サマナ☆マナ!3

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 マーカスさんが熊の手亭を訪れて急遽決まったアルビシアへの里帰り。
 その三日後の朝、あたしたちは大陸を出る船に乗り込んでいた。
 何しろ話が急だったものだからママにお手紙も出せなかったけど、突然帰って驚かせてやるのも面白いかもね。
 アルビシアを出た時は一人だったし、何もすることがない船の旅は本当に退屈だったわ。
 でも今回は全然違うんだなあ。
 パロさんにシン君、そしてマーカスさんも加わって、お話の相手には事欠かないもの。
 それに、ね。
 船の上で呪文の類を使うのは本当はいけないことなんだけど、特別に船長さんから使用許可を貰ったんだ。
 この船長さん、あたしがアルビシアを出た時の船長さんと同じ人で、あたしのことを気にかけていてくれたんだって。
 だから、あたしがダリアで冒険者として頑張っているって話したら、とても喜んでくれわ。
 船長さんのご厚意に甘えて、召喚呪文を使わせてもらったの。
 ボビ太・ボビ助・ボビ美の三匹のボーパルバニーを呼び出しては、甲板を競争させてみたり。
 バンシーのティアちゃんと楽しくおしゃべりしたり。
 はたまたロックのカンベエを呼び出して背中に乗って、空からの景色を楽しんだりもしたわ。
 特にカンベエは大人気で。
 あたしたちだけじゃなく他のお客さんや船員さんまでもが、背中に乗せてほしい、空を飛びたいっていう申し出が殺到したの。
 中には、料金を支払うから、なんて言い出す人もいたりして。
 でもいくらなんでもカンベエの体力が持たないからって、そこは人数や時間を制限させてもらったわ。
 そんな感じで、退屈どころか本当に楽しい船の旅が続いたんだ。
 
 ダリアを出港して四日目の朝。
 あたしはそれまで着ていた秋冬用のローブから、夏用のローブに衣替えすることにした。
 そろそろアルビシアも近くなってきて、季節も一気に夏に逆戻りしてきたからね。
 ジェイクさんと初めてベアさんのお店を訪れた時に買いそろえたローブなんかは、その直後の指輪探し大会の時にダメにしちゃったんだけど・・・
 今着ているのはそれに近い感じのピンクのローブ。
 帽子はアルビシアにいた時から愛用していた白いものを合わせてみた。
 そしてあたしの右手の薬指には、シルバーに輝く小さなリング。
 これはダリアの女王・クレア様からいただいた大切な指輪なんだ。
 暑いから防寒のためのマントなんかは、もういらないよね。
 身支度が整ったところで甲板に出ると、何故かいまだに冬服のままのシン君がいたの。
 シン君が着ているのは紺色の厚手のトレーナー。
 とてもじゃないけど、南の島で過ごせる恰好じゃないわよね。
 シン君は額から汗を浮かべながら船べりにもたれ、少しでも涼しさを求めて日影から日影へ移動しながら海風に吹かれていたんだ。
 その様子が何だかおかしくて。
「シン君、おはよう」
「ああ、おはよ。にしても朝から暑いよなあ・・・」
「シン君、夏服持ってこなかったの?」
「ああ。ダリアはかなり寒かったからな。夏用の服のことなんてすっかり忘れてた」
「もう、シン君たら」
 思わずクスリと笑っちゃった。
 そもそもパロさんの水着の撮影をするためにアルビシアへ行くんだから、暑いのは当然のはずなのに。
 それをうっかり忘れているなんて、いかにもシン君らしいわよね。
「パロはどうした?」
「うん、何でもあまり日焼けしないようにってマーカスさんに言われているんだって。だから日中は船室で過ごすそうよ」
「写真のモデルってのも大変だな。日差しがきつくなってきたから、油断しているとあっという間に日焼けしそうだ」
「そうだね。あたしも気を付けなきゃ」
 魔族出身のパパが白い肌だったおかげもあって、あたしはそれ程日焼けするほうでもないんだ。
 それでも南の海の日差しは強烈だから、油断は禁物かな。
 ましてや日焼けしないようにとなると、どうしても日の当たらない船室で過ごさざるを得ない。
 その他にもパロさんは太らないように食事を制限したり美容体操したり、お肌の手入れに余念がなかったりと。
 ただ写真を撮ってもらうだけなんて簡単に考えていたけど、ベストな状態を保つためには何かと大変みたい。
 あたしにも何かできることがあったら、少しでも協力してあげなきゃって思うわ。
 一方マーカスさんは、写真の機材を点検したり、パロさんにモデルとしての指導をしたり。
 順調に撮影の準備を進めているようなの。
 里帰り気分で浮かれたあたしと違って、真剣にお仕事に打ち込んでいるんだなって感心しちゃうわ。
 と、あたしがそんなことを思っていると。
「あー、暑い。もうこんな服は脱いじまえ!」
 突然発狂したシン君、着ていたトレーナーをガバっと脱ぎ捨てたの。
「きゃあー! シン君、いきなり何を・・・」
「だって暑いんだからよ。仕方ないだろ」
「でも・・・」
 いくら男の子だからって、上半身裸でいられたらこっちがドキドキしちゃうんだから。
 あたしは手で顔を隠しながら、それでも指の隙間からシン君の様子をチラ見したりして。
 シン君、痩せているようで、意外と引き締まった身体付きなんだなあ・・・
 って、上半身裸の男の子・・・?
「ぷっ」
「ん? マナ、どうかしたか」
「ううん、ちょっとジェイクさんのことを思い出しちゃって」
「ジェイクさんがどうしたんだよ」
「ジェイクさんが子供の頃、夏場に暑いからって今のシン君みたいに裸になろうとしたんだって」
「裸って、ジェイクさんは女だろ」
「だよねえ。でもジェイクさんは自分が女の子だって自覚があまりなかったみたいなの」
「そういえばジェイクさんて、子供の頃は男の格好してたとか何とか聞いたな」
「そうそう。だからその度にママに怒られていたんだって」
「あのジェイクさんを叱るって、マナんちの母ちゃんはどんななんだよ?」
 うーむ、と腕組みをして考え込むシン君。
「別に、普通だよ」
「昔はバルキリーだったんだろ? ひょっとしたら筋肉ムキムキの大女だったりして」
「もう、そんなはずないでしょ」
「でもよお、ベアさんとも張り合えるくらいだって言うからなあ」
「ははは・・・」
 いったいシン君の頭の中では、ママはどんな姿になっているのかしら、ねえ?

