サマナ☆マナ!2

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10

 新しく召喚契約したばかりのモンスター、ロックのカンベエを引き連れて、渓谷を歩く。
 でもカンベエはやっぱり鳥だから、歩くのはそんなに得意じゃないみたい。
 かと言って飛ばすのもねえ。
 あたしもできるだけ一緒にいたいし、それに何よりかなり高度を上げないと、所々に生えている樹やせり出した崖に引っ掛かりそうで危ないわ。
 カンベエはまだ幼鳥だけど、それでも翼を広げれば優に3メートルは超えるし、体長だって2メートルくらいはあるものね。
 つまり、あたしたちの中で一番大きな身体をしているんだ。
 おぼつかない足取りでよちよち歩いていたら、カンベエも大変だけど、何より時間がなくなっちゃうわ。
 遅くても明日の夕方までには、森を抜けて馬車と合流しなければなんだから。
 それに・・・
「ここからまた洞窟だよ」
 地図を見ながらパロさんが道を確認する。
 残念だけど、更に狭い洞窟の中ではカンベエと一緒に歩くのは無理だわ。
「仕方ないなあ。ごめんねカンベエ、少し戻ってて」
 ケーンと寂しそうに鳴くカンベエだけど、ここは心を鬼にして。
 カンベエを召喚陣に戻してしまうわ。
「カンベエ、戻りなさい」
 あたしが命じるとカンベエの足元に召喚陣が浮かび上がり、そのまま異世界へと沈んでいく。
「さすが、もう手懐けてるわね」
「はい。でももうちょっと一緒にいたかったんですけどねえ」
「これからいくらでもそのチャンスはあるわよ。さあ行きましょう」
 パロさんの指示の下、あたしたちは洞窟へと歩みを進めた。

