サマナ☆マナ!2

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「おととい来やがれ、コンチクショー」
 カーン
「あのー、すいません・・・」
「テメエ、ふざけてんのか」
 カーン
「あのですねえ」
「ワシを誰だと思ってるんだ」
 カーン
「もしもーし」
 そこにいたのは、ベアさんよりも小さな身体の男の人だったの。
 パロさんがいくら話し掛けても知らん顔で、一心不乱に大きな金槌を振り下ろしている。
 別にあたしたちを無視している、とかじゃなくて・・・
「ハーダリマスにその人在りと言われたスミッティとはワシのことだぜ」
 カーン
 あれがあの人のスタイルらしいわ。
 ついでに、自己紹介をしてもらう手間は省けたかな。
 でもいつまでも話を聞いてもらえないんじゃ埒が明かないわ。
「おい、おっさん!」
 黙っているように言われていたのに、痺れを切らしたシン君がスミッティさんの肩をグイっと掴んだ。
「な、なんじゃあ?」
 それで驚いたスミッティさん、手元が狂って振り上げた大金槌をシン君の頭の上に落としそうになったの。
「きゃあ、シン君!」
「うわー」
 思わず悲鳴を上げて目を閉じちゃったけど、どうやらシン君は危機一髪でかわしたみたい。
「なんだお前は。いきなり話し掛けるな。驚くじゃねえか」
「いきなりじゃねえよ。さっきから何回も呼んでるだろう。ったく、こっちは危うく死ぬところだったぜ」
 なんだかいきなり怪しいムードになったスミッティさんとシン君。
 でもそこへパロさんが割り込んで話を進める。
「突然すいません。私達はダリアのベアリクスさんの紹介で来た者です」
「ベアリクス・・・? ああ、あの鼻たれ小僧か。ヤツがどうかしたか」
 あのベアさんを鼻たれ小僧呼ばわりするなんて、このスミッティさん、只者じゃあないわね。
 身長やおヒゲの感じから、ドワーフ族なのは一目瞭然よね。
 ドワーフさんの年はよく分からないけど、ちょっとさびしくなった髪の毛とか顔のしわの感じから、少なくてもベアさんよりはずっと年上かと思うわ。
 身体は小さいけれども腕とか筋肉もりもりで、きっとシン君よりもずっと力も強いんじゃないかしら。
 シン君、下手にケンカすると負けちゃうよ?
「で、ベアのヤツがワシに何か用なのか?」
「いえ、用があるのは私達です。実は、ブラッドストーンの噂を耳にしまして。どうしてもブラッドストーンを見つけたいのです。
 貴方に話を聞けば何か分かるのではないかと・・・」
「ベアがそう言っていたか」
「はい、その通りです」
 さすがパロさん、相手は頑固で気難しそうなのに、うまく話を進めているわ。
「ヘン、ブラッドストーンなんざ、このワシでももう何年も見てねえなあ。
 三層オラートや氷化エルブン鉄ならかなり出るぞ。良い物を見つけてきたらワシが引き取ってやる。
 ブラッドストーンなんざ諦めて、その辺りで適当な素材でも発掘したらどうだ?」
「その素材とやらはいくらで引き取ってもらえるのですか?」
「それは大きさや質次第だが・・・せいぜい1000か、良くても3000ゴールドくらいだろうな」
「それじゃあダメなんだよ。5万ゴールドいるんだから!」
「シン、アナタは黙ってなさい」
 突然話に割り込んだシン君をパロさんがたしなめる。
 確かにそうね、今シン君が下手に口を挿めば、かえって話をややこしくするだけだもの。
「5万ゴールドとはおだやかじゃねえなあ。テメエ、それほど金に困ってるのか?」
「ああ」
 スミッティさんにギロリと睨まれて、シン君は仏頂面ながらも返事をする。
「なら別に止めはしない。気が済むまで探していけば良い」
「良いんですか!?」
「ああ。だが見つかる保障なんてどこにもないぞ。まっ、精々がんばりな」
「ありがとうございます」
「一応簡単な地図を書いてやるよ。それに今日はもう外は暗いだろうから、泊っていきな。もっとも、食いもんは焼きトウモロコシくらいしかないがな」
 何がおかしいのか、ガハハと笑うスミッティさん。
「助かります」
 パロさんが深々と頭を下げる。
 良かった、どうやらうまく話がまとまったみたい。
「ところでお前さんがた、名は何という?」
「申し遅れました。私はパロ。そしてさっきから失礼なことばかり言っているのがシン。後ろの女の子がマナです」
「よろしくな」
「初めまして、マナです」
 パロさんに紹介されて、ペコリとおじぎする。
「ウム。俺様の名前はもう知っとるな。ところでお前さんがた、ここへはどうやって来た」
「はい、もちろんエレベーターで」
「エレベーター? ああ、縄状鋼鉄線動滑車巻き上げ式渓谷竪穴内部多階層移動専用自動稼働上昇及び下降兼用装置改良乙三型のことか。
 あれはワシの自信作だ。ガッハッハ」
 す、すごいわ。 
 あの長い名前を何も見ないでスラスラと言っちゃうなんて、さすがは製作者だけのことはあるわね。
「乗り心地はどうだった? それにあの説明書は分かりやすくて良かっただろう?」
「ええ、そうですね」
 苦笑いしながら頷くパロさん。
 そうよね、ここで「分かり難かった」なんて言っても意味がないし、第一頑固そうなスミッティさんがそんな返事を聞き入れるとも思わないし。
「そうかそうか、いやそうだろう。あれは我ながらうまく書けたと思っとったんだ。ここに来るヤツはみんなそう言ってくれるよ」
 カッカと愉快そうに笑うスミッティさん。
 って、あれ? 
 今のスミッティさんの言葉にちょっと気になることがあったので聞いてみた。
「あたしたちの他にも、ここへ来る人なんているんですか?」
「ああ、ちょっと前からこの辺りをブラついとる奴等がいるな」
「どんな人ですか?」
「そうさな、ちょいとツラの悪そうな、五人くらいの男たちだったかな」
「へえ、そうなんですか」
 あのオオカミの森を抜けてこんなところまで来るなんて。
 よっぽどの物好きなのか、それともあたしたちと同じようにブラッドストーンを探しているのか・・・
「なあ、そんなことより早く焼きトウモロコシ食わせてくれよ。俺もう腹ペコでさあ」
「あっ、あたしも食べたいです」
「そうか、まあ少し待っとれ。今焼いてやるからな」
 その後は、スミッティさんが焼いてくれたトウモロコシで夕食、そして泊めてもらったの。
 もちろんみんなで一つの部屋に雑魚寝。
 男の人とひとつ部屋に寝るのももう慣れたし、何より野宿するより遥かにマシよね。
 今日は森でオオカミと戦ったりしたから疲れちゃって、あたしはあっという間に眠りに落ちたんだ。

