サマナ☆マナ!3
7
「くー、惜しかったなあ」
「マナ、手伝ってあげられなくてゴメンね」
悔しそうに地団駄を踏むシン君と、申し訳なさそうに顔を伏せるパロさん。
「二人とも、そんな顔をしないでくださいよ。これがあたしの実力ですから」
二人の優しさが嬉しくて、でも優しくされなきゃならない今のあたしが情けなくて。
そんな複雑な心境を何とか隠して平静を装っているあたしがいたの。
「残念だったね」
とマーカスさん、差し出された手には数枚の写真があった。
「これは・・・」
「今の戦いの様子さ」
マーカスさんから写真を受け取って見てみる。
ガスドラゴンの目の前で走り回るシン君。
ティアちゃんを召喚するあたし。
そして、巨大なドラゴン目掛けて真っ直ぐに突っ走る三匹のウサギたち。
写真の中でさっきの戦いの様子が克明に再現されていたんだ。
「写真ってすごいんですね」
そんなことを呟きながらも、なおも写真に見入っているあたし。
特にあたしが気になったのは三枚目のドラゴンとウサギが写ったものだった。
「やっぱり、真っ正面から突撃させたのは、いくらなんでも無謀でしたね」
「そうだね。ウサギたちも頑張ってくれていたけど、何しろ身体の大きさが違い過ぎた」
「ええ」
それはあたしも気になっていたの。
巨大なドラゴンに小さなウサギ。
身体の大きさも違えば力だって全然違う。
パパは「ボーパルバニーだってドラゴンと互角に戦える」って言っていたけど、やっぱりもう少し大きなモンスターじゃないと厳しいかもしれない。
ガスドラゴンとは言わないけど、もう少し大きくて力のある・・・
「あら、この子は何かしら?」
「えっ?」
物思いにふけっていたあたしだけど、パロさんの声で我に返った。
見るとあたしたちのすぐそばに、馬くらいの大きさのドラゴンがいたの。
「ああ、ドラゴンパピーです。その子はファイアードラゴンの赤ちゃんですね」
「へえ、これがあんなでかいドラゴンになるのか」
シン君は目の前のドラゴンパピーと少し離れたところにいるファイアードラゴンとを見比べながら、しきりに感心しているわ。
赤ちゃんとは言えすでにあたしよりも大きいその子は、ピーピーと鳴きながらあたしのそばへと歩いてきてくれたんだ。
「パパ、この子は?」
「ああ、マナが島を出てすぐくらいに生まれたんだ」
「そっか、初めましてだね」
あたしがそっと頭を撫でてやると、ドラゴンパピーは気持ち良さそうにピーと鳴いてお返事をしてくれた。
そんなドラゴンパピーを見ていて、ふとひらめいたの。
「ねえパパ、この子をもらったらダメかな?」
そうよ、この子なら。
ガスドラゴンとは言わないまでも、人間よりも大きくて力も強そう。
それにまだ赤ちゃんだから素直だし、うまく躾けてやればきっと活躍してくれるに違いないわ。
「マナ、残念だけどその子はまだ赤ちゃんだからね。まだまだ母親に甘えたい盛りなんじゃないかな」
パパがクイっと親指を向けた先では、子供の様子を心配そうに見ているファイアードラゴンがいたの。
そっか、さっきシン君が感心しながら見ていたあのドラゴンが、この子のお母さんなんだわ。
「そっか、そうだよね。まだ赤ちゃんなんだからお母さんと一緒にいたいよね」
あたしが話しかけると、ドラゴンパピーはその通りと返事をするようにピーと鳴いた。
「それじゃあ名前は? 名前が決まっていないんでしょ。せめてあたしに名前を付けさせて」
召喚契約は無理でも名前くらいはあたしが付けてあげたくて、パパにお願いしてみた。
でもね・・・
「うっ、マナが名前を付けるのか?」
「マナ、それはどうかしらねえ・・・」
何故か渋い顔をするシン君とパロさん。
「えっ、ダメですか?」
「ダメって言うか・・・なあ」
「そうよねえ」
二人とも難しい顔をして黙り込んじゃった。
おまけに。
「マナが名前、ねえ・・・」
「クスっ、今度はどんな名前を付けてくれるのかしらねえ」
困ったような表情のパパと、何か期待してニヤニヤしているママ。
「えっ? 何? どうしたの?」
一人マーカスさんだけが、訳が分からないといった顔をしているの。
「ねえパパ、良いでしょ? お願い」
「マナがそう言うなら・・・」
渋々ながらもパパが了解してくれた。
そんなパパに対して
