サマナ☆マナ!4

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12

 一時はどうなることかと思ったけど、クレア様のおかげで大会は続行されることになったわ。
 クレア様のお気持ちに応えるためにも、精一杯良い試合をしなくちゃね。
「マナ選手、召喚モンスターを」
「はい」
 もう三試合目ともなると、ジャッジもあたしも慣れたもので。
 戦う前に一度だけ召喚モンスターを呼び出せる、というルールを適用する。
「おうマナよ、今度はナニを呼び出すつもりだ? ウサギか、それともバンシーのネエチャンか?」
 早く試合をしたくてウズウズしているといった感じのリ・ズーさん。
 そんなリ・ズーさんに対して、あたしは自信満々に答えてやったわ。
「ふふっ、リ・ズーさんの相手はこの子にしてもらいます。
 サモン、ドラゴンパピー!」
 召喚の言葉と共にリング上に緑に輝く魔法陣が浮かびあがる。
 そしてそこから姿を見せたのは、まだ小さいながらも立派なドラゴンの姿。
 ピー! と一鳴きして白い身体を大きく揺すったのは、ドラゴンパピーのモモちゃん。
 ドラゴンパピーは文字通り、ドラゴンの赤ちゃんよ。
 お母さんは、アルビシア島に棲むファイアードラゴン。
 モモちゃんはまだ赤ちゃんとはいえ、身体はあたしよりもずっと大きいの。
 そうね、ちょっとした馬くらいかしらね。
 リ・ズーさんと比べても、少しも引けを取らないわ。
 身体も大きくて力も強いとなれば、リ・ズーさんの相手にはモモちゃん以外は考えられないでしょう。
「な・・・なんだと?」
 これはさすがに想定外だったんだと思う。
 爬虫類の目を白黒させながら驚いた様子のリ・ズーさん。
 そして驚いているのは、対戦相手だけではなかったわ。
 それまで静かに試合の様子を見守ってくれていたといった雰囲気の観衆の皆さんも、モモちゃんを見て一気にざわつき出した。
「おいおい、マジかよ」とか「ここでドラゴンが来たか」なんて声が、リングの上まで聞こえてくる。
 その一方、リング下で見ているパロさんとシン君は予想が当たったみたいね。
 納得の表情で、うんうんと頷いているわ。
「両選手とも良いですね? 決勝戦、勝ったほうがビギナークラス優勝です」
「ああ、いつでも良いぜ」
「お願いします!」
 ジャッジの言葉に強く頷くリ・ズーさんとあたし。
 それが合図となって、カーンと試合開始のゴングが鳴った。

「モモちゃん、最初は慎重に行こう」
 ピー。
 試合開始直後、まずは様子見から入ることにする。
 いきなりモモちゃんを突撃させて、もしもかわされちゃったりしたら、そのままリング下へ叩き落とされてしまうかもしれない。
 リングアウトルールは選手だけでなく、召喚モンスターにも適用されるんだから。
 その瞬間、モモちゃんは失格になってしまう。
 更に、試合中に再度呪文を使うことはルール違反。
 つまりその場合は、リング上に残されたあたし一人でリ・ズーさんと戦わなければならない。
 だけど、もちろんあたしに勝ち目なんてあるはずもなく・・・
 素直に自分の負けを認めて、リングから飛び下りることになるでしょうね。
 クレア様にも観衆の皆さんにも、そんな情けない試合だけは見せるわけにはいかないわ。
 リ・ズーさんと一定の距離を保ちながら、リング上をゆっくりと横に移動する。
 対するリ・ズーさんも、序盤は様子を見るつもりみたい。
 こちらに合わせるように、のっしりとした足取りで移動している。
 モモちゃんは時々、ピーと鳴いたり背中に生えた翼をばたつかせたり。
 リ・ズーさんを威嚇するようなしぐさを見せている。
 赤ちゃんとはいえ、そこはドラゴン。
 やっぱり、闘争本能とでもいうべきものが備わっているんだと思う。
 ううん、ひょっとしたら狩猟本能かもしれないわね。
 目の前にいるトカゲを獲物として認識しているのかもしれないわ。
「このまま睨み合ってても埒が明かねえか・・・」
 誰に言うでもなくポツリともらしたリ・ズーさん、振り上げた木太刀をモモちゃんの頭部へと叩き付けた。
 ピー!