 翌朝、いよいよブラッドストーン探しに出発よ。
「まあ頑張ってきな」
 スミッティさんに見送られて家を出る。
 地図を頼りに洞窟を歩くと、間もなく視界が開けた。
「うわぁ・・・」
「これはまたスゲエな」
「上から見るのとはまた一味違うわね」
 そこは渓谷の底だったの。
 外界から隔離された閉じられた世界。
 複雑に入り組んだ崖で造られた、天然の迷宮ってところかしら。
 それでも谷底の幅はかなり広いから、それほどの圧迫感はないかな。
 足元は所々にゴツゴツとした岩が転がっているものの、草が生えている場所も多かったりで、歩くには苦労しなくて済みそうね。
 ちょろちょろ小川が流れていたりして。
 天気も良いし、なんだかピクニックにでも来たみたい。
「んー、気持ち良いですね。ボビ太たちを遊ばせてあげたいな」
 大きな街での暮らしもだいぶ慣れたけど、やっぱりあたしはこういった自然の中にいるのが好きだわ。
「マナ、遊びにきたんじゃないからね」
「はぁい」
 パロさんに注意されてペロっと舌を出す。
「さてと、ブラッドストーンの産出場所は・・・」
 そのパロさん、必死に地図を読み取ろうとしているけれども・・・
 何しろスミッティさんの手書きなものだから、解読するのはかなり大変みたい。
「えっと、太陽があっちだから・・・」
「俺コンパス持ってるぜ。方角は正確に調べよう」
「あら、用意が良いじゃない、シン」
「冒険者の必需品だよ」
 シン君がポケットから取り出したコンパスと地図とを照らし合わせる。
「あっちが北で、今いるのがここ。だから・・・向こうか」
 パロさんが北を指差した。
「このまましばらく谷底を歩いて、一回洞窟に入る。そこを進んでまた外に出て・・・」
「なんだか複雑な道のりですね」
「まあ歩いてみれば分かるでしょ。行くわよ」
「はーい」
 あたしたちはブラッドストーンを求めて歩き始めた。
 岩を避け、できるだけ歩きやすいところを選んで歩く。
 先頭を行くのはシン君、何か怪しいところはないかと辺りに気を配っている。
「おっ、小川だ。よっと」
 シン君が軽々と小川を飛び越える。
 そして
「ほらマナ、手出しな」
「ありがと」
 シン君が差し出してくれた手を掴んで、あたしも小川を飛び越えた。
 シン君て普段は頼りないけど、こういう時は優しいのよね。
「パロは?」
「ああ、私はいいわ」
 シン君に手を振って、パロさんは自力でスッと小川を超える。
 パロさんはスタイルが良くて、足もスラっと長いのよねえ。
 同じ女として羨ましいな。
 そんな感じで、冒険なんだかピクニックなんだかって雰囲気のまま、しばらく谷底を進んで行ったの。
「えっとここを曲がると・・・」
 地図を見ていたパロさんが新たな進路を指差した、その時だったわ。
 ケーン・・・
 正にパロさんの指差す方向から、何か動物の悲鳴のような音が聞こえたの。
「何かしら?」
 ケーン・・・
「まただな。行ってみようぜ」
 シン君が走り出す。
「あっ、シン君待って」
 あたしもシン君の後を追って走り出した。
 でも何だろう?
 妙に心が不安になるような、この変な気持ちは・・・

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