サマナ☆マナ!3
13
ドラゴンの神殿からあたしの家へは目と鼻の先。
空を飛べるカンベエなら文字通りひとっとびで家まで辿り着いてしまうわ。
着地と同時にカンベエの背中から跳ねるように飛び下りる。
「ゴメン、このまま待っててね」
少しの時間も惜しいからカンベエをその場に待機させたまま、慌てて家の中に飛び込んだ。
「大変、大変なの!」
「どうしたマナ? んっ、マーカス君はどうした」
いきなり家に飛び込んだあたしに驚いた様子のパパ。
「そのマーカスさん・・・いいえ、マーカスが!」
「なになに、どうかしたの?」
そして、何が起こったのかと奥から出てきたママ。
ママってばお風呂から上がったばかりなのか、下着の上からTシャツを着ただけの格好で髪も濡れたままじゃない。
って、今はそんなことを気にしている場合じゃないわ。
「何事だ?」
「どうかしたの?」
シン君とパロさんもリビングに集まってきたわ。
二人とももう寝るところだったのか、寝巻代わりのTシャツなどのリラックスした格好のまま。
「あのね、大変なの」
「マナ、落ち着いて。何が大変なのか話しなさい」
「うん。すぅ・・・はぁ・・・」
あたしは深呼吸して心を落ち着かせてから、一気に話し出した。
「あのね、マーカスがドラゴンたちを強制契約で捕まえちゃったの!」
「強制契約?」
「ドラゴンを捕まえた?」
「マーカスさんが?」
「どういうこっちゃ?」
順に、ママ、パパ、パロさん、シン君ね。
みんな一様に眉をひそめて、あたしの話の続きを待っているわ。
「だから、マーカスは実は召喚師だったの。それもかなりのレベルのね。それで・・・」
あたしがそこまで説明したところで。
ぐおぉぉぉ・・・
ドラゴンの神殿のほうから、アルビシア島全体を揺るがすようなドラゴンの咆哮が聞こえてきたの。
「まさか・・・」
あたしは説明を途中で放り投げ、家から飛び出した。
すると。
「うそでしょ・・・」
ドラゴンの神殿の前に巨大なドラゴンが立ちはだかっていたの。
月灯りを浴びたその姿は、全身が金色に輝いていた。
「ゴールドドラゴン・・・どうしてあんな場所に」
「もう一匹いるぜ。真っ黒いヤツ」
シン君が指差した先には、闇夜に溶け込みそうなくらいに漆黒な身体のドラゴン。
「ブラックドラゴンか。ゴールドとブラックはどっちも気性が荒いからな。二頭が同時に暴れ出したらマズイな」
ドラゴンの姿を目で追うパパとシン君。
驚いているのは人間だけじゃないわ。
家の前で待機させていたカンベエも、しきりにケーンと鳴き声を上げている。
「カンベエ、大丈夫だからね」
あたしは必死にカンベエの首や身体を撫でてやって、落ち着かせるようにしたわ。
「マーカスさんが・・・あれを?」
一方のパロさんは、信じられないといった表情でドラゴンを見上げていたの。
「うん。他にもガスドラゴンとかワイバーンとか。あたしなんてコモドドラゴンとかモートモンスターに襲われたんだから」
「それでよく逃げ伸びてきたわね」
「大変だったわ」
ホント、あたし自身よく逃げ伸びることができたと思う。
「とにかく何とかしないとね。でも今の私たちじゃとてもじゃないけどあのドラゴンたちに太刀打ちできないわ・・・」
「そうですね」
パロさんの言うのはもっともな意見なわけで。
ボビ太ボビ助ボビ美の三匹のボーパルバニーでは、ガスドラゴン一頭すら仕留められなかった。
ロックのカンベエは戦闘よりも飛行のほうが得意だし、バンシーのティアちゃんもねえ・・・
さっき召喚契約したドラゴンパピーのモモちゃんはまだ子供だから、どのくらい戦えるのか未知数。
とはいっても、ゴールドとブラックの二大凶悪ドラゴン相手に戦わせるわけにはいかないわ。
結局あたしが扱える召喚モンスターでは、どうにもならない。
「悔しい・・・」
マーカスとのハッキリとした力の差を思い知らされてしまい、悔しくて仕方がない。
そこへ。
「マナ、ここは私たちに任せなさい」
「ママ!」
声も高らかに現れたのはママだったの。
いつの間に着替えたのか青いスパッツを穿いてきて、Tシャツの上にドラゴンの神様から貰ったという胸当てを装備。
そしてママの手には「伝説のバルキリーから譲り受けたのよ」と、あたしが子供の頃から聞かされ続けたママご自慢の聖なる槍。
髪はまだ生乾きのままだけど、さっきまでの下着同然の格好に比べたら雲泥の差だわ。
「ここは私とパパとで何とかするわ。大丈夫よ。ママは昔ジェイクと一緒にあの黒いヤツを倒したんだから」
「ママ、こんな時まで自慢話?」
「自慢話じゃなくて事実よ。そうよね、パパ?」
「ああ、そうだったな。それじゃあここは俺とエイテリウヌに任せてもらおうか。行くぞ」
パパは武器も持たずに丸腰のまま、ドラゴンの神殿へと走り出したの。
「さあ、久しぶりに暴れるわよ!」
ママもパパの後を追って走り出す。
ママったら、どうしてこんな時にイキイキしてるのよ、もう!
