サマナ☆マナ!4

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 ラウルフのレインジャー、アルバ選手を打ち負かしたシン君。
「どうよ、俺の戦いぶりは」
 すっかり良い気分になりながら、リングを下りてきたわ。
「シン君、肩大丈夫?」
「ああ、ちょっと痛いかな。パロ、治療呪文頼むわ」
「了解。まあ打撲程度だから簡単にディオス1回でいいでしょう」
「オイオイ、次の試合も控えているんだからな。丁寧に頼むぜ」
「つべこべ言わない」
 とまあこんな感じ。
 あたしに続いてシン君も勝ったものだから、すっかり盛り上がっちゃって。
 だけど、気になるのは次の試合よね。
「ねえシン君、あたしたち二人とも勝ち上がったから、次で当たるんだけど・・・」
 おそるおそるといった感じで切り出すあたし。
 それに対してシン君は
「えっ、そうだっけ? まあ良いんじゃねえの。別に殺し合いとかするわけじゃないし」
 なんともあっけらかんとしたものだわ。
「そうね。準決勝で二人が当たるんだから、どちらか一人は確実に決勝戦に進めるわ」
 と、パロさんからも前向きな意見が。
「そうか、これは試合なんだもんね。そうよ、うんうん」
 なんだかあたしは難しく考えすぎていたのかもしれない。
 ここは気持ちを切り替えて、次の試合に望まなくっちゃね。
 と、そこへ。
「二人とも、よく勝ち残ったものだな」
「ドランさん!」
 開会式の前に知り合ったドラコンの君主のドランさんが、あたしたちのところに来てくれていたの。
「こう言っては失礼だが・・・
 ひょろっこい男と小柄なお嬢さんが選手だと聞いた時には、まず勝てないだろうと思っていたぞ」
「はい、あたしたちが一番驚いていると思います」
「そうか? 俺は最初から勝つ気満々だったけどな」
「たはは・・・」
 ホント、シン君のこの自信は一体どこから来るのかしら、ねえ?
「小僧、いやシンといったな。あの顔面受けには驚いたぞ」
 先ほど行われた試合を振り返って、ドランさん。
 まあドランさんだけじゃないでしょうね。
 あのシン君の捨て身とも言える返し技は、試合を見ていた人全てが驚いたはずだもの。
「どうよ、俺の頭脳的な戦いぶりは」
「うむ、まさに大会ならではだな。実戦なら問答無用で顔に穴が開いているところだ」
 思わず顔面に穴の開いたシン君の姿を想像してみる。
「ぷっ、シン君の顔に穴・・・ははは」
「笑うなマナ!」
「だって」
「お嬢さん・・・マナだったな。マナも立派な戦いぶりだった」
「そうですか? ありがとうございます」
 ドランさんに褒められて、あたしもちょっと自信がついたかな。
「もっとも、決勝にどっちが勝ち上がって来ても、優勝するのはオレ様だがな」
 ガハハと大声で笑うのはリ・ズーさん。
「リ・ズー、お前はまだ一回戦も勝ってないだろう」
「んなもんオレ様が勝つに決まってるだろ。優勝して経験値ガッポガッポだ!」
 呆れ顔のドランさんに、すっかり勝った気でいるリ・ズーさん。
 まあ、ドラコンとリズマンの表情は、イマイチ読み取りにくかったりするんだけどね。
 それにしても、この二人が揃うとさすがの迫力だわ。
 ダリア城前の広場にはたくさんの観衆が押し掛けているのに、あたしたちの周りだけなんだか人もまばらで・・・
 周囲の人たちは、このドラコンとリズマンのコンビの様子を遠巻きにうかがっているって感じかな。
 でもこうして話してみれば、二人が見た目に反して悪い人じゃないっていうのは伝わってくるわ。
 と、その時。
『お待たせしました。ただ今より一回戦第三試合を行います』
 次の試合の開始を伝えるアナウンス。
「おっ、始まるか。オレ様の次の相手はどっちになるかな?」
 って、リ・ズーさんの頭の中では、もう一回戦は勝ったことになっているのね。

