サマナ☆マナ!2

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 それは、パパとママが結婚する前のことだった。
 大陸からアルビシア島へ渡ったママと一緒に付いてきた、一匹のボーパルバニーがいたの。
 その子の名前はボビー。
 そして、そのボビーから数えて三代目の子孫が、今あたしの目の前で暴れている三匹のボーパルバニーたち。
 ボビ太、ボビ助、ボビ美。
 あたしの大切なお友達にして、絶対服従を誓った腹心の使役魔。
 そして、あたしが唯一異界から呼び出すことのできる召喚モンスター。
 長男のボビ太は身体も大きくて、三匹のリーダー的存在。
 次男のボビ助は、ボビ太よりも小さいけれども頑張り屋さん。
 そして末っ子のボビ美は優しい女の子よ。
 三匹ともとても勇敢で、あたしが命じさえすれば、どんな強敵にも恐れずに向かっていくわ。
「ボビ太、ボビ助、ボビ美、ローリングフォーメーションよ!」
 あたしが叫ぶと三匹のボーパルバニーは小さく固まり、円を描くように走り出す。
 相手はオオカミの群れ、そのすべてを倒すのは無理だわ。
 だから今は一点突破、取り囲むオオカミの陣形を崩し、あたしたちが逃げ出せる穴を開けてくれればそれで十分よ。
「行け!」
 あたしが命じると三匹は、まるで忍者が放った手裏剣のように前方のオオカミへと突撃して行った。
 物の例えに「オオカミの群れに子羊を放り込む」って言うわよね。
 そのオオカミは、きっと喜んで子羊に食らいつくはずだわ。
 それじゃあ、オオカミの群れに突然ウサギが三匹飛び込んだらどうなるかしら?
 もちろんオオカミたちは、突然増えたおいしそうなエサに大喜びしたに違いないはずよ。
 でもね、あたしの可愛い子供たちを舐めてかかると、痛い目を見るのはオオカミのほうよ。
 立ちはだかるオオカミに三匹のボーパルバニーが回転しながら激突する。
 その勢いに虚を突かれたオオカミの一頭があっけなく弾き飛ばされた。
「いいわ、その調子よ!」
 ボビ太、ボビ助、ボビ美の回転がさらに速さを増す。
 襲い掛かるオオカミを次々と薙ぎ払い、そして噛み付いて殲滅していく。
 オオカミはなんとか隙を突いて襲いかかろうとするも、一匹が一匹の後ろをカバーし、さらにもう一匹がその後ろをカバーする陣形には隙がない。
 戦いはボビ太たちが優勢のまま展開していった。
「よし、ウサギ君たちに続くわよ」
「ハイっ」
「よっしゃ」
 ボーパルバニーが切り開いた道へとなだれ込むようにして走る。
 このままオオカミの群れを振り切って逃げられれば良いんだけど・・・
 敵も負けてはいなかった。
 何しろ数にものを言わせての攻撃だから、いくらボビ太たちが蹴散らしても次から次へと前方へ回り込んできて、あたしたちの進路を塞いでしまう。
「これじゃあキリがないわ・・・」
 さすがにあたしもだんだんと焦ってきた。
 そしてあたしの焦りは、確実に三匹のボーパルバニーに伝わっていた。
 三匹の連携がわずかに乱れる。
 そこを見逃すことなく、オオカミが飛び掛かった。
「ボビ助、危ない!」
 あたしの叫びが届いたのか、ボビ助は間一髪横に跳ねて、オオカミの一撃から逃れていた。
 しかし、これで完全に三匹の陣形が崩れてしまった。
 ボビ太、ボビ助、ボビ美は、三匹揃ってはじめて驚異的な攻撃力を発揮する。
 でもそれが分断されてしまったら、所詮は一匹のウサギさんだ。
 その戦力はガタ減りしてしまうはず。
 更には、ずっと跳ね続けたボーパルバニーたちの体力も限界に近付いていた。
 仲間とはぐれ孤立し、足も止り、そしてオオカミたちに包囲されては勝ち目はないわ。
 これ以上の無理はさせられない。
「みんな、戻って!」
 止むを得ずボーパルバニーを撤退させることにした。
 召喚陣が浮かび上がり、三匹はその中に吸い込まれるように消えていく。
 何とかボビ太たちにケガをさせずに済んだけど、これで大きな戦力を失ってしまったわ。
 勝利を確信したオオカミたちが、ゆっくりと、でも確実にあたしたちを取り囲んだ。

