもない」
 法衣の女性が差し出した手を掴んで赤毛のお兄さんが立ち上がった。
「少し落ち着きましょう。マスター、そこのテーブルにお酒・・・はマズイわね。ミルクを二つお願い」
 法衣の女性はにっこりと笑ってあたし達を手近なテーブルに座らせてくれたの。

「まずは自己紹介しましょう。私の名前はパロ。ビショップよ」
 法衣の女性、パロさんは冒険者カードを提示してくれた。
「あたしはマナ、召喚師です」
「俺はシン、盗賊だ」
 パロさんに続いてあたしと、赤毛のお兄さん改めシン君もカードを取り出してお互いに交換する。
 その内容を確認すると、パロさんはエルフのビショップで年齢は20歳、レベルは10で戒律は善。
 綺麗な緑色のロングヘアと大きめなメガネが印象的。
 あたしよりかなり大人の雰囲気のある女性で、同性のあたしでも見惚れてしまいそうになる。
 おまけに法衣の上からでも胸の膨らみがハッキリと分かるほど立派でして。
「・・・」
 思わず自分の胸を見下ろしてみたけど、空しくなるだけだから止めたわ。
 一方シン君はヒューマンの盗賊、年齢は17歳、レベル8で戒律は中立。
 あたしより年上のはずなのに、まるで年下のいたずらっ子のような表情が印象的かな。
 パパを見慣れているからか、男の人ってもっと筋肉質なのかと思っていたけど、シン君の場合はそうでもないみたい。
 全体的にスラっとした体型なのは盗賊という職業柄なのかしらね。
 そんな二人の冒険者カードを見ていて「あれ?」っと思った。 
 この二人ならあたしとパーティを組むための条件がピタリと揃っているんじゃないかしら。
 問題は二人が既に他のパーティに所属しているかどうかよね。
「さっきの連中はねえ、ここらじゃ札付きのワルなのよ」
「どうりでな。悪そうなツラしてやがったぜ」
 パロさんとシン君がさっきの大男達についてあれこれ話している。
 でもあたしの頭の中はそんなことより、この二人とパーティを組めるかどうかでいっぱいだった。
 うまく話さないとまた撃沈してしまうもの。
 さて、どうやって切り出そうか・・・
 あたしが思案していると
「ところでマナちゃん、あなたさっきパーティのメンバーを探していたわよね」
「は? はい、そうなんです!」
 なんとパロさんのほうから話を振ってきてくれた。
 これはチャンスだわ。
「あたし、昨日訓練場を出たばかりで、その一緒に行動してくれるパーティのメンバーを探しにここへ来ました。それで・・・」
「そう。それで、良い人は見つかった?」
「いえ、まだなんですけど・・・あのー、お二人は既にパーティを組んでいたりとかは?」
「あー、俺はどこのパーティにも入ってない。つーかこの前クビになった」
「パーティをクビ? それまたどうして」
「俺さあ、盗賊なのにムチャクチャ運が悪いんだよ。ホラ」
 シン君は自分の冒険者カードの能力値のところをコンコンと叩いてみせた。
「えーと、運の良さ、ご・・・って、ごぉ?」
「あら、確かに5ね」
 えっ、ええっ?
 運が5ってずいぶん低くない?
 確かあたしでも12くらいはあったはずよね。
 盗賊にとって運という要素はとても大事なもののはずなのに、それが極端に低いなんて。
「だからさあ、宝箱の罠を外すんでも失敗ばかり。それでお前クビって」
 シン君はそこでふて腐れたようにミルクをグイっとあおった。
「そう。まあ私も似たようなものだけどね」
 今度はパロさんが肩をすくめて苦笑する。
「まさかビショップがこんなに呪文を習得するのが遅いだなんて思ってもいなかったわ」
「呪文の習得が遅い、ですか・・・」
 パロさんの冒険者カードを確認する。
 すると、魔法使いと僧侶の両方の呪文を習得してはいるものの、それはどちらも呪文レベル2のものまでだった。
「ねっ、呪文レベル2よ。生粋の魔法使いや僧侶ならレベル3で習得できる呪文。なのに私はレベル10にもなってようやくなの。
 これじゃあ戦力にならないからってこうして酒場で待機していて、迷宮から運び出された正体不明のアイテムの鑑定をしては手間賃を貰って、なんとか生計を立てているってわけ」
 パロさんはハァとため息をついた。
「あのー、転職とかは考えなかったんですか?」
「マナ、女に年取れっていうの?」
「あっ・・・」
 そう言えば、転職すると何歳か加齢するって訓練場で教わっていたっけ。
 男の人ならまだしも女にとってそれは一大事だもの、気楽に転職なんてできるものじゃないわ。
「あーあ、こんなんじゃ師匠に会わす顔がないぜ」
「お師匠さん?」
「ああ、俺の師匠はラッキーっていう名前で、この辺りじゃかなり有名なトレジャーハンターなんだ。そのラッキーの弟子がアンラッキーなんてシャレにならないだろ」
「私もよ。一族を導いてくれたフレア様に対して申し訳が立たないわ」
「あれ、ラッキーにフレア、ですか? どこかで聞いたような・・・」
 あたしは懸命に記憶を探ってみた。
 そして思い出したの。
「あっ、ママの自慢話!」
「ママ?」
「自慢話って?」
「あたしのママは昔冒険者だったんです。バルキリーで名前はエイテリウヌ。
 そのママがよく話してくれた自慢話の中に確か、ラッキーっていう盗賊さんとフレアっていうエルフのお姉さんがいたような・・・」
 思い付いたことを興奮気味にまくしたてる。
「それはおそらく俺の師匠に間違いないな」
「エイテリウヌ、バルキリー・・・もしかして、エイティさん?」
「そうそう、そうでした。ジェイクさんはママのことを『エイティ』って呼ぶわ」
「ジェイク、エイティ・・・」
「それってもしかして・・・」
「ピラミッド!」
「エルフの森の神殿!」
「それです!」
 まさかまさか、こんな偶然てあるのかしら。
 ママ達とシン君のお師匠さん、それにパロさんの一族の代表の人が、昔一緒にパーティを組んだことがあったなんて。
 ううん、これは偶然なんかじゃないわ。
 きっとママがあたし達をこの場で引き合わせてくれたのよ。
 その後もあたし達はママの世代の冒険者達の活躍について、いつまでも話に花を咲かせていたの。
 あたしが今ジェイクさんの家で下宿しているって言ったら二人とも驚いたわ。
 やっぱりジェイクさんて有名な魔法使いだったのね。

