サマナ☆マナ!2
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「シン、どういうことなのか、順を追って説明してちょうだい」
「ああ。最初は暇つぶしのつもりだったんだよ。酒場でカードをやっている連中がいたから混ぜてもらった。レートも低いしお遊びだから大丈夫だろうって」
パロさんに促されて、シン君がポツポツと語り始めた。
以下の顛末は、まあよくある話よね。
100ゴールド負けたのを取り返そうとして500ゴールド負け、それを取り返そうとして1000ゴールドになり。
やがて3000、5000、そして1万ゴールドへと負けが膨らんでいく。
何が何だか分からないまま、気付いた時には借金が5万ゴールドに達していたって。
そう言えば、あたしが初めてシン君と出会った時も、彼は酒場でトランプをしていたのよね。
あの時は相手のイカサマがあったんだけど、それでも負け続けていたのはまぎれもない事実。
もう、シン君てば運が悪いくせにギャンブルが好きで、熱くなると歯止めが利かなくなるなんて、かなり困った性格だわ。
「ねえ、もしもお金を返せなかったらどうなるの?」
「そうだな、その時は借金のカタにどこかに売り飛ばされて、遠洋航海の船にでも乗せられてさぁ、その薄暗い船底で一生下働きでもさせられるかもな、ハハハ・・・」
最後は力なく笑うシン君。
狭くて蒸し暑くて薄暗い船底で、屈強の大男たちに取り囲まれて殴られ蹴られで身体中あざだらけ、「ル〜ル〜ルル〜♪」と悲しげなメロディを口ずさみながらデッキブラシを持って床を磨いている、薄汚れた縞模様の囚人服を着せられて足首には鎖から伸びたいかにも重そうな鉄球をはめられて、ロクな食事も与えられずにすっかり痩せこけてしまった憐れなシン君の姿があたしの脳裏を駆け抜けた。
どうでもいいけど、妙にリアルな想像だったのは何故かしら?
そのあまりのリアルさに、思わず身震いしそうになる。
だって、そんな・・・
たった、と言ったら語弊があるけど、たった5万ゴールドで人生を棒に振るなんて、いくらなんでもかわいそうすぎるわ。
でも今のあたしたちでは、そのたった5万ゴールドすら用立てできないのが、厳しいけれど現実なのよね。
だからって手をこまねいてなんていられない。
だってシン君はあたしたちの大切な仲間だから。
「とにかくお金を何とかしなきゃですね。一週間で5万ゴールドなんて、普通に冒険者やってても無理ですよね」
熟練の冒険者ならともかく、あたしたちのような未熟なパーティが、そんなお金をホイホイと稼げるはずもない。
そもそも、パーティの財政が赤字だって嘆いていたところだしね。
「そうね。となると誰か安心できる人から借りるとか」
「ですね。でもそんなお金を貸してくれる人なんて・・・」
あたしとパロさんが今後のことについて話していると
「おーい、今帰ったぞー」
まるで一日の仕事を終えて帰宅した亭主のような口調で、この家の主が帰ってきた。
「ジェイクさん、お帰りなさい」
「おっ、今日はチキンのフライか。うまそうだな」
ジェイクさんは帰る早々、テーブルに並べられたお皿からチキンをひとつ摘まんでいた。
「ジェイクさん、お行儀が悪いですよ」
この家の主にしてあたしの下宿の大家さんでもあるジェイクさん。
パッと見た感じや言葉づかい、それにしぐさなんかもいかにも男の人みたいだけど、これでもれっきとした女性なの。
あたしのママの古くからの友人で、かつては歴戦の冒険者として、このダリアの城塞都市でもその名を知らない人はいないと言われたほどの魔法使い。
今では現役は退いて後進の指導などに当たっている。
かつてジェイクさんはママとパーティを組んでいたこともあって、島を出たあたしはジェイクさんの家にお世話になっている。
家事が苦手なジェイクさんの代わりにあたしが家事をすることで、下宿代や普段の生活費などもすべて面倒を見てもらっているのは本当にありがたいわ。
おまけに、最近じゃあパロさんやシン君もこの家に泊まることが多くなって。
どうせ冒険者の宿に行っても馬小屋か、せいぜい簡易寝台に寝泊まりできれば良いほうだからね。
パロさんは二階にあるあたしの部屋で一緒に、そしてシン君は一階の適当な場所で毛布に包まって眠るの。
もちろん食事もここで一緒に取ることが多いけど、その際は最低限の食費は出してもらっているわ。
そうそう、ジェイクさんと言えばひとつ面白い話があるんだ。
あたしのパパとママが初めて出逢ったのって、なんとジェイクさんの17歳のお誕生日だったんだって。
そのことをママ宛ての手紙に書いたら、ママからのお返事にはこんなふうに書かれてあったの。
『ママのあまりの美貌に一目惚れしたパパが、勢いあまってママを連れ去ったのよね』
その手紙をジェイクさんに見せたら、「確かに。ランバートがエイティを連れ去ったのは事実だったな」って、カラカラ笑ってたわ。
あの優しいパパが、いくらママに一目惚れしたからっていきなり連れ去っちゃうなんて・・・
あたしにはとても信じられない話だわ。
それはともかく、とにかくジェイクさんがいなかったら、あたしの今の生活はまったく成り立たないってくらいにお世話になってるのね。
って、ジェイクさん・・・?