 洞窟内部はちょっと天井が低めで、あたしはともかくパロさんやシン君は少し背をかがめないと歩きにくそう。
 これがいわゆるドワーフサイズってやつなのかしら。
 少し進むと登りの崖になっていて、縄梯子が設置されていた。
 高さは5メートルくらいかな。
「よしっ、まずは俺からだな」
 シン君がさっそうと縄梯子を登っていく。
 身のこなしが信条の盗賊だけあって、さっそうと登っていく姿はさすがよね。
 次はあたし。
 縄梯子なんて慣れないけれど、それでもなんとかしがみつく。
「もう少しだ。ホラ、手を伸ばせ」
 頂上付近で上からシン君が手を差しだしてくれた。
 その手を掴むと、シン君が上へと引き上げてくれる。
「ふう、ありがとシン君」
 ここは素直にお礼を言っておくわ。
 こういう時、やっぱり男の子って頼りになるんだなあ。
 パロさんも縄梯子を登って更に進むと、またもや縄梯子。
 その高さは10メートルくらいかしら。
 さっきと同じ順で登ってから先へ進むと、急に視界が開けたわ。
 洞窟から出ると、今度は崖に沿って削られた細い一本道を辿るの。
 これがまた怖くて。
 下を見ると足がすくむからできるだけ見ないようにして。
 それでもちゃんと足元を見ていないと、踏み外して崖下に真っ逆さまなんてシャレにならないわ。
 やっとのことで崖沿いの細道を抜けて、少し広い場所に出てホッと息をつく。
 でも・・・
「ここから先の道がないわね」
 パロさんが地図を見ながら首を捻っている。
 そうなの。
 あたしたちの目の前には深い谷が横たわっていて、そこで道が途切れていたんだ。
「どうしましょう・・・」
「おい、アレなんだ?」
 どうしたものかと考えていると、早速シン君が何か見つけたみたい。
 それは木製の、何かの機械のようなもので・・・
「ここに何か書いてあるな。えーと・・・ダメだ。パロ、頼むわ」
「どれどれ」
 機械のそばの崖のところに、金属のプレートに刻まれた説明書きのようなものがあったの。
 でもそれはエレベーターの時と同じで、難しい文字がズラッと並んでいた。
「ふむふむ、『伸縮紐使用及び多角形溝的回転金属板式皿付き竿状岩石投擲機並びに標的岩石着弾発動式渓谷横断専用自動稼働木製跳ね上げ橋脚』と。
 ふう、相変わらず長い名前ね」
「えーと・・・要するに何ですか?」
「そうね、ゴム紐と歯車を使ってこちらの機械で岩石を飛ばして・・・」
 そこでパロさんは20メートルくらい離れた対岸の崖を指差した。
「あそこにある的に当てると自動的に跳ね橋が稼働する仕組み、かな」
「説明もずいぶん長いですね」
「仕方ないじゃない。そういう機械なんだから」
 はあ、と呆れるパロさん。
「で、コレどうやって使うんだ?」
「説明の文がありますよ。やっぱりすごく長いですけど」
「えーと・・・」
 そこでパロさんは機械の使い方の説明部分に目を通し始めたけど
「・・・やめましょう」
 と投げちゃった。
 うん、その気持ちは分かるな。
 だってエレベーターの時も、散々長ったらしい説明を読まされたけど、実際はレバーを入れてスイッチを押すだけだったんだもの。
 おまけに。
「あちゃあ、コレだめだな。ホラ、ゴムは切れてるし、歯車も割れてるよ。これは誰かがわざと壊したみたいだな」
 機械を調べていたシン君が問題の部品を拾い上げる。
 それは、元は輪っかだったのが切り裂かれてだらーんとなったゴム紐と、何箇所か割れて歯が欠けてしまっている歯車だった。
「誰かがわざと壊したの?」
「ああ、ゴムの切り口は鋭利な刃物で切られたみたいだし、歯車のほうはハンマーか何かで叩き割られたみたいだな。
 切断面が錆びてないだろ。つい最近壊された証拠だぜ」
 歯車の割れた箇所を指差しながら説明してくれるシン君。
 そんな細かいところに気が付くなんて、なんだか名探偵みたいね。
「いったい誰が? 何のために・・・」
「そんなん知るかよ」
 前言撤回、やっぱりシン君は迷探偵だわ。
「直せない?」
「無理言うなって」
 うーん、部品がダメになっていたら機械は動かせないわ。
「困ったわね。何とかロープを張って渡れないかしら」
「そのロープを誰が張るんだよ。結局俺だろ?」
「まあ、肉体労働はシンの担当だからね」
「カンベンしてくれよ。この崖を下りて行って、また反対側をよじ登るんだぞ」
「それはちょっとキツイですね」
 三人で、どうしようかと頭を悩ませていると・・・
 突然あたしの足元に召喚陣が浮かび上がったの。
「マナ、どういうこと?」
「えっと・・・カンベエが呼び出してほしいって。召喚してみます。
 サモン、ローック!」
 召喚の言葉を叫ぶとそのまま召喚陣がまばゆく輝き、カンベエが浮かび上がってきた。
「どうかしたの、カンベエ?」
 あたしはカンベエの頭を撫でながら話を聞いてやった。
 実際にカンベエがおしゃべりするわけじゃないけど、何を言いたいかは感じ取れるんだ。
「ふむふむ、えっ、良いの?」
 ケーン
「分かったわ、じゃあお願いね。パロさん、カンベエが背中に乗せて運んでくれるって」
「そう。それは助かるわ」
「おっ、早速役に立つ時が来たか」
「でも、カンベエはまだ子供だから、一度に二人しか乗せられないって」
「んじゃあレディファーストでどうぞ。俺はこっちで待ってるからさ」
「あらシン、意外と紳士じゃない」
「ヘン俺は元々紳士なんだよ」
「シン君が、紳士・・・アハハハハ」
 思わずプっと吹き出しちゃった。
 だって、シン君が紳士だなんて、どう考えても似合わないわ。
「んだよ、マナ」
「まあまあ。でもここは紳士殿のお言葉に甘えましょう。
 まず私とマナで先に向こうへ渡って、マナはもう一回シンを乗せて往復してくれるかな」
「了解です」
 あたしはパロさんに対してビシッと敬礼してみせた。

 あたしとパロさんとでカンベエの背中に這い上がる。
 あたしたちはもちろん、カンベエにとっても初めてのことのはずだから、お互いにぎこちないのは仕方ないかな。
 それでも何とか背中に乗っかって腰を落ち着け、適当に羽毛に掴まったところでカンベエに指示を出す。
「それじゃあカンベエ、お願いね。あたしたちを向こう側まで運んでちょうだい」
 カンベエは了解とばかりにケーンと鳴くと、翼を大きく羽ばたかせた。
 そのまま二度三度と翼を動かすと、その巨体がゆっくりと浮かび上がる。
「わっ、浮かんだ」
「凄いわね」
 初めての体験に、あたしもパロさんもちょっと興奮気味。
「おーい」
「シン君、それじゃあちょっと待っててね。カンベエ、行って!」
 下で手を振っているシン君に手を振り返してから、カンベエと共に谷間を飛び越える。
 少しぎこちないながらも、カンベエは力強く羽ばたいて、あっという間にさっきまでいた崖が遠ざかる。
「最高ですね〜」
「気持ち良いわね」
 風を切って飛ぶのは何とも言えない良い気分だわ。
 やがて谷の半分を超え、もう少しで対岸に辿り着くというところで。
「うわぁー!」
 背後で、シン君の悲鳴が上がった・・・

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