サマナ☆マナ!2

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 ガッタン、ゴトゴト・・・
 不規則なリズムを刻みながら、馬車は進んでいく。
 馬車の旅ももう三日目ともなると、さすがに外の景色を眺めるのにも飽きた。
 それは一緒に馬車に揺られているパロさんやシン君も同じようで、何をするでもなくぼんやりとした時間を過ごしていた。
 今はただ目的地への到着を待ちつつ、身体を休めておくことにするわ。
 
 あの後、ベアさんからなんとか馬車代その他で3000ゴールドほどお金を貸してもらえた。
 ホント、冒険者やっていくのもお金がかかるものなのね。
 よほどお金に余裕のあるパーティじゃないと、こんなふうに馬車を使っての遠出なんてできたものじゃないわ。
 本来なら、あたしたちのような貧乏パーティは城塞都市のすぐ近くで稼ぐしかないんだけど、今回は特別だからね。
 街外れの乗り合い所から西へ向かう馬車に、出発時間ギリギリで滑り込んだ。
 馬車は木造の対面式の六人乗りで、シートの部分にもきちんとクッションがあって、乗り心地はそれほど悪くもなかったわ。
 乗客はあたしたちの他に二人、それに馬を操る御者さんが一人の六人旅。
 あたしにとっては、もちろん初めての体験だ。
 街を出てしばらくは、生まれて初めての馬車に興奮と感動の連続。
 心地良い振動と流れる景色、そして楽しいおしゃべりの時間が続いたわ。
 途中休憩をはさみながら辺りが暗くなるまで走ったところで、初日の移動は終了。
 着いた先の小さな町で、安宿を探して宿泊。
 もちろん宿代節約のために部屋は一つだけ。
 シン君は男の子だから、一緒の部屋っていうのはちょっと抵抗があった。
 でもパロさんもいるし、思い切って寝ちゃえばなんてことはなかったかな。
 あたしたちはパーティの仲間だから、これからもこんなことはしょっちゅうだと思う。
 ここは割り切って、慣れるしかないわよね。
 翌日は別の馬車に乗り換えて、朝早くから出発。
 道はさらに悪くなり、細い山道や急な坂など、ただ馬車に乗っているだけなのにドキドキするような場面もたくさんあった。
 そして夜になって二日目の移動も終了。
 前日と同じように安宿に部屋を借りて三人一緒に雑魚寝をして夜を明かした。
 そして三日目の今日。
 ここまで来ると乗客はあたしたちの三人だけになっていた。
 シン君もパロさんも、すっかり疲れた様子でウトウトと寝たり起きたりを繰り返しているみたい。
 これがまだ帰りもあるんだと思うと、今から憂鬱だわ。

 お昼を過ぎた頃、馬車が止まった。
「休憩かしら」
 馬車の窓から顔を出し、前にいる御者さんの様子をうかがう。
「到着だよ。あんたがたの目指すハーダリマス渓谷は、この森を真っ直ぐ西へ抜ければすぐだ」
「えっ、着いたんですか?」
「よしっ、行こうぜ」
 退屈な馬車の旅から解放されるとあって、シン君が勢いよく馬車から飛び出して行った。
 あたしとパロさんもシン君に続いて馬車を下りる。
「お世話になりました」
 パロさんが御者さんにペコリと頭を下げる。
「何の。これが仕事だからね。だがお前さんがた、本当に渓谷へ行く気かね?」
「はい、そのつもりですが・・・何か?」
「この森にはオオカミがいるんだよ。ここらの者はキラーウルフと呼んで恐れている」
 御者さんの説明にギョっとなる。
「殺人オオカミとは、穏やかじゃないですね」
「安全に行くなら森をぐるっと迂回することをお勧めするが」
「それだとどのくらいかかりますか?」
「そうだな。明日の昼には着くだろう。森を抜ければ女の子の足でも三時間ほどだがね」
 御者さんが心配そうな顔であたしを見ている。
 どう見たってこの中で一番体力がなくて、一番足が遅そうなのはあたしだからね。
「どうする、二人とも? 迂回する? それとも森を突っ切る?」
 パロさんがあたしたちの意思を確認する。
「もちろん森を抜けるさ。でないと間に合わないからな」
「ですね。あたしもそのほうが良いと思います」
「よしっ、森を行こう」
 御者さんとは、明後日のお昼過ぎにここで待ち合わせる約束をして別れ、あたしたちはオオカミの棲むという森へと進んだ。
 森には馬車が通るには狭すぎるけれども、人が歩くには十分な幅の道が伸びていた。
 うっそうと繁る樹木が太陽の光を遮り、まだ日暮れ前なのになんだか薄暗い。
 シン君を先頭に、あたし、パロさんの順で進む。
 シン君はときどき後ろを振り返りながら、「大丈夫か?」って声を掛けてくれたりして。
 歩くペースもあたしに合わせてくれているのが分かるし、案外優しいのよね。
 パロさんはエルフなだけあって、この環境はお気に入りらしい。
「ああ、故郷のエルフの森を思い出すわ」
 終始ご満悦な様子で森の素晴らしさについて語り続けていた。
 曰く「森は空気を綺麗にするのよ」とか、「森は水を貯えて水害を防いでいるの」とか。
 始めのうちはあたしも「へえ」とか「そうなんですか」とか相槌をうっていたけど、そのうちに歩くほうがしんどくなってきて返事もできなくなってきた。
 それでもパロさんは構わず語り続けていたりして。
 そのうちにパロさんの故郷の森も案内してもらおうかしらね。
 
