サマナ☆マナ!4

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 頭から生えた長い角。
 大きく裂けた口から覗く鋭い牙。
 ギロリとした大きな目。
 あたしの見知っているドラゴンの中では、ファイアードラゴンに似ているかしらね。
 それに、ドラゴンぽいのは顔だけじゃなかったの。
 頭、肩、腕と、パっと見える範囲だけでも赤茶けた鱗に覆われていた。
 盛り上がる筋肉、太い腕っ節。
 あたしはもちろん、シン君よりもずっと大きな身体をしている。
 どこからどう見てもまさにドラゴンそのものよね。
 だけどこのドラゴンさんは二本足で立っているし、何より人間の言葉を話している。
「ドラコンよ」
 パロさんがあたしの耳元でそっと教えてくれて、ああそうかと思い当たったわ。
 このヒトはドラゴンじゃなくてドラコンなのよ。
 訓練場で冒険者登録した時に教えてもらったっけ。
 竜の血筋と人間の血筋を受け継いで独自に進化してきた種族、それがドラコンだって。
 ドラコンは他の種族と比べると、その絶対数は多くない希少種族だわ。
 だけどダリアの城塞都市ではちゃんと市民権を得て生活しているし、冒険者として活動しているドラコンも決して少なくないそうなの。
「こんにちは」
 気が付いたら、ペコリと頭を下げて挨拶していた。
「ほう。俺の顔を見ても驚かんとは、なかなか肝の据わったお嬢さんだ」
 ドラコンさんはあたしの顔を見て、感心したように頷いている。
「ええ。あたしはアルビシア島出身なんです。ご存じですか、ドラゴン伝説で有名な・・・」
 そうなの。
 子供の頃からドラゴンに囲まれて育ってきたあたしにとっては、ドラコンさんの顔は別段驚くようなものじゃないのよね。
「アルビシア・・・名前は聞いたことがあるな。俺もいつかは行ってみたいものだ」
 どこか懐かしいものでも思い出すような、そんなドラコンさんの口振りだったわ。
「ええ、素敵なところですから是非どうぞ」
「お嬢さんの顔も見覚えがあるような気がするな。どこで見たんだったか・・・」
「ひょっとして雑誌じゃないですか? 『冒険者友の会』」
「そうか。あの雑誌に紹介されていた、確か召喚師の・・・」
「はい、マナといいます」
 雑誌「冒険者友の会」にあたしたちが紹介されたのは、去年の秋のことだったわ。
 その雑誌がきっかけになって、アルビシアへの里帰り旅行なんかもしちゃったんだけどね。
「召喚師マナか。よろしくな。申し遅れたが俺はドラン、君主だ」
「ドランさん・・・君主なんですね」
 へぇと感心するあたし。
 戦士の攻撃力に僧侶の特性を併せ持つ上級職、それが君主よね。
 冒険者、特に戦士が憧れる夢の職業だわ。
「俺はシン、盗賊だ」
「パロです。ビショップとして努めさせてもらってます」
 すっかり立ち直ったシン君とパロさんも自己紹介。
「うむ、あんたがたも雑誌に紹介されていたな」
「おっ、俺ってもしかして有名人か?」
 ドランさんの反応にすっかりいい気になるシン君でした。
「もう、シン君たら・・・って、きゃあ!」
 言葉の途中で、後ろから来た人に押されて倒れそうになる。
「おっと危ない」
 そこをすかさずドランさんがあたしの身体を支えてくれて、どうにか倒れずにすんだ。
 危ないところだったわ。
 こんな人込みで倒れちゃったら、それこそ踏み潰されちゃうもの。
 それにしてもドランさん、とってもたくましくて力強いの。
 さすが、君主職だけのことはあるわよね。
「ありがとうございます」
「なんの。それよりも、こんなところで立ち話している場合じゃないな」
「ええ。あたしも早く前のほうへ行かないと」
「ほう、マナもこの大会に参加するのか?」
「そうなんです。あれ? マナ『も』ってことは・・・」
「ああ、俺も大会参加選手だ」
「へ・・・?」
 分かってはいたけど、改めて気付いちゃった。
 大会に参加するのは、こんなドランさんみたいな猛者ばかりなのよ。
 どうしよう、あたしなんかきっと場違いに決まってるわ。
 せめてドランさんがマスタークラスの選手なら、戦わなくてすむんだけど・・・
 そんなことを考えていると
「おいドラン、何をしている? 早く行かんと遅れるぞ」
 ドランさんの向うにいたヒトが、こちらを振り返って大声で話しかけてきたのね。
 その顔を見たシン君、またもや
「ひぃっ!」
 って、いっそう甲高い悲鳴を上げちゃったりして。
 シン君だけじゃなかったわ。
 パロさんもちょっと表情が引きつっていたし、あたしもしばし硬直。
 だってそのヒトの顔は、何だか爬虫類のようで・・・
 ドラゴンの顔なら見慣れたあたしでも、目の前にいきなり巨大なトカゲの顔が迫って来られたらちょっと怖い、かな?
「あ、あれがリズマンよ、マナ」
「な、なるほどです・・・」
 パロさんが耳元で教えてくれて、ようやく頭が動き出したあたしでした。
 爬虫類、特にトカゲから進化した種族、それがリズマンなのよ、たしか。
 力が強くて体力もあるので、戦士としては最高の働きをするって訓練場で教えられたわ。
 ただし知能のほうはあまり高くないらしくて、呪文を扱う職業には不向き。
 目の前のリズマンさんも、ドランさんに負けないくらいの大きな身体に、鍛えられた筋肉の持ち主。
 きっと戦士系の職業なんだろうなと容易に想像がつくわ。
「驚かせてすまんな。ヤツは俺のパートナーみたいなもんだ」
 ドランさんが申し訳なさそうに顔をしかめる。
 パートナーってことは、ドランさんとこのリズマンさんは一緒にパーティを組んでいるってことなのかしらね。
「今行くリ・ズー。だが、この人込みは敵わんな」
「けっ、道がねえならこじ開ければいいんだよ。オイてめえら、そこを退け! 道を開けんか!」
 リ・ズーと呼ばれたリズマンさんが拳を振り上げ、大声で怒鳴り散らす。
 すると、どこにそんなスペースがあったのか、あたしたちの前にいた人たちがすーっと避けてくれて通り道が開けたの。
「よし行くぞ」
「相変わらず強引な奴だ」
 ふんぞり返って歩き出すリ・ズーさんにドランさんも続く。
「あなたたちも、さあ」
「はい」
「あ、ああ」
 パロさんに促されて、あたしとシン君も二人のあとに続いた。
 せっかくできた道がふさがれないうちに、早くこの人込みを抜け出さなきゃ。

