サマナ☆マナ!3

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「そういうことなら、俺も仲間に入れてくれよ」
 あたしとガスドラゴンとの戦いが決まると同時に、勢いよく手を挙げて参戦を表明したのはシン君だった。
 腰に下げたホルダーから短剣を抜いて、早くも戦闘態勢完了かしら。
「シン君、助けてくれるの?」
「ああ、俺たちはパーティの仲間だからな。パパさん、良いだろ?」
「好きにすると良い」
 シン君が確認するのに嬉しそうに頷くパパ。
 どうやらこういう展開になるのはお見通しだったみたい。
「もちろんパロも一緒に戦うよな?」
 シン君は当然とばかりにパロさんに視線を向けた。
 もちろんあたしも、パロさんも一緒に戦ってくれるものとばかり思っていたわ。
 でも・・・
「ごめんなさい。私はちょっと・・・」
 パロさんは済まなそうに言葉をにごすと、法衣の袖をいじったり自分の腕を抱いたりして。
 しきりに何かを気にしているような仕草を見せるの。
「あっ、そうか。写真・・・」
 そうそう、忘れてた。
 パロさんはこれから写真のモデルになるんだっわ。
 その前にお肌に傷や火傷の痕なんか作ったら台無しじゃない。
 あたしが冒険者になってから、ずっと三人で戦ってきたけど、今回はあくまであたしの問題なんだから。
 パロさんに無理を言うわけにはいかないわよね。
「分かりましたパロさん。あたしとシン君の二人でやってみます」
「ゴメンね、マナ」
 メガネの奥の瞳が辛そうに伏せられる。
 パロさんも色々と考えることがあるんだろうな。
「それじゃあ準備は良いかない、マナ?」
「パパ、ちょっと待って。シン君と打ち合わせをするから」
 いくら2レベルまでとは言え、パロさんがいないとなるとまるっきり呪文が使えなくなる。
 そんな状態で何の策もなくガスドラゴンに挑むなんて無謀だわ。
 思い付いた作戦を、ぼそぼそとシン君に耳打ち。
「〜だから、お願いね」
「よーし、それで行こう」
 作戦も決まってシン君と二人、ウンと頷き合う。
 さあ、張り切って行ってみよう!

