サマナ☆マナ!4
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どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・
まさかの1番くじを引いてしまい、あたしの出番は第一試合に決まっちゃったわ。
できれば、もう少し後のほうが良かったのに。
そうすれば他の試合を見て戦い方の研究をしたり、大会の雰囲気に慣れたりとかできたのに。
第一試合じゃそれも叶いそうにないじゃない。
『それではこれよりビギナークラス、一回戦第一試合を始めます』
困惑するあたしを嘲笑うかのように、試合開始を告げるアナウンスが流れる。
全身硬直、でもって心臓はバクバク。
その場に呆然と立ち尽くしているあたしに、
「マナ、落ち着いてな」
シン君が肩をポンポンと叩いてからリングを下りていったの。
ありがとうシン君、あたし頑張るからね。
とにかく落ち着いて、まず深呼吸。
吐いて・・・吸って・・・吐いて・・・うん、少し落ち着けたかな。
『対戦者、召喚師マナ〜』
あたしの名前がコールされると、試合前からすっかり盛り上がっている観衆からは大きな拍手と歓声の嵐。
それを聞いて、一度は落ち着いた心臓が再度爆発しちゃった。
ぎこちないながらもどうにか笑顔を作り、カクカクと手を振って応えるあたし。
『対しますは、忍者ハニー』
そしてあたしの対戦相手がコールされた。
さらに湧きあがる歓声の中、どうにか心を落ち付けて対戦相手を見据える。
それはフェルパーの女忍者さんだったの。
組み合わせ抽選の時の紹介によると、たしか盗賊から転職したばかりでレベルは5。
相手は忍者とはいえ、あたしのほうがレベルで上回っているわ。
全体的に白い毛並み。
猫と人間の合いの子といった顔立ちに、頭部にはいわゆるネコミミよね。
身体付きは猫のようでもあるけれども、きちんと二本足で立っている。
手や足の指先には、正に猫のような鋭い爪。
だけど人間の女性と同じように、胸部にはしっかりと二つのふくらみがあって。
レオタードっていうのかしら、ピッタリとした身軽な衣装を纏っていてとてもスタイルが良いの。
(ね、猫に負けたわ・・・)
心の中では早くも敗北宣言をしちゃっているあたしでした。
何が? なんて聞かないでよね。
あたしにだって女のプライドってものがあるんだから。
でもね、この悔しさは試合で返してやるんだからと、闘志をみなぎらせてやったわ。
「両選手、リング中央へ」
試合のジャッジを務める男性があたしとハニー選手を手招きする。
それに応じてリング中央へ。
対戦相手のセクシー猫さんと、もうほんの目と鼻の距離で睨みあう。
ジャッジから得物となる木太刀を受け取ると、簡単なルールの説明があった。
勝敗の決め方についてはいくつか方法があるの。
まずはノックアウト、相手を気絶させることね。
そしてクリーンヒット。
これは相手の頭部、首、胸部などを武器で確実に打ち抜くことなの。
試合は木太刀で行われるから、気絶とかはまず無理。
だから試合の決着は、こちらのほうが多くなるでしょうね。
そして、リングアウトも負けになる。
あたしたちが今いるリングから落ちてしまったら即刻負けがが決まってしまうから、これには注意しなくちゃ。
反則事項としては、主に目を中心に相手の顔面を武器の先端で突くこと。
さらには、いわゆる男性の急所の部分への攻撃・・・
って、この試合の対戦者は両方とも女の子なんだから、今そんな説明しなくても良いじゃないの、ねえ。
そして。
「マナ選手は召喚師ですね。試合前に一度だけ召喚呪文を使用することを認めます」
「はい」
ジャッジに促されて、早速試合で戦ってもらうモンスターを呼び出すことに。
でも誰を呼び出せばいいのかしら・・・
召喚呪文も魔法使いや僧侶の呪文と同様、七つの階級に分類されているわ。
そして、各ランクに契約できるモンスターは二種類まで。
あたしの場合、第1ランクに三匹のボーパルバニーとロックのカンベエ。
第2ランクにバンシーのティアちゃん。
そして第3ランクには、ドラゴンパピーのモモちゃんが契約されているの。
