サマナ☆マナ!
4
訓練場から帰るその足で、ジェイクさんはあたしをとある店へと案内してくれたの。
大通りからそれた路地裏にひっそりとたたずむその店は、決して大きくはないけれども古さを感じさせないしっかりとした造りになっていた。
見上げた看板には「武器防具取り扱い処・熊の手亭」と書かれてあった。
「ここは?」
「ああ、オレ達のもう一人の仲間がやっている店だ。入るぞ」
ジェイクさんが入口の扉を押して店内へと入るのにあたしも続いた。
「うわぁ」
入ってみてビックリ!
店内所狭しと剣、斧、槍、弓矢、杖などがズラッと並べられている。
武器だけじゃなくて鎧、盾、兜などの防具類も充実の品揃え。
まさに武器防具の専門店なのね。
「すごいお店ですね」
「安値買取、高価販売の不良店だよ。おーいベア、いるか?」
「いらっしゃい。なんだ、誰かと思えばジェイクじゃないか」
ジェイクさんの呼び掛けに応えて店の奥から出てきたのは、あたしより背の低い男の人だった。
少し髪が薄くなってはいるけれどお顔のほうはヒゲがすごくて、ああこれがドワーフなのかとすぐに合点が行ったわ。
「今日は何だ? 掘り出し物でも見つけてきたか」
「そうだな。とびきりのブツを仕入れてきたぜ。ほらよ、エイティの娘だ」
ジェイクさんはあたしの背中をグイと押して、ドワーフのおじさんの前へと促してくれた。
「ほほう、エイティの娘か。なるほど」
「初めまして、マナといいます」
突然の展開に驚いたけど、初対面の人に挨拶するのを忘れたりはしないわ。
「なかなかしっかりした嬢ちゃんじゃないか。ワシはベアリクスという。ベアと呼んでくれて構わない」
「ベアさんですね。よろしくお願いします」
お話する時は相手の目を見るようにとママに教わった通りに、視線の高さをベアさんに合わせて身体を低くする。
するとベアさんもじっとあたしの目を見つめ返してくる。
「あ、あの・・・」
いくら髭のおじさんでも、初対面の男の人にじっと見詰められるのは恥ずかしいもので・・・
「ふむ、良い目をしている。エイティと初めて会った時のことを思い出すな」
「ママと初めて会った時ですか! もし良かったらお話聞かせてくれませんか」
「ああ構わんよ。時間はあるだろう、ゆっくりしていきなさい。まずは椅子に掛けて、お茶でも飲もう。おーい」
ベアさんが勧めてくれた椅子に座ると、奥からドワーフの・・・女性、よね? うっすらと髭が生えているんだけどスカートを穿いた人がお茶を用意してくれた。
「ワシのワイフだ」
「奥様ですか」
ドワーフは女性でも髭が生えるって話では聞いていたけど、実際に目にするのは初めてでちょっと驚いた。
奥様が「どうぞ」と出してくれた紅茶を一口飲んだところで、ベアさんが語り始めてくれた。
「そうだな、あれはもう25年近く昔の話か・・・」
以下ベアさんのお話をまとめるとこんな感じになるの。
ベアさんが仲間のドワーフさん達と酒場で盛り上がっているところに、ママが突然割り込んできたんだって。
ママはベアさんに「一緒に組んで欲しい」と申し出たそうよ。
つまり、ベアさんとパーティを組みたいってことよね。
当時のママは本当に駆け出しのバルキリーで、ベアさんは当然ながら断ったそうよ。
ママの実力というよりも、人間の、それも女と組む気にはなれなかったんだって。
でもママは諦めなかった。
断られても断られても、連日ベアさんのところに押しかけてはパーティを組んでもらえるように頼み続けた。
そのあまりのしつこさと熱心さにとうとうベアさんが折れて、取りあえず一度一緒に行動してみようという話になったの。
二人の初めての冒険で、ベアさんが危なくなったところをママが助けた。
運も良かったんだろうけど、とにかくベアさんはママのおかげで命拾いをしたんだって。
そんなことがあったら、ベアさんもママのことを認めないわけにはいかないわ。
それ以後二人で組んで行動するようになったんだって。
「そしてオレをスカウトしたんだよな」
ベアさんの話が一段落したところで、今度はジェイクさんが話に割って入る。
「オレの時は酒場で昼寝しているところに声を掛けられたんだよ。いきなりエイティに耳元で怒鳴られたから驚いたぜ」
「そんなこともあったな」
ジェイクさんとベアさんが顔を見合せてカラカラと笑う。
「つまり、ママとジェイクさんとベアさんの三人がパーティを組んだのって・・・」
「ああそうだな。エイティが呼び掛けてくれたからだよな」
