サマナ☆マナ!4

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『ただ今より、第1回女王クレア杯争奪・新春闘技大会を開催いたしまーす』
 ダリア城前の広場に明るい女性の声でアナウンスが流れた。
 それと同時にパパパパーンって、二発三発・・・ううん、五六発くらいかしらね。
 新春を迎えたばかりの冬空に、景気良く花火が打ち上がる。
 湧きあがる歓声と拍手の嵐。
 舞い散る紙吹雪に、場を盛り上げるテンポの良い音楽。
 たくさんの人と、それを目当てに集まってきている物売りの声。
「うおぉ、緊張してきたぁー!」
「うん、あたしも・・・」
 そんなお祭り騒ぎの中、その場の雰囲気に呑み込まれそうになるシン君とあたしがいたの。
「シン、しっかりしなさい! マナも落ち着いて、ね」
 パロさんがあたしたちの背後から、二人の肩をポンポンと軽く叩いてくれた。
 これで少しでも緊張が解ければ良いんだけど、それは無理な話よね。
 だってあたしとシン君は、これから始まる闘技大会に参加することになっているんだから。
 
 事の起こりはまだ年が明ける前だったわ。
 いつもお世話になっている熊の手亭で、ベアさんが一枚のチラシを差し出してきたの。
 そこにはこの闘技大会の参加者募集の告知が書かれてあったんだ。
 なんでも、ダリア城塞都市の女王クレア様が、冒険者たちの日ごろの鍛錬の成果を見たいと希望されたそうなの。
 それなら冒険者同士が腕を競い合う闘技大会を開くのが良いだろうって。
 どうせなら年明けと同時に開催して、新年を祝うイベントにしてしまおうということになったんだって。
 しかし、何しろ話が急だったものだから、肝心の参加者が思うように集まらなかったらしいの。
 熊の手亭も所属している武器防具屋組合も大会に協賛している関係で、ベアさんも何人かの冒険者に声を掛けてはみたらしいんだけど・・・
 初めて開かれるその大会がどんなものなのか分からないという理由で、断られることが多かったんだって。
 困り果てたベアさん、最後の頼みとばかりにあたしたちに声を掛けてきたってわけ。
 突然の話に戸惑うあたしたちに、ベアさんが説明してくれた大会のルールはこんな感じなの。
 出場選手はレベル13以上のマスタークラスと、レベル13に満たない者によるビギナークラスに分けられる。
 この大会は殺し合いではないので、武器も制限されるわ。
 マスタークラスの参加者はロングソードやランスなど、各自得意とする武器を使用できるの。
 ただしそれらは一般の武器屋でも広く扱われている、ごく基本的な物に限られる。
 レベル13以上の冒険者ともなれば、普段はそれなりの武器を使っている人がほとんど。
 なので、ごく普通のロングソードなんかだと、きっと物足りないでしょうね。
 それでもちゃんと刃のある、れっきとした武器には違いないわ。
 半端な気持ちで参加してたら、大怪我する可能性だって否定できないわよね。
 それに対してビギナークラスは、殺傷能力皆無の木太刀を用いて戦うの。
 レベルの低い冒険者は相手の攻撃をかわす技術もまだまだ未熟。
 だから、木太刀で戦うのはもっともなことだと思うわ。
 そしてこれが重要なんだけど、この大会では呪文による攻撃や試合中の治療回復なんかは一切禁止なんだって。
 だから、術者と呼ばれる職業・・・
 つまりは魔法使いや僧侶、それにビショップなどの冒険者は参加を見送ることになるわよね。
 別に参加するのを禁止されているわけではないんだけど、呪文の使えない魔法使いが戦いに参加したところで結果は見えているもの。
 だから当然、あたしも参加なんかできないと思っていたの。
 だけどね。
 唯一の例外として使用を認められたのが、なんと召喚呪文なんだって。
 バトルスタート前に召喚呪文を使用してモンスターを呼び出し、戦いに参加する。
 呪文の使用が戦闘中ではないというのが、認められた理由なんだって。
 ただし戦闘中は呪文の使用が禁止なので、呼び出したモンスターが倒されちゃったらそれっきりよね。
 何でこんなルールになったかと言うと、どうやらクレア様が召喚師の参加を認めるように強く希望されたから、ということのようなの。
 ひょっとしたらクレア様、あたしを大会に参加させたくてそんなことを仰ったのかしらね?
 そこまでベアさんに説明されて、あたしもシン君も迷ったわ。
 悩んでいるあたしたちにもう一押しとばかりに、ベアさんは優勝者に与えられる褒美の説明を始めたの。
 まずは金一封でしょ。
 その他に、1レベル分の経験値を付与するというものがあったの。
 そして、もし希望するならクレア様直属の親衛隊への編入も認めるって。
 それであたしもシン君もグラっと心が動いたわ。
 シン君のお目当てはもちろん金一封よね。
 そしてあたしは1レベル分の経験値。
 あたしも冒険者になって半年くらい経つ。
 でもね、
 レベル5で冒険者登録したのに、半年経った今でもレベルがひとつしか上がっていないの。
 あたしと同じ時期にデビューした他の冒険者たちは、もっとレベルが上がっている人も多いっていうのに・・・
 別に言い訳するつもりはないけど、これにはいくつか理由があると思うの。
 ひとつは、あたしたちが出会うモンスターの多くが、友好的な態度で接してくること。
 まあこれはあたしに原因があるんだろうけど・・・
 盗賊のシン君はともかく、ビショップのパロさんと召喚師のあたしは善の戒律。
 なので、友好的なモンスターには攻撃なんかできないわ。
 モンスターを倒して経験値を獲得できないとなれば、レベルアップも遠のく訳よね。
 そして、相変わらずのシン君の宝箱の解除率の低さも原因かな。
 宝箱を開ける度に罠に引っ掛かってたら、あっという間に治療回復の呪文や薬が切れてしまうもの。
 これじゃあ効率の良い修業も望めないわよね。
 そして最大の要因が、あたしたちのパーティ編成。
 一般的に後衛職と呼ばれる盗賊、ビショップ、召喚師の三人体制。
 モンスターとの肉弾戦をこなせる前衛職がいないのは、誰が見たってバランスの良いパーティとは言えないもの。
 これは余談なんだけど、以前そのことをジェイクさんに相談したら、決してそんなことはないぞって言われたわ。
 何でもジェイクさんの知り合いのパーティは、魔法使い五人に回復役の僧侶を一人加えただけの編成だったんだって。
 当然、パーティの前衛に魔法使いが配置されることになるわよね。
 驚いたあたし、そんなパーティで平気なんですかって聞いたわ。
 それに対してジェイクさん、魔法使いの誰か一人でも呪文を唱えてしまえば勝ちだからなって。
 カラカラ笑いながら答えてくれたっけ。
 その時はへぇって感心したんだけど・・・
 まさかジェイクさん、その五人の魔法使いの中の一人だったんじゃないでしょうね?
 えっと、話がそれたわね。
 とにかく今のあたしたちは、経験値を稼ぐのに四苦八苦しているのが現状なの。
 だから、大会の優勝者に与えられる1レベル分の経験値というのは何より魅力的に思えたんだ。
 そんな感じで心がグラついているところに、ベアさんの他にもパロさんやジェイクさんも参加したらどうだって勧めてくれたものだから・・・
 シン君は二つ返事で、あたしも恐々といった感じだったけど、大会への参加を承諾しちゃったんだ。
 そして年が明けて今日、いよいよ大会当日を迎えたの。

