サマナ☆マナ!3
14
「まさか・・・ゴールドとブラックをいとも簡単にだと?」
「マーカス君、あれくらい簡単にドラゴンを御せない者が、ドラゴンの洞窟の管理をできるわけがないだろう」
愕然とするマーカスに対して汗一つかかないパパが迫る。
「さあ、観念してもらおうか。たとえドラゴンを手中に収めたとしても、船に乗らない限り君はこの島から出られないんだ。我々がそれを許すとでも?」
「ふっ、島から出られない? 誰がおとなしく船で帰ると言ったのかな」
何故か余裕のマーカス。
だって船に乗らないとこの島からは出られないはずなのに・・・
って、そこで気が付いたわ。
あたしだってさっき、船でしか渡れない湖を飛んで渡ったじゃない。
「マーカス! あなたまさか・・・」
「そのまさかだよマナちゃん。君が湖を渡ったのと同じ手を使えば良いのさ。
サモン、ワイバーン!」
マーカスが叫ぶと浮かび上がる赤い召喚陣。
そしてその中には、強制契約によって捕らえられた巨大な翼竜がいたの。
「ワイバーン!」
驚くあたしたちを尻目にマーカスは颯爽とワイバーンの背中にまたがり「そらっ、飛べ!」と命じる。
ぐえっとワイバーンが一鳴きしてから翼をひるがえすと、その身体がふわりと浮き上がり、夜の闇に吸い込まれていった。
「しまったな。俺たちはさすがにはドラゴンの傍から離れるわけにはいかない・・・」
「そうね、あなた。この子たちを放っておくわけにはいかないわ」
パパとママは気を失って倒れているゴールドドラゴンとブラックドラゴンの面倒を見なければならないんだ。
この場を離れた隙に二頭のドラゴンが目を覚まして、再び暴れ出さないとも限らないもの。
そんな状況を把握したパロさんが、あたしたちに指示を出す。
「マナ、カンベエでマーカスさんを追って。私とシンは馬車で追い掛けるから」
「分かりました。カンベエ!」
ケーン。
あたしが呼ぶと、家の前で待機していたカンベエがすぐに飛んできてくれた。
「それじゃあ、マーカスを追い掛けます!」
「頼んだわよ」
「ハイ。行け、カンベエ」
カンベエにまたがったあたしがワイバーンに乗って逃げるマーカスをビシっと指差すと、カンベエが翼を羽ばたかせた。
マーカスを乗せたワイバーンは島の中心から海岸方面へと飛んでいるわ。
もっとも、アルビシアは小さな島だから、どっちへ向かっても海に出るんだけどね。
でも、アルビシアから大陸までは、船で一週間ほど掛かる距離がある。
空を飛べばもう少し早いかもしれないけど、それにしても一日や二日で渡れる距離じゃないはず。
途中の小島で休憩するにしても、ワイバーンで大陸まで渡るなんていくらなんでも無謀よ。
海に出る前に何としてでも止めなくちゃ。
幸い、ワイバーンの飛行速度はそれ程早くないみたい。
本来ならもっと速く飛べるはずだけど、背中に人を乗せるのに慣れていないワイバーンは、その力を十分発揮できないでいるのね。
おまけに、召喚師と召喚モンスターの信頼関係もないままだから、動きがちぐはぐ。
右に曲がったり左にぶれたりで、真っ直ぐ飛ぶことすらできない状態。
それに対してカンベエは絶好調で、ワイバーンとの距離をぐんぐん縮めているわ。
ワイバーンの進路が大きく右に傾く。
「カンベエ、右よ」
ケーン。
ほら、あたしとカンベエの呼吸もばっちりでしょ。
程なくして。
「何をやっている、しっかり飛べ!」
ぐえぇぇ。
ワイバーンとの距離が縮まってマーカスの喚き声が聞こえるようになった。
ほら、やっぱりね。
ワイバーンをうまく操れないものだから、苦戦しているようだわ。
マーカスはワイバーンの身体を叩いたり怒鳴り散らしたりしている。
それに対してワイバーンも必死に身体をくねらせて、まるでマーカスを振り落とそうとしているみたい。
召喚師と召喚モンスターの間で最も重要な信頼関係がないのよ。
あたしだったらあんなことはしないわ。
身体を叩くんじゃなくて撫でてやるし、怒鳴るんじゃなくて褒めてやるの。
召喚師と召喚モンスターの信頼関係は、一日や二日で簡単に築けるものじゃない。
日頃のスキンシップの積み重ねが大切なの。
でもマーカスは信頼じゃなくて力で無理やり従わせようとしている。
確かにレベルや技術は高いかもしれないけど、あたしから言わせてもらえば召喚師としては最低だわ。
やがて、ワイバーンが海岸線に差し掛かった辺りで急に速度が落ちた。
「何をやっている? 島を出ろ、海を超えるんだ!」
相変わらずマーカスは怒鳴り散らすけれども、もうワイバーンは言うことを聞くつもりはないみたい。
かわいそうに、きっと島から出ることに抵抗を感じているのね。
でも、ここがチャンスだわ。
「カンベエ急上昇よ。そして上から襲い掛かるの」
あたしの指示に、カンベエは鳴き声を上げずに適格に応じる。
さすがカンベエは分かってる。
これから獲物に襲い掛かるのに、声を上げて自分の存在を知らせるようなヘマはしないわ。
十分に高度を取ったところで一気に反転、そのままワイバーン目掛けて急降下!