ティアちゃんとモモちゃんは同ランクに契約することもできたんだけど・・・
でもそれだと、使用回数が厳しくなっちゃいそうで。
あたしが冒険者登録した時、レベル5に認定されたのよね。
その時の各ランクの使用回数は次のとおり。
第1ランクは7回、第2ランクは5回、そして第3ランクは3回。
今ではレベル6になっているから、各ランクの使用回数もそれぞれ1回ずつ増えているわ。
召喚師はモンスターを呼び出す時はもちろん、新たなモンスターと契約を交わす時にも呪文を消費してしまう。
ただし、召喚陣に戻す時には消費はされないわ。
そして、もしもこの大会で優勝すれば、1レベル分の経験値を与えられることになっている。
召喚師もレベル7になれば、第4ランクの呪文が使用できるはずよね。
なんて、説明じみた回想はさて置いて。
対戦相手は忍者で、しかも猫さんよね。
当然素早い動きでかき回してくるはず。
ならば。
あたしは精神を集中させると、召喚の言葉を紡ぎ出した。
「サモン、ボーパルバニー!」
リング上に緑に輝く召喚陣が浮かび上がると、そこから飛び出す三匹のウサギたち。
そうよ、相手が素早さならこちらも素早さで対抗するしかないじゃない。
でも・・・
「にゃ? モンスターが三匹もなんて、反則じゃないの?」
対戦相手のハニー選手がすかさず抗議。
「ボーパルバニーは三匹で一つの召喚モンスターです」
だけどあたしだって負けていられないもの、ボーパルバニーの正当性をアピールする。
「えーと、この場合は、ですねえ・・・」
何しろ大会自体が初めてだし、召喚師の試合参加も初めてなものだから。
どうすべきか、困ったジャッジがリング下のテントにいらっしゃるクレア様に視線を向けた。
するとクレア様は、コクンと頷いてくださったの。
「ボーパルバニーの使用を認めます」
「やったあ! さあ、ボビ太ボビ助ボビ美、いくわよお」
あたしの号令と共に、一斉に跳ねだす三匹のウサギたち。
そしてジャッジの合図で、カーンと試合開始のゴングが鳴ったんだ。
この大会ではリングアウトしちゃうとそれっきり。
だから、ポジション取りは重要なはずよね。
あたしは試合開始のゴングと共に、迷わずリング中央を陣取った。
「ボビ太ボビ助ボビ美、ディフェンスフォーメーション!」
号令を受けた三匹のボーパルバニーが、あたしを取り囲むように跳ねまわる。
トライアングルフォーメーションの逆バージョンが、このディフェンスフォーメーションなの。
敵を取り囲んで攻撃するのではなく、あたしの周りを囲んで護りを固める。
特にこのリングでの戦いでは、相性の良い作戦になるはずよ。
ハニー選手はボビ太たちの動きを警戒しつつ、リングの端ギリギリのところを移動する。
まさに猫のように足音すら立てず、更には忍者特有の軽快な体術。
油断していると後ろに回り込まれそうでなんだか怖い。
こちらが護りを固めたとみたハニー選手がまず仕掛けた。
ボーパルバニーの連携を崩そうと、細かく動き回っては木太刀を振りかざす。
直接あたしを狙うのではなく、周りにいるウサギを一匹ずつ引き剥がすつもりなのね。
これは相手にとっては正しい作戦だと思うわ。
いざ試合が始まってしまったら、もう召喚呪文は使えない。
だから、もしも三匹のボーパルバニーが全てやられてしまったら、あたしにはもう成す術がないんだから。
ボビ太たちは的確に、ハニー選手の攻撃に対応してくれているわ。
一匹が攻撃を引き付けたなら、次の一匹が相手の隙を突いて飛びかかる。
そして三匹目は猫忍者さんの次の動きに備えて力を溜めている。
相手が引けば深追いはしない。
あくまでもあたしの周りを離れずに、懸命に飛び回っているわ。
「みんな良いわよ、その調子」
あたしも三匹のボーパルバニーのコントロールに集中する。
ボビ太ボビ助ボビ美も今日は絶好調みたい。
良い感じで行けそうだわ。
「むぅ、ちょこまかと飛び回って、やりにくいわねえ」
ハニー選手もボビ太たちの途切れることのない連携に、ちょっと手を焼いているみたい。
再びリングの端をゆっくりと移動し始めた。
戦いは膠着状態へと陥り始めていた。
ここは攻めるべきかしら? それともこのまま護り続ける?