「これはもう決まりでしょう」
 話が一段落したところでパロさんがそう結論付けた。
「何が決まりなんですか?」
「パーティよ。私とシンとマナの三人でパーティを組みましょう」
「本当ですか!」
「ええ、もし良ければ、だけど」
「もし良ければ、なんてトンデモナイです。こちらからお願いします」
 あたしはパロさんにペコリと頭を下げた。
「シンはどう?」
「そうだな・・・パロは美人だしマナはカワイイし、男としてはこんなおいしい話を逃す手はないよな」
 ニヘヘと笑うシン君、その笑い方がちょっとエッチだよ、もう。
「でも良いんですか? あたし、まだ駆け出しの召喚師だし、それに種族が・・・」
 何故か「ハーフデビリッシュ」という言葉が出て来なかった。
 それを言ったらまた拒絶されてしまうんじゃないかって、一瞬頭によぎったのかもしれない。
「そんなの関係ないない。ちょうど良いじゃない。
 呪文を覚えられないビショップに運の悪い盗賊。そして訓練場を出たばかりの駆け出し召喚師。
 誰に何を気兼ねする必要があるって言うの」
「そうだな。こんな三人だからこそ、力を合わせれば何とかなるだろう」
「そうですね。三人で力を合わせて頑張りましょう」
「よしっ、決まり! ならお祝いよ。マスター、お酒とミルク追加ね」
 パロさんの注文で新しく運ばれてきた飲み物でカンパイする。
 パーティのメンバーも決まって気分は最高!
「さて、せっかくパーティを組んだことだし、アレに参加してみない?」
 パロさんが酒場の壁に貼ってあるチラシを指差した。
「アレって、何ですか?」
 チラシを見るとそこにはこう書かれてあったの。

『新規参入パーティ訓練企画・指輪探し大会inクレイディアの洞窟』

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