サマナ☆マナ!2

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 渓谷を走るあたしたちの目に飛び込んできたのは、青白い肌をした小鬼の集団だったの。
「オーガよ」
 オークやコボルドそれにゴブリンなどのような亜人種、オーガ。
 よく地下迷宮の浅いところでも姿を見られるその亜人種は、常に集団で行動しては獲物を狙っているというわ。
 そしてオーガの集団の中で、巨大な鳥の翼がバサリと羽ばたかれた。
 ケーンと、悲しみとも痛みともつかないような鳴き声が渓谷の谷間に響いた。
「あれはロックだな。それもまだ子供だ」
 怪鳥ロック、それは多くの伝説やおとぎ話で語られる巨大な猛禽類だ。
 その翼を広げればゆうに10メートルは超え、鋭い鉤爪は象すらも鷲掴みにするという。
 でも今目の前にいるのは、翼を広げてもせいぜい3メートルくらいかしら、ロックの雛と思われた。
 雛と言うには大きすぎる気もするけど。
「助けなきゃ」
「助けるって、どっちを?」
「そんなの鳥さんに決まってます!」
 どうやらロックは、オーガたちの仕掛けた罠にはまって身動きが取れないようだった。
 必死に翼をはためかせて抵抗しているけれども、それも時間の問題よね。
 あたしはロックを助けてあげたくて飛び出した。
「みんなお願い、力を貸して。サモンボーパルバニー!」
 召喚陣が輝き三匹のボーパルバニーが一斉に飛び出す。
「ボビ太、ボビ助、ボビ美、オーガを蹴散らしてしまいなさい!」
 あたしが命じると三匹は、文字どおり脱兎の如く駈け出した。
 それまでロックを取り囲んでいたオーガたちも、突然現れたボーパルバニーの奇襲に目を丸くして泡を食っていたわ。
 グガ、グガガと汚らわしい声を上げながら応戦する。
 でもボビ太たちは、オーガの攻撃を余裕でかわしながら、鋭い牙を突き立てていく。
「よしっ、俺も行くぜ」
 シン君も短剣を抜いて飛び出した。
「シン君、無理しないで」
「任せとき」
 そう言い残して走るシン君、そのままオーガに短剣を切り付ける。
 ボーパルバニーに加えて人間の男の登場に、オーガたちはすっかり混乱に陥っていた。
 やがて、グガーと親玉格のオーガが撤退を指示すると、オーガの集団は我先にと渓谷の奥深くへ逃げてしまった。
「みんな、ありがとう」
 お礼を言って頭を撫でてやってから、召喚陣に三匹のボーパルバニーを収める。
 また何かあったらお願いね。
「見せて」
 オーガがいなくなって、その場にはあたしたちとロックだけが残された状態。
 パロさんが素早くロックの傷を見る。
「あらあら、罠で足を挟まれているわね。これは痛いでしょう」
 ケーン
 ロックはなおも暴れ続ける。
 あたしはそんなロックの顔や胸をそっと撫でてあげた。
「大丈夫、怖くないよ。今助けてあげるからね」
 するとあたしの気持ちが通じたのか、ロックがおとなしくなった。
「シン君、罠を外してあげて」
「了解」
 シン君がロックの足を挟んでいる、いわゆるトラバサミに手を伸ばす。
「シン、まさか失敗したりなんてしないわよね」
「するかよ! ホラちょっと待ってな」
 パロさんにからかわれつつも、ロックの足を挟んでいる罠を外すシン君。
 短剣をちょっと差し込んでからクイっと捻じると、トラバサミはガシャンと大きな音を立ててその口を開いたの。
「よーし、もう大丈夫だ」
 シン君がトラバサミからロックの足をそっと抜いてあげる。
「血が出てるな」
「任せて」
 少しケガをしていたけど、パロさんがディオスの呪文で治療してくれた。
「良かったね。もう罠に引っ掛かるんじゃないよ」
 あたしはロックの頭を撫でてやり、早く空に帰るように促してやった。
 でも・・・
「どうしたの? お家に帰らないのかな?」
 ロックはいつまでもあたしのそばを離れようとしなかったの。
「どうやら懐かれたみたいね」
「そうですね。どうしましょう・・・」
 どうしたものやら、あたしが困っていると
「マナ、ひょっとしたらソイツ、召喚契約できるんじゃねえの?」
「召喚契約・・・」
 シン君が意外なことを言い出した。