「どうする、パロ?」
「どうするったって・・・」
 シン君もパロさんもどうして良いか分からず、ただじっとオオカミの動きに備えるだけだった。
 もしもオオカミが飛び込んでくれば、手にした得物で追い払うことぐらいはできるかもしれない。
 でもそれじゃあ、やがてはこちらがジリ貧に追い込まれるのは目に見えているわ。
 絶対絶命、もうどうにもならないと思った時、あたしの頭にある考えが浮かんだ。
 そう、もしもあたしが変身すれば・・・
 あたしが生まれる以前のこと。
 パパはアルビシア島のドラゴンの洞窟の奥深くでドラゴンの神様に会い、その血を飲んだそうなの。
 パパの身体に入ったドラゴンの血は、やがてその娘であるあたしにも受け継がれた。
 普段はあたしの中で眠っているドラゴンの血。
 しかし、あたしが自分の感情をコントロールできなくなった時、ドラゴンの血は目覚め、あたし自身をドラゴンへと変身させてしまう。
 いくらオオカミの大群でも、ドラゴンには敵うはずがない。
 でも・・・
 そこで、あたしの視線は右手の薬指にはめられた指輪へと落ちたの。
 それは、クレア様からいただいた大切な指輪。
 もしもあたしがドラゴンに変身したなら、その指輪も粉々に砕けてしまう。
 それは許されないわ。
 この指輪は、あたしが自分を見失ってドラゴンに変身してしまわないための、お守りの意味があるの。
 感情をコントロールできなくなったらこの指輪を見て心を落ち着けるように、と。
「マナ、変身する必要なんてないからね」
「そうだぜマナ。それに、こんなところで変身されたら、あとが大変だからな」
 じっと右手の指輪を見つめるあたしの様子に気づいたんだと思う、パロさんとシン君が優しく声を掛けてくれたの。
「パロさん・・・シン君・・・」
 二人の優しさが身に染みたわ。
 だってもしもあたしが変身しなかったら、みんな死んでしまうかもしれないのに・・・
 でもここで変身してしまったら、指輪はもちろん着ているローブやブーツなんかもズタズタに引き裂かれてしまうし、何よりあたし自身が気を失ってしまう。
 もしもそうなったら、身動きとれなくなるものね。
「大丈夫です。変身なんかしませんから。だけど、一つだけ試してみたいことがあるんです」
「試してみたいこと? それは・・・」
「少しだけドラゴンの血を起こします。かなり集中しないとだから、その間はオオカミの動きを抑えておいてくださいね」
「おい、マナっ! そんなことできるのか?」
「とにかくやってみます」
 心配するパロさんとシン君を尻目に、あたしは自分の身体の、そして心の中に集中していった。
 あたしの中で眠っているドラゴンの血。
 それをほんの少しだけ、そう寝返りをうつ程度で良いから起こしてやるの。
 動物は本能で自分より強い者を感じ取り、決してその強い者には歯向かわない。
 だから教えてやれば良い。
 あたしの中にはお前たちより遥かに強いドラゴンが眠っているということを。
 意識を自分の内面に集中させ、ドラゴンのイメージを思い描く。
 あたしの中で眠れるドラゴンの姿が頭の中に浮かび上がった。
『少しで良いわ。起きて! あなたの力をオオカミたちに見せ付けてやるの』
 心の中で念じると、あたしの身体を一瞬だけドクンと熱いものが駆け抜けた。
 ドラゴンの血。
 それが一瞬だけあたしの中で目覚めたんだ。
 身体がかあっと熱くなり、頭もくらくらとしてきてのぼせそうになる。
 それでもあたしは意識を集中させて、ドラゴンの血がこれ以上暴走しないように、懸命にこらえた。
 そして。
 オオカミたちに異変が起こったの。
 何かに怯えたようにそわそわと落ち着かなくなったオオカミたちが、じりじりとあたしたちから遠ざかり始めた。
 遠くでウォーンと一匹のオオカミが吠える。
 それがボスによる撤退の指令だったのかもしれない。
 オオカミの群れは一目散に森の奥へと消えて行ったの。
「やった、やったぞ、マナ!」
「大丈夫? 気分悪くなったりとかない?」
「はい・・・ちょっと疲れたけど、でも大丈夫です」
 三人でホッと安堵する。
 どうやら命拾いしたみたい。
「なら急ぎましょう。また何かに襲われないとも限らないわ」
 パロさんに促されて、あたしたちはまた歩き出した。
 心配したけど、でももうオオカミに付け狙われることもなかったわ。
 そして。
 秋の太陽が西に傾く頃、森を抜けると目の前の景色が一変したんだ。

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