「ナニっ!?」
これには虚を突かれたのか、マーカスも完全に慌ててしまっていたわ。
ワイバーンを制御するのに精一杯で、あたしたちが後を追い掛けていたことに気付かなかったのね。
カンベエが上からワイバーンに重なる形で、空中でもつれ合う。
もしもワイバーンとロックが一対一で普通に戦えば、きっとワイバーンのほうが強いはず。
でも今は条件が違い過ぎる。
向うは信頼のない召喚師を背中に乗せているのに対して、こっちは意思の疎通はバッチリ。
そして空を飛ぶモノ同士の戦いは、上を制したほうが圧倒的に有利なのは言うまでもないわ。
おまけに。
「うわっ、やめろ! 何をする・・・」
カンベエとワイバーンの間に挟まれる位置にいるマーカスは、たまったものじゃないはずよね。
カンベエの鋭いカギヅメがワイバーンの身体に食い込む。
それを振りほどこうともがくワイバーン。
やがてワイバーンは完全に体勢を崩してしまい失速、そのまま海へと落下していく。
「うわぁぁぁー」
ワイバーンと共に海へ放り出されるマーカス。
バシャーンと派手な水しぶきを上げて墜落してしまった。
「大丈夫かしら・・・」
マーカスが落ちた場所はまだ海岸線からそう離れていないから、海はそれ程深くないはず。
上空から心配しつつ見ていると、マーカスひとりが水面に浮かんできた。
ワイバーンの姿が見えないから、きっと水中で召喚陣の中へ戻ったんだわ。
いえ、戻ったと言うよりは、マーカスを見捨てて逃げてしまったと言うほうが正しいかもね。
暗い夜の海を、ひとり海岸へと泳ぎ始めるマーカス。
「カンベエ、下りるよ」
ケーン。
先回りでマーカスが向かう砂浜へ、一足先に着陸する。
「ご苦労さま、しばらく休んでいてね」
地底湖での脱出からマーカスの追跡まで、カンベエも疲れているはずよね。
召喚陣へ戻るように促してやると、カンベエはケーンと一鳴きして姿を消してしまったの。
そこへ。
「マナー!」
「おーい、大丈夫かー?」
ママの馬車に乗ったパロさんとシン君が、海岸へと駆け付けて来た。
「パロさん、シン君、こっちー!」
「良かった、マナ無事だったのね」
「マーカスはどうした?」
「マーカスならあそこに」
あたしが指差す先では、ようやく足の届く場所まで泳いできたマーカスが息も絶え絶えに立ち尽くしていた。
「さあマーカス、観念してもらうわよ」
「はぁ、はぁ・・・何故だ? ゴールドドラゴンにブラックドラゴン、それにワイバーン・・・これだけのドラゴンを手駒にしながら、何故勝てない・・・」
「まだそんなことを言っているの? ドラゴンたちはあなたの手駒なんかじゃないのよ。それが分からない限り、あなたに勝ち目はないわ」
「召喚モンスターはお友達かい、マナちゃん? そんな甘ったるい考えは僕は認めないよ」
「何言ってやがる。もうお前に手はないんじゃないのか?」
「そうよ。諦めておとなしくなさい、マーカスさん」
シン君とパロさんがマーカスにぐいっと迫る。
「手がない? 諦めろ? 冗談はよしてくれ。僕にはまだ切り札がある。諦めたりなんかしないよ」
この期に及んでなお不敵に笑うマーカス。
「切り札って、一体・・・」
「僕は負けない! サモン・・・」
マーカスが叫ぶと同時に、あたしたちの目の前に赤く煌めく召喚陣が浮かび上がる。
「ファイアードラゴン!」
そして召喚されるドラゴンの名前が告げられた。
マーカスの呼び掛けに応えて、ドラゴンの洞窟の中でも最強と云われる真紅のドラゴンが、あたしたちの目の前に姿を現した。