サマナ☆マナ!4

戻る


13

『ただ今の試合、クリーンヒットでマナ選手の勝利。
 マナ選手、ビギナークラス優勝で〜す!』
 割れんばかりの拍手と大歓声の中、あたしの優勝を告げるアナウンスが流れた。
「優勝? あたしが・・・優勝?」
 頭の中がまだ整理できない。
 えーと、優勝ということは、今の試合に勝ったということで、つまり・・・
「マナ、おめでとう!」
「やったな、おい」
 もう興奮しきったという顔でやって来たパロさんとシン君。
 そして、あたしの下のほうからは
「おい、早くこいつをどけろ。重いだろうが」
 まだモモちゃんの下敷きになったままのリ・ズーさん。
「えっ? あっ、ごめんなさい。モモちゃんごくろうさま、召喚陣へ戻って」
 ピー。
 あたしが命じると緑に輝く召喚陣が浮かび上がり、モモちゃんはその中へ姿を消した。
 モモちゃんがいなくなったところでリ・ズーさんがあたしを肩に乗せ、よっと立ち上がる。
「ひゃあ、高い」
 突然のリ・ズーさんの行動に一瞬よろけそうになったけど、慌ててトカゲの顔にしがみついた。
「みんな、ビギナークラス優勝者マナに、今一度盛大な拍手を!」
 リ・ズーさんが叫ぶと観衆からは更に大きな拍手の嵐。
「あ、ありがとうございまーす」
 力一杯手を振って、応援してくれた観衆の皆さんに感謝の気持ちを伝える。
 ううん、観衆だけじゃないわ。
 ボビ太ボビ助ボビ美にありがとう。
 ティアちゃんにもありがとう。
 そしてモモちゃんもありがとう。
 みんなのおかげであたし、本当に優勝しちゃったんだ。
 その結果がまだ信じられない、だけど気分は最高なのでした。
 
 ビギナークラスの決勝の余韻も冷めないうちに、次はマスタークラスの決勝が始まる。
『マスタークラス決勝進出一人目は、ドラン選手〜』
 大歓声の中、ドランさんが決勝のリングへ。
 決勝戦にも関わらず、特に気負った様子もないみたいね。
「対しますは、ガイ選手です。決勝戦は君主同士の対決となりました』
 そしてガイがリング上へ姿を現すと、ダリア城前の広場の興奮はもう最高潮って感じで。
 あたしの試合の前にクレア様のお言葉があったとはいえ、各種族間のわだかまりが簡単に解消されるとも思えない。
 やはり、ヒューマンのヒーローであるガイは、根強い人気を誇っているみたいね。
「キサマには負けない」
 鋭い視線でドランさんを射抜くガイ、早くも試合用のバスターソードをドランさんへと突き付ける。
「相変わらずだな。だが俺も負ける気はない」
 いきり立っているガイに対して、ドランさんはあくまで冷静だわ。
 右手に持ったロングソードを静かにガイへと向けた。
 決勝ともなればルールの説明など不要と判断したジャッジが、試合開始のゴングを要求する。
 カーン。
「うおりゃー!」
 ゴングと同時に動きを見せたのはやはりガイだった。
 大きく踏み込んでドランさんとの間合いを詰めると、気合い一閃バスターソードを放つ。
 ドランさんはそれをロングソードで軽く受け流した。
 間髪入れずに二の太刀、三の太刀を放つガイ。
 一方ドランさんは、あくまで冷静に護りに徹している。
 それにしても・・・
「今までとガイの様子が全然違うわ」
 そうなの。
 一回戦や二回戦の時は、ガイは最低限の動きだけで対戦相手を秒殺に仕留めていったわ。
 だけど今回は自分から積極的に攻撃を仕掛けている。
 それだけドランさんが手強いからなのかしら?
 それとも何か他の理由が?
「ったくあのバカ野郎。まーだ昔の事を引きずってやがるのか」
 あたしのつぶやきに答えたというわけでもないんだろうけど、ジェイクさんが詰まらなそうに吐き捨てていた。
「昔のこと?」
「あっ・・・」
 ひょっとしたら口が滑ったのかもしれない、ジェイクさんはしまったという表情を浮かべてあたしの顔を見ているわ。
「ジェイクさん、あの二人って以前何かあったんですか?」
「何かご存じでしたら教えてください」
「興味あるな。ジェイクさん頼む、教えてくれ」
 パロさんとシン君もジェイクさんにお願いする。
「まあ別に隠すようなことでもねえよ。ガイの野郎とあのドラコンはな、昔一緒にパーティを組んでいたことがあったってだけさ」
「えっ? だってガイはヒューマン以外とはパーティを組まないって・・・」
 確かそう聞いているわ。
 ヒューマン至上主義のガイは、ヒューマン以外の種族の者とは決してパーティを組まないって。
「まだ奴が駆け出しの冒険者の頃さ。
 あの二人はパーティを組んで一緒に行動していた。だがな、とある事件があったのさ」
「事件・・・ですか?」
 以下、ジェイクさんの話はこんな感じだったの。
 
