サマナ☆マナ!2

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「シン君、どうかしたの? って、キャアー!」
 何事かと首を捻ってみると、シン君の周りにさっきのオーガたちが群がっていたの。
 きっと仕返しに来たんだわ。
「パロさん大変、シン君が!」
「マナ、落ち着いて。まずは向こう岸まで渡って。そして私を降ろしたら全力で戻ってシンを拾い上げてやって」
「分かりました。カンベエお願い。急いで!」
 焦るあたしの気持ちが伝わったのか、カンベエの翼に更なる力が加わる。
 あと3メートル、2メートル・・・
 そして。
「到着です」
 あたしとパロさんを背中に乗せたカンベエが谷を飛び超えて対岸まで渡りきった。
「マナ、その炎の杖を貸して。ここからそれで援護するわ」
 説明するのももどかしく、パロさんがあたしの手から炎の杖をむしり取る。
 魔法使いの2レベルの呪文までしか習得していないパロさんでは、攻撃手段はメリトくらいしかない。
 しかマハリトの呪文を発動できるこの杖なら、メリト以上の熱量を持つ炎を生み出せる。
 20メートルなら十分射程距離の範囲内、対岸までは余裕よ。
「それじゃあお願いします! カンベエ、飛べ!」
 援護をパロさんに任せて、あたしとカンベエはシン君を救出するために再度谷を戻る。
「マナ、炎の杖を使うから少し高度を上げて。シン、少しくらい火傷しても我慢なさい。行くわよ、炎の杖ー!」
「カンベエ、上昇よ」
 ケーン
 パロさんの指示を受けてカンベエに高度を上げるよう命じる。
 その命令に的確に応えて浮き上がるカンベエのすぐ下を、パロさんが放った炎が追い抜いて走る。
 必死に短剣を振り回しオーガに応戦していたシン君、炎が到達する前にうまく身体を入れ替えて、オーガの影に隠れる。
 そこへマハリト級の炎が直撃。
 グガー!
 予想外の反撃にオーガの悲鳴とも怒号ともつかない声が上がる。
 一気に混乱に陥るオーガ、シン君はその隙を突いてオーガの集団から逃げ出していた。
「おーい、こっちだー」
 少し離れた場所で手を振るシン君。
 そこへ。
「お待たせ!」
 あたしを乗せたカンベエがようやく谷を渡って戻ったの。
「カンベエ、シン君を掴み上げて」
 いちいち着陸してシン君が上がって来るのを待つ時間も惜しいわ。
 あたしの命令に従って、カンベエは宙に浮いたまま、シン君の身体を文字通り鷲掴みにして拾い上げたの。
「うわぁ、握り潰さないでくれよ」
 下からシン君の悲鳴が聞こえてきたけど、ここはちょっと放っておこう。
「カンベエ、戻るわよ。高度上げてね」
 カンベエの翼がバサリと音を立てて、再び高く舞い上がる。
 そこへ、獲物を逃したとばかりにいきり立ったオーがたちが、小石を拾い上げて投げて来たの。
 その石が、カンベエに掴まれて身動きできないシン君に当たったからたまらないわ。
「うわっ、いてっ!」
 身体を捻ってかわすことも、手で飛んで来た小石を払うこともできないシン君。
「うわぁ、痛そう・・・」
 カンベエの背中に乗っているあたしからはシン君の姿は見えないけど、その悲惨な状況は容易に想像できる。
 でもシン君にはもう少し我慢してもらうしかないわよね。
「シン、今助けるからね。そりゃ、炎の杖!」
 パロさんが二発目の炎を放った。
 炎の杖はあまり頻繁に使い過ぎると壊れちゃうけど、この際そんなことは言ってられないわ。
 カンベエの下を今度は正面から、炎が舞い踊り、そして通過していく。
 対岸まで届いた炎はオーガの集団に襲い掛かる。
 たまらず逃げ出すオーガたち。
 その姿を見て、やっと落ち着いたわ。
 そしてカンベエは、無事に対岸まで渡りきったの。
「やれやれ、ヒドイ目に遭ったぜ・・・」
 ガックリとうなだれるシン君。
「まあ助かったんだから、良しとしなさい。でも今回はカンベエ君の大活躍だったわね」
「だな。助かったぜ。サンキュ」
「カンベエ良かったね。褒められたよ」
 ケーン
 嬉しそうに鳴くカンベエを見て、あたしもちょっと嬉しくなっちゃった。

