マナマナ2・おまけシナリオ

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マナと乙女の希望の胸当て・前編

「やっぱり、小さいよねえ・・・」
 お風呂上がり、鏡に映った自分の姿を見て「はぁ」とため息をついた。
 相変わらずの発育不足。
 決してないわけじゃないけど、でもあまりにも物足りない自分の胸部。
 まさに乙女の悩みよね。
「これも全部作者のせいなんだわ」
 そうよ、キャラ設定の時に作者が思いつきで「胸小」なんて決めたものだから・・・
 今やあたしは「小さい」キャラとして、すっかり定着しちゃったじゃないの。
 せめてもう少しあったらなあ。
 いわゆる「女の子」じゃなくて、「女性」らしい身体つきになりたいものだわ。
 そんなことを考えながらパジャマを着て浴室から出る。
「お風呂いただきました」
「そう。それじゃあ次は私が入るわね」
 あたしと入れ替わりでパロさんがお風呂へ向かう。
 ハーダリマスの洞窟で一緒に温泉に入ったけど、やっぱりパロさんの胸は大きかったなあ。
「あーあ、あたしもあんなふうになれたらなあ・・・」
 またもため息。
「なんだマナ、悩みごとか? 良かったら話してみろ。力になれるかもしれねえぞ」
 ジェイクさんがぐいっと身を乗り出してきた。
 うーん、ジェイクさんに話してどうなるものでもないんだけど、ちょっと相談してみようかな。
 部屋の中を見回してシン君の姿がないことを確認する。
 こんな話、エッチな人がいる場所ではできないもんね。
「実はですねえ・・・」
 あたしは「乙女の悩み」について打ち明けてみた。
 それに対するジェイクさんの反応は
「なんだ、チチのことで悩んでたのか」
 という、なんとも冷めたものだったの。
 チチって、ジェイクさんはどこのオジサンですか?
「なんだなんて言わないでください。あたし、真剣に悩んでいるんですから」
「そうか? チチなんて邪魔なだけだろう。オレはむしろマナが羨ましいくらいだぜ」
「羨ましい、ですかぁ?」
「ああ。オレが子供の頃男として育てられたのは知ってるな?」
「はい」
「あの時はサラシでグルグル巻きにしてチチを抑え込んでたんだよ。それが苦しいし、特に夏場は暑いしでな。
 いっそのことローブも脱いでサラシもはずして、上半身裸になりたかったくらいだよ。でもそれをやろうとするとエイティに怒られたんだよなあ」
「ママに、ですか」
「そうそう。もしもあの時オレのチチがマナくらいしかなかったら、無理にサラシなんて巻く必要もなかっただろうなあ。だからマナも気にするな、な」
 ジェイクさんは言いたいことだけ言うと「オレは寝るから」と席を立って行ってしまった。
「うーん、そんなこと言われてもなあ」
 ジェイクさんの話を聞いても、あたしの悩みには何の解決にもならなかったわ。
 だってそうよね、あたしは男装しているわけじゃないもの。
 
 釈然としない気持ちのまま二階にある部屋へと戻る。
「そうよね、あたしは召喚師なんだから。困った時は召喚すれば良いのよ」
 何故だかそんなことを思い付いた。
「何でも良いわ。胸を大きくしてくれるモンスター、出てきなさーい!」
 あたしが召喚の言葉を口にすると、目の前に召喚陣が浮かび上がったの。
 そしてその中には、一人の女の人が。
 その人は背中に翼が生えていた。
 でもそんなことはどうでも良いの。
 問題は、その女の人が一糸まとわぬ、いわゆる全裸だってことで。
 おまけにその胸は、丸まると実ったスイカのようで。
 うーん、あたしが召喚したかったのは「胸を大きくしてくれるモンスター」で、決して「胸が大きいモンスター」じゃなかったんだけど。
 せっかくだから話を聞いてみようかな。
「えーと、あなたは・・・」
「わたしはサッキュバスよ。サッチャンて呼んでくれて構わないわ。変な名前付けられてもかなわないし」
「それじゃあサッチャン、ちょっと聞きたいんだけど・・・」
 あたしはサッチャンに、胸を大きくする方法がないか聞いてみた。
「あら、そんなの簡単よぉ」
 そしてサッチャンはあたしにゴニョゴニョと耳打ちする。
「なっ! そんなことできません!!!」
 思わず叫んじゃった。
 だってサッチャンたら「◆〒▼を☆※■して○>□しろ」だなんて。
 そんなの15歳の乙女にできるはずないじゃないの。
 それにあたしはあくまで清純派ヒロインで行くつもりなんだから。
「そういうエッチなのはダメなの!」
「えー、それが一番なのに」
「もう良いから、帰ってください」
「あーあ、つまんないの」
 あたしが召喚陣をビシっと指差すと、サッキュバスのサッチャンはおとなしく帰って行ったんだ。

