サマナ☆マナ!3
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アルビシアへの里帰りの二日目。
いよいよ今回の旅のメインイベントの、パロさんの写真撮影が始まったの。
朝からみんなで準備に大わらわ。
シン君は機材の準備やその他の荷物の運搬。
あたしはティアちゃんにも手伝ってもらいながら、パロさんが身に付ける水着などの衣装や身の回りのお世話が主な仕事。
それに、冷たい飲み物やちょっとした食べ物の用意も。
飲み物を冷やす氷はパパにお願いして呪文で作ってもらったものを、専用のボックスにたくさん詰め込んだんだ。
ホント、呪文の力ってすごいわよね。
だけどね、大量の荷物をどうやって撮影場所となる海岸まで運ぶのかが問題になったの。
昨日みたいにシン君一人が背負える量でもないしね。
困っていたらママが観光客の送迎用の馬車を出してくれたから助かったわ。
海岸に着いたら撮影の拠点となるテントの設営。
テントはきちんと全面を覆うタイプのしっかりしたもの。
撮影の合間に強い日差しを避けて休憩するのはもちろん、中で着替えなんかもできるんだから。
もちろん、パロさんが着替えている間は男子禁制だよ!
「おまたせしました」
「「・・・」」
水着に着替えたパロさんがテントから姿を見せると、男性陣の動きが完全に止まっちゃったの。
マーカスさんもシン君も、その視線はパロさんに釘付け状態。
「やだ。そんなに見ないで」
パロさんは恥ずかしそうに顔を赤くして、視線をそらしたり腕で胸元を隠したりしている。
マーカスさんの指示でパロさんが着用したのは上下とも白のビキニ。
布の面積がかなりせまくて、スタイルの良いパロさんが着るともう本当にきわどいのなんの。
普段の法衣を着た状態でも目立つお胸は、ビキニになることで更にパワーアップ。
まさに大迫力って感じよね。
同性のあたしが見ても恥ずかしいくらいだから、男の子には刺激が強過ぎるかもしれないわね。
それが証拠に、シン君てば完全にパロさんに見惚れているんだから。
「シンー、そんなに見ないの」
「あっ、ああ、スマン」
パロさんに言われてようやく我に返るシン君。
「パロさん、本当に素敵だ。僕の予想以上です」
「ありがとう」
マーカスさんに褒められれば、パロさんもまんざらでもないみたいね。
「さあ、こちらへ」
そのままマーカスさんにエスコートされて、撮影現場へ。
パロさんは美人だし、マーカスさんもどちらかと言えば美形よね。
美男美女って絵になるなあ、なんて思ってみたり。
えーと、もうどうでも良いような気もするけど、一応あたしとティアちゃんも海岸で行動しやすいように水着を着ているの。
あたしのは黄色のワンピースタイプで、胸元や腰周りに白いフリルがたっぷり付いたもの。
どうせスタイルじゃパロさんにかなうはずもないから、ここは可愛さで勝負するしかないでしょう。
ティアちゃんはグリーンのビキニ。
パロさんが着ているものよりはずっと布の面積も広いかな。
水着の上にクリーム色のパーカーをはおって、長い髪は三つ編みにまとめているの。
でもね。
マーカスさんもシン君も、あたしたちのことなんて見向きもしてくれなかったりして。
そりゃああたしは胸も小さいし背も低いし、とてもパロさんにかなわないのは分かっているけど・・・
それでもやっぱり女の子だから少しは注目して欲しいし、カワイイねとか褒めてもらいたいのにな。
別に勝ち負けの問題じゃないけど、あたしにだって女のプライドってものがあるんだから。
「ねえねえ、シン君」
「なんだマナか。で、何か用か?」
「別に用って程のことでもないんだけど・・・」
思い切ってシン君に声を掛けてはみたけど、やっぱりと言うか何と言うか・・・
シン君の反応はイマイチどころか、あたしのことなんか眼中にありません、て感じで。
「えーと、だからね」
それでも何とか食い下がろうとあたしも必死。
必要以上にない胸をそらしてみたり、両手を広げて腰をひねってみたり。
「あっ、なるほど。準備体操か。海に入る前にはやっておかなきゃだよな」
何故かシン君も一緒になって腰をひねり始めるし。
はぁ、ダメだこりゃ。
パロさんがカメラの前に立って、いよいよ撮影が始まったわ。
なんだけど・・・
「パロさん、表情が硬いなあ。もっと笑って」
「笑うって、こうかしら・・・」
初めての撮影で緊張も最高潮のパロさんは、顔はもちろん全身が固まっちゃってるの。
笑顔を浮かべるなんてとても無理、表情は引きつって直立不動。
前に見せてもらった写真のお姉さんたちとは似ても似つかない感じだわ。
「おいパロ、リラックスリラックス!」
「分かってるわよ。シンは少し黙ってなさい」
撮影のお手伝いとしてレフ板(光を反射させる鏡のような板のことね)を持ったシン君の掛け声にも、どこか上ずった声で答えるパロさん。
「パロさん、大丈夫かしら?」
「緊張しているだけですよ。すぐに慣れるんじゃないかな」
心配するあたしとは対照的に楽観的なティアちゃん。
どうでも良いけど、楽観的なアンデッドってどうなのかしらね?