 それからまた少し進むと洞窟。
 身体の大きなカンベエはそのままじゃ中に入れないから、やっぱり召喚陣を開いて戻すしかないわ。
「えーと、まだ大丈夫だよね」
 ボーパルバニーを含めて、今日はもう何回か召喚したり戻したりを繰り返している。
 召喚師と言えど魔術師は魔術師。
 その呪文使用回数に制限があるのは、他の職種と変わらない。
 あたしは慎重に、残りの召喚可能回数を確認する。
「良いわよマナ。そうやって常に呪文の使用回数に気を配るのはとても大切なことだわ」
「はい」
 パロさんに褒めてもらって、ちょっと自信が付いたかな。
 この洞窟はかなり深く掘られているようで、縄梯子を上ったり下りたりしながら進んで行ったわ。
 その途中で大きなアリやムカデのようなモンスター、更にはまたもやオーガとも遭遇したりして。
 どうやらこの辺り一帯は、オーガの勢力圏内らしいわ。
 でも、それらのモンスターならボーパルバニーの出番よ。
 あたしが召喚する三匹のボーパルバニーは、狭い洞窟内でもお構いなしに走り回り、次々と敵に噛み付いては蹴散らしてしまうわ。
 どうやら、新しく仲間になったロックのカンベエにかなり刺激されちゃったみたい。
 いつも以上の働きぶりを見せてくれたもの。
「よしよし。良い子ねえ」
 戦いを終えた三匹の頭を順に撫でてやる。
 召喚師と召喚モンスターの間には、こういったコミニュケーションは必要不可欠なの。
 あたしがそうしてボビ太たちと戯れていると
「おおっと、宝箱はっけーん!」
 突然シン君が叫んだものだから驚いちゃった。
 どうやら、さっき戦ったオーガが、宝箱を隠し持っていたらしいわね。
「もちろん開けるぜ。いいな、絶対に開けるからな」
「分かった分かった。サッサとしなさい」
 興奮するシン君に呆れるパロさん。
 これもいつもの光景よね。
「罠は何だ? 毒針、いやガス爆弾か・・・」
 慎重に宝箱を調べるシン君。
 でもやっぱり不安だわ。
「パロさん、呪文で確認したほうが良いんじゃないでしょうか」
「そうだったわね。シン一人に任せておくのはリスクが高すぎるか。ちょっと待ってシン、今カルフォを・・・」
 パロさんがシン君を呼び止めようとした、その時でした。
「よし、ガス爆弾だ。開けるぜ」
 カチっ・・・ドッカーン!
 シン君が宝箱の蓋を開けると同時に、仕掛けられていた爆弾が爆発、辺り一面にもうもうとした土煙が舞い上がる。
 その音に驚いて三匹のボーパルバニーも一瞬にしてパニック、そのまま一斉に召喚陣へと逃げ込んでしまう。
「ゴホっ・・・ちょっとシン君!」
「もう、だから待てって言ったじゃない」
 いつものこととは言え、怒らないわけにはいかないわ。
 それに対してシン君は
「あれぇ・・・っかしいなあ」
 なんて首を捻っているし。
「みんな、ケガはない?」
「大丈夫です」
「俺も平気」
 あんな爆発に巻き込まれてほとんどケガもしていないなんて、奇跡だわ。
 でも・・・
「あー、ローブが真っ黒。顔も髪も埃っぽい」
「確かに。これはヒドイわね」
 あたしが着ているピンクだったはずのローブは、今や土埃にまみれて真っ黒になっちゃった。
 おまけに、顔をこするとこすった手にもかなりの砂がまとわりついてじゃしじゃし。
 こうなると・・・
「お風呂、入りたいなあ・・・」
 ふっとそう思っちゃった。
 だって、今回の冒険に出発してから、まともにお風呂に入ってないんだもの。
 身体だけはお湯でタオルをしぼって拭いてたけど・・・
 ホラ、今回はシン君も同じ部屋に泊まったでしょ。
 もちろんその間、シン君には部屋を出てもらったけど、なんだか落ち着かないからあまり丁寧に拭けなかったのね。
 その不満がここに来て爆発しちゃった。
 一度お風呂が恋しくなるともうダメ。
 頭の中はそのことでいっぱいになっちゃう。
「そうね、私もお風呂に入りたいわ。でもこんなところじゃねえ・・・」
 パロさんと二人、ため息をつく。
 無理なのは分かっているけど、でもやっぱりお風呂が恋しいわ!
「あー、お風呂〜」
 半分泣きながら、その場にペタンと尻もちを着く。
 どうせ汚れちゃってるから、少しくらい気にしないわ。
「そんなムチャ言ってもなあ・・・」
「シン君は黙ってて!」
「うっ・・・」
 珍しくあたしが大きな声を出したものだから、さすがのシン君も黙り込んじゃった。
 まあ自業自得よね。
「マナ、仕方ないわよ。もう少し我慢して」
「そうですね。これ以上ワガママ言ってても・・・」
 パロさんに肩を叩かれて、仕方なく起き上がろうとした、その時。
「うそ・・・水の音?」
 あたしの耳に、ポコポコチョロチョロという、水が湧き出て流れるような音が聞こえてきたの。
 そして微かに漂う、タマゴが腐ったような独特の臭い。
 これは、まさか・・・
「パロさん、行ってみましょう」
 もうこの気持ちは抑えられないわ。
 あたしは水音のするほうへと走り出した。

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