サマナ☆マナ!4

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「フリー、ケガしているのではなくて?」
「ああ、ちょっとやられたみたいだ」
 第一試合が終わってリングから下りて来たフリーウインド選手を迎えたのはパロさん。
 試合中に対戦相手のアルテミシア選手の攻撃を受け、負傷した個所を確認する。
「ちょっと救護室へ連れていくわ。私が治療するよりそのほうが良いでしょう」
「すまないな」
 パロさんはフリーウインド選手と連れ立って救護室へ行ってしまった。
「なんだパロのヤツ、俺の時と態度が全然違うじゃねえか」
 と、これはシン君。
 ビギナークラスの第二試合で、シン君もラウルフのレインジャーさんから肩に痛打を受けていた。
 その時パロさんは、自分の呪文で簡単に治療してくれたんだけど・・・
「でもフリーウインド選手は出血していたし」
 適当に思いついたことを口にしてみる。
「まあ、それもそうか。さーて、次の試合は・・・」
 取りあえずシン君はそれで納得してくれたみたい。
 でもパロさん、本当は自分の呪文で治療してあげたかったんじゃないかしらね。
 それが同じエルフ族としての義理なのか、それとももっと別の気持ちがあるのかまでは、あたしには分からないけど。
 って、それよりも・・・
「そうよ、次の試合!」
 リング後方に設置されたトーナメント表に視線を走らせる。
 その第二試合のところに名を連ねているのは・・・
『お待たせいたしました。これより第二試合を始めます。
 一回戦屈指の好カードが実現いたしました! まずは君主、ドラン選手〜』
 そうよ、いよいよドランさんが試合に臨むんだわ。
 大きな拍手と歓声を受けながら、ゆっくりとした足取りでドランさんがリングへと上がる。
『対するは侍です。フォンタナ選手〜
 君主対侍、注目の上級職同士の対決です。皆さま、両選手に大きな拍手を!』
 アナウンスがさらに観衆をあおると、それに応えるようにわぁと声援が上がった。
 背後からのその迫力に負けないように、あたしも必死に手を叩き、声を上げる。
「ドランさん、頑張ってくださーい!」
 応援するのはもちろんドランさん。
 この大声援の中でもあたしの声が届いたのか、ドランさんはチラリとこちらに視線を向けてくれた。
 そして対戦相手となるフォンタナ選手をじっと見据える。
 そのフォンタナ選手、ヒューマンの男性にしては小柄なほうかしらね。
 目鼻立ちなんかもどこかあどけないものを残しているようで、ひょっとしたらシン君と同じくらいの年齢なのかもしれないわ。
 それでも上級職の侍、しかもマスターレベル。
 才能だけでなく、きっと努力もあったんだと思う。
 東洋のおとぎ話に出てくる少年剣士のような鎧姿、後頭部で頭髪を結って白地に赤い丸の描かれた鉢巻きを巻いている。
 使用する武器はもちろん侍専用の刀。
 対するドランさんは、一般的なロングソードで戦うわ。
 前の試合のような、武器によるリーチの差はほとんどないと思う。
 けれども身体の大きさならドランさんのほうが一回り以上大きいから。
 この試合、ドランさんのほうが有利なんじゃないかしら?