 ここは気を取り直して、と。
「もっとまともな方法を教えてくれるモンスターっていないのかしら?」
 あたしがつぶやくとまたも召喚陣が輝きだした。
 そして今度は男性と女性の二人連れが現れたの。
 女性のほうは紫のローブをまとい、肩よりも伸びたこげ茶でストレートな髪と左目の下にあるほくろが印象的。
 男性のほうは身体にピッタリとフィットした青い衣装にマント、そして煌めく金髪をなびかせて、女性の足元にひざまづいていた。
 この二人、どういう関係なのかしら?
 見た感じ、女性のほうが主みたいだけど・・・
「あらっ? どうしてあたくしがこんなところに呼び出されたのかしら」
「どうやらそこの娘に召喚されたようです」
「ふう、あたくしとしたことが、あんな小娘に召喚されるなんて」
 女性のほうはあきらかに不機嫌といった感じで、あたしを見下ろしていた。
「あのー、貴方たちは?」
 あたしは一体誰を呼び出してしまったんだろう? 恐る恐る聞いてみた。
「人に名前を聞く前にまず自分が名乗りなさい」
「ごめんなさい、あたしはマナっていいます。それで、あなたは・・・」
「あたくしはとある魔法使いよ。訳あって名乗れないけれどもね」
「名前を教えてもらえないんですか?」
「色々と都合があるのよ」
「でも作者はちゃんと許可申請のメールを出したって言ってましたけど」
「大人の事情ってやつがあるの。それくらい空気を読みなさい」
「すいません・・・」
 魔法使いのお姉さんの高飛車な物言いに思わず謝ってしまう。
「で、このあたくしに一体何の用なのかしら?」
「はい。実はですね・・・」
 あたしは魔法使いのお姉さんに乙女の悩みについて打ち明けてみた。
 すると。
「ああ。マナってどこかで聞いた名前だと思っていたけど、ツルペタ姫ってあなたのことだったの」
「つ、ツルペタ姫、ですかぁ?」
 あたしってばそんなふうに呼ばれてたんだ。
 と言うか、胸が無いので有名だなんて、乙女としては悲しすぎるわ。
「まあ落ち込まなくて結構よ。良いものをあげるわ」
「本当ですか?」
「ええ。アドリアン、あれを」
「はっ」
 魔法使いのお姉さんに命じられて、アドリアンと呼ばれた男の人がどこからか黒くて大きな箱を取り出し、ゆっくりと蓋を開けた。
 何が入っているのかしらと、箱の中を覗いてみる。
「不用意に覗いてはいけません。何しろ箱の中は異次元に繋がっていますからね」
「ごめんなさい」
 アドリアンさんにやんわりと諭されて、カメみたいに伸ばしていた首をひっこめた。
 そんなあたしの仕種にふっと微笑んでから、アドリアンさんは黒い箱から綺麗な花柄の小箱を取り出して、魔法使いのお姉さんに差し出したの。
 それにしても、よ?
 全体的に青っぽい姿で、異次元に繋がっている箱からアイテムを取り出すなんて・・・
 アドリアンさんてまるで、子供のころに読んだ絵本に登場していたネコ型ロボットみたい。
 なんてことを思ったけど、それを口に出したら魔法使いのお姉さんに怒られそうなので黙っていることにした。
 それよりも気になるのは花柄の小箱の中身よね。
「それは何ですか?」
「これこそが『乙女の希望の胸当て+3』よ!」
 声も高らかに宣言する魔法使いのお姉さん。
「乙女の・・・希望の胸当て」
 何だかよく分からないけど、それはとても素敵な響きを持った名前に思えたわ。
 だって「乙女の」、そして「希望の」、それも「胸当て」よ!
 これは期待できそうだわ。
 きっと、悩める乙女に希望をもたらす胸当てなのよ。
「あのー、それは本当に貰っても・・・」
「ええ、せっかくだからプレゼントするわ。使い方は中に書いてあるから。それを付けてせいぜい頑張んなさい」
「はいっ、ありがとうございました!」
「それじゃあもう用は済んだわね、アドリアン、行くわよ」
「はっ」
 魔法使いのお姉さんとアドリアンさんは召喚陣から姿を消してしまった。
 と、その時。
「マナー、誰かいるの?」
 お風呂から上がったばかりのパロさんが部屋へ入ってきたの。
「ううん、誰もいませんよ」
「おかしいわね、話声がしたみたいなんだけど・・・」
「気のせいですよ。それよりあたし、もう寝ちゃいますね」
「そうね、おやすみなさい」
 魔法使いのお姉さんから貰った乙女の希望の胸当てをパロさんから隠しながら、あたしはベッドにもぐり込んだの。
「ふふ、ふふふ・・・」
 乙女の希望の胸当てを身に付けた自分の姿を想像してみる。
 思わず込み上げてくる笑いをこらえるのに必死だわ。
 ああ、今晩は素敵な夢が見られそうね。

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