「あー、いましたっ!」
「マナ、いきなりどうした?」
あたしが突然ジェイクさんを指差して叫んだものだから、さすがのジェイクさんも目をシロクロさせてしまった。
「かつては熟練の冒険者で、お金持ってて、なおかつ安心してお金を借りられそうな人」
「あっ」
「そうかっ」
あたし、パロさん、そしてさっきまで死にそうな顔をしていたシン君の視線が一斉にジェイクさんに集中する。
「ちょっと待て。いったい何の話だ?」
「ジェイクさん、お金貸してください!」
「金貸せ、だと・・・?」
ジェイクさんの顔が怪訝な感じに歪んだ。
「なるほど。話は分かった」
あの後、とにかく落ち着こうということになって、まずは食事を取ることになったの。
せっかくのお料理も今日ばかりはどんな味か分からなかったわ。
そして夕食の後、お茶を飲みながらジェイクさんに事の顛末を説明した。
「それじゃあ」
「ダメだ」
「えっ・・・」
「金は貸さない」
「そんな」
ジェイクさんにきっぱりと言い切られて、思わずシュンとなる。
「ジェイクさん、何とかお願いできませんか?」
「頼む。助けてくれ」
「ダメだな」
パロさんとシン君に頼まれても、ジェイクさんの態度は変わらない。
「ジェイクさんどうしてですか? せめて理由を教えてください」
このままじゃ引き下がれない。
ジェイクさんがお金を貸してくれない理由が分かれば、何か突破口が開けるかもしれないものね。
あたしたちはじっと、ジェイクさんの返事を待った。
「そりゃあ確かにオレは5万ゴールドくらいは持ってるよ。だけどな、今回はダメだな。借金を作った理由が気に入らねえ」
「借金の理由・・・」
「そうだ。シン、借金はお前のギャンブルの負けのせいだったな」
「そ、そうです・・・」
「そんなのは問題外だよ。これがせめて冒険者として必要な資金てんなら話を聞いてやっても良かったんだ。
たとえば新しい武器が欲しいとか、命を落とした仲間の蘇生費用が必要だ、とかな」
「耳が痛いですね・・・」
ジェイクさんの話に、あたしたち三人はもう何も言い返せなかった。
安易にジェイクさんにお金を借りようとしたことがとても恥ずかしく思えてしまった。
「オレはさあ、子供の頃は育ての親と旅から旅の暮らしで、お金には結構苦労させられたんだよ。その育ての親が死んだ後はもう一人で冒険者として食ってたぜ。
あっちこっちのパーティに混ざって、それこそ死ぬ思いで迷宮にもぐってモンスターと戦ったもんだ」
「ジェイクさんごめんなさい。もうお金を貸してなんて言いません」
「悪かったよ」
「すみませんでした」
三人でジェイクさんに頭を下げる。
「分かれば良いんだ。ということで、オレは金は貸さないからな」
話が一段落したところで、ジェイクさんがお茶に口を付けた。
結局ジェイクさんからはお金は借りられず、話は振り出しに戻ってしまったのよね。
「でも、どうしましょう・・・」
「やはり地道に冒険者をやって稼ぐしかないわね」
「うわー、それじゃあ絶対間に合わないよ」
打つ手無し、万事休すとは正にこのことだわ。
そんなあたしたちを見兼ねたんだと思う。
「あー、お前ら」
「何ですかジェイクさん?」
「さっきも言ったように、オレは金は貸さない。けどな、アドバイスくらいはしてやれるぜ」
「アドバイスって、何か良いアイディアがあるんですか!?」
「金の話なら専門家に聞いてみたらどうだ。武器屋をやっているベアなら何か儲け話を知ってるかもしれねえぞ」
「ベアさん・・・」
あたしの頭の中に、いつもお世話になっているヒゲ面のドワーフさんの顔が思い浮かんだんだ。