 そう思いながら見ている間にジャッジの手が上がって、試合開始のゴングが鳴った。
「ドランさん、行けー!」
 あたしもついつい興奮しちゃって、自分でも驚くくらいの声を上げていた。
 ううん、あたしだけじゃないわ。
 隣で見ているシン君にリ・ズーさん、試合には出場しないジェイクさん。
 この広場に集まっているすべての人の熱気が今、最高潮に達しているんだわ。
 試合は開始直後から激しい討ち合いとなっている。
 ドランさんがロングソードを振るえばフォンタナ選手が受け。
 文字通り返す刀でドランさんの剣を弾いたフォンタナ選手が攻撃に転じる。
 リング中央でお互い一歩も引かない応酬が続いていた。
 一瞬たりとも目が離せない、緊迫の展開。
 これぞ上級職、これぞマスターレベルの戦い。
 あまりの迫力に、思わず息をするのも忘れそうなくらいよ。
 でも、試合開始から数分が経過して、両者の均衡が少しずつ崩れ始めたの。
「あっ、ドランさんが少しずつ押し始めた」
「やはり身体のデカさが違ったか・・・」
 そうなの。
 それまでリングの中央で討ち合っていた両選手だけど、ドランさんのほうがじりじりと前進し始めたのね。
 シン君の言う通り、二人の体格差は大人と子供くらいに違うから。
 フォンタナ選手のほうが先にスタミナ切れを起こすのは必然なんだわ。
 ドランさんに押し込まれて、フォンタナ選手がリングの端まで追い詰められてしまった。
「リングアウトに気を付けて!」
 一度このリングで試合をしているあたし、リングアウトの怖さを今さらながら痛感しているわ。
 だけどドランさんは慌てない。
 何とか回り込もうとするフォンタナ選手をうまく抑え込み、かと言って自分は必要以上に踏み込まず。
 確実にフォンタナ選手の行動範囲を奪っていった。
 そしてついに。
「あーっ!」
 ドランさんの攻撃を受け切れなくなってバランスを崩したフォンタナ選手、リング下へと転落してしまったの。
 その瞬間、あたしだけでなく、観衆からも一斉に悲鳴のような声援が上がったわ。
『勝者〜、君主ドラン〜』
 アナウンスが流れて、第二試合が終了。
 勝ち名乗りを受けたドランさん、リング上で高々と拳を天に向けて突き出してみせた。
「ドランさん、やったー!」
 もちろんあたしも大興奮、いつまでも拍手をし続けていたんだ。

 続く第三試合。
 ホビットの忍者であるニンマース選手と、、ヒューマンのバルキリーのガーネット選手の組み合わせ。
 マスタークラス二人目のバルキリーの出場ということで、観衆も大盛り上がりよ。
 短剣で戦うニンマース選手に対して、ガーネット選手はランスを使用している。
 元々身体の小さなホビットで大丈夫かしらって思ったけど、そこは忍者の体術が光ったわ。
 変幻自在な動きで相手を翻弄し、背後に回っての奇襲攻撃。
 いくら武器のリーチが長くても、背後から攻撃されたら一溜まりもないはず。
 ニンマース選手の短剣がガーネット選手の首筋を捉えたところで勝負あった。
 もちろん短剣は直接触れてはいない寸止め状態だけど、急所へのクリーンヒットが認められてニンマース選手の勝ちになったの。

『一回戦最後の試合です。まずは戦士、バルボ選手〜』
 アナウンスがマスタークラス一回戦の第四試合の開始を告げた。
 まずリングに上がったのはドワーフの戦士さん。
 お顔が真っ白なお髭で覆われていて、パっと見の年齢は不明かしら?
