サマナ☆マナ!3

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「へえ、綺麗に写っているわね。ほら、マナも可愛く写ってる」
「そうですか? でもあたし、写真なんて初めてですよ」
「ゲッ! 俺、変な顔してるじゃねえか」
 いつもお世話になっているベアさんのお店「熊の手亭」で、あたしたちは一冊の雑誌に夢中になっていたの。
 その雑誌のタイトルは「冒険者友の会」
 これはダリア王宮が発行している、冒険者のための情報誌なのね。
 今月号の特集記事は「実践、マッピングテクニック」とか、「いやなモンスターはこう戦え」とか。
 その他にも新発売されたお役立ちアイテムとか、攻略の難しい地下迷宮のマップとか。
 初級者から上級者まで、多くの冒険者にとって必要な情報が満載されているんだ。
 そして「冒険者友の会」には、最近話題になったパーティを紹介するコーナーもあるの。
 なんとそのコーナーに、あたしたち三人が取り上げられちゃったんだ。
 あたし、パロさん、シン君が写真付きで掲載されているんだから。
 三人並んだ写真の他に、一人ずつの顔写真のアップまで。
 これは夢中にならないはずがないわよね。
 ねえねえ、ところで写真って知ってるかな?
 カメラっていう機械を使って写された、本物そっくりの絵のことよね。
 写真を写す装置っていうのは、かなり昔からあったものなんだって。
 密閉された箱に小さな穴を開けて、その穴から入った光を箱の中に設置した特殊な薬品を塗った紙に当てて、画像を浮き出させる仕組み。
 ピンホールカメラっていうんだけど、これがまた撮影するのが本当に大変なんだって。
 よく晴れた日中じゃないと撮影できないし、撮影するのにとても長く時間がかかるの。
 いつまでも動かない風景ならそれでもいいんだろうけど、人物を撮影するとなると、長時間動かずにじっとしていなければならないから・・・
 よっぽど我慢強い人じゃないと、写真撮影なんてできたものじゃないわよね。
 それにできあがった写真はモノクロで、ピントもいまいちボケていたりして。
 あまり綺麗には写らないんだって。
 まあ、科学の力なんてしょせんその程度よね。
 でもね、最近開発された魔法の力を使ったカメラはすごいんだよ。
 色もちゃんとカラーで写るし、画像もとても綺麗。
 何より魔法力を解放するスイッチを押すだけで、一瞬にして写真の撮影ができちゃうんだから。
 ピントを合わせたり明るさを調整したりするのもカメラが自動でやってくれるから、素人でも簡単に撮影できる、らしいんだけど・・・
 残念ながら魔法カメラはとても高くて、一般の人にとってはなかなか手が届かないものなの。
 だから写真を撮影するとなると、専門の写真店に行かなきゃならないし、その料金もちょっとお高めなのよね。
 でもね、今回は雑誌の編集者側から撮影に来てくれたし、こちらがお金を支払うどころか、お礼として逆にお金がもらえたりして。
 金額はわずかだったけど、写真に写るなんてめったにない経験をさせてもらったわ。
 えっ、なんであたしたちが雑誌に取り上げられたかって?
 それはね、あたしたちがダリアの城塞都市に集う冒険者の中で、ちょっと注目される存在になっちゃったからなの。
 シン君が作った5万ゴールドの借金を返済するために、あたしたちはハーダリマス渓谷でブラッドストーンを見つけてきたわ。
 熟練のパーティでも見つけるのは困難と云われた幻の石を、あたしたちのような未熟者の集まりが持ち帰ったものだから・・・
 その噂はあっという間にダリア城下に広まり、三日後には取材の依頼が飛び込んできたの。
 そして一週間後には取材の人たちが来て、写真撮影やらインタビューやら・・・
 大騒ぎになった結果、こうして雑誌に紹介されたってわけなんだ。
「ほら、あたしたちのプロフィールも紹介されてますよ。『パーティ最年少のマナさんは、ドラゴン伝説で有名なアルビシア島の生まれで・・・』だって」
 生まれ故郷のアルビシア島を出たのがこの夏のこと。
 それから約四か月が経って、あたしも何とか冒険者としてやっていけるようになったかしら?
