サマナ☆マナ!4

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 マスタークラス一回戦の試合がすべて終わって、ダリア城前の広場の熱気はこれでもかってばかりに盛り上がっているわ。
 特に第四試合かな。
 あのガイがバルボ選手を秒殺とも言うべき圧倒的な強さで退けた余韻が、いつまでも尾を引いているみたい。
 あちらこちらから、ガイの戦いぶりを称える声が聞こえてくるの。
 でもその一方で、彼を悪く言う人たちもいるみたい。
 パロさんの周りに集まって来たエルフの皆さんや、バルボ選手を取り囲むドワーフさんたち。
 ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ノーム、ホビット。
 一般に基本五種族といわれるこれらの種族は、ダリアの城塞都市でもそれぞれかなりの人口を持っているし、各種族の交流も盛んに行われているわ。
 そこへ、ラウルフやフェルパーといった、独自の進化を遂げてきた種族が迎え入れられた。
 今や、ひとつのパーティに複数の種族の冒険者が所属することなんて日常茶飯事。
 むしろ、ガイのようにヒューマンとしか組まないなんていう人のほうが少数派なんだと思う。
 だけどいざこういった大会になると、各種族の代表の争いといった雰囲気になってきているわ。
 各クラスで一回戦を勝ち上がったのは、次の選手たち。
 ハーフデビリッシュの召喚師、あたし。
 ヒューマンの盗賊、のシン君。
 ドワーフの侍、ザイカ選手。
 リズマンの戦士、リ・ズーさん。
 以上の四人がビギナークラス。
 ヒューマンのバルキリー、アルテミシア選手。
 ドラコンの君主、ドランさん。
 ホビットの忍者、ニンマース選手。
 そしてヒューマンの君主、ガイ。
 この四人が先程行われたマスタークラス。
 各選手ともそれぞれのパーティの仲間や同族の応援を受けて、二回戦に備えているわ。
 もっとも、ハーフデビリッシュなんてこの城塞都市でもあたしくらいのものでしょうけど。
 ドラゴンとヒューマンのハーフと云われるドラコンや、爬虫類から進化したリズマンも、どちらかと言えば少数派よね。
 だから種族としてドランさんやリ・ズーさんを応援する人も、必然的に少なくなってくる。
 でもね、あたしは二人を応援しているわ。

『お待たせいたしました〜。これよりビギナークラス二回戦を行います』
 マスタークラスの試合の後に取られた休憩時間も終了。
 クレア様たちも再びテントの中のお席に着かれたところで、闘技大会が再開される。
 まずはビギナークラスの二回戦、つまりはあたしの試合からだわ。
 一度試合も経験しているし、大会の雰囲気にもすっかり慣れた。
 一回戦の時のような緊張は特に感じないかな。
 それにね、なんたってあたしの対戦相手は・・・
「よーし、ようやく俺の試合か」
 コキコキと首を捻って鳴らすシン君。
 そうなの。
 二回戦の相手はシン君だもの、これで緊張しろってほうが無理な話よね。
『一回戦を勝ち上がった各選手を、大きな拍手でお迎えください。
 まずは、召喚師、マナ選手〜』
 アナウンスがあたしの名前をコールすると、観衆からは大きな拍手が湧き上がった。
「マナ、頑張ってね」
「一丁やってこいや」
「ハイっ!」
 パロさんにジェイクさん、その他にもドランさんやリ・ズーさんまで。
 みんなの声援に後押しされて、再びリングへと上がるあたし。
『対してまして、盗賊、シン選手〜』
「よーし、行ってくるぜ!」
「シーンー、ちゃんと試合するのよ?」
「反則負けとか、そんなのだけは勘弁してくれよ」
「って、マナの時と反応が違うじゃねえか」
「男だったらグチグチ言わない。ホラっ、リング上でマナが待ってるわよ」
「へいへい」
 パロさんたちにやいのやいの言われながら、シン君もリング上へ。
『二人は同じパーティに所属する仲間だそうです。果たしてどちらがこの戦いを制するのでしょうかー?』
 試合前のアナウンスで、観衆がいっそう盛り上がる。
「へっ、悪いけど勝つのは俺だぜ。マナよ、ケガしないうちにリングアウトでもして負けを認めるんだな」
「そういうシン君こそ、一回戦で少ない運をすべて使い切ったんじゃないの?」
 二人ともついつい熱くなって、挑発の言葉を投げ付ける。
 でもね、これは相手を憎んでのことではないわ。
 お互いを分かっているからこそ言える、ちょっと意地悪だけど親しみを込めた言葉の応酬。
 仲の良い兄弟や友達の間でやり取りする、口ゲンカ程度のものなんだと思う。
「召喚師マナ選手、試合前に召喚呪文を使いますか?」
「はい」
 試合前に召喚呪文を使用することはルールとして認められているわ。
 もっとも、そうじゃなかったら、あたしがこのリングに立つことも無かったはずだけど。
「でも・・・どのモンスターを呼び出すべきかしら?」
 シン君との試合にどんな作戦で臨むか、しばし考えてみる。
 ボーパルバニーはさっきの試合でボビ助がケガをしているから無理かしら?
