サマナ☆マナ!3
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アルビシア滞在三日目。
この日も朝からパロさんの写真撮影が行われていた。
昨日の砂浜とは違う砂浜での撮影。
ここは緑も多いからまた違った感じの写真が撮れるって、マーカスさんが言ってたっけ。
水着を何着か着替えるのはもちろん、髪型やメガネなども変えつつ、何枚もの写真を撮影していく。
パロさんはもう絶好調で、マーカスさんの要望に的確に応え、なおかつそれ以上のものを見せてくれていたわ。
緊張したり恥ずかしがったりとかもなく、すっかり自信を持って撮影に取り組んでいるのが分かる。
でも・・・
あたしは何だか集中できないでいたの。
その原因はやっぱりアレよね。
昨夜寝る前にパロさんが残した言葉。
パロさんが冒険者を辞めちゃうかもしれない。
今にして思えば、その兆候はあったはずよね。
パロさんはアルビシアへ渡る船に乗っている間、ずっと日焼けしないように気を付けていたのはもちろん、食べるものや運動それに睡眠時間も。
自己管理を徹底的にやっていたわ。
それも、今回の写真のモデルのお仕事に真剣に取り組んでいたからこそ、なのよね。
ひょっとしたらパロさんは、もう船にいる時から冒険者を辞めることを考えていたのかもしれない。
でもあたしは島に帰れる嬉しさで、パロさんがそんなことを考えているなんて想像もしていなかったんだ。
我ながら、自分の能天気さ加減に腹が立ってくる。
他所のパーティなら、メンバー脱退や新加入などは日常茶飯事なんだと思う。
でもあたしにとっては、冒険者になった時からずっとパロさんやシン君と一緒にやってきたんだもん。
二人と別れる日が来るなんて、想像もできない。
そんなことをグルグルと考えていたら、昨夜はほとんど寝付けなかった。
「どうしたの、マナちゃん?」
「えっ、ううん、何でもないわ」
心配そうにしてくれるティアちゃんにも、強がって平気なふりをしてみせたんだ。
やがて午前中の撮影も終了し、みんなでお昼を取ることになったの。
メニューはパパにも手伝ってもらいながら作ったサンドウィッチと冷たいジュース。
自分で作ったはずなのに、サンドウィッチの具も分からないくらい、あたしはただ黙々とそれを口に運ぶだけだったんだ。
おしゃべりもはずまないし、何か聞かれても生返事をするだけ。
みんなの雰囲気を害してしまい申し訳ないなって思うけど、相変わらず気分は沈んだままの状態。
あたしの様子にしきりに不審がるのはシン君。
首を傾げながらも、何か聞いても良いのかどうか迷ってるみたいね。
一方のパロさんはあたしの悩みの原因について知っているから、何も言わずにじっと見守ってくれているって感じかな。
でもね、そんな重苦しい雰囲気を打ち破ってくれたのは、マーカスさんだったの。
「そうだ、マナちゃんもモデルやってみない?」
「えっ、あたしがモデルですか?」
唐突にそんなことを言われたものだから、あたしもどう答えたら良いか分からなくて。
「そんな、あたしはパロさんみたいに美人じゃないし、スタイルだって・・・」
思わず俯いてしまうと、視線の先は自分の胸部へ。
たいして膨らみもない、ほとんどまっ平らでペッタンコの胸を見ていたら、とてもじゃないけどモデルなんか無理だって思う。
「そんなことはないよ。マナちゃんは十分可愛いし、とても魅力的だよ」
「あたしに魅力なんて・・・」
「女の子の魅力は何もスタイルだけじゃないからね。表情とか仕草とか、いくらでも魅力はあるはずさ」
「そ、そうかな」
マーカスさんに言われて、少しだけその気になってきた。
パロさんもそうだけど、マーカスさんの言葉は女の子に自信を与える不思議な力が宿っているみたい。
「そうだぞマナ。世の中には胸のない女が好きな男だっているはず・・・」
「シン、余計なことを言うんじゃないの!」
「グハっ・・・」
シン君の後頭部にパロさんのゲンコツがクリーンヒット!