 召喚契約。
 それは、召喚師が新しいモンスターを召喚モンスターとして使役できるように、モンスターと交わす契約のことだ。
 召喚師はモンスターを可愛がり、面倒を見てあげる代わりに、モンスターは召喚師の命に従い、時には命を賭けて戦うこともある。
 でも、モンスターなら何でも契約できるってものでもないの。
 その為にはいくつかのパターンがあるわ。
 まず分かりやすいのが、モンスターを屈伏させてしまうやり方。
 これはモンスターよりも召喚師のほうが力が上と認めさせて、無理やり契約してしまう方法なの。
 でも、中途半端な戦い方じゃあ相手も屈伏しないし、かと言って殺してしまったら元も子もないわよね。
 次が、召喚師とモンスターの利害が一致した時。
 たとえば共通の敵がいる場合とかよね。
 これは条件を整えるのがなかなか難しいみたい。
 そして最後が、そのモンスターが召喚師に対して心を許してくれる場合。
 あたしが今召喚契約しているボーパルバニーはこのパターンよね。
 何しろあの子たちが生まれた時からの付き合いなんだから、これで心を開いてくれないはずがないわ。
 そして、今目の前にいるこのロックの雛もオーガから助けてもらったことにより、あたしに懐いて心を許してくれたんだと思う。
「召喚契約・・・新しい召喚モンスター。やってみます」
 さっき感じた妙な胸騒ぎ、ドキドキの正体はきっとこれだったんだ。
 新しい召喚モンスターと契約できるかもしれない予感が、あたしの胸を高鳴らせていたの。
 あたしは呼吸を整え、気持ちを落ち付けてから、契約の言葉を口にする。
「汝、我を主と認め、我の命に従うことを誓いなさい」
 静かに紡がれる契約の言葉。
 やがて、あたしとロックの足元に、淡い光が輝き出す。
「召喚契約、ロック!」
 足元の光が更なる強さを増して輝く。
 それは召喚師の命、召喚陣。
 目も開けていられないほどの眩い光に包まれて、今あたしとロックは正式に召喚契約を完了させたの。
「契約・・・成立。さあ、これで君はもうあたしのお友達よ」
 ケーン
 あたしが頭を撫でてやると、ロックも嬉しそうに鳴き声を上げてくれたわ。
「いやー、驚いたな」
「そうね。良いものを見せてもらったわ」
 シン君とパロさんも感心しちゃってるし、あたしとしても大満足だわ。
「そうだ、この子に名前を付けてあげなきゃね。そうだなあ、何が良いかなあ・・・」
 ロックというのはあくまで種別の名前だものね。
 せっかくお友達になれたんだもの、ちゃんとした名前で呼んであげたいわ。
「ロック、ロック・・・ロクデナシ、ロックゴジュウシ、ロックンロール・・・」
 頭に浮かんだ単語を適当に口にしてみる。
「ちょっと待ったマナ。まさかロクデナシなんて名前を付ける気じゃないよな?」
「ロックゴジュウシとか、いくらなんでも語呂が悪すぎるでしょ?」
「えっ、ダメですか?」
 シン君とパロさんに強烈に突っ込まれる。
 でもあたしには、何が悪いのかよく分からなくて・・・
「ほら、マナいつも言ってるじゃない。可愛いのが好きでしょ」
「それはもちろんです」
 ロックンロールとか、可愛い名前だと思うけどな。
「それじゃあ、ロックロックロ・・・クロちゃん?」
「もう一捻り」
「じゃあクロ助」
「『助』はボビ助がいるでしょ」
「うーん、クロクロ・・・クロ・・・カンベエ!」
「カンベエ?」
「ずいぶん飛んだわね。どこから取った名前なの?」
「えーと、異国のお侍さんに『くろ何とか、かんべえ』っていう人がいたような・・・」
「それでカンベエか。変な名前だな」
 シン君がアハハと笑う。
「えー、いいじゃないですか、カンベエ。あたしは気に入りましたよ」
「でも、その子が気に入ってくれるかしらねえ」
 肩をすくめるパロさん。
「うーん、そこまで言うなら本人に聞いてみます」
 あたしはカンベエ(まだ仮の名前)の首に手を触れる。
「ねえ、君のお名前を決めたいんだけど、どれがいいかな? ロックゴジュウシはどう?」
 カンベエ(あくまで予定の名前)は知らん顔、どうやらお気に召さなかったらしいわ。
「それじゃあクロちゃん」
 これも反応がないみたい。
「じゃあ、カンベエ!」
 ケーンと高く鳴くカンベエ(これで決定!)。
 うん、これは気に入ってくれたみたいね。
「やったあ。じゃあ決まりだよ、君の名前はカンベエだからね」
 カンベエカンベエと名前を呼びながら、頭や胸を撫でてあげる。
 それに対してカンベエも嬉しそうに、首を擦り付けたり羽をバタつかせたりして。
 あたしの新しいお友達カンベエ、これからよろしくね。

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