 ガスドラゴンは地下迷宮でも比較的よく見られる、わりとポヒュラーなドラゴンよね。
 身体全体を覆う緑の鱗から、グリーンドラゴンと呼ばれることもあるわ。
 ファイアードラゴンなどに比べると一回り小さいけれど、それでもドラゴンはドラゴン。
 決して侮って良い相手なんかじゃないわよね。
「マナちゃんたち、どんな作戦を見せてくれるだろうね?」
「さあ・・・でも、負けないでほしいわ」
 あたしたちの後方で戦い行方を見守るマーカスさんとパロさん。
 二人の不安そうな声があたしの所まで聞こえるわ。
「マナー、頑張るのよー!」
 それに混じって聞こえるのはママの応援の声。
 かつては熟練のバルキリーだったママなら、ガスドラゴンなんかに引けは取らないはずよね。
 あたしだって冒険者になって四か月、今までの修行の成果をここで見せなきゃ。 
「二人とも 良いな? それじゃあバトルスタート!」
 時が満ちたとばかりに、パパが開戦を宣言する。
「シン君!」
「よっしゃあ! まずは俺からだ」
 パパの声と同時に動き出したのはシン君、打ち合わせ通りガスドラゴンの正面へと走り込む。
「シン、ムチャしないで!」
 思わず叫んだのはパロさん。
 武器は短剣だけだし革鎧も装備していないシン君が、真っ正面からドラゴンへ突っ込むなんてまるで自殺行為よね。
 でも、これはあたしたちの作戦なんだから。
 目の前に突っ込んできたシン君に対して、ガスドラゴンは前脚を持ち上げ、そして一気に叩き付ける。
 でもシン君は盗賊ならではの素早さを活かし、ガスドラゴンの攻撃をひらりとかわしてしまうの。
 そう、あたしがシン君に頼んだのは、ガスドラゴンの注意を引き付けるオトリ役。
 身が軽いシン君にしかできない役割のはずよ。
 そして。
「サモン、バンシー!」
 あたしはすかさず召喚の呪文を唱え、バンシーのティアちゃんを呼び出した。
 緑色に輝く召喚陣の中に、薄布一枚を纏っただけの赤い髪の綺麗な女性の姿が浮かび上がる。
「マナちゃん、お呼びかしら」
「ええ。ティアちゃん、ガスドラゴンからちょっと吸っちゃってくれる?」
「ハイ、了解です〜」
 あたしの指示を受けたティアちゃんが、足音すら立てずにガスドラゴンに迫った。
 ガスドラゴンの注意は、目の前でうろちょろしているシン君に釘付け。
 その隙を突いて、ティアちゃんの細い腕がガスドラゴンの太い脚に食い込んだ。
 もちろんガスドラゴンは、その程度で倒れるはずもない。
 でもティアちゃんの本領はここからよ。
「ゴメンね、ちょっと精気を吸わせてもらうわ。エナジードレイン!」
 ティアちゃんの瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのは、単にバンシーとしての特徴だから?
 それともティアちゃんには、他に何か思うことがあったのかもしれないわね。
 ティアちゃんに精気を吸われたガスドラゴンの動きが急に鈍くなった。
 そこであたしは作戦の仕上げに掛かることにしたの。
 今のあたしのレベルでは、違う種類の召喚モンスターを同時に呼び出すことはできない。
 だから、他のモンスターを召喚したい時は、先に召喚しているモンスターを一度戻さなければならないの。
 かなり効率が悪いけど、実力が足りないから仕方ないわ。
「ティアちゃん戻って!」
 あたしが召喚陣を指差すと、ティアちゃんは言葉もなくその召喚陣に姿を消してしまったわ。
 そしてすかさず新たなモンスターを召喚する。
「サモン、ボーパルバニー!」
 あたしの呼び掛けに応えて新たに召喚陣から飛び出したのは、お馴染みボビ太・ボビ助・ボビ美の三匹のボーパルバニー。
「みんな、ガスドラゴン目掛けてストレートフォーメーション!」
 号令と共に三匹が一直線に隊列を組み、そのままガスドラゴン目掛けて突撃する。
 身体の大きなドラゴンを小さなウサギが三匹で取り囲んでも、それぞれの動きを分断されてしまう恐れがあるからね。
 ここは三匹が束になって、真っ正面から突撃するしかないでしょう。
「昔、ボビーはガスドラゴン相手に互角に戦ったが・・・果たしてマナのウサギたちはどうかな?」
 パパがポツリと漏らした。
 ママたちが初めてこの島にやって来た時、ボビ太たちの先々代にあたるボビーは、巨大なガスドラゴンを相手にして一歩も引けを取らなかったってパパが言っていたっけ。
 ガスドラゴンとボーパルバニーは、共に食い食われるライバル関係なんだって。
 お互いに一歩も譲れないドラゴンとウサギが、それぞれの本能のままに激突した。
 しかし、ティアちゃんに精気を吸われて弱っているはずのガスドラゴンは、正面から堂々とボーパルバニーの突撃を受け止めたの。
 先陣を切って飛び跳ねたボビ太を、ガスドラゴンは太い前脚で薙ぎ払う。
 次に襲い来るボビ助には鋭い牙を剥き出しにして追い回す。
 でもそれでガスドラゴンの体勢が崩れたところを逃さずに、ボビ美が首筋へと長く伸びた牙を突き立てる。
 しかしガスドラゴンはその攻撃を読んでいたかのように、長い尻尾を振り回してボビ美へと叩き付けたの。
「ああ、みんなっ!」
 相手を取り囲むトライアングルフォーメーションは撹乱の戦法。
 それに対して真っ直ぐに突撃するストレートフォーメーションは一発勝負を狙う戦法なの。
 その一発を外されれば、こちらの負けが確定してしまう。
 明らかにあたしの作戦ミスだったわ・・・
 そこへ。
 ガスドラゴンが周囲の空気を大きく吸い込み、勝利を決定的にするブレスを吐き出した。
「みんな、戻って!」
 間一髪、あたしの号令で三匹のボーパルバニーは召喚陣へ逃げ帰ることができたわ。
 でも標的を失ったドラゴンのブレスは、あたし目掛けて襲い掛かり・・・
「きゃあー」
 回避も相殺もできずに立ち尽くすあたし、もうダメかと思った。
 その時。
「コルツ!」
 あたしの前に立ちはだかったのはパパだったの。
 素早く呪文を唱えると目の前に呪文障壁を作り出し、ガスドラゴンのブレスを弾き返してしまったんだ。
「パパ・・・」
「この勝負、マナの負けだな」
「うん、そうだね・・・」
 パパに助けられて気が抜けたあたしは、その場にどっとへたり込んでしまったの。
 何ていうか、腰が抜けたってこんな感じなのかしらね。
「マナー!」
「ママ、大丈夫だから。心配かけてゴメンね」
 あたしを心配して駆け寄って来てくれたママを手だけで制する。
 今のあたしの顔をママに見られたくなかったし、それに何よりここでママに甘えてちゃダメだ。
 あたしは全身に力を入れ、自力で立ち上がった。
 それにしても・・・完敗だったわ。
 ガスドラゴンを召喚モンスターとして契約するどころか、下手をしたらあたし自身が命を落としかねない状態だった。
 パパとママにダリアで頑張ってきた成果を見せるどころか、無様な姿をさらす始末。
 これじゃあママたちを心配させるだけじゃないの。
 あたし、まだまだ未熟なんだなあ・・・

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