 フルプレートに冑、そして武器はいかにもドワーフらしくアックスを持っている。
『対するは君主、ガイ選手です〜』
 アナウンスと同時に観衆から割れんばかりの拍手が沸き起こった。
 その拍手に押し出されるようにリングに上がったのは、あのガイだったの。
 ダリアの城塞都市で冒険者として活動している中で最も人数が多いのは、言うまでもなくヒューマンだわ。
 そのヒューマンの、しかも君主ということで、彼を英雄視している人も多いんだと思う。
 だけど・・・
「あの男、どうにも好きになれないわ」
 フリーウインド選手の治療から戻っていたパロさんがポツリともらした。
「あの男は極端なヒューマン至上主義者で有名なんだ。パーティのメンバーもヒューマンとしか組まないようだしね」
 と、いつの間にかパロさんの傍らには、先程試合を終えたフリーウインド選手がいたの。
 その他にもエルフの男女が数人集まっていた。
 フリーウインド選手はこの大会で唯一エルフの参加者だから、自然に顔見知りのエルフの皆さんが集まってきたみたい。
 そのエルフさんたちも「俺もアイツにパーティを断られた」とか、「エルフは田舎に引っ込んでろって言われたのよ」とか・・・
 口々にガイに対する不満を口にしていたの。
 エルフ族はヒューマンと並ぶ二大種族とも云われているわ。
 ドランさんやリ・ズーさんだけでなく、そのエルフまで受け入れないなんて・・・
 ガイのヒューマン主義、そして排他主義ぶりは本当に徹底したものなんだわ。
「冒険者をやってるのは、ヒューマンだけじゃないわ。私たちエルフや、マナだってそうでしょ?」
「はい、ですよね」
 珍しく憤慨しているパロさんに、あたしもコクリとうなずいた。
 あたしもハーフデビリッシュだもの、こういう人はちょっと、ううんかなり苦手だわ。
「いや、まあそうだよなあ・・・」
 そんな雰囲気の中、シン君が居心地悪そうに頭をかいている。
 今まで特に意識していなかったけど、シン君はヒューマンなのよね。
 同じヒューマンでも、ガイとはずいぶん違うんだなって思っちゃった。
「フォンタナに続いてガーネットもやられるとはな・・・」
 リング上でガイが詰まらなそうに吐き捨てたのが、この大歓声の中でもあたしの耳に届いたの。
 フォンタナ選手はドランさんに、そしてガーネット選手はホビットのニンマース選手に負けている。
 共にヒューマンの選手がヒューマン以外の選手に負けてしまったことが、ガイにはおもしろくないんだと思う。
「だが良いだろう。最後まで勝ち残るのはどうせ俺なんだからな」
 そんなガイの物言いに、対戦相手のバルボ選手もやっぱりおもしろくなかったようで。
「へん、今日こそはテメエのその根性を叩き直してやるぜ」
 アックスを構えて早くも戦闘態勢に入っているわ。
 しかしガイは慌てるでもなく、悠然と両手持ちのバスターソードを構えた。
「ふっ、ドワーフごときに負けはしない」
 あくまで試合用の、ごく一般的なバスターソードなのに、ガイが持つことで伝説の剣にすら思えてくる。
 そんな迫力がリング下で見ているあたしにも伝わってきていた。
 まさに一触即発。
 両選手のただならぬ気合いに、たまらずジャッジが試合開始を告げた。
 その直後、先に動いたのはバルボ選手。
 アックスを頭上まで振り上げ走り出すと、ガイとの距離を一瞬にして詰めてしまったわ。
「うおぉぉぉ!」
 気合い一閃、ガイ目掛けて力の限りアックスを振り下ろすバルボ選手。
 しかしガイは最低限の動作だけで、バルボ選手の渾身の一撃をひらりとかわす。
 空を切る、鋼の刃。
 力とスピードをすべて乗せたアックスの一撃をかわされたことで、バルボ選手は大きく体勢を崩してしまった。
 一瞬で背後を取ったガイ、バスターソードをバルボ選手の背中に叩き付ける。
 他の選手たちが致命傷を避けるために武器を寸止めにしていたのに対して、ガイは躊躇することなく最後までバスターソードを振り抜いていたわ。
 ガシャーン! と、金属が弾かれる甲高い音が響く。
 バルボ選手はそのまま、リング下へと転がり落ちてしまったの。
 サっとジャッジの手が上がり、アナウンスがガイの勝利を告げる。
 わぁー! と、ヒューマンの英雄の勝利を称える拍手と大歓声。
「す・・・すごい」
 試合が始まってからわずか十秒足らず、まさに一瞬の決着にあたしも息を飲む思いだった。
 だけど。
「アイツ、更に強くなったな」
 あたしの傍らに立っていたドランさんだけが、あくまで冷静にリング上に立つガイを見据えていたんだ。

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