ドラゴンの神殿へと戻ってみると、ゴールドとブラックの二頭のドラゴンが、まるであたしたちを待ち構えていたかのようだった。
二頭とも息を荒げ、今にも襲い掛かってきそうな勢いだわ。
そして二頭のドラゴンの向こうには、強制契約を済ませたであろうマーカスがいたの。
「やあマナちゃん、無事に脱出できたみたいだね」
「何を白々しいことを!」
マーカスのふざけた言い様に、思わず叫んじゃった。
「でも遅かったよ。この洞窟に生息するドラゴンのほとんどは、今や僕の手の中さ」
くっくと笑うマーカス。
その表情には、初めて会った時のさわやかな印象なんて消えてなくなってしまっていた。
「マーカスさん・・・どうして?」
マーカスの豹変ぶりに愕然とするパロさん。
「マーカス君、今すぐドラゴンたちを解放してもらおうか」
「そうね。これ以上の我がまま勝手は許さないわ」
「これはこれは、ランバート博士とその奥方。申し訳ありませんが、その要請は却下させていただきますよ」
パパとママをあえて「博士」とか「奥方」なんて呼んだりして、マーカスってばどこまでふざけるつもりなのかしら!?
「それならこちらも力ずくだ。エイテリウヌ、いくぞ」
「了解よ、あなた」
二頭のドラゴン目掛けて走り出すパパとママ。
その姿は、本当に歴戦の冒険者のようだわ。
「力ずくって、あなたたちにはこのドラゴンが見えないのですか?」
パパとママの行動に驚愕しているのはマーカスのほう。
ゴールドとブラックの二頭のドラゴンを差して、必死に訴えているわ。
でもね。
「ふっ、もちろん見えているさ。だがそれがどうかしたのか?」
パパは余裕の表情のまま。
「まずはどっちからやる? ゴールド、それともブラック?」
「ゴールドから片付けよう。だがエイテリウヌ、間違っても殺すんじゃないぞ。何しろ貴重な種なんだからな」
「えっ? あっ、そうよね。そうそう。もちろん殺したりなんかしないわよ。任せて」
「釘を刺しておいて良かった・・・」
はぁ、とため息をつくパパ。
まったく、ママったら張り切りすぎよ。
戦いの基本はまず護りを固めることだって、ジェイクさんも言っていたわ。
その基本通りパパがまず唱えたのは、相手の呪文やブレスに対する防御障壁を作り出すコルツの呪文。
これはジェイクさんも現役時代に多用した呪文なんだって。
そこへゴールドドラゴンがいきなり火炎のブレスを吐き出してきたの。
これがもしあたしたちなら、この瞬間に全滅確定だったでしょうね。
でも、さすがにパパたちは違ったわ。
コルツの呪文障壁は、ゴールドドラゴンのブレスを簡単に弾き返してしまったの。
更にブラックドラゴンも冷気の呪文を繰り出してきたけど、これも呪文障壁に当たったと思ったら、次の瞬間には消滅しちゃった。
「ふっ」
と会心の笑みを浮かべるパパ。
「す、すごいわ・・・」
そして思わず感心していたのはパロさん。
コルツは魔法使いの3レベルに属する呪文だから、当然パロさんは未収得。
仮に習得していたとしても、障壁の強度は術者の魔力やレベルに大きく左右されるのね。
あそこまで完璧にブレスや呪文を弾き返すのは、申し訳ないけどパロさんのレベルじゃちょっと無理。
でもそれをやってのけるなんて、さすがはパパよね。
相手の攻撃を凌いだら、次はこちらが攻撃に転じる番よ。
「たぁー!」
気合一閃、ママが聖なる槍を振るう。
でもパパに「ドラゴンを殺さないように」って言われていたから、ママはあくまで槍の柄の部分でドラゴンの足や胴体を殴るだけ。
さすがにこれじゃあ大したダメージは与えられないけど、それでもドラゴンの気を引くには十分だわ。
ゴールドとブラックの二頭の意識が完全にママだけに向けられた。
そこへ再びパパが呪文を唱える。
「カティノ!」
相手を眠りに誘う呪文、カティノ。
影響を受けたゴールドドラゴンの動きが急激に鈍くなった。
そして呪文の影響を免れたブラックドラゴンには
「それっ、キミもおとなしくなりなさい!」
ドラゴンの身体を伝って空中に舞い上がったママが、黒竜の頭部を聖なる槍で思いっきり引っ叩いたの。
そうしたらあの巨大なドラゴンが一発で気絶して、その場にずーんとひれ伏してしまったんだ。
その衝撃で神殿の一部や祀られたドラゴンの石像が壊れ落ちる。
一方ママはブラックドラゴンの身体をクッション代わりにしてワンステップ、そしてツーステップ。
そのままふわりと着地する。
「ドラゴンが一発で気絶しちまったな・・・」
「エイティさん、本当にお強いのねえ・・・」
シン君もパロさんもママのあまりの強さに唖然としちゃった。
「相変わらずやるな、エイテリウヌ」
「あなたの呪文も決まってたわよ、ランバート」
こうしてパパとママは、二頭のドラゴンを殺すことなく仕留めちゃったの。
二人の活躍に、娘のあたしも大興奮だったわ。