サマナ☆マナ!2

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エピローグ

 やっとのことでダリアの城塞都市へ戻ったあたしたち、その足で真っ直ぐにベアさんのお店「熊の手亭」に向かったわ。
「ベアさんブラッドストーンです。お願いします」
「いくらで買い取ってもらえますか?」
「オッサン、頼むぜ」
 三人で一気にベアさんに詰め寄った。
「どれ、見せてもらおうか」
 ティアちゃんがベアさんの前にブラッドストーンをコトリと置く。
 ベアさんは難しそうな顔でそれを見つめていたけれど・・・
「うーむ、このままじゃダメだな。ウチでは扱えない」
「どうしてですか?」
「きちんと鑑定しなきゃな。何ならウチで鑑定しても構わんが」
「それだと鑑定料と買取の値段でチャラじゃないですか〜」
「そうだぜ。それに鑑定の必要なんてないだろう? こんなにハッキリしてるじゃねえか。持ってみた時の呪いの力もハンパじゃないんだからさ」
「ダメダメ。決まりは決まりだ。ウチで買い取れるものは、きちんと鑑定済みのものだけだからな」
 ベアさん相手にあたしとシン君で食い下がるけれども、さすがに相手は百戦錬磨の商売人だわ。
 あたしたちの交渉とも言えない交渉なんて、簡単にあしらわれちゃう。
「パロさん・・・」
「どうする、パロ?」
 二人の視線がパロさんに集まった。
 あたしたちの中で唯一アイテムの鑑定ができるのはパロさんだけだから、それも当然なんだけど。
 でもこんな強い力で呪われたアイテムの鑑定だなんて、もしも失敗したら大変なことになるわ。
 でもパロさんは迷わなかった。
「やります」
 そう一言だけ答えると、じっとブラッドストーンを見つめるの。
「パロよ、分かっていると思うが失敗したら呪われてしまうぞ。そしてその呪いの解除料は・・・」
「分かっています。絶対に成功させますから」
「そうか」
 ベアさんももうそれ以上は何も言わなかったわ。
 あとはパロさんを信じて、成功するのを祈るだけ。
(神様、どうかどうか、パロさんが呪われませんように)
 パロさんの視線が、まるで吸い込まれるようにブラッドストーンに注がれている。
 ううん、視線だけじゃないのかも。
 じっと見つめるだけで魂まで吸い取られてしまいそうな錯覚に陥ってしまう。
 ここでパロさんがうっかり手を出したら、きっと呪われてしまうはず。
 でもパロさんはそんなブラッドストーンの誘惑に負けることなく、意識を集中させているわ。
 やがてパロさんの目の前にあるブラッドストーンが、今までにないくらいの紅い輝きを放ち始めたの。
 それは、今までブラッドストーンを覆っていた魔法のベールが剥がされた証。
「鑑定完了です」
 パロさんがふぅと息を吐いた。
 それと同時に、お店の中に満ちていた緊張した空気も一気に和らいだわ。
「できたんですね?」
「ええ。鑑定は無事終了。さあベアさん、おいくらで買い取ってもらえますか?」
 燦然と紅く輝くブラッドストーンは、あたしが両の手のひらを広げたくらいの大きさがある。
 果たしていくらになるのか、ここが肝心なところだわ。
「ふむ、見事な石だ。これなら10万ゴールドで買い取ろうじゃないか」
 ベアさんの口から10万ゴールドという破格の値段が語られた。
「10万ゴールド・・・」
「そんなお金、見たことも聞いたこともありません」
「それだけあれば借金全部返してもまだ余裕があるぜ」
「やった・・・」
「やったー!」
 呆然とするやら興奮するやら、とにかくあたしたちは10万ゴールドという大金を手にすることに成功したの。
 早速換金してもらい、10万ゴールドを受け取るパロさん。
 その中から、今回の旅に出る前に借りた旅費やら未払いになっていた治療薬代やらを清算する。
 それでもまだ手元には9万ゴールド近いお金が残っているわ。
 これだけあれば、シン君の借金も余裕で返せるはずよね。
 あとは借金を返済するだけと、あたしたちがお店を出ようとしたところで。
「さてと、コイツをしまっておくか」
 ベアさんが銀色の手袋をはめて、木製の箱を取り出したの。
 それが何だか気になって・・・
「ベアさん、その手袋と箱って何ですか?」
「ああ、この手袋をはめてしまえば呪いの影響を受けないんだよ。そしてこっちの箱は寺院で清めてもらった聖なる箱だ。この中にこう収めてしまえば・・・」
 ベアさんは銀色の手袋をはめた手でブラッドストーンを持ち上げると、何事もなかったかのようにそのまま箱へとしまってしまった。
「ホラ、これでもう大丈夫だ」
 その様子を見ていたあたしは愕然。
「そ・・・そんな良いものがあったんだったら、最初から貸してくれれば良かったのにー!」
「そうはいかんよ。これは商売道具。それに高いんだぞ。そう簡単に貸すわけにはいかんよ」
 何が楽しいのか、ガハハと笑うベアさんでした。