それを見ていたら何だかおかしくて、「ふふ」って笑っちゃった。
そうよね、ウジウジ悩んでいても仕方ないし、ここは気分を変えるのも良いかもしれない。
「それじゃあちょっとだけ、やってみようかな」
「そうこなくっちゃ。すぐに準備するから」
という訳で、あたしもモデルに挑戦することになっちゃった。
うーん、ドキドキするなあ。
「はい、右向いて。次は左を向いてみようか。そう、良いねえ」
マーカスさんに指示されるがままに、右を向いたり左を見たり。
パロさんの時もそうだったけど、これは別に撮影が目的じゃないのね。
初めての体験に固くなっているモデルさんの緊張をほぐすための、準備体操みたいなものなんだろうな。
水着姿でカメラの前に立つっていうのは、思っていたよりもずっと恥ずかしいし、ものすごく緊張するものだったの。
もちろんあたしもガチガチだったんだけど、そこはマーカスさんがうまくリードしてくれる。
最初のうちは頬が引きつってとても笑顔なんて作れなかったけど、少し慣れてきたら自然と笑えるようになってきたみたい。
「それじゃあ少しポーズを取ってみようか。そう、手を腰に回して」
顔に余裕が出てきたら、少しずつ身体の撮影に移る。
パロさんとはスタイルが全然違うから、あたしにセクシーなポーズを期待されても無駄なのは、自分が一番よく分かっているわ。
だからマーカスさんはパロさんとは違う路線で、お色気というよりは可愛らしさを引き出す方向で撮影してくれているの。
「うん、良いね。とっても可愛いよ」
「そうですか? それじゃあこんなポーズはどうかな」
「おっ、やるじゃない」
あたしもだんだん調子に乗ってきて、自分から積極的にポーズを取ってみたりして。
マーカスさんが良い感じにこちらの気分を盛り上げてくれるから、あたしもすっかり良い気分。
今まで気付かなかった自分の魅力に、改めて気付かされたりもするわ。
これはパロさんじゃなくても、モデルのお仕事をやってみたいって、女の子ならみんなそう思うんじゃないかしらね?
「そうだ。ティアちゃんと一緒に写っても良いですか?」
ふと思い付いて、そんな提案をしてみたの。
ティアちゃんもかなりの美人さんだし、スタイルだってどちらかと言えばあたしよりもパロさん寄りだし。
あたし一人も悪くないけど、ティアちゃんと一緒ならもっと良い写真になると思ったんだ。
「えっ、私も写真に、ですかぁ?」
「そう、一緒に撮ってもらおうよ。ね、マーカスさん、良いでしょ?」
「そうだね。それじゃあティアちゃんも一緒に」
「はい〜、それでは失礼します」
ティアちゃんは羽織っていたパーカーを脱いで水着姿になると、足音も立てずにあたしのそばへ。
「こんな感じでしょうか」
「うん、良い感じ、良い感じ」
ティアちゃんとの二人並んでの撮影。
女同士で腕を組んだり抱き合ったり。
まるで子猫がじゃれているみたいに、きゃっきゃっと賑やかな時間を過ごしたんだ。
最後はパロさんも交えて女三人で。
こうなるともうポーズも何もあったもんじゃなくて、ただあたしたちが海辺ではしゃいでいる様子をマーカスさんが撮影していくの。
三人の顔には笑顔、笑顔、また笑顔。
冒険者を辞めるかもしれないパロさん。
そのことで悩んでいたあたし。
それに嘆きの精のティアちゃんまで。
たくさんの笑顔がマーカスさんのカメラに収まったはずよね。
「くそぉ、俺も混ぜてくれえー!」
女の子三人ではしゃぐ様子を見ていてとうとう我慢しきれなくなったシン君、お手伝いを放り出してあたしたちの方へと突撃してした。
「ちょ、シン君、何やってるの!」
「マナ、ティアちゃん、シンを迎撃するわよ」
「了解でーす」
突撃してくるシン君に向って、三人で海の水をすくって一斉にかけてやった。
「うおぉ、俺は負けるわけにはいかねえんだ!」
何が勝ちで何が負けなんだか?
ったく、男の子の考えることって、よく分からないのよねえ。
水を浴びながらもそのスピードを緩めることなくシン君が走る。
そしてあたしたちの目前で大きくジャンプ。
「きゃあー!」
それを見たあたしたちは、その場から思いっきり撤退したの。
ドバーン。
目標を見失ったシン君は、お腹から水面に落下。
「うわぁ、あれ痛いのよねえ」
「マナ、とどめを刺すわよ」
パロさんがうつ伏せでぷかりと浮かんでいるシン君に圧し掛かる。
「うわぁ、パロ、何するんだー」
「決まってるじゃない。シンを沈めるのよ。ほら、マナたちも手伝って」
「よーし、ティアちゃん、やるわよ」
「了解、マナちゃん」
三人でシン君の身体を水の中に押し込んだ。
もちろんシン君も必死に抵抗するけど、三対一じゃ敵わないわよね。
「ゴボっ、助けてくれー。降参、降参するから」
「やったー」
「よーし、降参したシンには何か罰ゲームをやってもらおう。えーと、何がいいかしらね」
「か、かんべんしてくれよぉ・・・」
盛り上がる女子三人に対して、ガックリと肩を落とすシン君でした。
海ではしゃいでいるうちにパロさんのことで悩んでいたことも忘れて、すっかり元気になったあたしがいたんだ。