「うむ、違いない」
「そうだったんですか」
ママはとても人懐っこくて誰とでもすぐに友達になっちゃうんだけど、それは昔も今も全然変わっていないみたい。
だからこそこんなに素敵なパーティのメンバーと出会えたんだなと思うと、改めてママのことを見直しちゃった。
「さて、昔話はこれくらいにして、だ。嬢ちゃんに何か買い物があるんじゃないのか?」
「そうそう。こいつ今日冒険者登録をしてきたばかりなんだよ。だから装備品を揃えてやらないとな」
「ほう、それはめでたいじゃないか。で、何になったのかな?」
「ハイ、召喚師です」
あたしはまだピカピカの冒険者カードをベアさんに差し出した。
「召喚師とは珍しいな。どれ」
ベアさんはあたしからカードを受け取り、まじまじと見入っている。
「これは将来が楽しみだ。そのためにもまずはウチの店で良い武器防具を揃えるんだな」
「そうですね。どれが良いのかなあ」
ベアさんの商売上手っぷりにクスリと笑ってから席を立ち、たくさんの武器や防具が並べられた棚を見て回った。
「召喚師っつったら後衛だろ。得物はせいぜい杖の類だし、防具もローブ程度だよな」
「そうなんですよね。うーん、どうしようかなあ・・・」
ジェイクさんのアドバイスに従って、後衛の職業用の商品が並べられた棚を重点的に探してみる。
でも・・・
「ローブってイマイチかわいくないんですよねえ」
「オイオイ、遊びに行くんじゃねえんだぞ」
「それは分かってるんだけどー」
棚に並んだローブはどれも、デザインがシンプルと言えば聞こえは良いけどちょっと味気なさ過ぎて、イマイチあたしの趣味じゃないのよね。
でもジェイクさんの言う通り、冒険者は遊びでやるんじゃないんだから仕方ないのかなあ。
「うーん・・・」
何枚かのローブを手に取ったり身体に当てたりしながら、なおも悩み続けるあたし。
「ったく、女の買い物ってのはどうしてこうなんだろうな。んなのどれでも良いからさっさと決めちまえよ」
まるで男の人みたいなことを言いながら呆れるジェイクさんを尻目に、次のローブを手に取る。
「色ならコレかなあ。でもサイズが・・・」
そしてさらにもう一枚。
「あっ、これなら色もサイズも良いかな。でもデザインがちょっとさびしいなあ」
「お嬢さん、良かったらリボンで飾りをつけてあげますよ」
「本当ですか! お願いします」
あたしがあまりにも悩むものだから見かねたのかもしれない、おばさんがそう申し出てくれた。
早速おばさんと一緒にリボンを選び、デザインの希望を伝える。
するとおばさんはパパにも負けない見事な手つきで、リボンをローブに縫い付けていった。
そして試着。
薄いピンクのワンピースタイプのローブ、丈はひざ下10センチくらい。
袖は七分丈。
胸元にポイントになる赤いリボン。
ウエスト周りは白い帯でしぼって後ろで結ぶと、その結び目はまるで大きな蝶のよう。
防寒対策に厚手のタイツを掃いて、靴底が滑りにくいブーツを着用。
マントはモスグリーンのもの、あまりかわいくないけどこれは他に色がないので妥協した。
お気に入りの赤いベレー帽を斜めに頭に乗せて完成。
「うん、カワイイ」
鏡に映った姿を見て満足するあたし。
試着室から出てジェイクさん達にお披露目すると、おおって喝采が上がったわ。
「そうだ、武器はどうしよう」
着るものにばかり気を取られて武器のほうを忘れていたことに気付く。
あたしは召喚師だから、無理に武器を持つ必要もないけど・・・
「得物ならこれを使いな」
待ってましたとばかりにジェイクさんが一本の杖を渡してくれた。
それは杖というよりもステッキと言った感じで長さが70センチくらいかな、先端部分に赤い宝玉がしつらえてある。
訓練場から準備金として支給されたのは200ゴールド、そのうちローブやなんやでもう100ゴールドも使っている。
どう見ても残りの100ゴールドで買える代物ではないわよね。
「炎の杖だ。いくら召喚師でもイザって時は自分でも攻撃できたほうが安心だろ」
「でもお金が・・・」
「まあそれはオレからのプレゼントだ。冒険者デビューのお祝いだな」
「ありがとうジェイクさん!」
早速受け取ったばかりの炎の杖をクルクルと回してみる。
「なかなか様になってるぞ」
「そうかな、えへへ」
あたしだって女の子だもの、褒められれば悪い気はしないわ。
炎の杖にローブ、マントと装備品を揃えて、気分は早くも熟練冒険者、なんてね。
そっか、あたしって形から入るタイプだったんだなあ。