サマナ☆マナ!
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見た感じ小さな家の中はやっぱりこじんまりとしていて、置いてある家具も最低限のテーブルや椅子だけ。
あたしが育った家はレースのカーテンや色とりどりのお花でいつもかわいく、そして華やかに飾られていたものだけど・・・
それに比べたらずいぶん殺風景な感じだわ。
「あのー」
あたしが怖々といった感じで声を出す。
「だーれー?」
奥の部屋から、いかにもめんどくさいんですけど、というオーラ全開にした人が出てきてくれた。
今まで寝てたのか、短めの髪の毛は寝ぐせだらけ。
サイズの合っていない大きめのローブはよれよれで、ちょっとだらしない人だなあってのが第一印象。
それでもあたしはそんなことはおくびにも出さずにニッコリと笑顔を作る。
最初の挨拶が肝心だからね。
「こんにちは、あたしマナっていいます。えーと、あなたは・・・」
「マナ・・・マナ・・・あーっお前が」
「えっと、ママのお友達、ですよね?」
「お前エイティの娘か。そうかそうか、よく来たな」
良かった、どうやら話が通じたみたい。
ママのお友達さんはあたしを家の中に案内してくれた。
勧められた椅子に座ると程なくしてお茶がふるまわれる。
一口飲んでみたけど、パパが淹れてくれた紅茶には敵わないみたい。
それでも笑顔で「おいしいですね」と言うのを忘れてはいけないわ。
何しろこれからお世話になるんだから、少しでも良い印象を持ってもらいたいもの。
「エイティから手紙貰ってたんだよ。『くれぐれも娘をよろしく』ってな」
「はい、よろしくお願いします。ところで・・・あなたは?」
あたしは改めてママのお友達に名前を聞いてみた。
「ああ、自己紹介がまだだったな。オレの名前はジェイクってんだ」
「オレ?」
「ん? エイティから聞いてねえか」
「えーとごめんなさい。『少し変った人』ってママは言ってましたけど」
「なるほど『少し変った人』か。ったく、エイティのヤツ、娘にちゃんと説明しておけよな」
「あのー、ジェイクさんて女の人、ですよね?」
「一応な。第一エイティが自分の娘を男のところに寄こすはずがねえだろ」
「それはそうですよね。でも、ご自分のことをオレって言うんですね」
「まっ、イロイロ事情があるんだよ」
「そうなんですか」
決して笑顔を崩さずに相槌をうつ。
でも、その「事情」とやらは果たして聞いても良いものなのかどうか。
ちょっと判断がつきかねたあたしは話題を変えることにした。
「お話を聞いていると、ジェイクさんはママとはずいぶん仲が良いみたいですけど」
「ああ、昔パーティを組んでたんだよ。オレが魔法使いでエイティがバルキリー。もう一人ベアって戦士がいたな。アイツは今武器屋の主人をやってるから、後で訪ねてみるといい。きっと喜ぶぞ」
「それじゃあ、ママが昔は凄腕の冒険者だったっていうのは?」
「そうだな、エイティもベアもかなり腕は立つほうだったよ。もっともオレほどじゃねえけどな」
カラカラと笑うジェイクさん。
その後はママの武勇伝について一通り話が弾んだ。
ママは悪魔の王様を倒したのよとか、伝説のバルキリーと一戦交えたのとか。
どうやら、ママがよく口にしていた数々の自慢話は、あながちウソでもなかったみたい。
ママ達の昔話が一段落したところで、今度はあたしの話になる。
「なあマナ、こうして街に出てきたってことは、お前も冒険者にでもなるつもりか?」
「はい、そのつもりですけど」
「そうか。職業は何だ? なんたってエイティの娘だからなあ。やっぱりバルキリーか、それとも無難に僧侶あたりか」
「いーえ、あたしは・・・」
そこで言葉を切っていたずらっ子のような笑みを作ってみせる。
「召喚師になりたいんです」
「ショーカンシ? 召喚師ってアレか、モンスターを呼び出して戦わせるって」
「はい。その召喚師です」
あたしの返事がよっぽど意外だったのか、ジェイクさんは目を白黒させて驚いてしまっている。
「なんだってまた召喚師なんかに。他にもっとあるだろう。なんだったらオレが魔法使いの呪文を教えてやるぜ」
「あたしもイロイロ考えたんですけど・・・」