 そんなこともあったけど、とにかくお金はできたわ。
 早く借金を返済してしまおうと、酒場へ向かう。
「えーと・・・あっ、いたいた」
 シン君は酒場の扉を開けると中を見渡し、お目当ての人を見つけたみたい。
「遅くなってスイマセンでした。例のお金、用意してきました」
 ペコリと頭を下げるシン君。
 それに対する相手の反応は「へっ?」という微妙なものだったの。
 それどころか。
「借金の相手って、貴方たちだったの?」
「ああそうか、コイツはパロが面倒見てやってたのか」
 それはちょっと豪華な装備品を身に纏った6人組のパーティで、どうやらパロさんの知り合いだったみたい。
「こっちとしては冗談のつもりだったんだけど・・・本当にお金持ってきたの?」
「そのお金、怪しいものじゃないだろうな?」
 何がおかしいのかドッと湧く男たち。
 こっちは何が何だか、キツネに摘ままれたような気分とはきっとこんな感じだわ。
 当のシン君も訳が分からずにポカンとなってるし。
「どういうことなのかしら。シンは貴方たちから借金をしたんじゃないの?」
「そうだな、カードで負けたのは確かだ。だがこっちだって最初から金なんて取る気もなかったしな」
「ちょっとからかって、しばらくして泣き付いてきたら許してやるか、ぐらいの気持ちだったんだけど・・・」
 男たちの説明にパロさんの表情が目まぐるしく変わったわ。
 初めは驚き、そして呆れて、最後は怒りが込み上げてきたみたい。
 もちろんその鉾先は
「シ〜ン〜、要するにアンタの早とちりだったってことかしら?」
「そうよ。シン君があんなに大騒ぎするから。あんな大変な目に・・・」
 あたしだってこのままじゃ気が治まらないわ。
「えっ、それは・・・」
 パロさんとあたしに責められてすっかり小さくなったシン君でした。
「それじゃあ、シン君が船に乗せられたりとかは・・・」
「船って何の話だい?」
 あたしとパロさんで、シン君が借金を作ったって泣き付いてきた時の話をしたら、相手の男の人たちも大爆笑してたわ。
 もう、本当にシン君てば人騒がせなんだから!
「それであのぉ、5万ゴールドの件なんですが・・・」
 おずおずと切り出すシン君。
 そうよね、元々の借金が無かった話なんだから、お金はどうなるのかしら。
「ああ、最初からお金を取る気はないから」
「それじゃああの金は、丸々俺たちのモノか!」
 飛び上がって喜ぶシン君。
 でもそうは行かなかったんだ。
「いいえ、やっぱりお金は受け取ってください。そのほうがこの子にとっても良い薬になるでしょう」
 パロさんが「この子」のところで、強引にシン君の頭を押さえ付けて下げさせた。
「そんなパロ、相手が受け取らないって言ってるんだから・・・」
「まだ懲りないの?」
 シン君の頭を押さえる手に更なる力が込められる。
「分かった分かったから。お金はちゃんと払います。どうか受け取ってください」
 酒場に響くシン君の悲鳴。
 それを見て相手も「それなら」ということで5万ゴールドを受け取ってくれたの。
 これで今回の事件も無事解決よね。
「でもパロさん、お金まだ残ってますよね?」
「そうそう。まだかなりあるはずだぜ」
「あたし、新しいローブ買いたいんですけど」
「俺は新発売された盗賊グッズな」
「二人ともダメよ。お金は今後のために貯金しておきます」
「ええ〜」
 あたしとシン君のおねだりはパロさんによってあっさり却下。
「その代り、今日はちょっとだけ贅沢しちゃおうか。二人とも、好きなものを頼みなさい」
「やったー! あたしステーキ頼んじゃお」
 その後はジェイクさんも合流して、今回の冒険の報告会を兼ねたお疲れパーティになったの。
 みんなあたしたちの話を聞いて驚いたり笑ったり、食事も進んで楽しいパーティだったわ。

   ☆   ☆   ☆
 
 パパ、ママへ
 こうしてシン君の借金騒動も解決しました。
 あたしも新しいお友達と契約できたし、召喚師としてもちょっとだけレベルアップしたかな。
 パロさんと一緒にお風呂に入ったとき、ママや島のことを思い出してちょっとだけ寂しくなったけど、でも平気だよ。
 あたしはまだまだ頑張るから、応援しててね。
 貴方たちの可愛い娘・マナより。

サマナ☆マナ!2・・・END