「はっはっは。でもリラックスするのは大切だからね」
「そうですね」
マーカスさんは常に明るい声でパロさんに話しかける。
それにつられてパロさんも少しずつリラックスし始めたみたい。
「おっ、良いねえ。その笑顔良いよ」
初めは顔だけの写真から。
あれだけ固かった表情も、マーカスさんに褒められることで少しずつ柔らかくなってきたかな。
「右を向いて。次は左。うーん、良いじゃない」
マーカスさんの指示どおりに顔を動かすパロさん。
次第に撮影されることにも慣れてきて、表情にも余裕が出てきた感じがするわ。
「次は腕の動きを入れてみようか。そう、右手を腰に」
「ハイっ」
マーカスさんがパロさんから少し距離を取ってカメラのシャッターを切り始めた。
顔のアップから上半身のみ、そして全身へと。
少しずつ構図を広げていくのね。
そしてその度にパロさんも少しずつポーズを変えていく。
腕を曲げたり伸ばしたり、膝の折り方なんかも少しずつ角度を変えて。
「パロさん良いねえ。最高だよ」
マーカスさんに褒められて、パロさんも調子に乗って来たみたい。
特にマーカスさんの指示がなくても、お胸やおしりを強調する、ちょっと刺激的なポーズなんかも取り始めたりして。
表情も単純な笑顔だけじゃなく、ちょっと物憂げな雰囲気も出せるようになってきて。
そんなパロさんをマーカスさんがさらにあおる。
「パロさん、ちょっとメガネを取ってみよう」
「えっ、メガネですか? 分かりました」
そうなの。
今までパロさんはトレードマークとも言うべきメガネを掛けたまま撮影に臨んでいたんだけど、マーカスさんに言われてメガネに手を伸ばしたの。
「それじゃあこんな感じでどうでしょう?」
「おっ、良いねえ。次はそのメガネを水着の胸元に差して」
「はい」
最初はメガネを半ずらし、そして完全に外した状態。
さらにはそのメガネをビキニの胸元に差して、アクセサリー代わりにしてみたり。
メガネを掛けている時の知的なイメージも良いけど、メガネを外したパロさんはとても魅力的で・・・
「はぁ・・・」
「素敵よねえ・・・」
あたしもティアちゃんもすっかりパロさんに見入ってしまっていたの。
パロさん、やっぱりモデルの才能があるのかもしれないわね。
その後も何度か休憩を挿みながら、撮影は順調に進んでいったの。
ある程度撮影したところで写真をプリントして、出来具合を確認する。
水着も何種類か着替えたりして、その度にパロさんの魅力がどんどん引き出されていくのは、見ていて感動すら覚えるくらい。
女のあたしですらそうなんだから、男の子の場合はもう、ねえ。
「俺、パロと同じパーティになれて、本当に良かったよ!」
シン君も終始興奮しっぱなしだったのよね。
夕方になってママが馬車で迎えに来てくれたところで、今日の撮影は終了。
マーカスさんの「また明日も撮影したい」という要望にパロさんも快く応じていたわ。
食事やお風呂も済んだら、明日に備えて早めに就寝しましょうとなったの。
寝巻の代わりに、ママがお土産で売っているTシャツ(胸に「島の乙女」とプリントされている)に着替える。
あたしの部屋で一緒に寝るのはパロさん。
「明かり、消しますね」
「ちょっと待ってマナ。話があるの」
あたしがランプの灯を消そうとするのを、パロさんに制止された。
「何ですか?」
「あのね、ずっと考えてたんだけど・・・」
パロさんはそこで言葉を切ると、真剣な眼差しであたしを見つめてきたの。
あたしは何も言わずに、パロさんの次の言葉を待つことにした。
そしてパロさんの口から告げられた、衝撃的な発言。
「私、このモデルの仕事がうまく行ったら、冒険者を辞めようと思うの」
「えっ・・・パロさん、今なんて?」
「これまでと同じように冒険者を続けていても、この先はたかが知れているような気がするの。それだったら思い切って冒険者を辞めるのもアリかなって」
「パロさん、本気ですか・・・」
「ええ。私、モデルのお仕事に賭けてみたいの」
「そんな・・・」
あたしが愕然としている間に、パロさんは小さな声で「お休み」と言って毛布を被ってしまったわ。
パロさんが冒険者を辞めちゃう。
それは同時に、あたしやシン君とのパーティから離脱することも意味するわ。
突然訪れたパーティ存亡の危機。
あたしたち、これからどうなってしまうんだろう・・・