そりゃああたしもママみたいなバルキリーになれたらカッコいいと思うし憧れもする。
でもあたしは体力がなくて、運動神経もお世辞にも良いとは言えないほうだから、肉弾戦を担当する前衛職は向いていないみたい。
ううん、きっと無理。
それなら呪文職ってことになるんだけど、ホラっ、あたしってあんまりお勉強好きじゃないのよね。
難しい呪文の本とにらめっこってのもちょっとねえ。
でもね、そんなあたしにもひとつだけ取り柄があったの。
それは、動物が好きってこと。
動物が相手なら、クマだってトラだって仲良くなってみせる自信があるんだから。
それにあたしが仲良くなれるのは動物だけとは限らない。
たとえそれが世間一般でモンスターと呼ばれる生き物だって、あたしにかかればちょろいものよ。
と、そんなことを切々とジェイクさんに説明する。
「へえ、おもしれえじゃねえか。で、今は何か召喚できるのか?」
「うん! 驚かないでね。なんとボーパルバニーを召喚できるんだから」
「ボーパルって、ボビーか!」
「あれっ、ジェイクさんボビーを知ってるんですか?」
「知ってるも何も。アイツはエイティに懐いていたからなあ」
「そうそう。でもね、初代のボビーはあたしが小さい時に死んじゃったの。あたしが召喚するのは、ボビーの三代目の子達よ」
「三代目ってことは、ボビーの孫か」
「ええ、見ててね」
あたしは席を立って室内の空いたスペースに移動すると、目を閉じて神経を集中させていく。
「さあ、あたしのカワイイ子供達、一緒に遊びましょう。良い子にして言うことを聞いてあたしの呼び掛けに応えてね。
サモン、ボーパルバニー!」
あたしが高らかに叫んだ瞬間、目の前には異界とこの世界とを結ぶ魔方陣が浮かび上がった。
これこそが召喚師の命とも言うべき召喚陣。
その召喚陣の中央で、三匹のボーパルバニーがひっそりとたたずんでいた。
「みんな、おいで」
あたしが呼び掛けると三匹のボーパルバニーは一斉に召喚陣から飛び出した。
「ほらボビ太、そっちへ行っちゃダメ。ボビ助もこっちに並んで。ボビ美はいい子ねえ」
あたしの前に三匹が整列する。
「ハイ、みんなごあいさつ」
続くあたしの命令に、三匹は同じように揃ってジェイクさんに向ってちょこんと首を傾げる仕草をみせた。
「すげえな、一気に三匹か。でもなんだよ、ボビ太とかボビ助ってのは」
「この子達の名前に決まってるじゃないですか」
三匹の頭を順に撫でてやりながら答える。
ボビ太、ボビ助、ボビ美、我ながらいいネーミングセンスじゃない。
ジェイクさんも感心しているし、召喚の出来も上々。
これならうまくやっていけるかな、なんてちょっと自信が付いたりして。
その後もジェイクさんといろいろお話して、しばらくはここでお世話になることになったの。
ママからの手紙に「くれぐれも」と書かれてあったから、ジェイクさんとしても快くあたしの居候を認めてくれたわ。
部屋は二階の今まで物置として使われていた空き部屋。
掃除の苦手なジェイクさんが長年放置していたものだから、部屋の中は埃だらけ。
そのままじゃ寝られないから徹底的に掃除して、夕方にはなんとか綺麗になったかな。
夕食はやっぱりお料理なんてできないって言っていたジェイクさんに代わってあたしが腕を振るってみた。
なんたってパパ仕込みだから、あたしも一通りのことならできるもの。
島なら採れたて新鮮なお魚を使ったお料理になるんだけど、ここではそれは無理。
その代わりに市場へ出れば何でも売っているなんて、やっぱり大きな街は違うわ。
今晩のメニューはお魚とお野菜を使ったスープ。
それなりに美味しくできてジェイクさんも満足してくれたみたい。
その料理を武器に交渉したところ、居候の下宿代の代わりに家の中の仕事をすることで手を打つことになったの。
あたしはお金なんてほとんど持ってないし、ジェイクさんはジェイクさんで家事は苦手だから、これは両者の利害が一致した結果と言えるわね。
あたしに家事を教えてくれたパパに感謝しなくちゃ。
そして明日は、冒険者として登録するために訓練場へ行く予定になっている。
こうして、あたしのダリア初日は暮れていったの。
パパママ、あたしこの街でガンバルからね。