 だけどモモちゃんは逃げるどころか、かわすことすらしなかったの。
 リ・ズーさんの一撃を堂々と頭に受ける。
 ドラゴンの鱗は鉄より硬いなんて言うけど、まさにその通り。
 真剣ならともかく、木太刀程度ではダメージを与えることすらできはしない。
「なるほど、ドラゴンは伊達じゃねえってか」
 モモちゃんに攻撃を受け止められても、慌てるそぶりも見せないリ・ズーさん。
 リ・ズーさんだって今の攻撃は本気で繰り出したわけでもないはず。
 だって、もしもリ・ズーさんが本気でモモちゃんに木太刀を叩き付けていたなら、逆に木太刀のほうが折れていたはずだもの。
 あくまで様子見、牽制といったところかしらね。
「今度はこっちから行きます。モモちゃん!」
 あたしの号令と共に、モモちゃんがピーと鳴いてリ・ズーさんに迫る。
 まだ短いながらも角の生えた頭を突き出して、リ・ズーさんに体当たり。
「うおぉ!」
 木太刀での応戦は無理と判断したのか、リ・ズーさんは両手でモモちゃんの角をガシっと掴んだ。
 そのままモモちゃんとリ・ズーさんの押し合い合戦に突入する。
「モモちゃん、負けるなー!」
「このヤロウ」
 種族的にも、リズマンはドワーフと並ぶ程に腕力が強いと云われているわ。
 当然リ・ズーさんも、力にはかなりの自信を持っているはず。
 だけどモモちゃんも負けてはいない。
 力が強いのはもちろん、四本の脚に生えた爪がリングの表面に食い込んでいる。
 じり、じりっとリ・ズーさんをリング端へと追い込んでいく。
「マナ、リング端の逆転に気を付けて」
 叫んだのはパロさんよね。
 普段の冒険でもパーティのリーダーとして指示を出してくれているパロさん。
 この大会でも何度か的確な指示を出しては、戦いを有利に導いてくれているわ。
「モモちゃん、押すのを止めて」
 あたしが指示を出すと、モモちゃんは前身するのを止めてその場で踏ん張る。
 ピー! と一鳴きしてから太い首を横に振ると、リ・ズーさんの身体が横へ跳んだ。
 リ・ズーさんはリング上で転がるように受け身を取って立ち上がる。
「チっ、あのままリング端まで持っていって引きずり下ろすつもりだったんだがな」
「その手には乗りませんよ」
 危なかったわ。
 リ・ズーさんはリング端での逆転を狙っていたんだ。
 あのままモモちゃんが押し込んでたら、リング端でお互いの体勢を入れ替えてモモちゃんをリングアウトさせるつもりだったのね。
「こうなりゃ直接マナを狙うか・・・」
 モモちゃんを相手にするのは分が悪いと踏んだのか、リ・ズーさんが素早くリング端を回り込む。
「くっ!」
 あたしも素早く反応し、リ・ズーさんとは反対側へ。
 まるでモモちゃんを軸にして、リ・ズーさんとあたしが追いかけっこをしているみたい。
 モモちゃんもそれを許さないと、リ・ズーさんに尻尾をぶつけようとしたりする。
 だけどリ・ズーさんの動きはかなり早い。
 モモちゃんの尻尾を難なくかわしてあたしを追いまわす。
 時計回り、おっとフェイントを混ぜて逆回り。
 俊敏な動きであたしを翻弄するリ・ズーさん。
 いけない・・・
 このまま体力勝負に持ち込まれたら、先にへばるのはあたしに決まってる。
「マナ、逃げ回るだけじゃダメよ!」
 パロさんの言う通り、このままリ・ズーさんから逃げ回っていても、いつか捕まってしまう。
 こうなったら・・・
「モモちゃん、頭を下げて」
 あたしの指示に的確に対応するモモちゃん、すぐさま姿勢を低くして頭を下げてくれた。
 すかさずモモちゃんの首に手を掛け、胴体の上へとよじ登る。
 翼の付け根に足を絡めるように腰を落ち着けて準備完了よ。
「おー、ドラゴンライダーだ」
「やるじゃねえか、召喚師」
 ふふっ、観衆からも驚きの声が上がっているわ。
 そう、モモちゃんとのコンビネーションとして大会前から考えていたのが、このドラゴンライダーなの。
 実際に試すのはこれが初めてだけど、うまくモモちゃんの背中にまたがることができたわ。
 さすがのリ・ズーさんもこれには驚いているみたい、すっかり足が止まってしまっている。
 それに、モモちゃんにまたがることで、背の高さでもリ・ズーさんの上を取った。
 この高さなら、木太刀でリ・ズーさんの頭をクリーンヒットできるかもしれない。
「モモちゃん、行くわよー!」
 ピー!