「私のことはどう書かれているのかしら?」
 パロさんがメガネを上げながら記事に見入った。
「えーと、『パーティを指導するパロさんはレベル10と経験は豊富ながらも・・・』」
 そこまで読むと、パロさんは言葉をつぐんでしまったの。
「パロさん?」
 不思議に思ってパロさんを見ると、その顔は真っ青になっていたわ。
 そこへ。
「何々? 『パロさんはレベル10と経験は豊富ながらも、ビショップという職業柄呪文の習得が大幅に遅れている』か。こりゃまた厳しいな」
「ジェイクさん!」
 あたしたちの後ろからひょいと雑誌を覗き込んだジェイクさんが、パロさんに関する記事を読み上げたの。
 かつてあたしのママやベアさんと共にパーティを組んでいたジェイクさんは、城塞都市の中でも指折りの魔法使い。
 現在は冒険者は引退していて、後進の指導に当たっているわ。
 そして、アルビシアを出てダリアへやってきたあたしの後見人でもあるの。
 今ではあたしだけでなく、パロさんとシン君もジェイクさんの家に下宿させてもらっているくらい、とてもお世話になっているわ。
 でもね。
 ジェイクさんは冒険者としては立派だけど、生活能力はあまり高くないようで・・・
 毎日の食事やお家のお掃除なんかは、私のほうが面倒を見て上げているっていうのが現状なのよね。
 それはともかく。
「はぁ、呪文のことを指摘されると返す言葉もないわね」
 ため息をつきながらじっと雑誌の記事に見入っているパロさん。
 ビショップという職業は、魔法使いと僧侶の呪文の両方を一気に習得できる反面、その習得速度は異常なくらいに遅くて。
 パロさんにはそれが大きな悩みになっていたのね。
「だがなあパロ、いくらビショップでもレベル10ともなれば、マハリトくらいは使えるようになるもんだぜ」
「やはり私に才能がないのでしょうか?」
 確かにジェイクさんの言う通りなの。
 いくら呪文の習得が遅いビショップでも、レベル10になれば魔法使いの3レベルに属するマハリトを習得するのは十分可能なんだって。
 でもパロさんは、魔法使い僧侶とも未だに2レベルの呪文しか習得できていない状態。
 これじゃあ悩むのも無理はないわ。
「才能と言うかだな、パロの場合は精神的なものだな」
「精神的、ですか?」
「そうだ。『自分は呪文を習得できない』なんて思い込んでいると、できるものもできなくなるってことさ」
「どうすれば良いんでしょう?」
「さあな。技術的なことならいくらでも教えてやれるけど、精神面となると自分で克服するしかねえだろうなあ」
 ジェイクさんはそれだけ言うとお店の奥に置いてあるテーブルへ行き、ベアさんの奥様が淹れてくれたお茶を口にした。
「えーと・・・そうそう、俺のことは何て書いてあるんだ?」
 何だか重くなってしまった空気を振り払うように、シン君がわざと明るい声を上げてパロさんの手から雑誌を取り上げる。
「どれどれ・・・『盗賊のシンさんは極めて運が悪く、宝箱の罠の解除もよく失敗するという、典型的な使えない盗賊ではある。しかし持前の明るさでパーティのムードメーカーとして活躍している』って、ずいぶんな書かれようだな」
「えーと、あたしのことは他に何かあったかしら」
 シン君の手から雑誌を引き抜き、自分に関する記述を探してみる。
「『この夏に召喚師として冒険者デビューしたばかりのマナさんだが、すでに三種類のモンスターとの召喚契約を果たしている。事実上このパーティを支えているのは、一番レベルの低いマナさんではないだろうか(笑)』だって。最後の(笑)ってどういう意味なのかしらね」
 更に記事を読み進める。
「『このパーティがブラッドストーンを発見できたのは正に奇跡としか言いようがない』って、ちょっとひどくないですか、コレ?」
「確かに、ちょっとひどいよな」
「言いたい人には言わせておきなさい」
 記事の内容に憤慨しているあたしとシン君をパロさんがたしなめる。
 こういうところがパーティのリーダーなんだわ。
「そうですね。それに取材のお礼としてお金も貰えたし、少しくらいは我慢しましょう」
「ったく、こっちはあんなに苦労したってのにな。いっそのことこんなふうに写真だけ撮られてお金をもらえるような、そんなおいしい仕事なんてないかなあ?」
「もうシン君てば、そんなお仕事なんてあるわけないじゃない」
 と、あたしが呆れていると
「ああ、やっと見つけた!」
 一人の男の人が熊の手亭の入口を開けて店の中へ入って来たの。
「いらっしゃい。何かお探しで?」
 お店の主人のベアさんが男の人を出迎える。
「いや失礼、そこの女性に用があるんだ」
「そこの女性、と言うと・・・」
 いぶかるベアさんをさらりとかわして、男の人はあたしたちの目の前へとやってきた。
 そして
「あなたのような女性を探していました。是非とも私が撮影する写真のモデルになってください」
 パロさんに向かって深々と頭を下げたんだ。

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