サマナ☆マナ!4
3
『これより開会式を始めます』
魔法式のスピーカーからアナウンスが流れた。
いよいよ闘技大会が始まるのね。
それまでざわついていたダリア城前の広場が、水が引いたようにしんと静まり返る。
『女王クレア様からご挨拶がございます』
アナウンスと共に湧きあがる拍手。
そして「女王陛下ー」とか「クレア様ー!」などと叫ぶ声が、あちらこちらから聞こえてきた。
ダリア城塞都市の女王クレア様は一般の国民だけでなく、あたしたちのような冒険者にも手厚い保護政策を敷いていらっしゃるの。
その上とても美しくいらっしゃるものだから。
国民からの支持はもちろん、人気という点でも申し分ないわ。
闘技大会の優勝者への褒美に「希望すれば女王親衛隊への入隊も」というものがあったけど、案外それを目当てに参加した選手もいるのかもしれないわね。
リング脇に設置された階段を使って壇上へと上がられるクレア様。
そのお姿が見えると、群衆の熱気はさらにヒートアップしていったわ。
年の初めということで、クレア様もいつも以上に豪華な装いでいらっしゃるみたいね。
紫を基調とした大人な雰囲気のドレスに、首元にはダイアかしら、宝玉をあしらったネックレス。
もちろんティアラもまばゆいばかりの宝石が散りばめられたもので、ふわふわなブラウンの長い髪にとてもよく似合っているの。
もう、女の子なら誰だって憧れちゃうわよね。
ジェイクさんに言わせれば、子供の頃のクレア様はかなりのおてんばだったらしいんだけど・・・
とてもそんな姿は想像できないくらい、目の前のクレア様は素敵でいらっしゃるわ。
クレア様はにっこりと笑いながら手を振って群衆の声に応えているわ。
やがてその声が落ち着いてきたのを見計らって挨拶を始められたの。
「皆さん、明けましておめでとうございます。皆さんにとって本年が良き年になるようお祈りいたします」
まずは新春の挨拶。
透き通るような綺麗な声が、ダリア城前の広場に沁み渡っていくようだわ。
引き続きクレア様は、この大会の目的や意義について簡単に説明された。
「今日は参加選手の皆さんの熱戦に期待しています。日ごろの鍛錬の成果を存分に発揮して下さい。これにてわたくしの挨拶とさせていただきます」
挨拶を終えたクレア様が頭を垂れると、群衆からは再び大きな拍手。
もちろんあたしも心を込めて手を叩き続けたわ。
盛大な拍手に送られてリングを下りられるクレア様。
そのままリングのすぐ脇に設置されているテントの中へ、その優美な姿を滑り込ませる。
テントの中ではお城の関係者の他にも、協賛している武器防具屋組合のおじ様たちも何人か列席しているようで。
その中の一人がクレア様と二言三言、談笑をかわしているわ。
クレア様と会話をしているのは他でもない、あたしたちをこの大会に送り込んだ張本人のベアさんよね。
ジェイクさん同様、ベアさんもクレア様が子供の頃からの顔見知りの関係。
他のおじ様たちがクレア様を目の前に緊張している中、ベアさんだけは堂々としたものだわ。
はぁ、あたしもここじゃなくて、あそこに座りたかったな。
『続きまして、参加選手の紹介、並びに組み合わせの抽選をいたします』
再びスピーカーからアナウンスが流れる。
『名前を呼ばれた選手はどうぞリング上へ。そして抽選箱の中から数字の書かれたボールを取りだして下さい。
まずはマスタークラスから。ガイ選手〜』
一番最初に名前を呼ばれたのは、開会式の前にドランさんをに暴言を吐いていたガイっていう選手だったの。
『ガイ選手は君主職でレベル14、種族はヒューマンです』
アナウンスでの紹介と共にリングへ上がるガイ、観衆に向けて手を振っているわ。
それに対して拍手をしているのはヒューマンの皆さんばかりなんじゃないかしら?
その他の種族の皆さんは、どちらかと言えば冷ややかな視線を浴びせているような・・・
って、それはあたしの気のせいかしらね。
ガイ選手は上下揃ったプレートメイルに背中には巨大な剣を背負っていた。
普段の装備品なんだと思うけど、試合用にしてはちょっと大仰かしらね。
係りの男性が持つ抽選箱の中に手を入れ、ボールを取りだす。
『ガイ選手、8番でーす』
アナウンスが告げると、リングの後方に設置された巨大なトーナメント表の8番の位置に、ガイ選手の名前が書き込まれた。
各クラスの参加選手はそれぞれ八名、なのでトーナメントの一回戦は四試合行われることになる。
その8番、つまりガイ選手は第四試合というわけね。
その後もドワーフの戦士さんやヒューマンのバルキリーのお姉さんが紹介され、トーナメントでの組み合わせが決まっていった。
マスタークラスなんだから当然だけど、皆さんレベル13とか15とか・・・
今のあたしからしてみたらとても敵わない、憧れとも言えるレベルなのよねえ。
そしていよいよドランさんの名前が呼ばれたの。
『ドラン選手は君主職、レベル15、ドラコン族です』
「ドランさん、頑張ってください!」
リングへ上がるドランさんへ、思わず大声で声援を送っちゃった。
ドランさんは軽く手を上げて応えてくれてから抽選箱へ。
取りだしたボールに書かれた数字は3番、第二試合に決定ね。
対戦相手は・・・
『第二試合、カードが決まりました。君主対侍の上級職対決です』
アナウンスが告げられた。
ドランさんの対戦相手はヒューマンの侍、フォンタナっていう選手だわ。
大丈夫、きっと勝つわよ、ね?