「マスタークラスは前列に、ビギナークラスは後列に整列して下さい」
 ようやく人込みを抜けて前のほうへ出ると、大会運営の係りの人の指示があった。
 見ると目の前には10メートル四方くらいの大きさかな、一段高いステージのようなものが設置されていたの。
 特に囲いも無いそのステージこそが今回の闘技大会の舞台、戦いのリングなんだと思う。
 リング前には、既に多くの冒険者が集合していたわ。
 きっと闘技大会の参加者よね。
 身に付けた防具などから、ほとんどが戦士や侍などの、いわゆる肉弾戦を得意とする職業ばかりだと推測できそう。
 術者としての参加はやっぱりあたしだけだと思うと、今さらながら不安になってきたわ。
 種族はやはりヒューマンが多くて、エルフやドワーフもいるみたいね。
 だけどその中に、犬を祖先に進化してきたラウルフや、猫を祖先に持つフェルパーといった種族も交じっていたりして。
 ダリアの城塞都市には実に雑多な種族の皆さんが生活し、冒険者として活動しているんだなって、改めて実感しちゃった。
 まあ、そういうあたし自身もハーフデビリッシュなんだけどね。
 男の人ばかりじゃなくて女の人も参加しているようで、その点ではホっとしたかな。
「参加選手ですね? マスタークラス、ビギナークラスで分かれて整列して下さい」
 係りの男性があたしたちに指示をしてくれた。
「俺は前列か」
 その指示に従ってドランさんは、リング下すぐのマスタークラスの列へと移動する。
 良かった、ドランさんとはクラスが違ったみたい。
「あっ、あたしたちは後ろですから」
「うむ、お互い頑張ろう」
 ビギナークラスの列に並ぶあたしたちに、手を上げて応えてくれたドランさんだったわ。
「おや、アンタはこっちなのか?」
 意外、といった感じでシン君。
 なんとリ・ズーさんはあたしたちと一緒の列だったの。
「ケっ、大会にエントリーする三日前にエナジードレイン喰らっちまってよ。あれが無かったらオレ様だってもマスタークラスだったんだ」
「そうなんですか」
 主にアンデッドモンスターなどが繰り出してくるエナジードレインは、喰らってしまうと一気に精気を吸い取られてしまう。
 その結果として、1レベル分の経験値を失ってしまうの。
 冒険者にとって、これはあまりにも痛いロスであることは言うまでもないわよね。
「だがな、この大会で優勝すれば1レベル分の経験値が貰えるんだろ。それがあればまたマスターレベルに復帰だ」
 ガハハと笑うリ・ズーさん。
 大笑いするトカゲ顔ってのも、なんだか変な感じなのよね。
 それはさておき、列に付いたのはどうやらあたしたちで最後だったみたい。
 マスタークラス、ビギナークラスそれぞれ八名の参加選手が整列を終える。
 いよいよ大会が始まると思うと、もう緊張で心臓がバクバク。
「落ち着け、落ち付け・・・」
 呼吸を整え、どうにか気持ちを鎮めようとするあたし。
 と、その時。
「ふん、ヒューマン以外の魔物モドキがうろちょろと。まったく目障りだな」
 マスタークラス参加選手の列の中にいた男性が、ドランさんをはじめとしたヒューマン以外の種族の選手たちを睨みつけていたの。
「控えろガイ、間もなく女王陛下がお見えになる」
「けっ・・・」
 ドランさんに諭されて、その男性は渋々といった感じながらも引き下がった。
 それにしても、よ。
 ハーフデビリッシュのあたしとしても、彼のあの物言いには少しカチンときちゃった。
「ナニ、あの人・・・」
「またガイの野郎だ。何かに付けてはドランやオレ様に突っかかって来る、イヤなヤツだ」
 苦々しげに吐き捨てたのはリ・ズーさん、どうやらあの男性とは顔見知りらしいわね。
「何処にでも排他主義者ってのはいるんだよ。あっ、俺はそんなこと考えたこともないから」
 と、これはシン君。
「ホントにぃ? シン君さっきドランさんやリ・ズーさんの顔を見て悲鳴を上げていたじゃない」
「確かにそうだったな。おいっ小僧その辺りどうなんだ?」
 あたしとリ・ズーさんとで、ちょっとシン君を苛めてみたりして。
「あ、あれはだなあ・・・」
 それに対してシン君は、バツが悪そうに視線を逸らしているわ。
 うふふ、ちょっとイジワルだったかな。
 でもこれで、だいぶ緊張も和らいだみたい。
 さあいよいよ本番よ、気合入れて行かなくちゃ!

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