 あたしの号令で突進するモモちゃん、そのままドラゴンの角をリ・ズーさんへと突き付ける。
「ぐおぉぉぉ!」
 それを受けるリ・ズーさん、とっさに木太刀をモモちゃんの頭部へ叩き込んだ。
 ベシっ。
 だけど鈍い音を立てて折れたのは、リ・ズーさんの持つ木太刀のほうだったの。
「くそっ」
 リ・ズーさんは折れた木太刀を投げ捨て、またも両手でモモちゃんの角を受け止める。
 そこまではさっきもあった展開。
 だけど、今はモモちゃんの背中にあたしがいるのよ。
「たあー!」
 リ・ズーさんの頭に狙いを定め、一気に木太刀を振り下ろす。
 でもさすが戦い慣れたリ・ズーさんは、あたしのヒョロヒョロの攻撃を頭を軽く捻ってかわしてしまう。
 木太刀はリ・ズーさんの肩口を軽く弾いただけ、これではクリーンヒットとは判定してもらえないわ。
「まだまだよ!」
 立て続けに二の太刀、三の太刀を繰り出して、リ・ズーさんの頭部を執拗に狙ってみる。
 だけどリ・ズーさんは、あたしの攻撃をことごとくかわしてしまうの。
 もう、なんて反射神経なのかしら!
 だけどあたしの攻撃が当たらないなら、そこは召喚モンスターがカバーするものよ。
 モモちゃんが力強く前足を踏み出すと、リ・ズーさんの身体がズズっと後退する。
「良いわモモちゃん、そのまま押し出しちゃおう!」
 ピー!
 高らかな鳴き声と共にジリっ、ジリっと前進するモモちゃん。
「ぬおぉぉぉ」
 リ・ズーさんも必死に押し返そうとするけれども、そうやって踏ん張っているところにあたしの木太刀が降ってくるものだから。
 それをかわそうと首を捻る度に一歩、また一歩とリング端に追い詰められていく。
「モモちゃん右。あっ、左に。最後まで気を抜かないで」
 あたしの誘導で、モモちゃんはリ・ズーさんをリングの隅まで押し込んでいった。
 もう逃げ場はないわ。
 ここまで来ればあと一押し。
 だけど、リ・ズーさんも最後の逆転を狙ってくるはず。
 その予想通り、モモちゃんの巨体をいなしてあたしともどもリング下へと突き落とそうとする。
「だあぁぁぁー」
 気合いの籠った掛け声を上げて、リ・ズーさんがモモちゃんの身体を振り回す。
 それに構わず押し込もうとするモモちゃん。
 あたしもリ・ズーさんの頭部を狙って木太刀を振り下ろしていた。
 コンっと、確かな手応え。
 だけど次の瞬間、リ・ズーさん、モモちゃん、あたしと、全員がもつれるようにリング下へと落下していったの。
「きゃあー」
 悲鳴を上げながらも視界が反転。
 気が付いたらドスンと鈍い音を立てて、リング下の地面に激突していた。
「たたた・・・」
 恐るおそる状況を確認する。
 一番下になっているのがリ・ズーさん。
 その上にモモちゃんがいて、あたしは一番上だった。
 危なかったわ。
 もしもリ・ズーさんとモモちゃんの下敷きになっていたら、あたしなんてペシャンコになっていたはず・・・
「って、判定は?」
 はっと思い出して、ただ一人リング上に残っているジャッジへ視線を向ける。
「マナ選手のクリーンヒットを認めます!」
 サっとジャッジの手が上がり、それと同時にカンカンと試合終了のゴングが鳴った。
 一瞬の静寂、そして・・・
 わあぁぁぁぁぁぁぁー!!!
 ダリア城前の広場に、今までにないくらいの大歓声が湧き上がったんだ。

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