 やがて一時間ほど森の中を歩いた頃。
「ねえ、何だか変な気配がするんだけど・・・」
 あたしは少し前から感じていたことを声に出してみた。
 何て言うかなあ、誰かに見られていると言うか、何かうごめいていると言うか・・・
「やっぱりそう思うか? 俺もさっきから・・・」
「どうやら囲まれたみたいね」
 シン君もパロさんも、それぞれ異変に気づいていたみたい。
「それってやっぱり・・・」
「オオカミだな」
 シン君の言葉に背筋が凍りそうになる。
 恐れていたことがついに現実になったみたい。
「どうするパロ?」
「二人とも、走るわよ!」
「ハイっ!」
「よしっ、マナ、こっちだ!」
 シン君があたしの右手を取ってくれて三人で一斉に走り出した。
 あたしの手を引くシン君はとても力強くて、疲れていたはずなのに自然と足も前に出る。
 そしてさっきまで不安だった気持ちが、少しだけ薄らいだように思えたの。
 でも、それで危険から逃れたわけではないわ。
 あたしたちが走り出すと同時に、周囲の樹々が一斉にざわめきだした。
 きっと、あたしたちを取り囲んでいるオオカミの群れが一斉に動き出したからだわ。
「このまま、逃げ、きれるでしょうか・・・」
 息も絶え絶えに、聞くともなしに聞いてみる。
「そう甘くはないでしょうね。どこかで仕掛けてくるはずよ」
「そんな・・・」
 分かってはいたけどやっぱり落胆してしまう。
 でもそうよね、一匹や二匹ならともかく、大群で襲われたらひとたまりもないはず。
 そうなる前に何とかしないと・・・
 あたしが考えを巡らしていると、突然右手から黒い影が飛び出してきた。
 殺人オオカミ、キラーウルフがついにその牙をあたしたちに向けたのだ。
 飛び出したオオカミは一匹、真っ直ぐに最後尾を走るパロさんへと襲いかかった。
「こっのぉ!」
 パロさんが素早く反応して、モーニングスターを振り回す。
 鎖から伸びたトゲトゲの鉄球がオオカミの胴体に直撃、そのまま後方へ流れるように去って行った。
「うまいぞ、パロ!」
 シン君が叫ぶ。
 オオカミは自分たちの仲間に犠牲を出すのを嫌う習性があるそうだから、これで諦めてくれれば良いんだけど・・・
「くそっ、回り込まれた!」
 あたしの手を引くシン君の足がピタリと止まった。
 先回りしていたオオカミが三頭、森から姿を現し、あたしたちの前に立ちはだかった。
 いくら何でもオオカミに向って突っ込んでいくわけにもいかないわ。
 だからと言って来た道を振り返っても、そこにもすでに数頭のオオカミが立ちはだかり道をふさいでいた。
「完全に囲まれたわね」
 チッと舌打ちするパロさん。
「ど、どうしましょう・・・」
 進むもならず、戻るもならず、まさに絶対絶命の大ピンチ!
「とにかく突破口を開くのよ! マナ、ウサギ君たちを頼むわ」
「ハイっ!」
 パロさんの指示を受け、急ぎ召喚の呪文を唱える。
「みんなお願い、あたしの呼び掛けに応えて。サモン、ボーパルバニー!」
 あたしが叫ぶと目の前に淡い緑の光を放つ光の輪が浮かび上がる。
 これこそが召喚師の命、異世界とこの世界とを結ぶ召喚陣。
 そして召喚陣の中にはあたしの可愛い子供たちが、今や遅しとたたずんでいたの。
「ボビ太、ボビ助、ボビ美、行きなさい!」
 あたしが命令するやいなや、三匹のボーパルバニーが一斉に召喚陣から飛び出した。

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