マスタークラスの抽選が終わったら、次はビギナークラスの番。
アナウンスのコールと共に選手がリングへ上がるとパーティの仲間かしらね、観衆から声援や拍手が送られたりして。
ヒューマンの戦士のお姉さんやラウルフのレインジャーなど。
さすがビギナークラスだけあって、参加選手の年齢はマスタークラスよりも若干若いみたい。
中でもフェルパーの女忍者さんの人気ぶりは凄かったわ。
ダリア城前の広場のあちらこちらから拍手や歓声、それに口笛なんかも聞こえてきたの。
どうやらパーティの仲間だけでなく、ファンの人もいるみたいね。
リングに上がった選手は抽選箱からボールを引き、トーナメントによる対戦カードが順次決まっていっている。
『次はリ・ズー選手、戦士、レベル12、リズマン族です』
「ようやくオレ様か」
名前を呼ばれたリ・ズーさんがリングへと上がる。
でも、それまでの選手のように拍手や声援なんかは一切上がらなかったの。
それどころか・・・
「リズマンだってよ・・・」
「爬虫類ってキモチワルイのよね・・・」
あくまでヒソヒソといった声だったけど、リ・ズーさんを悪く言う声が聞こえてきたわ。
「ちょっとヒドイわよね」
「ああ」
そんな声に、あたしとシン君はちょっと困惑気味。
だけどリ・ズーさんはお構いなしに、リング上で堂々としているわ。
抽選箱からボールを引くと結果は8番、第四試合のところに名前が刻まれた。
これで、残りの枠は二つだけになった。
そしてまだ名前を呼ばれていないのは、あたしとシン君の二人だけ。
つまり、あたしたち二人がそれぞれの枠に収まることになる。
『シン選手、盗賊、レベル9、ヒューマン族〜』
「おっ、いよいよ俺の出番か」
名前を呼ばれたシン君があたしを置いて先にリングへ上がる。
「シンー、しっかりやりなさいよっ!」
あたしたちのすぐ後ろに陣取っているパロさんから、激励というよりは叱咤の声が飛んだ。
それと同時に観衆から笑い声が聞こえる。
「分かってるよ!」
シン君はバツが悪そうに返事をしつつも抽選箱へ手を入れる。
取りだしたボールに書かれてあった数字は4番だった。
つまりは第二試合よね。
って、あれ? ちょっと待って。
まだ呼ばれていない選手はあたしだけ。
そしてトーナメントの残りはあと一枠のみ。
つまりそこにあたしの名前が入ることになるはず、なんだけど・・・
あたしはトーナメント表の残りの一枠へ目を向けた。
それは・・・
「最後はマナ選手、召喚師、レベル6、ハーフデビリッシュです。皆さん大きな拍手でお迎え下さい』
あたしの名前が告げられると同時に、わぁと一際大きな拍手と歓声が響いたの。
「えっ? えっっ?」
どうしてこんなに大きな拍手が上がるのかしら?
困惑しつつもリングへ上がるあたしでした。
『マナ選手は今大会唯一の術師としての参加です』
アナウンスを聞いてようやく納得したわ。
他の参加者はみんな戦士や侍それに君主などの、いわゆる肉弾戦を得意とする職業なのよね。
そんな中にあたし一人だけが後衛職である召喚師として参加する。
なるほど、確かにこれは注目されても仕方ないかもしれないわね。
おまけに。
「あの娘、雑誌に載ってたよな」
「写真より実物のほうがカワイイじゃんか」
「赤いローブと帽子が似合っているわね」
そんな声まで聞こえたりして。
例の雑誌「冒険者友の会」は、ほとんどの冒険者が目を通しているといっても過言ではないはず。
つまり、この場にいるほとんどの人は一度は写真であたしの顔を見知っていたとしても、何ら不思議じゃないってことよね。
女の子として「カワイイ」なんて褒められるのは決してイヤじゃないけど、この雰囲気はちょっと勘弁してほしい・・・かな?
『マナ選手、残りは一枠ですが、念のためにボールを引いてください』
「は、ハイっ」
そうよ、今は対戦相手を決める抽選の途中じゃない。
あたしは抽選箱に手を入れ、最後まで引かれずに残っていたボールを握り締めた。
できれば何かの間違いであってほしい。
心の何処かでそう願っているあたしがいたの。
だって、そのボールに書かれていた数字は・・・
『マナ選手、1番を引きました』
そうなの。
最後まで残っていたボールに書かれてあった数字は1番。
ちなみに、試合はビギナークラスから行われる予定になっている。
つまりは・・・
『ビギナークラス一回戦、第一試合に決定です!』
あたしの出番はこの後すぐ、一番最初の試合に決まっちゃったんだ。