あたしの心に迷いが生じていたことに、あたし自身が気付かなかったんだと思う。
ボーパルバニーの動きが一瞬乱れた。
相手に背中を見せる形での、不用意なジャンプ・・・
「そこニャ!」
猫語(?)で叫ぶや否や、ハニー選手がすかさず走り出す。
跳んでいるウサギは着地する時を狙われるのが一番不安定なの。
ボビ助の着地地点へ滑り込んだ猫忍者さん、足先でウサギをお手玉するように空中へと蹴り上げたの。
「ボビ助ー!」
あたしの叫びも空しく、ボビ助は宙に浮いた状態で完全に体勢を崩されてしまっていた。
「もらったー!」
ハニー選手が木太刀を横薙ぎに払う。
バシっとイヤな音がしてボビ助の小さな身体にヒット、そのままボビ助はリング下へと叩き落とされてしまった。
「リングアウトした召喚モンスターは再起不能とする」
ジャッジの冷酷な声があたしを襲ったわ。
そうか、迂闊だったわ・・・
あたしだけでなく、ボーパルバニーもリングアウトされたらダメだったんだ。
ボビ助を失ってしまい、残った二匹で戦わなくてはならない。
これは厳しい状況だわ。
だってボーパルバニーは、三匹揃って初めて様々な連携攻撃を繰り出せるんだから。
一匹でも欠けてしまったら、戦力的に大きく減退してしまう。
ハニー選手もここがチャンスとばかりに、攻撃を仕掛けてくる。
「待て〜、逃げるなこのウサ公」
今や試合は完全にハニー選手のペース。
ボビ太とボビ美は間一髪、ハニー選手の木太刀から逃れているわ。
二匹だけになったボーパルバニーでは、今までみたいに護りを固める戦法では凌ぎきれないかもしれない・・・
ここはあたしも攻めに転じなくちゃ。
「ボビ太、ボビ美、ストレートフォーメーションよ」
あたしの指示に一瞬困惑といった感じを見せた二匹。
だってストレートフォーメーションは、三匹が一直線の隊列を組んで特攻する戦法なんだから。
「あたしが最後尾につくから、行くわよ!」
号令と共にボビ太が駆け出し、ボビ美も続いた。
あたしも木太刀を構え、二匹の後ろについて走り出す。
「にゃ?」
突然のウサギの突進に面食らった猫忍者さん、それでもさすがの反射神経で対応する。
ボビ太が跳ぶその下を掻い潜り、足元を狙うボビ美を跳んでかわした。
でもね、空中にいる間が無防備になるのは、さっき貴女が見せてくれたことよ。
「えーい!」
落下してくるハニー選手の身体へ、思いっきり体当たりを喰らわしてやったわ。
「にゃー!」
またも猫語(?)で悲鳴を上げるハニー選手。
空中で体勢を立て直そうと身体を捻るのも空しく、そのままリング下へと転がり落ちてしまったわ。
「勝負あり!」
ジャッジの右手が高らかに上げられた。
それと同時に沸き起こる、大きな拍手と歓声。
『一回戦第一試合、ハニー選手リングアウト。勝者、召喚師マナ選手〜』
あたしの勝利を告げるアナウンスが流れた。
「はは、勝っちゃった・・・」
戦いの緊張感から解放されたあたし。
もう気が抜けちゃって、その場にどっとへたり込んじゃったんだ。