「さすがのパパさんも愛娘のお願い攻撃には弱かったか」
シン君の突っ込みにみんな大笑い。
これにはパパも苦笑するしかなかったわ。
それはさておき。
「この子の名前よね。ドラゴン、ドラ、ドラ・・・」
あたしは早速ドラゴンパピーに付ける名前を考え始めた。
そして思い付いた、とっても素敵な名前。
「よし決めた。この子の名前はドラえも・・・」
「わー! 待ったマナ」
「マナ、それだけは・・・」
あたしが思い付いた名前を口にしようとしたら、何故かシン君とパロさんが大騒ぎするの。
おまけに。
「・・・」
パパとママも沈痛な表情で首を横に振っているし、マーカスさんなんてどう対応したら良いか分からないって感じであたしから視線をそらしてたりして。
「えぇー、どうしてー? 大人から子供まで、みんなに好かれる国民的な名前だと思うんだけど」
「あのねマナ、だからダメなの」
ママがこんなに真面目な顔で説得するなんて、一体何事なのかしら。
そんなにこの名前、ダメなのかしらねえ。
「マナ、実はあの子はメスなんだ。女の子だね。だからその名前はマズイんじゃないかな」
「ああ、そういうこと。それならそうと初めに言ってくれれば良かったのに」
パパに説明されてようやく納得したわ。
いくらなんでもあの名前は女の子向きじゃなかったわね。
「それじゃあ、えーとドラ・・・」
あたしが新しい名前を考えていると、またもママのストップが掛かったの。
「ドラの後にミとか付けるのもやめようね」
「えっ、なんであたしが付けようとした名前が分かったの? それに、どうして最後にミを付けちゃ」
「ほら、ボビ美ちゃんと名前が似てくるでしょ」
「確かにそうね。うーん、名前を付けるのって難しいなあ」
「ちょっとドラから離れてみない? そのほうが間違いが少ないはずよ」
「なるほど」
ママのアドバイスを受けて、ちょっと考え方を変えてみることにした。
まずはドラゴンパピーを観察して、特徴を捉えることにしようかな。
母親のファイアードラゴンは比較的赤っぽい色をしているのに、ドラゴンパピーのほうは全体的に白っぽい感じよね。
そしてしきりにピー、ピーと甲高い声で鳴くんだ。
「そうだ、『ピーちゃん』でどうかな?」
「ピーピー鳴くからピーちゃん? もうひと工夫欲しいかな」
「えーと、それじゃあ・・・ピーちゃんピーチャン・・・ピーチ? そうだ、この子の名前は『モモちゃん』にしよう」
「モモちゃん? どうしてまた」
「ピーちゃんからピーチでしょ。ピーチは桃のことだから、モモちゃん。それに・・・」
あたしはそこでドラゴンパピーの翼をそっとめくってみせたの。
「ほら、翼の裏はこんなに綺麗なピンク色なの。ピンクって桃色っていうじゃない。だからモモちゃん、どうかな」
「なるほど、それでモモちゃんね。良いんじゃない」
「あとはこの子が気に入ってくれるか、だな」
ママもパパもこの名前には納得してくれたみたい。
あとは本人(本竜?)が気に入ってくれるかどうか、だけど。
「ねえ、あなたのお名前は『モモちゃん』ってどうかな?」
ドラゴンパピーの頭を優しく撫でてあげながら聞くと、ピーピーと鳴いてお返事をしてくれたの。
どうやら気に入ってくれたみたいね。
「大丈夫みたい。この子も喜んでくれているわ」
「本当か? まあ、マナが言うんだったらそうだとは思うけど」
「ねー、気に入ってくれたんだよね、モモちゃん」
最後まで不審そうなシン君を尻目にあたしはモモちゃんの頭を撫でたり首に抱き付いたり。
仲良くなるためにはスキンシップは欠かせないもの。
でもそうなると、やっぱりこの子が欲しくなってきちゃったりして。
「ねえパパ、やっぱりモモちゃん、あたしが貰ったらダメかな?」
「マナ、それだけは勘弁してやってくれないかな」
あたしのお願いも今度はパパにきっちりと断られちゃったの。
そこをすかさずシン君の突っ込み。
「おい、パパさんがマナのお願いを突っぱねたぞ」
「きっと苦渋の決断なんでしょうねえ」
なんて、パロさんまでシン君に調子を合わせちゃってるし。
二人にからかわれてバツの悪そうな顔をしているパパと、そんなパパに笑顔を見せるママ。
そんな二人の様子を見られて、帰ってきて良かったなって改めて思ったんだ。