 一回戦第三試合は、ドワーフの侍ザイカ選手とノームのモンクのガオマ選手の対戦。
 ドワーフもノームもどちらかと言えば小柄な種族だから、なんだか見ていて微笑ましく感じたりして。
 侍であるザイカ選手はレベル5。
 対するモンクのガオマ選手はレベル7。
 微妙な実力差かもしれないわね。
 前の二試合が共にリングアウトで決着したものだから、両選手ともそのことを相当意識しているようで・・・
 しきりにリング内での自分の立ち位置を気にしているそぶりを見せているわ。
 侍もモンクも、どちらも肉弾戦要員。
 召喚師や盗賊が戦うようなイロモノ試合とは違って、本格的な打ち合いは見ていて手に汗握るものがあった。
 そして。
『勝者、ザイカ〜』
 侍のザイカ選手が相手の頭部をクリーンヒットする一撃を放ち、見事に勝ちを決めたの。
 木太刀とはいえ、やはり侍のほうが刀を使っての戦いには秀でていたということかしらね。
「よしっオレ様の相手はあのチビ侍だな」
 と、リング下から戦いの様子を見ていたリ・ズーさん。
 そしてこの人も。
「よーしリ・ズー、決勝は俺とアンタで戦うぜ!」
 何故かリ・ズーさんと同じテンションで盛り上がっているシン君でした。
「もう、シン君の次の相手はあたしでしょ」
「マナの次はリ・ズーだな!」
「ようしシンよ、決勝で会おう」
 あたしを放置してガッチリと握手を交わす男が二人。
 なんだか妙に意気投合しちゃってるのよね。
 はあ、もう突っ込むのも面倒だわ。
 パロさんだって呆れたって感じで首を横に振ってるし。
「分かった分かった。分かったから取りあえず次の試合頑張れよ」
 付き合いの長いドランさんは、こんなリ・ズーさんの態度には慣れているのかしらね。
 適当にあしらいながら、適当に激励しているわ。
『続きまして、一回戦第四試合です。戦士、リナリア〜』
 そうこうしているうちに、一回戦最後の試合が始まるみたい。
 まずはリ・ズーさんの対戦相手となる女戦士さんの名前がコールされた。
 それと同時に観衆から
「リーナリア! リーナリア!!」
 一斉にリナリアコールが上がったの。
 盛大なコールに迎えられてリングへ上がったのは、ショートカットに浅黒い肌のお姉さん。
 まるで水着かと思うような露出度の高い装束に、女の人とは思えないほどの鍛えられた筋肉。
 鳴りやまないコールに手を振ってみせるあたり、すっかりこの大会のヒロインといった感じだわ。
『対するは、戦士、リ・ズー』
「ようやくオレ様の出番か」
 待ちかねた、といった感じでリ・ズーさんがリングへと向かう。
 すると、今まで湧きあがっていたリナリアさんへのコールがピタリと止み・・・
「ブー!」
 観衆から一斉にブーイングが上がったの。
「えっ、えっ?」
 開会式のときから感じていたけど、リ・ズーさんに対する人々の態度はちょっと酷過ぎるんじゃないかしら。
 何か言いたくて、でも何を言ったら良いのか分からなくて。
 ただおろおろすることしかできない。
「ちょっと酷いわね」
 観客のマナーの悪さに耐えかねたパロさんも、眼鏡の奥の瞳を曇らせているわ。
「リ・ズー、気にするな」
「オレ様のあまりの強さに嫉妬しているだけだ」
 だけど、こんな事態はとっくり想定済みだったのかもしれないわね。
 ドランさんとリ・ズーさんはそれ程深刻に受け止めるでもなく、あくまで堂々としているわ。
「このダリアではヒューマン以外の種族にも市民権は与えられているとはいえ、実際はまだまだ少数派だ。特にリズマンは一般の人に受けが悪いからな」
 リング上のリ・ズーさんを見つめながら、ドランさんが独り言のようにもらす。
「マナたちが戦ったあのフェルパーやラウルフも、ひょっとしたらパーティのメンバーに認めてもらいたくてこの大会に参加したのかもしれぬな」
「なるほど、そうかもしれませんね」
 ドランさんの言葉に、あたしはわずかに首を縦に振るばかりだった。
 種族の問題といえば、ハーフデビリッシュのあたしも冒険者デビューの時に苦い思い出があった。
 訓練場で受け付けてもらえなかったり、酒場でパーティを組んでもらえなかったり・・・
 ジェイクさんやパロさん、それにシン君に出会ってあたしを受け入れてもらえたのは幸運だったのかなと、改めて思ったわ。
「リ・ズーさん、頑張ってー!」
 気が付いたら、必死になって声援を送っているあたしがいたんだ。

 そうこうしているうちに、カーンとゴングが鳴って第四試合。
 相変わらず、リナリアさんへの声援はスゴイものがあるわ。
「リ・ズーさーん!」
 あたしも負けずに声を上げ、手に汗を握りながら戦いの様子をじっと見守る。
 パロさんとシン君も、もちろんリ・ズーさんの応援に熱くなっているわ。
 先手を取って動き出したのはリナリア選手、リング上の好ポジションをキープすると木太刀をさっと振り上げる。
 コンパクトな動作で一度二度、リ・ズーさんへと木太刀を叩き付けたわ。
 しかしまったく動じないリ・ズーさん、余裕でその攻撃を受け流しているわ。
 そして。
「オラオラー、テメエの攻撃はそんなものかー!」
 守りから攻撃へと転じたの。
「オラ、トァ、セイヤー!」
 掛け声とも怒声ともつかない声を上げながら、ひたすらリナリア選手に木太刀を叩きつけていく。
 そのスピードとパワーにリナリア選手は防戦一方、次第にリングの端へと追い込まれていったわ。
「リング端、逆転に気を付けて!」
 このままリナリア選手をリングから落としてしまえば勝ちだけど、それは相手も狙っているはず。
 何とかリ・ズーさんの懐の間を潜りぬけて、体勢を入れ替えようとしているわ。
 しかしリ・ズーさんはそれすら許さなかったの。
 リナリア選手が回り込もうとする度に木太刀で進路をふさぎ、時には長く伸びた尻尾を振って威嚇したり。
 狙った獲物は絶対に逃がさないって、これも野生の本能なのかしら。
 リナリア選手はリング端に追い詰められながらも、懸命にこらえているわ。
 だけど・・・
「これで決まりだー!」
 リ・ズーさんが横薙ぎに木太刀を放つと胴体にクリーンヒット! 
 そのままリング下へと叩き落とされてしまったの。
 さっとジャッジの手が上がる。
『勝者、リ・ズー』
 勝利を告げるアナウンス。
「やったー!」
「うむ。見事な戦いぶりだった」
 思わず歓声を上げるあたしと、冷静に戦い振り返るドランさん。
 観衆からはひときわ高くブーイングが上がっているけど、リ・ズーさんは気にするふうでもなくリング上でガッツポーズしているわ。
 そんなリ・ズーさんに、あたしはいつまでも拍手を送り続けていたんだ。

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