サマナ☆マナ!2
16
「ナンダ、あの鳥は!」
「あの小娘、召喚できるのはウサギだけじゃなかったのか」
あたしがロックのカンベエを召喚するのを見て動揺するダニーたち。
でもそれは、こちらにとってはありがたい時間稼ぎになったわ。
「早く乗ってください!」
「私は下で良いから、シンを上に」
パロさんと二人で、ぐったりとしているシン君をカンベエの背中に乗せてやる。
ちょっと重かったけどカンベエも首を後ろに回して一緒に押し上げてくれて、ようやくシン君を落ち着かせる。
あたしはシン君の後ろに腰を下ろして、カンベエに命令する。
「カンベエ、飛ぶのよ。パロさんを連れていくのを忘れないでね」
ケーンと鳴くカンベエ。
大きな翼をはためかせると、その巨体がゆっくりと浮かび上がる。
大きな鉤爪の伸びた足で、それでもパロさんを傷付けないように優しく掴み上げる。
「よし行け、カンベエ!」
再度翼を大気に打ち付け、カンベエの身体がフワリと浮き上がった。
まだ幼鳥のカンベエには三人もの人間を運ぶのはかなり無理があるはずだわ。
それでも必死に翼をはためかせるカンベエ。
そしてダニーたちの頭上を一気に飛び越える。
「やった、やりましたー!」
下ではダニーたちがようやく事態を把握して騒いでいる。
「こら待て、逃げるな〜」
「おい、撃ち落とせ」
「もう無理だ。それより追うんだ」
「やつらはおそらくドワーフのジジイのところに逃げ込むはずだ。急げ」
「だが途中の跳ね橋は俺たちが壊したから使えないぞ」
「くっ・・・仕方ない、回り道だ」
そうか、あの跳ね橋のゴムヒモや歯車は、ダニーたちが壊していたんだ。
きっと他の人に邪魔をさせないためだったんだろうけど、それがアダになったみたいね。
回り道をするって言っていたから、跳ね橋の向こうまで行けばうまく逃げきれるはずよ。
「カンベエ、もう少しだから頑張って」
あたしがカンベエの首や身体を撫でてやるとカンベエの翼に更なる力が込められて、そのまま一気に渓谷の上空へと舞い上がる。
「マナー、見てごらんなさい。ホラ、夕日がー」
下のほうからパロさんの声がする。
カンベエに掴まれた窮屈な体勢のまま、あたしへと叫んでくれたんだ。
「ホントだ。綺麗・・・」
西の空、渓谷の向こうに沈みかけた太陽は、まるでブラッドストーンのように紅く煌めいていた。
夕日に照らされて紅に染まった渓谷を空から眺める。
それは言葉にできないほど素敵な体験だったわ。
こんな絶景を楽しめるのもカンベエのおかげかな。
気を失ったままのシン君には悪いけど、あたしたちはしばらくの間、夕日に照らされた空の散歩を堪能したんだ。
やがてカンベエの高度が下がる。
体力的にももう限界なんだと思う。
「カンベエ、あそこに下りて」
あたしが指示をすると、カンベエはゆっくりと旋回しながら少しずつ下りて行き・・・
そして渓谷の底に着陸した。
そこは例の跳ね橋をもはるかに越えた場所で、スミッティさんの家の目と鼻の先だ。
「カンベエ、戻って」
任務完了とばかりにケーンと一鳴きすると、カンベエが召喚陣へと吸い込まれる。
「マナ、もう一踏ん張りよ」
「はい」
パロさんと二人でシン君の身体を支え、そのまま足を引きずるのもお構いなしにスミッティさんの家へと駆け込んだ。
「スミッティさん、助けてください!」
「悪い奴らに追われてます」
あたしとパロさん、それに気絶したままのシン君を見たスミッティさんの目が驚きに見開かれた。
「なんだと? 賊はどこだ」
「まだ跳ね橋の向こうだと思います。あの人たち、橋を壊したらしいから戻ってくるのに時間が掛かりそう」
「ナニっ? 伸縮紐使用及び多角形溝的回転金属板式皿付き竿状岩石投擲機並びに標的岩石着弾発動式渓谷横断専用自動稼働木製跳ね上げ橋脚を壊しただと! それは許せん」