 ドラゴンパピーのモモちゃんは、まだ召喚契約してから日が浅いわ。
 何をやってくるか分からないシン君の相手では、ちょっと経験不足かもしれないわね。
 いっそのこと、ロックのカンベエを呼び出して、空中からシン君を摘まみあげてリングの外へ放り投げちゃおうかしら。
 でもそんなことをしたら、逆にあたしのほうが反則を取られかねないかも・・・
 と、そんなことをあれこれ考えていると。
「えっ? この召喚陣は・・・」
 あたしの目の前に、キラキラと緑色に輝く魔法陣が浮かび上がったの。
 そうよ、そうだわ。
 シン君の弱点なんて、アレに決まってるじゃないの。
「ふっふーん。シン君、この試合、あたしの勝ちね」
「なんだと?」
 自信満々に胸を張るあたしに、シン君が眉をひそめる。
 そんなシン君なんかお構いなしに、召喚の呪文を紡ぎだした。
「サモン、バンシー!」
 あたしの呼び掛けに応えて召喚陣から姿を見せたのはバンシーのティアちゃん。
 見た目は普通のお姉さんのようだけど、肌がちょっと青白いのは嘆きの精の異名を持つアンデッドモンスターだから。
 真冬だというのにも関わらず、生地の薄いノースリーブのドレスをはためかせているわ。
「マナちゃん、ここは私に任せて」
「ええ。シン君の相手に一番ふさわしいのは、やっぱりティアちゃんを置いて他にはいないものね」
 シン君の弱点、それは美人のお姉さんに弱いことよ。
 それも、ボーンとお胸の大きな、ね。
 さすがにパロさんには及ばないけれども、ティアちゃんだってそれなりにスタイルは良いほうだと思うわ。
 できれば自前で何とかしたいところなんだけど、あたしにそれを求めるのは悔しいけど酷ってものよね。
「くっ・・・まさかティアちゃんで来るとは・・・」
 シン君にとっても予想外の展開だったようで、完全に動揺しているのが見て取れる。
「試合開始、お願いします!」
 シン君が気持ちを切り替える前に戦いたくてジャッジに催促。
「うむ」
 ジャッジがサっと手を上げる。
 それと同時にカーンとゴングが鳴って、二回戦第一試合が始まった。
 先に動いたのはあたしたち、先手必勝とばかりにリング中央の好位置をキープする。
 そしてまだ動揺しているシン君に対して、ティアちゃんがじりじりと距離を詰める。
「シンさん。申し訳ありませんが、マナちゃんのために負けてください」
 見た目はごく普通のお姉さんとほとんど変わらないティアちゃんだけど、実は必殺の武器を持っているわ。
「うわっ! やめろ、来るなー!」
 シン君もそれを分かっているから、迂闊にティアちゃんには近づけないでいるのね。
「シン君、ティアちゃんに吸われたくなかったら、今すぐリングから飛び下りることをお勧めするわ」
 そう。
 アンデッドモンスターであるティアちゃんの最大の武器、それは相手の精気を吸い取ってしまうエナジードレインよ。
 これを喰らってしまうと運動能力などが一時的に減退してしまい、事実上1レベル下げられてしまうの。
 あたしと初めて出会った頃のシン君は、レベル8の盗賊だったわ。
 それからようやくひとつだけレベルが上がったばかり。
 やっとレベル9になったのに、ここでティアちゃんに吸われちゃったらまたレベル8に逆戻り。