 そんな感じで日中は日差しを避けながら、シン君たちとおしゃべりをしたりして過ごしたの。
 そしてその日の夜のこと。
 あたしはひとり甲板に立って、海からの風に吹かれていたんだ。
 明日にはアルビシアに到着するって聞いてたし、とてもじゃないけどワクワクして今晩は眠れそうもない。
 そこへ。
「マナちゃん、ひとりかい?」
「マーカスさん」
「隣、いいかな」
「どうぞ」
 あたしが促すと、マーカスさんはすぐ隣の船べりにもたれかかった。
「もうすぐアルビシアだね」
「はい。とても楽しみです」
「ところで、アルビシアにはドラゴンの伝説があるんだって?」
「そうですよ。あたしのパパは、ドラゴンの伝説の研究をしたり、ドラゴンの種の保護に取り組んだりしているんです」
「マナちゃんのお父さんが。それは知らなかったなあ」
「島に付いたら是非パパの話を聞いてください」
「それは是非ともお願いしよう」
「マーカスさんは、ドラゴンとか興味がおありなんですか?」
「ああ。僕も昔は冒険者だったからね。多少なりとも興味はあるかな」
「パパも喜びます」
「マナちゃんは召喚師だよね。いつかはドラゴンを召喚して操ってみたいとか思わない?」
「それはいつかはそうなれたら、とは思いますけど・・・でも召喚師は決してモンスターを操ったりするわけじゃないんですよ」
「違うの?」
「ええ。召喚師とモンスターは共に心を通わせたパートナーなんです。だから、一方的に操るとか使役するとかいう言い方、あたしは好きじゃありません」
「なるほど。いかにもマナちゃんらしい考えだね」
 ふっといつものさわやかな笑顔を浮かべるマーカスさん。
 って、あれ?
 今のマーカスさんの笑顔の中に、何か冷めたような感じがしたのはあたしの気のせいかしら。
 それに「マナちゃんらしい考え」っていうことは、「自分は違う」っていう意味なんじゃないかしら・・・
「どうかした、マナちゃん?」
「いいえ、何でもありません。で、何でしたっけ」
「ドラゴンだよ、ドラゴン。良いなあ、憧れるよねえ、ドラゴン」
「くすっ、マーカスさん、子供みたい」
「子供はないだろ、マナちゃん」
「だって。アハハ」
 マーカスさんとはその後も、島のことやドラゴンのことなどのたわいない会話をして過ごしたわ。
 さっきの嫌な感じは、どうやらあたしの思い過ごしだったみたい。
 でも。
 何か気になるんだよねえ・・・

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