そう言えばあの跳ね橋ってそんな長い名前だったなあ。
それはともかく、どうやらスミッティさんにとってはあたしたちが追われていることよりも、橋を壊されたことのほうがよっぽどの一大事だったようで・・・
「おのれ、ワシがこの手で成敗してくれるわ!」
額に青筋を浮かべて壁に立てかけてあった大金槌を手に取ると、それを思いっきり振り回しながら家から飛び出して行ったの。
「ちょっとスミッティさん?」
「お一人で大丈夫ですか」
あたしとパロさんが追いかけるも、スミッティさんの足は止まらない。
洞窟を抜けて外へ出たところで、あたしたちを追って来たダニーたちと鉢合わせになっちゃった。
「おのれ貴様ら、ワシが作った橋を壊すとはどういう了見だ!」
渓谷中にとどろくスミッティさんの大音声。
それと同時に振るわれる大金槌の一撃は、ダニーの仲間の戦士を張り倒していた。
「な、なんだこのジジイは」
「この野郎!」
ダニーたちも反撃するも、スミッティさんのほうが一枚も二枚も上手だった。
相手を全く寄せ付けない強さを見せつけてくれたわ。
「ベアさんが『スミッティさんには昔世話になった』って言ってましたよね」
「ええ、きっと彼はかつて熟練の戦士だったんだわ」
あまりのスミッティさんの強さに、あたしもパロさんも呆然とその様子を眺めていたのでした。
結局ダニー一味は全員スミッティさんに成敗されて、ロープでグルグル巻きに縛り上げられたの。
スミッティさんは「しばらくは炭坑の下働きとして使ってやる」と言ってご機嫌そうにガハハと笑っていたわ。
夜になってようやくシン君が目覚めてくれた。
ブラッドストーンにかなりの体力を奪われてしまい、長い時間気を失っていたからどうなるかと心配したけど、これでホッと一安心。
そのブラッドストーンは再度召喚したティアちゃんに預かってもらっているから、そちらも安心かな。
夕ご飯はやっぱり焼きトウモロコシで、それを頬張りながら今日の冒険の様子をスミッティさんに話して聞かせたの。
お酒も入ってご機嫌のスミッティさんは、終始にこやかにあたしたちの話に耳を傾けてくれていたわ。
あたしたちの話が終わると、今度はスミッティさんの武勇伝。
なんと彼は、レベル50を超える戦士だったんだって。
それならダニーたちが束になって掛かったって敵わないはずよね。
それにしても、レベル50だなんて今のあたしからはとても想像できないわ。
偉大な冒険者にお目に掛かれて、とても光栄だったし刺激にもなった。
あたしもまだまだ頑張らなくちゃね。
そして翌朝、あたしたちはハーダリマス渓谷を後にした。
ダニーたちはスミッティさんがしっかり見張っていてくれるから、帰り道で襲われる心配もないわ。
それより心配だったのが、森に棲むオオカミたち。
カンベエを召喚して背中に乗せてもらえれば良かったんだけど・・・
ブラッドストーン運搬役のティアちゃんとカンベエとを同時に召喚するのは、今のあたしでは無理なんだ。
それに、たとえ同時に召喚できたとしても、一度に四人も運ぶのはカンベエにとっても重労働、無理はさせられないわ。
だから歩いて森を抜けることにしたんだけど、心配だったオオカミたちは決して近寄ってこなかったわ。
この前の、あたしの中で眠るドラゴンの血で脅してやったのが効いていたみたいね。
夕方になって御者さんと合流、馬車に乗せてもらうってところで、ちょっと困ったことが起こったの。
それは、新しく加わったティアちゃんも一人分の料金を取られるってこと。
馬車代の他にも、安宿とはいえ最低二泊することを考えると予算もギリギリ。
スミッティさんからお土産にもらった焼きトウモロコシで食費を浮かせればなんとかなるかなって、ようやく馬車に乗せてもらえたんだ。
そのまま馬車で三日、ようやくあたしたちはダリアの城塞都市へと戻ってこれたの。