 今後のパーティとしての活動のことも考えると、できればドレインを喰らう前にシン君にはギブアップなりリングアウトなりしてほしいものだわ。
「くそっ、でも俺は負けねえ! 要は吸われなければ良いんだろうが」
 ティアちゃんの追撃から必死に逃れようとするシン君、隙を見つけては直接あたしに攻撃しようとする。
 だけどリングの真ん中にいるあたしを護るように、常にティアちゃんが二人の間に入って妨害するの。
 必然、シン君はリングの端を走りまわることになる。
 観衆からは「しっかりしろー!」とか「マジメにやれー」なんてヤジも飛んできたりして。
 それでも懲りない諦めないシン君は、右に左にと動き回る。
「もう、シン君も意外と粘るわね」
「ですね。ここはちょっと揺さぶってみましょう」
 ティアちゃんが自分のドレスの裾に手を掛けた。
「ティアちゃん?」
 何をするのかと思ったら、ティアちゃんてばそのままゆっくりと、ドレスの裾をまくり上げ始めたの。
「てぃ、ティア・・・ナニをする気だ」
「さあ、何でしょうね?」
 うふふと笑うティアちゃん、さらにドレスの裾を持ち上げていく。
 もう膝の上、そしてスラリとした太ももまで見え始めているわ。
 それに対してシン君、すっかり足が止まっていた。
 うーん、やっぱりシン君も男の子なのよねえ、すっかりティアちゃんの太ももに視線が釘付けになっているわ。
 さらにティアちゃんのお色気攻撃は続いたの。
 その右手がドレスの胸元にそえられたかと思うと、ほんの少しだけ襟を引く。
 実際に素肌が露出したのは、ほんのわずかな面積だけ。
 だけど、あたしのよりも立派なティアちゃんのやわらかな膨らみが、シン君の視線を捉えて離さない。
 ゴクリと、生唾を飲み込むシン君。
 次の瞬間、ティアちゃんの表情から笑みが消えた。
「シンさん、死んでください」
 ティアちゃんの瞳には大粒の涙が光っていた。
 死を告げる嘆きの精霊バンシー。
 その涙を見るということは、すなわち死を意味するんだわ。
「うわー!」
 ティアちゃんのお色気攻撃で呆けていたのが一転、シン君は恐怖に打ちのめされていた。
 腰が抜けたのか、その場にヘナヘナと崩れ落ちていたの。
 怯えるシン君に、ティアちゃんが迫る。
「止めろ、止めてくれー!」
 四つん這いの姿勢のまま、リング上で這いずりまわるシン君。
 それでもティアちゃんの追撃は緩まない。
 シン君の首根っこを捕まえたかと思うと、精気を吸い取るべくシン君の唇を自分のそれでふさいでしまったの。
「へっ・・・?」
 それって、つまりはキス?
 あまりの展開に、一瞬あたしも思考が停止・・・
「マナ、早くシンの頭を叩きなさい」
「は、ハイっ!」
 リング下からのパロさんの声で我に返ったあたし、木太刀を振り上げてシン君の頭をコンっと叩いてやったわ。
「クリーンヒット! 勝負あり」
 ジャッジの手が上がり、試合終了のゴングがカンカンと鳴り響く。
『ただ今の試合、召喚師マナ選手の勝利です』
 アナウンスがあたしの名前を告げると、観衆からは大きな拍手と歓声が沸き起こったんだ。

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