『参加選手、並びに観戦の皆様、ダリア城前の広場に集合して下さい。間もなくクレア様がお見えになられます』
 緊張するあたしたちなんかお構いなしに、再びアナウンスが流れた。
「さあ二人とも、行きましょう」
 パロさんがあたしとシン君の背中を押して移動を促す。
「よし、行くぞマナ」
「うん」
 もうここまで来たらジタバタしていてもしょうがないわよね。
 ここはひとつ覚悟を決めて行くしかないでしょうって、お城前の広場に向けて歩き出す。
 でも、何しろかなりの人が集まっているものだから、なかなか思うようには進めなかったの。
 あたしとシン君は大会参加選手だから、集合場所は一番前のほうになる。
 ごった返す人込みを掻き分け、とにかく前へ進もうと踏ん張ってみる。
 しかし、とにかく周りはあたしより身体の大きな猛者ばかり。
 前へ進むどころか、下手をすれば後ろへ後ろへと押し返されそうになる。
「マナ、こっちだ」
「あ、ありがとう」
 さっと差し出されたシン君の手を取り、次の一歩を踏み出そうとした、その時だったの。
「アイテっ!」
 と、短い悲鳴を上げるシン君。
 どうやら、前にいた人の背中にぶつかっちゃったみたい。
「大丈夫、シン君?」
「ああ。ったく何だよ、このゴツイ背中は」
 一度あたしへと振り返って答えたシン君、でも再び前へと向き直ったところで
「ひぃ」
 って、今度は引きつったような悲鳴を上げてしまったの。
 一体何ごとかと顔を上に向け、シン君の視線の先を辿ってみる。
「大丈夫か、お前ら?」
 そこにいたのは、身長が2メートルはあるんじゃないかっていうくらいの、大きなヒトだったの。
 ううん、ヒトっていうのも変かもしれないわね。
 だってそのヒトの顔は、どう見たってドラゴンそのものだったんだから。

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