 ガイとドランさんが冒険者としてデビューしたての頃の話よ。
 二人はパーティを組んでいたそうなの。
 他にはヒューマンの戦士と僧侶、それにエルフの魔法使いとホビットの盗賊の六人編成。
 よくあるパーティのパターンよね。
 ある日の冒険でのこと、モンスターとの戦闘でパーティは壊滅的なダメージを受けた。
 ヒューマンの戦士と僧侶の二人が死んでしまい、ガイ自身も大けがを負った上に猛毒にやられてしまったの。
 まだレベルも低いパーティ、その上僧侶も死んでしまっている。
 猛毒の治療もままならないガイは、身動き取れなくなってしまった。
 そこでドランさんは、動けないガイをその場に残して救助を呼びに街へ戻るという決断をした。
 ドランさん、エルフの魔法使い、そしてホビットの盗賊の三人だけでの帰路。
 だけどその途中でやはりモンスターに襲われてしまい、生き残ったのはドランさんだけだった。
 辛くも城まで辿り着いたドランさんが救助を頼んだのが、ジェイクさんだったの。
 大けがを負ってしまったドランさんを街に残し、ジェイクさんは単身ガイの救助に向かった。
 だけど、ドランさんから聞いていた場所にガイはいなかったの。
 少し離れた場所で息も絶え絶えになって、半ば錯乱状態で発見された。
 きっと、一人でいるところをモンスターに襲われて、命からがら逃げ伸びたんだろうって。
 どうにかガイは救助されたけど、他のメンバーは全員助からなかった。
 そしてドランさんと再会したガイは、もうドランさんを拒絶するようになっていた。
 迷宮内に置き去りにされ、モンスターに襲われたガイ。
 その恐怖と絶望の中でドランさんに、ううん、ヒューマン以外の種族の人たちに裏切られたと思ったんじゃないかしら。
 それ以後ガイは、ヒューマンとしかパーティを組まなくなった。
 ヒューマン以外の者は信用できないという理由で・・・

「それって、ガイの思い込みじゃないですか。
 だってドランさんだって大けがをしながらも、ガイの救助を頼むために必死で街まで戻ったんでしょ?」
 ジェイクさんの話を聞いても、どこか釈然としないわ。
 シン君も同じ感想みたいで、うーんと首を傾げている。
「確かにな。あのドラコンも何度かガイと関係修復をしようとしたみたいだけど、ガイの野郎はそれを受け入れようとしなかった」
「一度壊れてしまった人間関係はそう簡単には直せない、ということでしょうか」
「そういうことだな」
 パロさんは納得しているようだけど、あたしにはガイの気持ちがよく分からないわ。
 それだけあたしが子供だってことなのかしら・・・
「それともうひとつ、ガイには負けられない理由があるはずだ」
「種族のこと以外にですか?」
「ああ。ヤツはクレアに憧れていたからな。おそらくこの大会で優勝して、クレアの親衛隊に入りたいとか思ってるんじゃねえか」
「クレア様の親衛隊・・・」
 そうだったわ。
 この大会の優勝者がもし希望するなら、クレア様の親衛隊に取り立てるっていう話があったものね。
 ビギナークラス優勝のあたしにはその権利があるはずだけど、もちろんお断りするつもり。
 だけどガイは真剣にそのことを考えているのかしら?
「ったく、そんなにクレアの部下になりたいかねえ? あの年上好みのボンボンは」
「ジェイクさん、いくらなんでもクレア様に失礼ですよ」
「へいへい」
 悪びれた様子もなく返事だけするジェイクさん。
 まったく、いくらクレア様と幼馴染だからって、もう少し敬う気持ちを持ってほしいものだわ。
 と、その時。
 わぁーと、耳をつんざくように一際高く歓声が上がった。
 慌てて意識を試合に戻すと、ドランさんがリング上で膝まづいていたの。
「ドランさん!」
 予想外の劣勢に思わず叫んでいた。
 ドランさんは片膝立ちの姿勢のまま、ガイの猛攻をどうにか凌いでいる状態。
 だけどガイはここがチャンスとばかりに、バスターソードをガンガンと討ち込んでくる。
 そして。
 ロングソードだけでは凌ぎ切れなくなったドランさん、ガイの攻撃を左腕を掲げて受け止める。
 ドランさんはこの大会でも、片手持ちの剣で試合に臨んでいるわ。
 だからきっと、普段の冒険の時には左手に盾を装備しているはず。
 ひょっとしたら、その時の癖が出たのかもしれないわね。
 ざくり。
 バスターソードが肉をえぐる音が聞こえたような気がして、背筋が凍りつく。
 ガイの放った一刀は、鱗に覆われた皮膚を切り裂いてドランさんの左腕に喰い込んでいた。
「くっ・・・」
 これには、さすがのドランさんも顔を歪めているわ。
 ガイの身体を足で蹴ってどうにかバスターソードを左腕から引っこ抜くと、リング上を転がりながら相手との距離を取る。
 左腕から滴り落ちる赤い血を、ぺろりと舌で舐め取った。
 君主職のドランさんは、治療呪文も習得しているはず。
 だけど試合中は呪文の使用が禁止されているから、それでケガを治療することもできない。
 せめて止血だけでもできたら良いのに。
 ジャッジが大丈夫かと確認すると、ドランさんは問題ないと首を横に振る。
「平気だ。アイツはあの程度でくたばるような柔な身体じゃねえ」
 気が気じゃなくておろおろはらはらしているあたしに、リ・ズーさんが落ち着いた声で教えてくれた。
「そうですよね。あたし、最後までドランさんを信じて応援します。頑張ってー!」
 割れんばかりの大歓声に負けないように、お腹の底から声を張り上げる。
 果たしてあたしの声は、ドランさんに届いているのかしら・・・

続きを読む